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◎藤城清治美術館。影絵の迷路を進んでいく。

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藤城清治って知ってますか?ある程度以上の人はだいたい知っている。本人の名前は知らなくても作品は知っているかもしれませんね。日本人全部の幼児期の記憶に眠っている、黒が印象的な影絵を作る人。

仕事量が膨大すぎてどれが代表作なのかわかりません。これ、というタイトルが思い浮かぶ人は少ないかも。
わたし自身ははるか昔「もちもちの木」をこの人の絵本で読んだことがある気がしています。「もちもちの木」自体のストーリーも忘れかけていますが、怖さをこらえてお医者さんを呼びに夜道を走った主人公が、きらきらと輝くもちもちの木を見るシーンが印象的だった記憶があります。

家のそばにあるケヤキの、その背後に満月が来たらその木ももちもちの木のように虹色に輝くのだろうか。そんなことを思っていた。

 

那須にある藤城清治美術館。

藤城清治は御年98歳でご存命です。今年の4月の誕生日の頃には東京から那須を訪れたとか。元気だ。
長い長い画業の、作品の一部がここにあります。一部とはいえけっこうな作品数。日本全国に5か所ほど藤城清治の作品が見られる場所があるそうですが、おそらくここが筆頭の場所かと思います。

コンクリートの壁の印象が強くて通り抜けないと気づかないけど、入口を入って振り返ると、門は伝統的な日本建築の長屋門。あれあれ、イメージと違うなあ。

敷地内には長屋門と教会と、ギャラリーとカフェ棟があります。それらは林の中に点在している。建物の玄関まで若干遠く、雨の日なんかは足場がちょっと悪いかもしれない。ほんの少しだけアップダウンがある道。いかにも林の中。

 

最初にあるのは小さな教会。

藤城清治の作品がステンドグラスとして展示されています。人魚姫と、小人。特に宗教的なテーマではありませんでした。少し薄暗い内部が、ステンドグラスを見るのにぴったり。

 

これを見ると藤城清治の作品を思い出しませんか。道沿いにいくつかあるオブジェのうちの一つです。長靴をはいた猫かなあ?小人は藤城清治を表すキャラクターですね。

 

この建物の背後に正面入り口が隠れています。ごめん、写真ちょっとボケてた。この渡り廊下の先にギャラリー棟があります。

 

入館料は一般2000円。

 

カフェの椅子もこの凝りよう。可愛いですね。カフェは小さくて、この時休業中でしたが、もし開いててこの小人の椅子に坐れたらちょっとうれしかったかも。

入口とチケット売り場の間のスペースはショップになっていて、わたしが行った時にはお客さんで混んでいました。ミュージアムショップもカフェも、パッと見ただけの感想でいうと狭くて動線もあまり良くなく、もっとスペースがあればグッズももっと置けるし、ショップとカフェで人が呼べるだろうなという気がしました。

そのためにはせめて駐車場をもっと広げる必要がありますが。――うーん。でも後述のギャラリーの作りとあいまって、あまり客の数を必要としない施設なのかもしれない。本当に好きな人にじっくり見て欲しいのかも。

 

ギャラリーは迷路性を味わう。

ショップから先のギャラリー部分は撮影禁止です。カフェ棟とギャラリー棟をつなぐ渡り廊下から展示が始まります。

……始まるのだが、ここが藤城清治の生涯の説明から始まるせいで、人が多い時には相当に詰まります。文字情報が多い部分って一般的に時間がかかるじゃないですか。渡り廊下は幅があまりないので、展示物と見る人だけでおよそいっぱいで、すり抜けて先に行くのも一苦労。ここらへんは何とかした方がいいのじゃないだろうか。

ネット上のどこだかで得た情報だったかソースは忘れたのですが、この建物は元から藤城清治美術館として設計されたわけではなく、転用した建物と書いてあったような。そのせいで先ほどのカフェ、ショップのスペースの問題にしても、この渡り廊下の展示にしても、ベストな間取りというわけではないのでしょう。

短い渡り廊下の後から作品展示スタート。照明はぐっと落とされ、左右の影絵が鮮やかに浮かび上がります。

基本的に展示は年代順でした。ショップの片隅のあまり目につかないようなところに、作品タイトル一覧が、ご自由にお持ちください形式で(裏面に展示室案内図と各作品の位置)の一枚物がありますので、せっかく行ったからにはお持ちになった方がいいと思います。内部撮影禁止なので、こういうタイトルと位置関係がないとどんな作品があったか忘れがち。位置とタイトルを示されることで記憶がかすかによみがえります。

ちなみに展示は大小取り混ぜて、194作品。

初期の作品はモノクロが多かったようです。印刷物として作られたので、カラーだと相当なお金がかかったはず。だったらモノクロで作る方が経済的ですもんね。

最初の方の展示では「西遊記」が良かったですね。これはモノクロ。後年のきらびやかさはないけど、表情にも線にも躍動感があった気がする。

その後「みにくいあひるのこ」「赤毛のアン」「ニュールンベルグのストーブ」など、童話や少女小説をテーマにした作品が増えます。妖精・小人・擬人化した動物などという得意なモチーフに出会ったということではないでしょうか。色もカラフルになります。

影絵劇と雑誌「暮しの手帖」の表紙を活動の主な柱として、画業70余年。すごい。

展示作品が約200作ですから、相当なスペースを必要とします。でもこの建物はそこまで大きくない。そこをどうやって解決しているかというと、

展示スペースの迷路化。

これです。

かなり細かく枝分かれしていて、どこを通っているかわからなくなる。でもわからなくなっても特に問題なし。見おぼえない絵、さっき見た絵、色の森の中を自由自在にさまよう。

ただそういう構造なだけに、混んでいる時の鑑賞は少々やっかいです。わたしが行った時はそこまでではなかったけれど、夏休みやGWなどで人が押し寄せる季節は機能するのか若干不安。14時過ぎるとちょうどいい人口密度になったので、夕方を狙って行くといいと思います。人を気にせず見られる。

「風の又三郎」も好きだったな。
キリスト教関係団体の依頼を受けて11年かけて作った「天地創造」も他とは違った大人っぽさで良かった。

意外だったのは東日本大震災の被災地の風景を数多く描いていること。ファンタジーを描いているイメージしかなかった。震災があってから1、2年内の風景だと思います。写実的な風景画だけれども、そして震災の直接的な被害のあった風景だけれども、そこにうっすらとさす光。こういう影絵も作ったんだ、と認識を新たにした。

近年は日本の名所をテーマにすることが多いようです。近場の福島県三春町の滝桜は親しみを持てたし、京都の清水寺はなつかしい。大曲の花火大会は、何しろ数十発の花火を写実的に表すのですから、これは手間がかかったろうという作品。

そして最後、一番奥まったところに展示されている「魔法の森に燃える再生の炎」。
大層メッセージ性が強いタイトルで、一体どんな内容なんだろうと思いながら見ました……

藤城清治の色の美しさ、魔法の森の幻想性、光と影のバランスが素晴らしく、畢生の作ともいうべき大作です。横6メートル、縦2.3メートル。水面にシルエットを映してさらに大きく見せている。

あえていえばこの作品は、もっと映える形で展示して欲しかった。やっぱりスペースが足りない気がします。作品を生かすも殺すも展示方法次第。最後の最後に専用の小部屋にこれが飾ってあったら、もっと感動は大きかったでしょう。

螺旋階段で登っていく2階には、藤城清治のアトリエがあります。アトリエの再現というか、来た時には実際にここで作業をするんじゃないかと思う。色とりどりのフィルムが無造作に机の上に散らばり、この色を使ってあの絵を作るんだなあと思った。

ゆっくり見て2時間くらいでしょうか。充実した絵はがきのラインナップのなかで、3枚を選んで買いました。

 

訪れる際の注意点。

場所がわかりにくいということは全くないのですが、藤城清治美術館へ行く道路は、思いのほか狭いです。運転苦手なわたしあたりだと対向車が来たらすれ違うのにちょっと精神的負担を感じる。

駐車場も予想よりも狭くて10台ちょっとだったような気が。奥の方は少し停めにくいし、運転に不安のある人は空いている時を狙って訪問した方がいいと思います。
しかしパンフレットに駐車場130台と書いてあったので、よく見たら第2駐車場もありました。そっちが広いのかな。第2駐車場は長屋門を通り過ぎた先にあるようです。

敷地内に入ってから建物の入口まで林の中を歩くので、車いすなどで訪れるのは難しそうだと思ったのですが、車いす用駐車場があると書いているので、車いすでも行けるような別な道があるのでしょうか。

 

仙台市の笹かま館。

ちなみに台市民でもあまり知らないのではないかと思いますが、実は卸町の鐘崎笹かま館には藤城清治のギャラリーがあります。

笹かま館

行ったのはかなり前だったので、内容は正直覚えていません。そのうち行こう。ただ3月16日の地震でしばらくの間展示が中止になり、今サイトを見ても再開したというお知らせが見当たらないので、おいでになる際は観覧可能かどうかご確認下さい。

 

作品の多さに感嘆する。

ここで200点、他の場所にも何点もあるでしょうし、個人へ販売した作品も相当あるでしょう。まったくの当てずっぽうで言いますが、全作品数では1000点を超えるのではないですか。

入口のところにウクライナのゼレンスキー大統領とひまわりを描いた絵が飾ってありました。反応が早い。このレスポンスの良さが多作の源だと思う。御年98歳、心に弾力があるんでしょうね。創造力が枯れていない。いつまでもお元気で。

 

 

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