知っている人は当然知っていて、――知らない人は全然知らない知識ですが、
歌川広重と安藤広重は同一人物です。
わたしがここんとこはっきりしたのはかなり大人になってからでした。
それまでボンヤリとしてた。
歌川広重といえば通常は一代目のこと。
でも実は二代目、三代目もいるし、歌川と名の付く絵師はとても多いので、
わたしは安藤広重という呼び方を愛用していました。
でも今知ったが、安藤広重という呼び方は実は誤用なんだそうですね!
「安藤」が本名(姓)で広重が雅号だから、そういう組合せはしないんだって。
今後は歌川広重でいきましょう!
ちなみに全然関係ないけど、諸葛亮孔明という言い方も誤用らしい。
諸葛亮、あるいは諸葛孔明としか呼ばないそうです。
諸葛(姓)・亮(名)・孔明(あざな)を一度に並べることはないとのこと。
日本だと伊達藤次郎政宗とか普通なんですけどねー。
先に葛飾北斎のことを書きました。
北斎派か?広重派か?と言われたら、わたしは広重派。
スゴイのは北斎だと思うのですが、広重の方が柔らかさがあって親しみを感じる。
迫力の北斎、構図の広重。と呼びたい。
有名なのは「東海道五十三次」です。
安藤広重といえば「東海道五十三次」ですよね。
あ、いかん、歌川広重でした。
でも実は、わたしは「五十三次」で好きな絵はあまりなくてですね……
これくらいかなあ。
「蒲原 夜之雪」
歌川広重 - The fifty-stree stages of Tokaido (one of 53 prints, +2 for start and terminus), パブリック・ドメイン, リンクによる
左の人が、からかさ小僧みたいになっているのが面白くて。
あとは、強いてあげればこれ。
「原」
歌川広重 - ボストン美術館, パブリック・ドメイン, リンクによる
これは山頂をあえて画面外に出し、手前に人をちっちゃく描くことで、
富士山の雄大さを表現しようとした構図ですねー。
こういうちょっとしたひねりが得意だった人だと思う。
それから、ちょっと好きなのがこれ。
「鞠子」
歌川広重 - ボストン美術館, パブリック・ドメイン, リンクによる
鞠子(丸子)の絵では、茶店でとろろ汁を食べている絵の方が有名ですが、
わたしはこの雪景色が好きです。あったかい気がする。
宿場に並んだ家々の一つ一つに明かりが感じられるような。
広重は雪がいいのかもしれない。
広重だったら「名所江戸百景」がいい!
「東海道五十三次」は1833年出版で広重の出世作ですが、
「名所江戸百景」は1856年から。
広重晩年の大作で、何枚かは二代目広重の手になるものもあるそう。全119枚。
これがいいと思う。広重では。
まず何よりも色がきれいですもんね!
わたしはきれいな絵が好きだ。
タイトルと落款に鮮やかな赤が使われているのが技で、
差し色として常に効果的に使っている。
もう手慣れちゃって手慣れちゃって、こういう構図なら間違いない!というものを
描いている気もしますが、この近景と遠景を強調する構図が好きだわー。
いい意味であざとい。
このシリーズは何枚かお気に入りを選び出すのが相当大変です。
けっこうみんな好き。それを5枚くらいに……絞れるかな?
8.「する賀てふ」(駿河町)
歌川広重 - Online Collection of Brooklyn Museum, パブリック・ドメイン, リンクによる
どーんと出して、どや!という構図。
定番の雲(すやり霞というそうですね)を挟んで、手前に日本橋の越後屋の賑わい。
越後屋は今の三越ですね。
遠景は富士。こんなに大きく見えるはずはないのだが……
効果を狙ったフィクション。
そもそも駿河町は富士がよく見えるということで、名付けられたそうですから。
整然と暖簾が並んでいて、こういう江戸の風景を見られたら楽しいなあ。
11.「上野清水堂不忍ノ池」
歌川広重 - Online Collection of Brooklyn Museum, パブリック・ドメイン, リンクによる
これは色使いの勝利でしょう。
何しろこの赤だもの。お堂の赤に、桜のピンクに、松の緑にヒロシゲブルーだもの。
間違いない。
ちなみにこの円を描いている松の枝は、現在でも上野に行くとあります。
モデルになった松の枝そのままが残っているのかどうかは知らないけど、
(100年以上経ってますしね)
形としては同じ。
30.「亀戸梅屋舗」(かめいどうめやしき)
歌川広重 - Honolulu Museum of Art, パブリック・ドメイン, リンクによる
これはもうあざとい!あざとい構図!
でもこういうのにヨワイんだよなー。
なぜ「亀戸」で「かめいど」と読むのか長年の謎。
調べました。
これは亀戸(かめど)という地名のところに亀ヶ井という井戸が実際にあって、
混ざっちゃって亀井戸という地名になってしまい、
そのうち井の字が抜け落ちてしまって、音だけが残った、ということらしいです。
この絵はゴッホの模写でも有名ですね。
フィンセント・ファン・ゴッホ - 2wF6nM1fOWEp8Q at Google Cultural Institute, zoom level maximum, パブリック・ドメイン, リンクによる
これではだいぶオレンジ寄りの赤ですね。
もうちょっと紅っぽい色使いだった気もしますが。
ゴッホが一所懸命漢字を書いているのが健気。
そこそこ読めるというのがえらい。
52.「深川萬年橋」
歌川広重 - Online Collection of Brooklyn Museum, パブリック・ドメイン, リンクによる
これねー。わたしは今の今まで、これから食べられてしまうすっぽんを
吊り下げている絵だと思っていました!
これ、すっぽんじゃなくて亀だそうです!
「放生会」という行事があったらしいんですね。
小魚や亀などを川へ放して命を救ってやり、功徳をほどこすという仏教的な行事。
放流するための小魚、亀などを売っている、その売り物の亀だそうです。
……じゃあ最初から捕まえるなよ、とつっこみたい気持ちでいっぱいですが。
ぱっと見、気づきにくいですけど、画面の外枠に沿ってある肌色っぽい部分は
寿司桶です。あの取っ手がついた。時代劇の魚屋さんが持っている系の。
手桶本体と取っ手のスキマから覗いたこのアングルですからね!
ほんと、狙っている。
53.「大はしあたけの夕立」
歌川広重 - Online Collection of Brooklyn Museum, パブリック・ドメイン, リンクによる
これも長年「あたけって何?」と疑問だった。
幕府の御用船「安宅丸」って船があったんですって。
その船のドックがあるあたりが安宅って呼ばれるようになったんですって。
安宅はあたかとも読むからなあ。わたしはあたかって読みますね。
この絵を見るたびいつも思うのが「この雨って彫ったの?」ということです。
彫ったのかなあ?こんなまっすぐな、細い線を?
描いたわけはないですよね。墨壺を使ったとか?
……やっぱり彫ったんですね。
これに限っては、構図を考えた絵師より彫師がえらい。刷師もえらい。
なんたる技術の高さ。
57.「堀切の花菖蒲」
歌川広重 - Online Collection of Brooklyn Museum, パブリック・ドメイン, リンクによる
広重は花をきれいに描いてくれます。
意外に浮世絵で花をメインに描いたものって少ないかもしれませんね。
58.「亀戸天神境内」
歌川広重 - Online Collection of Brooklyn Museum, パブリック・ドメイン, リンクによる
藤の花がきれいですね。藤の花は大好き。
もうちょっと満開のところを描いてくれても良かったよ。
これは現在もこの形の橋がそのままかかっているようです。
ただし階段になっています。
わたしもどこだったかですごい急角度の太鼓橋を渡ったことがありますが……
住吉大社?いや、それほど大きな橋ではなかったような気がする。
太鼓橋は降りるときコワイですよ。ほとんどしゃがんで降りました。
64.「水道橋駿河台」
歌川広重 - Online Collection of Brooklyn Museum, パブリック・ドメイン, リンクによる
これも構図の勝利。あざといけど。
でもよく見ると、背景の鯉はだいぶ遠近感が変。
手前の橋と人の大きさを考えると、奥の鯉は超巨大になってしまう。
昔の鯉のぼりは黒い真鯉だけで、赤い緋鯉が出来たのは近年のことらしいですよ。
現代で真鯉一匹の鯉のぼりがあったら、それはそれでかっこいい気がします。
91.「猿わか町よるの景」
歌川広重 - Image source [1], パブリック・ドメイン, リンクによる
満月の光。優しい夜の風景。
猿若町はその昔、江戸三座が集まっていたところ。
歌舞伎はここで上演せよと、お上からお達しがあったわけですね。
いわば劇場街。
この場面は芝居がはねたあと、人々が帰途につく頃のシーンだと推測します。
そう思ってみると「ああ、面白かった」といいながら満足感をもって帰る人々の
ふんわりした空気が感じられませんか。
山形県天童市には「広重美術館」もあります。
好きな「名所江戸百景」、結局9枚になってしまいました……。
そもそも119枚もあるなかでですもんね。
「名所江戸百景」はとてもカラフル。
そして構図が大胆。
その辺りをお楽しみください。
山形県天童市の広重美術館も、規模は小さめですが、
なかなかいい広重が見られますよ!
機会があったら、ぜひどうぞ。