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宇宙の聖母
2025/08/19 -【prose】
ヴェネツィア本島から船で一時間ほどの潟のなかに、トルチェッロという名の小さな島がある。すぐ手前のブラーノ島が、鮮やかに塗り分けられた家々とヴェネツィアレースで多くの観光客を集めているにもかかわらず、そ ...
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白毫寺へ
2025/08/19 -【prose】
参道の途中で小雨だったのが大粒になった。早足で石段を登って行く。小さな門の瓦が濡れ始める。 傘を持っていないわけじゃないけれど。 本堂の、ささやかな軒下を借りて雨を避ける。石畳に降った雨粒は、天から落 ...
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巨大な虚なる空間
2025/08/19 -【prose】
初めてのヨーロッパは。 イタリア・ローマ・ヴァチカン・聖ピエトロ寺院。 冬のローマは夜明けが遅い。朝七時近くになってようやく空の一部が紺色から朱色に変わる。ホテルで朝食を食べながら窓の外を見て、今日は ...
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いつか朝靄のなかの教会へ
2025/08/19 -【prose】
谷間の真珠。 そんな呼び名を持つオビドスは、慎ましやかで愛らしい町だった。 町へ入る門はポルトガル独特の青い装飾タイルで飾られている。城壁は敵を防ぐために作られたはずだが、おそらくこの門はその役割を果 ...
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天を突き刺す
2025/08/19 -【prose】
真下から見上げると、青い空に突き刺さるような真白なビル。資本主義の牙城、という言葉が頭に浮かんだ。――牙城というおどろおどろしい言い方はふさわしくないけれど。ビルの造型はのっぺらぼうと言いたいほどツル ...
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羊のように
2025/08/19 -【prose】
この辺は雨が多いから、とB&Bの奥さんは教えてくれた。テレビではウィンブルドンテニスが映っている。あっちはずいぶん天気が良さそうなのに。目玉焼きとベーコン、オレンジジュースの朝食を終え、窓の外を眺める ...
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薄紅色の鳥の魂
2025/08/19 -【prose】
ある年の春、山形県の赤湯温泉に行った。 日帰りのドライブ、他の場所にも行った帰り路だったので、赤湯に着いた頃は夕方だった。目当ての共同浴場で一風呂浴び、外に出たところで幟に気づく。 〝赤湯 桜まつり〟 ...
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夜明け前
2025/08/19 -【prose】
デルフトの中央広場に面した場所に宿をとった。 街の規模にふさわしい小さな広場は、中央広場という名のイメージとは無縁の素朴な場所だった。たしかに東側には新教会の塔がそびえ、それと正対して西側には堂々たる ...