日陰のない一本道。ゆるやかな上り坂。アスファルトの照り返しがきつい。
道の両側にきれいな花樹があるのは実に目に優しいのだけれど、……それでも暑い……。
歩き続け、ようやく遺跡が見えた時はほっとした。
Mycenae ruins.
見えにくいけど、写真中央に遺跡部分がある。やっと着いたよお。
観光客はそこそこいた。駐車場には観光バスが何台も止まっている。
そーだよねー、普通の人はツアーで来るんですよ、こんなとこには。
自力で歩いて来ているのはもしかしてわたしくらいかもしれない。
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ミケーネ遺跡とは、トロイ戦争のギリシア側総大将であるアガメムノン王の城だった場所。
古代において強い勢力をもった都市で、ギリシアを支配下におさめていた。
当時の文化はこの都市の名をとってミケーネ文明と呼ばれる。
トロイ遺跡を発見したシュリーマンが、続いてこの遺跡の発掘にもあたり、
数々の黄金製品を掘り出している。
王であるアガメムノンは。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%AC%E3%83%A1%E3%83%A0%E3%83%8E%E3%83%B3
以前、テレビで蜷川幸雄演出の「アガメムノーン」を見たことがありましてね。
これが面白かった。それまでの「ギリシア神話は面白いけど古代ギリシア悲劇はもう退屈で
見てられないだろう」という思い込みが崩れた。
朗々した台詞回しが気持ちいい。荘重に歌い上げる、悲劇にはその調子がふさわしい。
Treasury of Atreus.
アトレウスの宝庫。と言われているが、宝物庫ではなく陵墓の可能性もあるらしい。
内部の天井。ドーム型になっている。全体の形状は円形で、高さ13.4メートル、
直径14.5メートルだそうだ。中はがらんとしていて何もない。
夜、一人でここに入るのはイヤだ。
Lion Gate.
獅子門。出入り口の上の三角形の部分に二頭の獅子が彫られている。
From top of ruins.
遺跡のてっぺんから。
観光バスがいるわりには、てっぺんまで来る人は少ない。
多分暑いから、みんな登ってくるの嫌なんだよ。もっと根性出さんかい!
この眺めであれば敵が攻めてきたとしても相手の動きは手に取るようにわかるな。
遺跡が作られた位置にしても壁や門の堅牢な作りにしても、軍事に比重がおかれていたことは
よくわかる。が、防御には良いとして、周辺都市ににらみを効かせるには、場所的に
少し辺鄙すぎないか?けっこう山の奥だもの。
ここにトロイ戦争に参加した何百人もの領主たちが集まったことが想像出来ない。
まあ「イリアス」はあくまで物語だけど。しかし似たようなことはあっただろうと思うし。
てっぺんに一人でいる時。そばを揚羽蝶が飛んでいった。
ギリシア語では蝶をプシュケという。そしてその単語には魂という意味もあるらしい。
昔ここにいた魂が飛んで行く。
何しろ「黄金に富むミケーネ」(by ホメロス)ですから、こんなものが出土していたりする。
The golden mask.It was believed Agamemnon's.
発掘者であるシュリーマンは、これがアガメムノンのマスクだと信じていたそうだ。
が、時代的にはもっと前のものらしい。……って、アガメムノンって伝説の人なのに、
時代がわかっているのかね?
王様にしてはちょっと貧相っぽい顔だなーとわたしは思う。
ちなみにこの写真は復元で、本物はアテネ考古学博物館にある。
そっちの写真も撮ったけどピントがボケたので、こちらの偽物を代理で。
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1時間ほどいて帰る。……帰る時もやっぱり歩くんだろうか。
駐車場にはタクシーが何台か止まっている。でもこれは多分貸切だろうなー。
絶対そうに決まっているけど、万が一のために訊いてみる。
「予約されてるんだよね?」
運転手のおじさんたちは頷く。ああ、わたしはやっぱり歩くのね。
彼らの一人は、タクシー会社に電話をかけて空きを確認してくれたんだけど、
やっぱりないんだそうです。わかりました、歩きます。歩けばいいんです。
「2キロだから!」
歩き出したわたしに彼らはそう声をかけてくれる。……また2キロか……。
ギリシャ人にとっては、A地点からB地点は常に2キロなんだろうか。
途中で、車に乗せてくれた人の店の前を通ったら、彼女が窓ふきをしていた。
笑って手を振った。
がんばって歩いて、キフィティアの集落に戻って来る。
ほぼ1時間かかったから、やっぱりミケーネまでの距離は4キロ程度はあるよ。
日本のガイドブックが正しい。
1時間弱待って、14:45に時間どおりに来たバスに乗りアテネへ戻る。