いろいろ徒然

◎その存在さえ知らなかった廃墟。佐藤健寿監修「世界の廃墟」。

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先日、こんな本を読みました。写真集なので読んだというより眺めた。

 


世界の廃墟

 

タイトルの通り世界の廃墟を集めた本です。
全部で26ヶ所。わりとあっさりしたまとめ方で、1ヶ所につき4ページ。ほとんどが写真で見開きで1枚、その他の2ページで写真2、3枚と場所の説明が10行くらい。

26ヶ所は次の通りです。わたしは廃墟に詳しくないので、知っているのは軍艦島くらいでした。

1.ワンダーランド(中国)
2.レッド・サンズ要塞(イギリス)
3.コールマンスコップ(ナミビア)
4.スコット隊の小屋(南極)
5.ブルガリア共産党ホール(ブルガリア)
6.第309航空整備再生工場(アメリカ)
7.端島(軍艦島)(日本)
8.サトーン・ユニーク・タワー(タイ)
9.セントラリア(アメリカ)
10.ヴァローシャ(キプロス)
11.ジーゲル駅(ベルギー)
12.ボディ(アメリカ)
13.オラドゥール=シュール=グラヌ(フランス)
14.パワープラントIM(ベルギー)
15.ベーリッツ・サナトリウム(ドイツ)
16.バラクラヴァ原子力潜水艦基地(ウクライナ)
17.大久野島(日本)
18.ディスコ・インフェルノ(オーストリア)
19.トイフェルスベルク(ドイツ)
20.バーントン採石場の秘密地下壕(イギリス)
21.プリピャチ(ウクライナ)
22.柳京ホテル(北朝鮮)
23.フェルクリンゲン製鉄所(ドイツ)
24.クラーコ(イタリア)
25.ブラッシュ・パーク(アメリカ)
26.医師の家(ドイツ)

説明を読むとそれぞれの場所にドラマがあり、へー、ほー、と思いながら眺めるわけですが、中に数ヶ所(正確にいえば6ヶ所)、衝撃を受けた場所がありました。

こんなところがあるのか……!
そういう場所があることを知らなかった。今まで全く聞いたことがない。

 

わたしが驚いた6ヶ所はここです。

セントラリア(アメリカ)

地面の中で大火事が続いているところがあるんですってね……。テレビ放送されたそうなので有名な話なのかもしれませんが、全然知りませんでした。

アメリカ・ペンシルヴェニア州のセントラリアという町は、ニューヨークから西へ約240キロ、車で3時間ほどのところです。

この町は石炭層の上に広がる町であり、非常に良質な石炭が採れたそうです。19世紀半ばに町として始まり、最盛期の人口は2761人。

が、町が開かれてから100年ほど経った1962年に火災が起きます。この火災の原因は正確にはわかっていませんが、ゴミを燃やすために地上でつけた火が地下の石炭層に燃え移ったと言われています。

……これはこわい……。
地下の石炭層ですよ?広大な範囲に広がる。
町の地下が燃え続ける。初期には鎮火も試みられたようですが、何しろ地下。燃料で出来ている巨大な箱の中で燃え続ける火を消そうとするようなものです。翌年には消火は不可能とされ、火は地下で燃え広がって行きました。

しかし驚くのは、この町の本格的な避難がそれからだいぶ経ってから始まったこと。1980年にはまだ1000人余りの人が住み続けていたそうです。そういうもんですかねえ。たしかに地上からは目に見えない火事だけれども、大火災の上で暮らしているという自覚はなかったのだろうか。

火災の影響で地表面の温度は70度から80度になっていたというし、地面の割れ目から有毒ガスが噴き出していたという状態だったそうです。ここは緊急避難の場面じゃないのか。

1982年、突然出来た割れ目に、付近で遊んでいた12歳の少年が落ちる事件が起きたそうです。この少年は幸いに助かりましたが、おそらくは熱風、しかも有毒ガスを大量に吸ったはずで、助かったのは万に一つの僥倖の筈です。

そこからやっと政府主導で本格的な避難が始まり(火災発生からおよそ20年後!)、町からはほとんどの住民がいなくなりました。ただ現在でも10人弱の人が避難を拒否してこの場所に住み続けているそうです。

現在の道路はこんな状態。

Pdr 1647.jpg
英語版ウィキペディアJohnDSさん - en.wikipedia からコモンズに移動されました。, パブリック・ドメイン, リンクによる

各所から通じていた道路にも土盛りがされて、基本的には通行出来ないようになっているようです。

住んでいる人はどうやって生活しているんだろうなあ……。町の外へ通勤などしているにしても、生活物資を運ぶためには車が必須だろうに。土盛りにも車が通っているような形跡は認められるが、オフロードの車じゃないと無理な傾斜っぽい。
電気は通っているのか。地表温度が80度、地下で火災が起こっている土地に地下埋設はもちろん電柱を立てることも危険な気がするが。

一酸化炭素、二酸化炭素を大量に含む蒸気を突然噴きだす土地。
他の人たちが移住して行った中でそれでもとどまるのは、どんな理由なんだろう。

今まで50年以上も鎮火出来ないセントラリアの石炭層火災ですが、今後100年以上、ひょっとしたら数百年も燃え続ける見通しだそうです。今までの延焼範囲は160ヘクタール。東京ディズニーランドのおよそ3倍。気が遠くなる。環境被害のことも考えるし、その燃料が無駄に燃え続けるというのも。

そして今回、セントラリアを調べてもっと驚いたことが……!

地球上ではこういった坑内火災がたくさん起きているそうです。アメリカ内務省調べによるとアメリカ国内だけで200ヶ所以上。大小あるとはいえ、100年以上も燃え続けると見られる場所もいくつもあるそう。

オーストラリアには「燃える山」(ウィンジェン山)という場所があり、こちらは推定6000年燃え続けているとか……!うむう。

ドイツのブレンネンダー・ベルクは1688年から燃える石炭層火災。なんとゲーテも観光で訪れているそうだ。うむむむ。

トルクメニスタンのダルヴァザにある「地獄の門」は天然ガス。もうこうなると普通の火山と変わらないように見えるが……

天然ガスの漏れの解決策を学者が協議した結果、点火してガスを燃やし尽くせば鎮火すると考え火がつけられたそうなのですが、燃料無尽蔵につき鎮火せず。……恐ろしい。専門家しっかりしてください。

The Door to Hell.jpg
flydime - https://www.flickr.com/photos/flydime/4671890969/, CC 表示-継承 2.0, リンクによる

日本も例外ではなく、夕張炭鉱「神通抗」では大正時代からの火災がずっと続いてるとのこと。

これらはほんの数例で、世界で地中で燃え続ける石炭層火事、消火手段無しの場所は「膨大な数」と言われています。具体的に何ヶ所かというのは探せませんでしたが、アメリカだけで200ヶ所以上あるなら、少なく見積もっても2000とか3000とか……
恐ろしいです。

個人的にはこういう場所に観光目的で行くのはお勧めできないなあと思います。それでも行かれる廃墟めぐりの方々はくれぐれも安全確認をお忘れなく。

オラドゥール=シュル=グラヌ(フランス)

廃墟。です。
死んだ町の幽霊。

第二次世界大戦当時この村では、ナチスに突然襲撃され村人の99%にあたる650人が虐殺されました。レジスタンス(抵抗勢力。ナチス側からすればテロリスト)の本拠地だとみなされたという説もありますが、正確なところはわかっていません。

突然乗り込んできたナチスに、男性は何グループかに分けて納屋に、女性と子供は町の教会に集められます。最終的にはどちらも建物に火をつけられ、逃げ出そうとした人は銃殺されたそうです……。

その時の火災で村は破壊されたまま。戦後、シャルル・ド・ゴール大統領はその惨劇の記憶を忘れないために、破壊された村をそのまま残すと決定したそうです。

グーグルアースでも確認可能。

救いは、この場所の西側に現代のオラドゥール=シュル=グラヌの町が広がっていること。だいぶ大きくなりました。なおこの2つの場所の中間には1999年にメモリアル・センターが建てられています。

わたしは戦争に関わる事柄が苦手で……。こういう話を読むと凹みます……
この場所には機会があっても行かないと思いますが、だからこそ写真でその存在を見られたことには意義があった。

近年ダークツーリズムと名付けられた行動が増加しているそうです。これは何かというと、災害被災地や戦争跡地など人類が経験した不幸に関連する場所を訪れ、哀悼や学習をする。それを今後の生き方に役立てる、といったものらしい。

有名なところではアウシュビッツや広島の原爆ドーム、グラウンドゼロ、東日本大震災の被災地など。

ダークツーリズムはその名称も含め(ブラック・ツーリズムやグリーフ・ツーリズムという名称も使われるらしい)定義も定まっていない概念ですが、今後いっそう一般的になっていくと思われます。

大久野島(日本)

現在はたっぷりウサギと触れ合えるうさぎ島として人気の大久野島。広島県にあります。最寄の忠海駅から船に乗って15分のアプローチだそうです。船は、朝晩は1時間に1、2本。平日のお昼前後は2時間に1本という時間帯も。

現在はうさぎの島ですが、第二次世界大戦時は毒ガス製造拠点でした。その前から軍事的に重要な場所にあり、地図からは抹消されていたようです。

うーん。呉の軍港などは知っていたけど。地図から消されていたというのも世界中によくある話だとは思うけど。民間人を退去させて、国際社会では認められない化学兵器を作り、その過程で何人もの人が亡くなったことを考えると……

廃墟は毒ガス工場、砲弾跡などがあります。観光施設として大久野島毒ガス資料館があるそうです。ここもダークツーリズムに該当しますね。

ヴァローシャ(キプロス)

気分が暗くなってくるダークツーリズムの該当箇所をもう1ヶ所だけ。

……キプロス共和国とマルタ共和国を今の今まで混同していたなんていいませんよ。ええ、いいませんとも。

キプロスにあるヴァローシャという町は、50年ほど前まではハリウッド・セレブにも愛された風光明媚なリゾートでした。

しかしキプロスに住んでいたトルコ系住民とギリシャ系住民が対立します。元々火種がくすぶっていたところが、キプロス大統領マカリオスへの襲撃として具現、それに反応したトルコ政府が軍を派遣して爆撃を行ないます。974年7月22日のことだそうです。滞在していた観光客が緊急退去して、わずか数時間後の爆撃でした。

Famagusta2009 3.jpg
Julienbzh35 - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

それ以来、ヴァローシャは有刺鉄線に囲まれ、軍が駐留しています。一般人は立ち入り禁止で写真も撮影禁止。

この場所に毎年来ていたような人々は、去年優雅に過ごしたリゾートが爆撃されるなんて夢にも思えなかったに違いない。

わたしは2001年7月にニューヨークに行きました。ワールドトレードセンターの展望台から自由の女神を見下ろした。床が一部透明になっていて、はるか下の地上を走る車を見てうぞうぞした。周りの風景を撮りまくった。

あの場所が2ヶ月後にはなくなるなんて思わなかった。

第309航空整備再生場(アメリカ)

ここはわりと素直に面白がれる廃墟。とはいえ名前は不穏にも「飛行機の墓場」。

「Aerospace Maintenance and Regeneration Center」と、この本には書いてありますが、グーグルマップではこの名前では探せず、「aircraft boneyard」まさに飛行機の墓場。

グーグルアースにて目視可能です。こんなにきっちりと、地上の牽引車で
並べるんだろうねえ。

本に載っている写真だと飛行機になかなか年代感が出てまして……寂寥感が漂う。再利用するものも中にはあるそうです。しかし基本的には部品取りを行ない、最終的にはスクラップ。

……淋しい。
いや。いやいや。こんなところでまで感情移入をしていてはいけないのだ。むしろ最後の部品まで後輩のために活かしきって、生まれ変われると考えれば!

柳京ホテル(北朝鮮)

廃墟なのだろうか、これは。そもそも現役だったことのない建物。

1987年に建設され始めた、ホテルとして当時世界一の高さを目指した建造物。が、その後5年ほど細々と建築は続けられたが途中で放棄。コンクリートうちっぱなしのような外観で長年放置される。

2008年に工事再開。全面にガラスが貼られ、外観は整った。2012年には西側企業が営業を請け負うこととなり、翌年の開業を目指すと言われた。が、2013年にはその企業は手を引き、再び開業の見込みは立たなくなった。

動きがあったのは2018年。LED照明によりイルミネーションが壁に映し出すことが出来るようになった。国旗が映されたりしているらしい。ということはつまり、30年をかけて完成を目指してるのか?それとも巨大な(330メートル)の広告塔で終わるのか?

Ryugyong Hotel 02.JPG
Nicor - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

建物としては美しい方に入ると思うんですよ。が、地盤が脆弱で傾きが見られるらしい。建物が曲がっていて、エレベーターが昇らないという意見も見かけた。何より資金的に、完成は難しいだろうなあ……。

ブラッシュ・パーク(アメリカ)

これもちょっと心が痛む建物。

デトロイトは長年アメリカの自動車産業を支え、それで栄えて来た都市でしたが2013年に財政破綻の申請をしたそうです。繁栄した時代、富裕層が瀟洒な邸宅を構えていたのがブラッシュ・パーク地域。高級住宅街でした。

しかし自動車産業が傾くにつれデトロイト市の治安も悪くなっていき、ブラッシュ・パークも人がいなくなり、荒れ放題に……

ストリートビューが見られます。

ブラッシュ・パーク、今も残っていたらすごく素敵な通りだったろうに。わたしの好きな時代の建物だなー。

でもどうやら、2013年以降デトロイトの状況も少し好転したようですね。再生された建物もかなりあるようです!うれしいです。

 

廃墟は面白い反面、心が痛むのであった。

これを書きながら、わたしは廃墟好きなのか?と自問してました。こういう本を読んでいるんだから、嫌いではないはずですが。訴えかけて来るものはある。でも、好き――――とはいえない。多分廃墟を見ているのが辛いからですね。建物好きなので面白みも感じるんですけれども。

ただ城跡などの滅びの雰囲気は好きなんですよね。美化出来る悲劇はいいのかもしれません。判官びいきという感情もある。が、近現代の滅びは時が流れていない分、あまりにも残酷で生々しく……辛かったりもする。

美しい廃墟が好きですねー。

そういう意味ではこのサイトの記事が良かった。写真のクオリティがすごかった……!グルジアの廃駅や、中国の水没都市など、まるでファンタジー映画です。こういうところだったら行ってみたいなあ。

なお、この本をわたしは佐藤健寿が撮影したものだと思って読んでいたのですが、この本で佐藤健寿が撮影したのは大久野島とプリピャチの2ヶ所のようです。他の場所は別な写真家が撮ったもの。なるほど、だから「監修」なんですね。

知らなかった世界を知ることが出来て面白い本でした。廃墟好きの方にはもちろん、世界にはこんなところがあるのか!と知識が増えるので廃墟に特に興味がない方にも面白いと思います。
興味があったら読んでみてください。

 

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