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地平線に溶ける空
2025/08/19 -【prose】
暗い空間に窓から差し込む白い光。白い光と黒い闇は、決して混ざりあうことなく独立して存在し、目に鋭く切り込んで来る。堅牢に作られた修道院の食堂の厚い壁。牢獄のような佇まい。強い光と闇のコントラストを凝視 ...
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赤い波に浮かぶ島
2025/08/19 -【prose】
ミケランジェロ広場へ行くためにバスに乗る。 この街には昔の城壁がまだ少し残っていて、中央駅から出たバスはその外側に沿って走る。城壁が本来敵への備えであるのは言うまでもない。だが今見る壁は、フィレンツェ ...
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< 上高地で出会った人 >【prose】
北村薫の「八月の六日間」という本を読んで、昔のことを思い出した。 若い頃に長野県へ行った。善光寺と松本を主目的に、その他に馬籠・妻籠、上高地、帰りに諏訪湖畔に泊まるコース。上高地へ行ったのは諏訪の前、 ...
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< 山は。 >他一篇【prose】
< 山は。>【prose】 畑の畝がまっすぐに伸びる。山に向かってまっすぐに伸びる。 山は十勝岳。夏の空が青く広がる。 麓の人々は山と空を眩しく見上げる。 ◇ 北上川べりでは紅色の萩の花 ...
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< エディンバラ随想 >【prose】
ロンドンでの三ヶ月の滞在後、エディンバラへ向かう夜行バスに乗った。海外で夜行バスに乗るのは初めてなので不安だったが、バスは何事もなく早朝のエディンバラへ到着する。夏でもエディンバラの風は冷たい。駅の片 ...
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< ヴェネツィアの、遠い島 >【prose】
その島へ行くのには本島から船で五十分かかる。途中のブラーノ島で乗り換え。ブラーノ島へ行く人は多いが、そこから船で五分のトルチェッロ島まで足を伸ばす人は少ない。 小さな船から降りたのはわたしを含めて四人 ...
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< 実方中将の墓 >【prose】
名取市北西部に実方中将の墓といわれるものが残っている。里山の麓の小さな碑。前面に水田が広がるのどかな場所。竹林に囲まれひっそりと建っている。 藤原実方はおよそ千年前に生きた人で、陸奥守に任ぜられはるば ...
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< ヒースの野に立つ女 >【prose】
ヒースという植物がある。ツツジ科の低木。高さは、30センチくらいから人の背丈を超えるものまで。白や淡いピンクの2、3ミリのコロコロした可愛い花をつけるものが多い。びっしりと咲きそろった時期は淡いピンク ...
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< 黒い生きものたちのはなし >他3編【prose】
< 黒い生きものたちのはなし > 大きな黒いの と 小さな黒いの が よりそっている。 つやつやした毛並みの。 ふわふわした毛並みの。 小さなのが大きなのの顔を舐める。 ぺろぺろぺろぺろ。 ぺろぺろぺ ...
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< クロ・リュセの館 >【prose】
フランスのアンボワーズの街にクロ・リュセという名前の館がある。はるか昔、そこにはレオナルド・ダ・ヴィンチが住んでいた。 アンボワーズの城からはクロ・リュセまでは徒歩10分。わたしは走った。閉館間際の館 ...