さて、ここからが大変だった。
何しろお昼も食べずにもう13時半ですから。
非常食の甘栗を食べながらとは言えオナカも空いたし、体も強張って来た。
あと2キロ。がんばれ自分。
川幅が広がって。河口が見えて来た。
海だ。
ああ、もう歩けないよ。
よろめきながら川岸の階段に座り込む。目の下では釣りを楽しむ人が2、3人。
平日の午後の。静かで、平和で、侘しい時間。
20分ほど座り込んでいただろうか。
いかん。このままでは行き倒れてしまう。とにかく何か食べないと。
閖上には少なくとも何軒か、食べ物屋さんはあったはず。
……あることを期待してここまで来たのだが、見渡したところそれらしい店構えは何にもない。
民宿は意外に多いようだけど、時間的にか曜日的にか季節的にか、今は閉店状態のようだ。
道路に人が……人っ子一人いないというわけではないが、幼稚園のお迎えのお母さんたちが
いなくなったら誰も歩いていない雰囲気。
……ほんとに店が1軒もなかったら、最終的には「突撃!隣の昼ごはん」だろうか。
いや、もう14時を過ぎたので一般家庭の昼ごはんは終わってるな……。
ああっ!何かノボリが立ってるぞ!!はらこ飯って書いてある!
やったーっ!ゴハン食べられる!!
勇んで(しかしよろけつつ)店の前まで行く。さすが海の町、海鮮料理の店らしい。
店構えも明るく、何の不満もなく入ろうとして――
「お昼のラスト・オーダー14:00」。
え。
……固まる。現在14:10。
それでも店内はだいぶ賑やかで。外から窺う限りにおいてはどうも御法事の会食か何かが
行われているらしい。それが吉なのか凶なのかよくわからない。貸切かもしれないし。
入る決心もつかず、未練がましく外から覗いていたら、お店の人が気づいてくれた。
「まだ大丈夫ですか?」「どうぞどうぞー」と笑顔。
ああ。良かった。行き倒れずに済んだ……。
お店は「なぐも」。
メニューは全体的に少々高め。だが、行き倒れのキケンの前には文句は言えない。
はらこ飯好きだし、たしか1600円で少し安めだったし、はらこ飯注文。
美味しかった。正直はらこ飯自体は自宅の方が美味いかもと思ったが、
一緒についてた蟹の味噌汁が非常に美味しかった。でっかいお椀で豪快に。
味噌汁が、五臓六腑に染みわたる。
ゴハンを食べて、人心地がついて。さあ帰ろうか、と思ったがカウンターのはしっこに
置いてあったマンガをついつい読みふける。
ご当地マンガらしい。面白かったので名前を挙げてあげたいのだが、タイトルと作者名を
失念してしまった。申し訳ない。作者は七十七銀行閖上支店に勤めていて(いた?)、
マンガを描くのが趣味な人らしい。マンガ自体は何巻か出しているようだ。自費かどうかは不明。
マンガとしては新聞4コマのサザエさん系統だが、内容が「閖上支店に転勤になってきた
○○さん(マンガの主人公)が地元の歴史に興味を持ち、調べたことをマンガで説明する」
というものなので、旅人(^O^)であるわたしにはぴったり。
閖上は観音様が海から揺り上げ(打ち寄せ)られたので地名になったとか、
伊達の殿様が大年寺から見て「(大年寺の)門から海(水)が見えた」ので閖という漢字を
作ったとか、日和山が古墳だとか、小塚原は昔は骨が原で、蝦夷と大和の戦場だったとか。
今はかなり忘れちゃったけど、その時のわたしにとっては実にタイムリーなマンガでした。
14:50頃、「なぐも」出発。
お店の人にバス停の位置を聞き、ちょっと歩いてあっさり見つかる。
そしてその横には日和山が。ああ、これがさっきのマンガに出て来た古墳かあ。
古墳にしては、面積に対してかなり高さがある。これはこれで作るのに技術が必要だったのでは。
お店の人は「丁度良いバスがあるかしら」と心配してくれたのだが、
バス停に着いた途端に名取駅行きのバスが来る。よし、ここまで来れば怖いものはない。
あとはこれに乗って帰るだけ。
閖上冒険編、まだちょっと続きます。