葛飾北斎は、アメリカの雑誌「LIFE」が発表した記事「過去1000年の間で最も重要な人物100人」のなかで、日本人として唯一選ばれた人だそうです。86位。
とはいっても、これはアメリカ人が考える結果ですから。国によってだいぶ内容は変わるだろうけど。
北斎といえばいろいろ浮かんで来る絵はあると思いますが、わたしにとって北斎の一枚といえばこれです。現地に見に行って「そんなにいい絵だと感じなかった」という点も含めて、印象深い。
葛飾北斎の肉筆画、岩松院の「八方睨み鳳凰図」。
かなり前の話ですが、テレビで葛飾北斎の絵を見ました。一目見て、あまりの鮮やかさに目が離せなかった。息を呑んだ。
木版画のイメージが強い葛飾北斎。しかし晩年は肉筆画を多く描いたそうです。わたしが息を呑んだ絵は、長野県小布施にある岩松院というお寺の天井画。
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岩松院 『八方睨み鳳凰図』下絵。←これ下絵です。念を押しました。
実際に見た感想。
これは見に行かねば!と思って、何年か後に小布施に行きました。まあずいぶん前の話だけれども。
……そしたらね。正直なところ、実際に見るよりテレビで見た時の方が感動した。いや、あのね。どうしてそう思ったのか、聞いてください。
地色の問題。
まず第一点。
この「鳳凰図」、天井の板に描かれているんですよね。なので地色が木の色。
上に挙げた下絵では地色が黒で色彩のコントラストが鮮やかですが、木の色だとちょっと劇的要素に欠けると思う。
鑑賞距離が近すぎる。
第二点。
お寺の本堂ともなるとそこそこ広い空間です。ここの本堂は21畳。21畳の空間の天井いっぱいにだいたいこの下絵と同じ構図で鳳凰が描かれている。
そうするとねー。――大きすぎるんです。
わたしが行った当時はまだ床に寝転がって鑑賞することが出来ました。今は座ってしか見られないそうですが。
そうすると、床から天井まで、3メートルちょっとくらい?4メートルはないんじゃないかな。
そして21畳だと普通に考えて3×7の配置でしょう。となると絵自体は5メートル四方くらいでしょうか。
5メートル四方の絵を4メートルの距離で見るのは……ちょっと訂正鑑賞距離とはいえない。
いや、描き方によってはありだと思うんですよ。もっと細い線で細かく書いてくれれば。でも目の前で見る鳳凰は(これだけ巨大なら4メートルでも目の前ですよ)、輪郭線がかなり太くて、のっぺりとした印象でした。
これは下絵をそのまま引き延ばしちゃったからだなー。葛飾北斎をもってしても、大画面というのはそれだけで困難なものなのか。
近年では、この絵が描かれた時、北斎が実際に小布施にいたわけではなかったのではないかという意見もあるようですね。小布施には現在のところ4回行ったとされていて、最晩年(89歳)に滞在した時に
この絵を描いたと言われていますが、その頃江戸で人に会っていた記録が見つかったそう。
北斎が描いた下絵を誰かが写したという可能性があるのかなー。だとしたら、輪郭線があんなに太くなってしまったのもありかも。
この「八方睨み鳳凰図」は小さいサイズの方がいいかもしれません。下絵の方も岩松院にあって(展示されてるかどうかは不明)、大きさはわかりませんが、そんなに大きなものではないはず。
パソコンやテレビ画面の大きさで見た方が、繊細さや凄みを感じます。絵はがきも良かった。縮尺の関係ですねえ。
こういうことを感じたのは、実際に現地で見ることが出来たからなので、見に行って良かったなと思います。見てこそですから。
岩松院への行き方は?
長野県小布施町はこの辺り。
長野市から長野電鉄で34分。片道大人680円です。1時間に2、3本あるようです。
岩松院は駅からけっこう離れていて……という印象だったんですけど、今、地図を見ると大したことないですね。2キロくらい。わたしは岩松院に実は2度行っていて、2度目はツアーの自由時間でした。自由時間が2時間くらいだったでしょうか。
2時間だと、北斎館を見て岩松院にタクシーで行ってぎりぎりですが、時間がない時はそういう方法もとれます。タクシーには待っててもらったかなー。
普通に観光が出来る時間がある時は、おぶせロマン号というバスがあります。30分に1本毎で、小布施駅から岩松院まで23分くらい。1日乗車券500円。
小布施の観光施設は?
北斎と栗のまちですから、
北斎館と岩松院は必須です!そして栗のお菓子・栗ごはんを食べれば完璧!
その他には中島千波館もきれいな日本画が見られて良かった。他は行ってないかもなー。
他に高井鴻山記念館と日本のあかり博物館もあるそうです。小さな町ですが観光に力を入れていて、歩いていて楽しいですよ。小布施は長野からの日帰り観光にぴったりです。
葛飾北斎「八方睨み鳳凰図」。
見に行って満足でした。わざわざこのために行った、という達成感。今後もそんな一枚、一体(←仏像とか)、一軒(←建築とか?)に出会えるといいなあ。
こんな状況なので、旅の話題以外を心がけているのですが、つい旅の話になってしまいました。早く自由に旅の計画が立てられる世界に戻って欲しい。そう願っています。
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