あまいろ

【prose】

巨大な虚なる空間

初めてのヨーロッパは。 イタリア・ローマ・ヴァチカン・聖ピエトロ寺院。 冬のローマは夜明けが遅い。朝七時近くになってようやく空の一部が紺色から朱色に変わる。ホテルで朝食を食べながら窓の外を見て、今日は晴れそうだと思う。ヨーロッパ、初...
【prose】

いつか朝靄のなかの教会へ

谷間の真珠。 そんな呼び名を持つオビドスは、慎ましやかで愛らしい町だった。 町へ入る門はポルトガル独特の青い装飾タイルで飾られている。城壁は敵を防ぐために作られたはずだが、おそらくこの門はその役割を果たしたことがないに違いない。この寂し...
【prose】

天を突き刺す

真下から見上げると、青い空に突き刺さるような真白なビル。資本主義の牙城、という言葉が頭に浮かんだ。――牙城というおどろおどろしい言い方はふさわしくないけれど。ビルの造型はのっぺらぼうと言いたいほどツルツルピカピカだし、エントランスのそばでは...
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羊のように

この辺は雨が多いから、とB&Bの奥さんは教えてくれた。テレビではウィンブルドンテニスが映っている。あっちはずいぶん天気が良さそうなのに。目玉焼きとベーコン、オレンジジュースの朝食を終え、窓の外を眺めると空は灰色。六月の湖水地方は、長袖を二枚...
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薄紅色の鳥の魂

ある年の春、山形県の赤湯温泉に行った。 日帰りのドライブ、他の場所にも行った帰り路だったので、赤湯に着いた頃は夕方だった。目当ての共同浴場で一風呂浴び、外に出たところで幟に気づく。 〝赤湯 桜まつり〟 自分が住む街の桜はとうに散ってい...
【prose】

夜明け前

デルフトの中央広場に面した場所に宿をとった。 街の規模にふさわしい小さな広場は、中央広場という名のイメージとは無縁の素朴な場所だった。たしかに東側には新教会の塔がそびえ、それと正対して西側には堂々たる市庁舎が建っている。だがそのどちらもが...
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輝く赤と空の青

土地には固有の空気がある。光の強さと湿度、温度。風の強弱。全てがその土地の空気を作り上げる。それはどんなに映像や写真を見てもそこでなければわからないもの。飛行場から一歩踏み出して、あるいは駅のプラットホームに降りて。ああ、と深呼吸する。体が...
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きんぽうげ笑う

古い街を訪れるのは雨模様の日がいい。 傘をささずに歩く細い道。ノルマン時代の壁の跡が雨にわずかに濡れ、静かに佇む。 あなたは何を見てきた。 壁に手を触れてそっと囁けば、長い話になるよ、と答える。長くてもいいよ、と返事をすれば、またその...
【prose】

地平線に溶ける空

暗い空間に窓から差し込む白い光。白い光と黒い闇は、決して混ざりあうことなく独立して存在し、目に鋭く切り込んで来る。堅牢に作られた修道院の食堂の厚い壁。牢獄のような佇まい。強い光と闇のコントラストを凝視する。見えた気がしたのは、何百年も前にこ...
【prose】

赤い波に浮かぶ島

ミケランジェロ広場へ行くためにバスに乗る。 この街には昔の城壁がまだ少し残っていて、中央駅から出たバスはその外側に沿って走る。城壁が本来敵への備えであるのは言うまでもない。だが今見る壁は、フィレンツェを魅力的に見せるために建てられたちょっ...