イタリアの旅の話/1995

◎ウフィツィ美術館、たった40分。イタリアの旅の話・その5。

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天下の難事、フィレンツェの一日観光に挑戦中です。

ピッティ宮殿から次の目的地、ウフィツィ美術館までは6、700メートル。フィレンツェは、ちょっと頑張れば中心部の観光地は全部徒歩で行けてしまうくらい、こじんまりとしたいいサイズの町なんです。

ピッティ宮殿を出て、有名なヴェッキオ橋を渡って。
この橋は幅が広く、両側にお店が並び、意識しないと橋の上にいるとは感じません。ここに入っているお店はだいたいが貴金属の店でショーウィンドウがキラキラしています。じっくり見たらこういうところも楽しそうだけど、今回はそんな時間はない。

 

橋のたもとの手袋屋さん。

あ、でもヴェッキオ橋のたもとにある手袋屋さんに寄るそうです。買い物にほとんど興味がないわたしは、店に寄るよりも早く美術館に行きたかったのだが。

手袋屋さんはたしか「ルキアーノ」。さきほどの文具店「イル・パピロ」よりもさらに小さい、店の壁にはぎっしり手袋が詰まった、いかにも専門店らしいお店でした。イタリアだなあ。お店がどんどんチェーン店になっていく傾向はイタリアも変わらないだろうけど。

せっかくだから、わたしも手袋を買うことにしました。

(当時は)雑然とした店で、美人の店員さんが対応してくれる。特に手袋にこだわりなく行ったので、なんでもいい気はしたのですが「なんでもいい」だとむしろ店員さんが困るみたい。当然のことながら。

要望がない中で、店員さんがいくつか出して見せてくれる。いくつか並んだ中にきれいなワインレッドの手袋が。そういえば(自分は)ワインレッドが好きだったなーと思い出し「ワインレッドのこれが素敵」というと、店員さんは色違いを取り混ぜながら、さらにデザイン違いを恐縮するほどたくさん並べてくれる。

イタリアの革製品は色がきれいですねえ。日本で革というと、黒、茶色系統の色にだいたい集約されるじゃないですか。それ以外の色だと原色か、原色に近いとても派手な色になってしまう。赤!青!緑!黄!といったような。(と、日本で革製品を探したこともないamairoが勝手にイメージで言ってます)

でもここには絵の具のように様々な色の革があり、ニュアンスのある色が多かった。さすが革を扱って歴史の長い国。染められた革の色がクリアで、どの色も欲しくなってしまうくらい。

きれいな空色の手袋も欲しかったけど、やっぱりワインレッドにしました。スエードで、形は細身で薄手の、飾りもほとんどないシンプルなもの。シンプルだけど手にはめた時のラインが美しい。驚くほど着け心地もいい。これが当時いくらだったか……。3000円前後だった気がします。

この手袋は長らく愛用しました。手袋片っぽ失くしやすいamairoが、失くすこともなく。どのくらいか忘れたけど10年近く使っていたんじゃないかなあ。最後は革も擦り切れて天寿を全うしました。この手袋は買って良かった。とてもいい記念であり思い出。

さて、寄り道はこのくらいにして、ウフィツィ美術館に向かいましょう。

 

イタリアは冬がお得。

ウフィツィ美術館は、近年は入場するのにとても時間がかかるようです。予約して行くのがデフォルトになっているらしい。特に夏は。しかしわたしが行った頃は冬で、それほどでもなかった。今はわかりません。

イタリアは冬に行くのがいい気がしています。冬は混んでいません。(自分が住んでいる場所と比べて)だいぶ温かいし。ローマは日中ならセーター一枚で歩けそうなほどでした。フィレンツェも気持ち温かめ。ヴェネツィアは地元と同じくらい。のちに行くことになるミラノは――ここはすごく寒いです!北国育ちのわたしも寒さが骨身にしみたほどですから。あの寒さだと冬にミラノをじっくり観光するのはつらいなー。ミラノをしっかり見る場合は冬以外の方がいいと思います。

イタリアは、冬だと飛行機代や宿代がお安めなんですよね。複数人で旅行の際はホテルと航空券がセットになったフリーツアーが一番使い勝手がいいのですが、そのフリーツアーの料金も安い。

ただしヨーロッパは日本よりも緯度がだいぶ北なので、全体的にだいたい寒いです。同じ理由で北に行けば行くほど日が落ちるのが早い。寒さ&日照時間が短い=観光の時に苦労する、という方程式が成り立つので、イタリアより北の国への冬期の旅行は危ういと思われます。ドイツなんかはクリスマスの市のために訪れる人もいるそうなんですが。相当寒いんじゃないかなー。

 

ウフィツィ美術館。

あ、ウフィツィ美術館の話でした。

ウフィツィ美術館は美術館にしてはけっこう珍しい形をしています。超細長いコの字型というか。これはなぜかというと、400年前に役所として作られた建物だから。建物の2階と3階が美術館。これも若干珍しいと思います。有名な美術館はだいたい建物全体が一つの美術館になっていることが多い。

なので、建物の中に入るとまず上階への階段を登っていくことになります。ここは昔の姿がイメージ出来てちょっと楽しい。400年前にここを忙しく歩き回っていた人たちがいる。メディチ家の大公たちも通っただろう。雇人たちも。華やかな服装をした貴族たちも。

マキャヴェッリやダ・ヴィンチも――いや、彼らはウフィツィの建物が建つ前に生きていた人ですね。

しかし、みなさん!我々はこの時、ウフィツィに40分しか滞在しなかったのです!

しかもお茶休憩と売店でのお土産物色を含めて。40分でそれをやっていたら、絵を見る時間はほとんどありませんねー。悲劇。せっかく来たのに。一体何をやっているんだ、と過去の自分に言いたい。

そんな中で見たのは、

ジオット「オニサンティの聖母」
ボッティチェリ「春」「ヴィーナスの誕生」「ザクロの聖母」
ダ・ヴィンチ「受胎告知」
ヴェロッキオ「キリストの洗礼」
フィリッポ・リッピ「聖母子と二天使」

見逃せない有名どころ。これらの絵は展示室が隣接していてまとめて見やすいです。時間がない時もこれだけはどうぞ。

「オニサンティの聖母」はルネサンス美術黎明期の作品。現代の眼から見ればだいぶ人間味がなく映りますが、当時はこれでも驚くほど人間くさい、画期的な表現だったと思います。ここからルネサンスが花開いたのかー、と感慨深く見ました。絵に一歩一歩近づいていく時のわくわく感を覚えている。

ボッティチェリの「春」「ヴィーナスの誕生」はウフィツィ美術館の至宝です!いや、世界の至宝!これは見られて嬉しかったなー。特に「ヴィーナスの誕生」は大好き。夢見るようなアンニュイなヴィーナスは、一体どうやってこういう着想を得たのだろうと思う。

ダ・ヴィンチの「受胎告知」とヴェロッキオの「キリストの洗礼」は絵として好きというよりもダ・ヴィンチの若描きとして興味深い。後年の「モナリザ」の複雑な陰影はなく、普通と言えば普通の絵です。多分知らなかったらダ・ヴィンチの絵とは気づきません。

でも言われてみれば、布の柔らかさとか机の装飾は達者だし、空気遠近法で描かれた遠い背景と、もう少し手前にあるかっちりとした木の表現は面白い。背景だけで一枚にしたら、シュールな味わいが出て相当にモダンなものになった気がする。しかし当時は風景画という概念はありません。

フィリッポ・リッピの「聖母子と二天使」もいいんですよねー。色使いが繊細。多様なベージュと灰色の組合せ。温かい肌色のおかげで、全体の色としては地味なものばかりなのに、優しい、柔らかい雰囲気になっている。聖母マリアの衣装は緑みの強い青ですが、そのダークな色調の面積がけっこう多いにも関わらず、残るイメージとしては淡彩。不思議。

ウフィツィ美術館の内部は造作としては地味です。特に宮殿であるパラティーナ美術館の後に来たから余計そう思う。ただ、コの字の縦棒に当たる部分だけは広間というかホールのような雰囲気があり、彫像が並んでいるためにフォーマルな印象があります。ここは昔からこうだったのだろうか。宴なども開かれたのだろうか。

 

あ、この時に残念だったのは、見るのを楽しみにしていたティツィアーノの「ウルビーノのヴィーナス」が見られなかったことです。ガイドブックによればあの部屋にあるはずなのだが入れない……。近くにいた係の人に「ウルビーノのヴィーナスはどこ?」と訊いたら「closed」。

「closed!?」と叫んじゃいましたよ。係の人が驚くくらいに大声で。でもその後の経験から、絵が、貸し出されるなどで美術館を留守にすることは珍しくないようですね。自分が見られなかった時は、世界のどこかで他の誰かがその絵を見て、幸せな思いをしていると考えることで我慢するしかない。

 

ウフィツィ美術館はせめて1時間半……。

あり得ない短さでウフィツィを見ました。いや、見たというより通り過ぎました。

ミケランジェロ広場に行ったことも、イル・パピロやルキアーノで買い物をしたことにも後悔はないけれど、限られた時間のしわ寄せがよりにもよってウフィツィにいってしまったのは痛恨の極みです。

売店で「春」と「ヴィーナスの誕生」のヴィーナスのバストアップのポスターを買ってきました。(←そのために卒業証書入れの筒も予め持っていってました)ポスターはだいぶ飾って色褪せましたが、あの場所の欠片が手元にあると思えば嬉しい。

次はシニョーリア広場、サンタ・マリア・デル・フィオーレへと向かいます。

 

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