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◎いろいろなモネ。――美術を楽しく見るためには、好きなジャンルと出会うのが大切。西洋美術・印象派。

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モネです!モネですよ!――そこまで親近感を持っている画家じゃないはずなのに、なぜかモネはテンションがあがります。これは単純に好きだからなんだろうか。人物としては普通ですが、作品は間違いなく好きですねー。

言わずと知れた、印象派の大家。

モネといえば印象派。というより、印象派といえばモネですよ。この「印象派」という名前はモネのこの絵から来ています。

モネ「印象・日の出」

Monet - Impression, Sunrise.jpg

まあでも突然こういう絵を見せられたら驚きますよねえ。

この頃はかっちりしっかり描いた、伝統的なアカデミックな絵画がまだまだ幅を利かせていた時代。それはたとえばこんな絵でした。

カバネリ「フランチェスカ・ダ・リミニとパオロ・マラテスタの死」

Inf. 06 Alexandre Cabanel, Morte di Francesca da Rimini e di Paolo Malatesta, 1870.jpg

この違いといったら。

でもあまりにも違いすぎて、もしわたしが当時のパリの人でモネの絵を見たら、全然いいとは思わないと思う。きちんと丁寧に描いた絵と比べて、あまりにもざっくりしすぎる。「何が描いてあるかわからない」といいたくなる。まあ「印象・日の出」は今見ても、あまりわたしが好きな絵ではありません。

アカデミックな絵はやはり硬直化していたのかなーと思います。わたしはルネサンス美術が好きですが、やっぱり何百年もその路線が続くとどんなに工夫をこらしても、停滞してしまうんでしょうね。もちろんその路線から素晴らしいものが生まれる可能性は常にあるけれども、人は目新しいものに惹かれる。

 

モネの画風。

画業の長いモネは画風がいろいろ変遷しました。……そのはずですが、それを詳述する能力はわたしにはありません。

わたしの個人的な分類は以下の通り。学術的な根拠は全くなく、適当といえば適当ですが、本人にわかりやすい分類でなければ意味がない。

〇細かいタッチの風景画(初期風景画)
〇丁寧に描いた人物画
〇丁寧に描かない(タッチの粗い)人物画
〇粗いタッチの風景画
〇ルーアン大聖堂
〇積み藁
〇睡蓮(ジヴェルニーの庭)

だいたい時代順にこんな感じかと。モネはすごくたくさん作品を描いた人ですから、わたしが見たことのある(リアルでもバーチャルでも。覚えてはいない)絵は10分の1とか20分の1とかだと思います。全作品数をあてずっぽうで1000として。しかも後半は画題で分ける乱暴ぶり。でもこの人は他の画家と比べても珍しいくらい、同じ画題でたくさん描いてますよね。

一番有名なのはやはり「睡蓮」ですね。「睡蓮」だけでも200枚を超えるらしいですし。正直、それは描き過ぎではないかといつも思う。

こんなに描いた理由の一つは、歳を取って外へ写生に行けなくなったからだそうです。モネは40歳を過ぎた頃、ジヴェルニーという土地にめでたく広い地所と家を手に入れました。10年ほど経ってから、画業の成功により隣の地所も買い取り、そこに思いのままにデザインした庭を作り、絵のモチーフとして有効活用しました。

「睡蓮」と「日本の橋」のモチーフが有名です。この橋の絵もけっこう見ますね。

モネ「ジヴェルニーの日本の橋と睡蓮の池」

Claude Monet, French - The Japanese Footbridge and the Water Lily Pool, Giverny - Google Art Project.jpg

日本人としてはこれを日本の橋と言われても今一つピンと来ないが、モネとしてはお太鼓橋をイメージしたようですよ。こういうところにモネの浮世絵愛好癖が出る。現在ジヴェルニーは多くの人を集める観光地だそうで、その庭に日本が影響していると思うとちょっとうれしい。

橋の下は睡蓮の繁る池。この池もだいぶ大きいようです。

Giverny 2005.JPG

自宅の庭がこんなに風光明媚なら画家としては最高ですね。そりゃ描きまくるわ。

 

それぞれの画風の一枚。

モネ「サン=タドレスのテラス」

Claude Monet - Jardin a Sainte-Adresse.jpg

「細かく描いた風景画」タイプ。

丁寧に描きこんでいる印象がありますね。細かく見るとまあまあ粗いのですが。こういう明るい色の絵が好きだなあ。避暑地の明るさが絵を見て伝わってくる。しかし中央の影の部分が若干大きすぎるかなあ?この角度だとわたしが見た印象よりも、夕暮れになっています。

モネ「草上の昼食」

Monet dejeunersurlherbe.jpg

「丁寧に描いた人物画」タイプ。

マネの同タイトルの絵にインスパイアされて描いた絵だということです。そして元々はこの絵の3倍ほどで1枚の絵に仕立てようと企図していたようですが、最終的には真ん中のこの部分と左側の部分を切断して2枚の絵にしたとのこと。

モネ「草上の昼食」(左側)

Claude Monet - Le dejeurner sur l'herbe (left panel).jpg

左側にはこの絵が続きます。切断する部分はもう少し右側でも良かった気がしますけどね?

モネ「トルヴィルの浜辺」

Claude Monet 002.jpg

「丁寧に描かない(タッチの粗い)人物画」タイプ。

これはモネって言われないとわかりませんねー。習作なのでしょうか。モネにしては色も地味ですしね。「印象・日の出」も地味ですけどね。

モネ「印象・日の出」

Monet - Impression, Sunrise.jpg

「粗いタッチの風景画」タイプ。

じーっと見ていると、ターナーの「戦艦テレメール号」を思い出すし、唯一はっきり描かれた太陽がなんとなく日本画を連想させる。モネの頃のフランスには浮世絵はかなりあっただろうけど、日本画は渡っていただろうか。浮世絵は当時かなり廉価なもので、陶器を包む緩衝材として西洋に渡ったものが「発見」されたというから、本式の日本画とは流通の方法が違い、ひいては普及の程度も違うはず。

モネ「ルーアン大聖堂」

Claude Monet 033.jpg

「ルーアン大聖堂」のシリーズ。

1892年から1894年の3年ほどで30枚くらいを描いたそうです。ずっとルーアンにいたわけではなく、一定期間取材旅行に行って材料を集めて来たらしい。取材は2度か3度にわたったようです。

その場で描かない場合の微妙な違いは覚えてられるものなのだろうか。何かスケッチみたいなもので再現可能なのだろうか。絵を描かないamairoにはさっぱりわかりません。

ルーアン大聖堂の場合はアングルもほとんど変えてないので、ほんとに色合いと空気感で勝負している。「ルーアン大聖堂」を出来る限り集めた特別展も面白いかと思いますが、……飽きるかな。

モネ「積みわら――午後」

Claude Monet - Meules, milieu du jour.jpg

「積み藁」シリーズ。

積みわらなんてモチーフとしては地味だなあと思うわけですが、これはルーアン大聖堂シリーズと違って、けっこうアングルも色合いも変わるので並べてみると面白いです。これなら「積みわら特別展」もありかも。

フランスの積みわらはこんな感じなんですねえ。おうちみたい。日本とはだいぶ違う。あ、日本の積みわらは稲か。

「落穂ひろい」のミレーも積みわらを描いてますね。モネの絵ではあまり思わないけど、ミレーの絵を見ると積みわらってわたしの印象よりサイズが大きいみたい。人や羊の大きさと比べると、家というか小屋のサイズくらいは普通にありそう。

モネ「睡蓮」(国立西洋美術館)

Monet Water Lilies 1916.jpg

「睡蓮(ジヴェルニーの庭)」シリーズ。

睡蓮はねえ……200枚以上あるそうです。わたしは同一テーマで描き過ぎだろうと思うのですが。

でも水面に咲く美しい睡蓮はそのもので画題として魅力的だし、水面をメインにすればそれで遊べるし、緑の感じ、空の感じ、そして家の身近に(というより家の敷地内に)あって、いつでも出かけて描ける……となれば、それはたくさん描いちゃいますよね。特に晩年、体が利かなくなってからはこの環境は画家として最上のものだったでしょう。

水面を追求出来たのは大きいと思いますね。千差万別といえば水面ほど変わり得るものはないかもしれない。それに気づかせてくれたのもモネでした。海を、川を、湖を描く画家はそれまでもいたけれども、モネが描いたのは水面でした。

睡蓮は日本から輸入したものだってほんとですか?日本からフランスまで空を飛んだ睡蓮がジヴェルニーで美しい花を咲かせ、その花がモネに絵を描かせ、その絵が今は世界中にあって、各所でまた花を咲かせている。……人の心に、とまでいうと気障だけれども。ちょっとうれしいですね。

 

さまざまなモネ。さまざまな色。

アルジャントゥイユという分類もありかなーと思いましたが、そんなに細分化してもいいことはないかと思い止めました。こういう分類は見る手がかり、足がかりになれば良いのであって。

作品数が多い画家を見る場合、自分の中でいくつかのブロックに分けるのはいい方法だと思います。心の中の整理整頓。大きな押し入れの中を区切って小さな引き出しに入れると記憶しやすくなるんじゃないかな。経験の蓄積が人間を作っていくとするなら、記憶できないよりは出来た方がいい。それがすべてじゃないけれども。

モネはまだ続きます。

 

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