最近、日本美術関連の本を読んでいます。西洋美術関連は時々読んでいましたが、日本美術は今まであまり読んでこなかったんですよね。
今読んでいるのはこれ。
著者の辻惟雄はなかなかスゴイ経歴を誇る美術史学者。専門は室町~江戸期の絵画ですが、一般的には昨今の伊藤若冲ブームのトリガーをひいた人として認識されている。
若冲ブームはこの本で取り上げたのがきっかけと言われています。興味のある人は押さえておいて損はない本です。辻惟雄はここに出てくる岩佐又兵衛、狩野山雪、伊藤若冲、曾我蕭白、長沢蘆雪、歌川国芳を「奇想」というキーワードでまとめて紹介している。
まあ若冲の場合は、辻惟雄の著作以上に、「エツコ&ジョー・プライスコレクション」が日本のメディアによって紹介されたのが影響を与えたのだと思いますが。あれはほんとに良質な個人コレクションで……。また、プライス夫妻のそのコレクションへの愛も半端ない。お金持ちの美術品コレクションだと、一般的には投資的な側面も大きいのだろうと思いますが、プライスコレクションにはそれを感じない。
全部を詳細に見たわけではないので、何がわかることもないのですが、プライスコレクションは、本人が目で見て心にかなったものをちゃんと選んでいると思います。価値があるというだけで買っているのでもなく。揃えるという観点だけで買っているのでもなく。自分でちゃんと見て、惰性ではなく選んでいる。
「障壁画」「障屏画」とは?
ところで、この本の中で、これは覚えておかねばという一語がありました。
「障屏画」。
これは、しょうへいが、あるいはしょうびょうが、と読むそうです。初めて聞いた。こういう言葉があるんですねえ。
似たものに「障壁画」という言葉があります。こちらは日本美術でよく使われる言葉だと思うのですが。
わたしの理解では「障壁画」は、襖や板戸、壁、などに描かれた日本画をいうのだと思っていました。それに便宜上、屏風などもまとめてしまうのだろうと。なので、今まで屏風などを含んでいたとしてもひっくるめて障壁画といっていました。
が、違うんですね。
障壁画はあくまで障壁画。そこに屏風が加わると障屏画となるそうです。
が、「しょうへきが」では変換出来るのに対して、「しょうへいが」「しょうびょうが」では変換で出て来ない。わたしは正直今まで知らない言葉だったので、言葉としての一般度はおそらく障壁画よりだいぶ低いと思います。
一般的でない言葉を使っても、その言葉が伝わらないのではコミュニケーションとしての意味がない。けれどもその言葉が出て来た時に意味がわからないのも困る。――まあ基本的に語彙は多い方がいいし、雑学も多いに越したことはないですよね。一般論として。
障壁画のグループ。
障壁画は襖絵、天井画、杉戸絵、衝立などのことだそうです。
頓田丹陵「大政奉還」
これ、たしか大政奉還を習う時に教科書によく載っている絵ですよね?描いた絵師の名前はまったく聞いたことがないけど、絵は馴染みがある。
この絵が障壁画をまとめて見られるものである気がします。襖絵には桜が描かれているし、松の部分はおそらく壁貼付絵。天井にも、見えにくいけど天井画が描かれている。
こういうのが見られるのが二条城とか、近年復元が成った名古屋城本丸御殿。
ちょっとまどろっこしい動画の作りですけれども、0:54以降からちょこちょこ障壁画が見られます。
いやー、名古屋城復元本丸御殿、行ってみたいと思ってるんですよね。ここまで金をかけて復元するのはなかなか出来ないことだと思うので。さすが名古屋、ここぞというところにお金をかける。
杉戸絵は……よく知らないけど、こんな感じ。
杉戸絵はこれこれこういうものである、と説明出来るほどよく知らないのですが、国語辞典的にいうと「杉で出来た板戸に描いた絵」。そのまんまやないかいな。
杉で出来た一枚板、それで板戸を作ります。板戸とは紙を貼っていない襖みたいなもんですね。襖に描いた絵は襖絵ですが、板戸に描くと杉戸絵。ダイレクトに板に描いたもの。現在、板戸はおそらく一般家庭にはありませんねえ。お城とか、古くから建っているお寺とか。もしかしたら由緒ある農家などにはあるのかもしれませんが。
多分、襖絵は表の公けの部屋、板戸は裏の内向きのエリアに使われるものではないかと思います。定かではありませんけれども。なので、裏側のエリアにあまり立派なものを描くことは少なく、杉戸絵の有名作というのは数が少ない。ぱっと思いつくのは俵屋宗達の「養源院杉戸絵」ですね。
この他にも、いろいろあるのだと思いますが。わたしが知らないだけで。
紙や絹などと違って板ですから、細かく繊細に描くより、ドカンとした絵が似合いそう。また細部を描き過ぎると痛みが激しいんじゃないかなあと思います。
衝立。衝立と屏風の違い。
ついでに、衝立と屏風の違いも、今まで意識したことがなかったものでした。
どちらも根本的には日本古来のパーテーション(←パーティションがより正しいらしい)ですが、この2つの違いは、折り曲げるか折り曲げないか、らしいですよ。
屏風:折り曲げる方。
衝立:折り曲げずに置く一枚もの。
屏風は、結婚式や会見の時に席の背後に置かれることが多いですね。日本美術としても、屏風は大きなジャンルで名作がたくさんあります。
衝立は……居酒屋とかお蕎麦屋さんの席の間仕切りに時々あるかも、と思いますね。大きい立派なおうちで玄関先に置いてるということもあるかもしれません。
衝立の方は、屏風に比べて美術品になりにくいのはなぜでしょうね?折り曲げて畳める屏風の方が使い勝手が良かったということなんでしょうか。衝立は部品が若干複雑な印象はありますが……
障壁画と障屏画の違い、屏風と衝立の違い。
今回、初めて知った言葉を覚え書きとして書いてみました。障屏画……障屏画……あまり使わなさそうだし、忘れちゃうような気がするなあ。そこまで一般的な言葉ではないしねー。「しょうへいが」でも「しょうびょうが」でも変換できないし。
でも現状、日本美術の人気はじわじわと上がっているようですし、今後は日本美術用語などがもっと一般的になるかもしれませんね。障屏画までたどり着くのはけっこう遠い話だと思うけど。
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