好きな絵に出会うために絵を見る。有名な絵画だからといってみんな好きになれるわけじゃないし、好きにならなきゃいけないわけでもない。星の数ほどある絵画の中から、お気に入りの絵を見つけましょう!
わたしにとってマネはそこまでお気に入りの画家ではないのですが、好きな絵を発見するのはこういう、好きでもなければ嫌いでもない画家が一番面白いかもしれないですね。一枚、二枚と好きな絵が増えていけばそのうちに好きな画家になるかも。
好きなマネ。
マネ「すみれの花束をつけたベルト・モリゾ」
マネの絵には冷たさがある。と思っているのですが、冷たさを感じない数少ないなかの一枚がこの絵。モデルは同時代の女流画家のベルト・モリゾ。
モリゾは若い頃から絵を学んでいました。カミーユ・コローに師事。サロンに入選したこともあります。20代後半にマネと知り合い、その後マネは何枚も彼女の肖像を描くようになります。関係が噂されたこともありますが、最終的には彼女はマネの弟であるウージェーヌ・マネと結婚しました。
ざくざくと筆を動かした絵。大きな黒目(茶色目?)が強い印象を与えます。真っ黒い衣装で、ご丁寧にもハットやそれを押さえるリボンまで黒。強い黒と顔を繋げているのは彼女自身の髪。これは金髪なのでしょうか。タイトルに入っているスミレの紫はそこまで目立たず、黒の印象がとても強い。
そこに浮かぶ微笑が独特なんですよねえ……。微笑といえるかどうか微妙なくらいの微笑。じっと見つめる目の深さに特別な関係を想像したくなるのはよくわかる。
マネ「アスパラガス」
これは大変小さいサイズ。白と灰色で構成された絵。日本画の余白、あるいは水墨画の影響を感じる。……といったらちょっと考えすぎでしょうか。短時間にささっと描いたように見えるのも日本画っぽい。
絵を見ただけではマネなのかどうなのか、わからないと思うなー。それをいうならモリゾもそうかもしれないけど。
ホワイトアスパラガスは日本ではそこまで馴染みのある食材ではないですよね。わたしは缶詰でしか見たことはないかもしれない。自分で料理をした経験はない。西欧諸国では春の旬菜として人気のようです。缶詰のホワイトアスパラガスはそこまで美味しいものという記憶はないが、日本のタケノコみたいなものでしょうか。タケノコは食べ慣れると大変美味しいものだけれど、フランス人がタケノコを初めて食べて、美味しい!とはならない気がする。
マネはホワイトアスパラの束も描いています。
マネ「アスパラガスの束」
……束になるとまったく面白みがなくなる。薪というか大根の束というか。一本の方が即興的で、そこが面白かったのに。みずみずしい野菜というより武骨な物体。並べた展示を見てみたい。
マネ「フォリー・ベルジェールのバー」
ザ・マネという作品。この倦怠感、刹那感がマネの真髄という気がする。先に印象派は光と空気を描く画家たちといいましたが、マネは人の空気を描く画家だったかもしれません。非情なまでに冷静に観察する目。衣装の緑みを帯びた黒が強い。
ウエストが細すぎるのは写実なんでしょうか。ギチギチにコルセットで締め付けていた?いつも気になります。
この絵はロンドンのコートールド美術館にあります。規模は小さめですが質のいい作品が揃った美術館。特に印象派に強い。その美術館の顏といっても過言ではない一枚。
この絵のためにコートールドへ行くというのもいいですね。ロンドンには大英博物館、ナショナル・ギャラリーに加え、V&Aもありますからなかなかコートールドまでは手が回りにくいでしょうが、あまり混まないところで静かに絵と向き合うのも良い出会いになると思います。
マネ「ボート遊び」
今まで全然注目してなかったけれど、今回魅力を感じた一枚。青の色あいを実際に見てみたくなった。これ、モデルがおっさんじゃなければもっと人気が出たんじゃないかとちょっと思う……。ニューヨークのメトロポリタン所蔵だそうです。
マネ「鉄道」
この絵は知っていて、でもマネだと思っていませんでした。あまり注意して見たことがなかったので、どっちかというとモネ(機関車の蒸気)かルノワール(青)かと。やっぱりこの絵も青い色がきれいで好き。
この絵は親子関係の断絶が描かれていると言われているそうですね。曰く、母親は自分の読書に夢中で子どもを顧みていない、子供は自分に興味を持ってくれない母親を諦めて、仕方がないから電車を見ていると。
でもわたしは「親子」という部分がテーマだとは思わないんですよね。設定としてはむしろ機関車を見たいと子供にせがまれて、連れて来てあげた良い母親かと。だったら子どもが気のすむまでここにいられるように、自分は読書で時間をつぶそうと本を持ってきている。よくありがちな「ほら!もういいでしょ!早く帰るわよ!」という母親よりなんぼかありがたい。
ただマネ的人物で多く見られる放心状態のようなうつろな表情は相変わらずで、決して幸福そうには見えませんが。これはモデルや個別状況というより、マネが「だんだん希薄な人間関係が主流になっていく時代の空気」を映したかったのではないかと。親子が書いてあれば情愛がテーマ、とイコールでは結べなくなった時代なのではないでしょうか。
この絵はワシントン・ナショナル・ギャラリーにあるそうです。
マネの絵は5点をチョイス。
わたしの好きなマネの絵3点と、気になる2点を挙げてみました。幸せな絵が好きなわたしは、全体的にマネの絵はシビアすぎてキツイところがあるのですが、それでも興味を惹かれる画家です。
日本では、印象派展は死ぬほど開かれるけれども、マネ単体の特別展はあまり聞きませんね。全体の作品数が少ないし、大作は各美術館の目玉になっていてなかなか貸してもらえないという状況もあるでしょうが、中品くらいでいいのでマネの画業がわかる特別展などやってくれないかなあ。宮城県美術館で。
モネはテレビでも特番が作られるんですけど、マネは単独では見ないですねー。NHKは若冲とダ・ヴィンチとモネだけじゃなくて、いろいろマイナーな画家も取り上げて欲しいです。
マネはこんなところです。次はモネ。モネですよ!
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