台湾/Taiwan:2013

16.恐怖の九フン!

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九フン(漢字では人偏に分。文字化けする)というのは、近くは「千と千尋の神隠し」のモデルとなり、
古くは映画「悲情城市」(見たことないが)の舞台となった山間の小さな集落。
レトロで侘しい雰囲気が売りで、近年は観光名所として人気。

まあ見る所も少ない台湾だし、ここくらいには行ってみようか。
基本は台北から日帰りで行くような場所だが、ここに泊まって夜景を撮ってこようかな。
夜になったら人通りも少なくなって街並みを堪能出来るだろうし。
民宿がいくつかあるだけで、大きな宿泊施設もないっぽいので、夜になったら静かだろうなあ。
そこを歩き回って写真を撮るのは、なかなか面白いかもしれない。

そんなことを思って、九フンの民宿で1泊することにする。

――さて、九フンの最寄駅の瑞芳に着きました。
ここから、タクシーに乗る方法とバスで行く方法があります。
「地球の歩き方」派としては(今回はるるぶだけれども)、当然バスがファーストチョイス。
でも、バス停までの道がけっこうめんどくさそうだったんだよね。

駅からバス停まで、多分300メートルという感じだったんだけど、
その間の歩道にぎっしりバイクや自転車が置かれていて、人が歩く幅はけもの道程度。
すれ違うのも難しい、段差のあるところをスーツケースひっぱって歩くのが嫌になって、
タクシーで行くことにしました。タクシー乗り場に何台もタクシーが停まってて、
九フンまでのタクシー代も180元(≒630円)って明記されてたし。

だがわたしがタクシー乗り場に行って、九フンまで、というと、そこにいる数人のおじさんが
ああでもない、こうでもない、と大声で相談を始める。
完全に地元語なので、何を相談しているのかわからない。
タクシー乗り場に行ってタクシーに乗りたいと言っただけなのに一体何を相談する必要があるのか。

けっこうしばらく待たされて、そのうちの一人がしびれを切らしたらしく、「乗れ乗れ」という
ジェスチャーをする。乗り込んでしばらくすると、運転手のおじさんが携帯電話をかけだした。
うーん、運転中の携帯電話とはやはりこっちは自由だな、と思ったが、おじさん、
なんか言いながら、その携帯電話はわたしに渡して寄越す。

「もしもし?」ととりあえず言ってみたところ、電話の向こうの相手は、おじさんの友達らしい。
その人はわたしの英語とどっこいどっこいレベルの日本語を喋っている。
つまりかろうじて意志の疎通が出来るというレベル。
その人の話によるとですね……

  今日は日曜日で、九フンの道が大変混んでいるので、あなたが行きたいと言った
  旧道バス停まではタクシーでは行けない。その手前の交番前のバス停までしか行けないから。

なるほど。さっきおじさんたちがわいわい相談してたのはそのことだったのか。
納得納得。よくわかった、ありがとうと言って電話を切った。

だが、現地に着いて状況がはっきりわかった時は愕然としたね!!

九フンは小さな山間の集落で、山の斜面にへばりつくように建物が建っているところ。
つまり、九フン内の道は基本、すごい階段なんです。しかも細い。
そしてタクシーを降ろされた交番前のバス停は、坂の一番下にある……。

タクシーを降ろされた所にも何人もおじさんがいて、ここでも大声で長いこと相談してくれたの。
こんな細い階段をスーツケースで登って行くのはさすがに大変だと思ったんだろう。
でもそこからホテルはけっこう離れていたし、何しろ道路はタクシーが通れないんだし、
もう解決方法は何一つない。地道に自分の足で階段を上り、スーツケースを運び上げるしか。

うええ、上るのか、ここを。かなり細くて人通りの多い階段を。虚弱なわたしが。
これは夜のヴェネツィアを、道に迷いながら数々の太鼓橋を通り、スーツケースを
がらがらがっしゃんと運んだ時よりも大きな試練だぞ!

……そう言ってても問題が解決する場合ではないから、とにかくスーツケースを持ちあげてみました。
持ち上げて、階段を2、3段上がってみました。何とか行ける。
一度に5段くらいは進める。細い階段だけれども、幸いなことにそこまで奥行が狭くはないので、
スーツケースを置いて息をつくことは出来る。

昇りましたよ、こつこつと。だってそうするしかないんだもん。
途中からちょっと裏道を通れて、スーツケースを引っ張ることが出来た。この道の間はシアワセだった。
だがもう一つ階段を上り、基山路というところまで出ると……

ええええっ!なんですか、この人の多さは!!

自分の目が信じられないほどの混雑ぶり。さっきの階段の20倍くらい人がいる。
例えて言えば……まあ、初詣の時の塩釜神社だね。両側に屋台っぽい店が隙間なく並んでいるのも
お祭りっぽい。片側一人の対面通行。ほぼおしくらまんじゅう状態の道を……
ええええっ、スーツケースを引きずって通る?

通る?通る?通る?と頭の中でエコーがかかっている間に、身体はすでにその雑踏の中に飛び込んでました。
だって今まで通って来た階段も、とても狭くてずっといられる場所ではない。
ここまで必死で昇ってきた階段を降りる勇気はわたしにはない。
予約した民宿は、この人混みさえなければもうすぐそこの筈なんだ。もう行くしかないよ。

……あの時、わたしの前後を歩いていた方々には大変申し訳ない。
初詣にスーツケースを持って来る人がいたら、一体何を考えているんだ!とわたしも怒りを覚えるだろう。
でもまさか九フンの村があんなに混んでて道があんなに狭いなんて知らなかったんだよ!
民宿も集落の外れの方にあると思い込んでたから、バス停からすぐで、
人っ子一人いないような静かな道を歩くもんだと思ってたのに!

――今回の件で唯一幸いだったことは、この人混みを歩く距離が思ったより短かったこと。
それでも30メートルくらいかなあ。死ぬ思いで歩きました。
ふと気付くと民宿の前まで来ており、おお、ここだ、と思ったはいいが、
民宿の前が三叉路になっており、人口集中率がさらに高い。
さらに、民宿自体が絵になるので、その前で多数の人が写真を撮っているというおまけつき……

民宿内に入った時には心の底からほっとした。
部屋が3階だと知った時には心が折れた。
だが、スーツケースは民宿の女の人が運んでくれたので大変有難かった。

狭いけれどもわりと小洒落た感じの部屋。

この写真を撮った頃はもう18時前後で、着いた時と比べて、人通りは3分の1くらいになっている。
それでもこれですよ。今考えてもよくまあ辿り着いたわ。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

今回の敗因は、とにかくわたしの認識不足。

“レトロで侘しい雰囲気”がそもそも売りだった場所でも、それで人気が出ると、
レトロで侘しい状態のままあるわけはないのであった。しかも「千と千尋の神隠し」なんて
鉄板な人気アニメの舞台なんて言われてるんだし。台北からも日帰り観光に最適となれば、
ものすごく人が集まることは予想してしかるべきだった。

行ったのが日曜日の15時頃だからね。一番混んでいる時間帯だろう。それも認識不足。
そして、民宿の場所が集落の外れだろうと勝手に思い込んでいたのも認識不足。
実は民宿はメインストリートである基山路に面していたんですねー。
わたしはてっきり豎崎路がメインストリートだと思ってたわ。
……ってか、るるぶには豎崎路がメインって書いてあるやん!
そこからけっこう離れた民宿なので、てっきり裏通りだと思っていた。

さらに、るるぶの罠にかかった点がもう1つある。
――地図が北を上にして書いてあるのは世界共通。るるぶも北を上にして九フンの地図を載せている。
しかし実際の地形を知っている人から見れば、九分は北側が低くて南側が高いので、
南を上にして書いてないとぴんと来ないようだ。

道理で、地図を見せて「ここはどこなの?」って聞いてもおじさんたちがわからなかったはずだ。
地図をさかさまに見ることはけっこう難しいですよ。自分で行ってみてからしみじみ思うが、
あの地図では全くわからない。

そして行ってみないとわからなかったので仕方ない罠は、
……タクシーが旧道バス停まで行ってくれなかったことですね。
旧道のバス停まで行ってくれれば民宿まではすぐだったし、落ち着いて考えるスペースもあったので
それほどは困らなかっただろうが、交番前のバス停で降りると……まさに天国と地獄。
地図は高低差が書いてない、というのはいつもよくわかってることなんだけれども。

しかしあれほどまでに縁日状態になっているとはなあ。
やはり観光地を甘く見てはいかん。

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