イタリアの旅の話/1995

◎ローマ市内をひたすら歩く。イタリアの旅の話・その3。

投稿日:

聖ピエトロ大聖堂を心ゆくまで見て。しかしヴァチカン市国にはもう一つの大きい山、ヴァチカン美術館があります。そっちも当然登ります。いや、登るというのは比喩ですけれども。

 

ヴァチカン美術館はすごーく広ーいです。

広い広いといわれる美術館は世界のあちこちにありますが、そんななかでもとりわけ広い印象があるヴァチカン美術館。実際の展示物、経路などが他と比べて実際に多いのか、長いのかはわかりかねますが、広いという印象があるのはおそらく複数の美術館の複合体だから。なので、展示品もピンからキリまで、雰囲気の違ったものがいろいろ見られます。

が、全部をじっくり見ようとするとこれがなかなか。

わたしはヴァチカン美術館にはたしか3回行っているんですが、どうも「しっかり見た」という印象のない美術館です。長い時は3時間以上滞在しているんだけどなあ。見学コースを繋げると7㎞にもなるそうです。

わたしが見た中で印象的だったのは、

システィーナ礼拝堂
ラオコーン像
地図のギャラリー(地図をというより、その雰囲気を)
ラファエロの間(特にアテネの学堂を)
2重らせん階段

です。

システィーナ礼拝堂は天井画を見るためにみんなが上を見上げていて、冷静に見ると絵的にちょっと可笑しい。首が痛くなるので気をつけて。聖ピエトロ大聖堂を見て来た身にはスケール感がおかしくなっていて、システィーナ礼拝堂はだいぶ小さく感じるのですが、実際は相当に大きな部屋です。この天井にミケランジェロが、ほぼ一人で巨大な絵を描いた。その力量と――強情が微笑を起こさせる。

ラオコーン像はかなりぐねぐねとした像。ぐねぐねとした蛇にからみつかれる肉体。2人の息子が左右にいるが、この息子象は大人の頭身を子どもサイズに小さくしただけなので、どうも子供らしさがない。子どもを子どもらしく彫るようになったのはいつ頃のことなのかなあ。ぱっと思いつくところでいえば、ベルギーのブルージュにあるミケランジェロの聖母子は、子どもらしい頭身の彫刻でしたが。

地図のギャラリーは地図をじっくり見てもとても面白いけれども、その時間がない人も一見の価値あり。室内装飾が美しいので。特に天井ですね。金色でキラキラしてます。

ラファエロの間は、絵の大きさに対して部屋が狭いし、「アテネの学堂」は高いところに描かれている絵だし、光が入らずに暗いので実はあまりよく見えません。正直、画集か何かで見た方が細部はよくわかると思います。でもここでラファエロが描いた、この床をラファエロが確実に踏んだ、と思えるのが価値。

2重らせん階段は上から見下ろしても下から見上げても美しい。アンモナイトみたいな階段です。出口のところにあるので、見終わったと思ってほっとして通り過ぎてしまわないように注意。

でもたとえ時間があっても、3時間美術鑑賞というのははっきりいって無理だと思いますねー。そんなに集中力が続かない。

まあ集中力=気力+体力なので、個人差はありますが、わたしがちゃんとした集中力をもって絵を見られるのは1時間ちょっとくらいだなあ。1時間経ったらお茶を飲みつつ甘いものを食べたい。その後また気力を新たにして鑑賞を続けたい。実際はそんな贅沢なことはできないのですが。時間的にも金銭的にも。

この時は9時前に聖ピエトロ広場に着いて、聖ピエトロ大聖堂を堪能して、ヴァチカン美術館を見て14時過ぎでした。それでも見尽くしたという感がありません。どれだけ広大な美術館なのであろうか。

ジャンルが多岐にわたっているので、展示品を散歩気分で味わえるのがヴァチカン美術館の特徴。この「散歩気分」というのが曲者で、眺めて楽しいものが多いので、漫然と見がちになってしまうのかもしれない。それでもいいのかもしれないんですけどね。でも出来ればもっと主体的に見て、いつかは「ヴァチカン美術館は見尽くした」と思いたいなあ。朝から夕方まで一日かけて見てみたい。

天使の城、サンタンジェロ城。

聖ピエトロ広場からまっすぐに伸びるコンチリアツィオーネ通りを東に向かって歩いていく。と、東端にあるのがサンタンジェロ城。別名、カステル・サンタンジェロとか聖天使城とか。

めったにお目にかかれないタイプの建造物で、丸くてごつくてナニコレ?と思いますが、元々はハドリアヌス帝の霊廟だったそうです。霊廟……お墓+祈りの場所+記念碑という感じでしょうか。

その霊廟が、作られてから千数百年経つと要塞として使われるようになります。ルネサンス以降の法王は(政治的に危機を迎えることも多かったので)、ここを避難所として活用することもあったとか。同時に、その堅牢そうな作りを活かして牢獄としても使われたりします。始まりが霊廟だったわりにはだんだん使用用途が物騒になってきました。

現在は博物館。でも見どころとしては地味なので、入るかどうか迷うところです。わたしはこの時は入らなかったはず。たしか2回目のローマで入ったと思いますが、それほど印象は強くありませんでした。でもここから見る聖ピエトロ大聖堂は美しいし、てっぺんの天使像も近くで見られるので、時間と入場料がある向きは行ってみてもいいと思います。

また、ここが舞台とされたのはオペラ「トスカ」。「トスカ」の聖地巡礼として訪れるのもいいでしょう。歌姫トスカが恋人であるカヴァラドッシの命を救おうと、警視総監のスカルピアを殺害し、逃げられなくなってここからテヴェレ川に身を投げて死んでしまう、というストーリーです。フィギュアスケートで「トスカ」から「星は光りぬ」がよく使われますね。

舞台美術家の妹尾河童さんが昔のエッセイでツッコんでいたことですが、この建物とテヴェレ川は相当に離れている。サンタンジェロ城から飛び降りてもテヴェレ川に身を投げることは出来なさそうです。ものすごく助走をつけて飛び出せばなんとか……。いや、無理でしょうね。川まで何十メートルかはありそう。大阪城天守閣から飛び降りたとして、お堀に着水できないようなもんです。

まあそういうことを言うのは野暮。「ああ、ここでトスカが……」と見るのが正しい聖地巡礼。

サンタンジェロ城は中に入らなくても、その外観を楽しむだけでも十分かなと思います。南側にかかるサンタンジェロ橋から見るのが美しいんですよね。橋自体も美しいし。この橋の欄干には天使たちの大きな彫像が飾られていて、やっぱりここも十分に計算された劇的な空間。

ただ、当時、ここにはどうも観光客を狙ったスリの一団がいた気がする。同行者が5、6歳の女の子にぶつかられたのはスリだったんじゃないかなあ……と今でも気になっている。
同行者は「sorry」と軽やかにかわし、特に被害はありませんでしたが。その頃のローマはスリに気をつけろとどのガイドブックにも書いてあったけど、今はどうなのでしょうか。

 

ナヴォーナ広場、パンテオン。

そこから歩いて、たどりついたのはナヴォーナ広場。ここはとても細長い広場で、立派な噴水が3か所にあります。日本で噴水というとわりとあっさりした幾何学的なデザインが浮かぶかと思いますが、古い時代に作られたローマの噴水はローマの神様などの筋骨隆々の男たちの彫像がたくさん使われたごっついもの。

こういうのはバロック様式といって、聖ピエトロ広場や大聖堂などと同じ、ある意味ゴテゴテとした大変装飾的な様式。ナヴォーナ広場は噴水や、建っている教会などもバロック様式でまとめられています。ヨーロッパだなあ、という感じ。日本でバロック様式に当たるものは……安土桃山様式がちょっとかするかな。あるいは日光東照宮のコッテリ具合と近いものを感じます。

ナヴォーナ広場に着いた時にはもう日は傾き加減で、光は黄色味を帯びていました。そんな光がカフェの黄色い壁に当たってまぶしい。反面、建物の影が灰色に伸びていて、この広場は黄色とグレイのコントラストとして覚えています。

ナヴォーナ広場からちょっと入ったところにあるのがパンテオン。パンテオンと聞いて何かな?と思うのですが、これは「すべての神々」という意味のギリシャ語だそうです。日本語に訳すと万神殿。八百万の神々全てを祀った神殿ということですね。

このパンテオンも印象的な建物で。外観はシンプル――ちょっと不愛想な感じもするデザイン。およそ1900年前に建てられたのですが、もっと前に建てられたギリシャのパルテノン神殿の方が完成度はずっと高い気がする。

しかしここは内部のドームがすごいですね。けっこうな大きさのドームを柱無しで作っている。これが1900年前か、とその技術力に驚く。材料はローマン・コンクリート――現代のコンクリートと何が違うのかというと、材料が違うらしいです――で、ドーム部分には四角い凸凹がずらりと並んで現代建築みたい。真上には明り取りの丸い窓が開いている。当然雨は吹き込んできます。さすがに当時ガラスはありませんから。ラファエロのお墓もここにある。

その後、ローマへ行ったら必ず行って、コインを投げ入れなければならないトレビの泉(実際は噴水)と、オードリー・ヘップバーンの「ローマの休日」でお馴染みのスペイン階段まで行って、2日目の観光は終わりました。

夕食はホテルで教えてもらったお店で。トレビの泉の近くにあるイタリアンでした。ここはノリのいい(?)、いたずら好きな接客が売りらしく、作り物の手でおどかしてきたり、ナイフでハラキリの真似をしたり。けっこう盛り上がりました。

 

とてもとても長く歩いた一日。

改めて歩いたルートを見てみると、けっこうな長距離……。そもそも7キロあるというヴァチカン美術館を一通り歩いたわけですから。聖ピエトロ大聖堂のクーポラにも登っているしねー。

聖ピエトロ広場→聖ピエトロ大聖堂→ヴァチカン美術館→サンタンジェロ城→ナヴォーナ広場→パンテオン→トレビの泉→スペイン階段。ここを歩いたんだから我ながらよくやったと思います。

しかも睡眠時間4時間で!

が、体力がありあまっているわけではないわたしは、この最初の観光で体力が削られ、翌日以降の旅行に響きました……。同行者がいる時はなかなか難しいかと思いますが、やはりお互いの体力配分をすり合わせたところでのスケジューリングは大切かと思います。控えめにスケジューリングして、時間が余ればオプションで追加するというのが理想。

こういう部分はやっぱり一人旅がいいんですよね~。自分の体力と相談しながら動けるから。もっともこのイタリア旅行の時は、後日海外旅行を一人で出来るようになるとは夢にも思ってなかったです。だってやっぱりコワイじゃないですか、海外。

明日はローマから日帰りでフィレンツェ観光に行きます。

 

 

関連記事

◎英語のつまづき。イタリアの旅の話・その1。

◎聖ピエトロ大聖堂の衝撃。イタリアの旅の話・その2。

◎一度は行くべき!大塚国際美術館。

-イタリアの旅の話/1995
-, ,

Copyright© 旅と風と日々のブログ , 2024 All Rights Reserved Powered by STINGER.