いろいろ徒然

◎知育玩具としての「俳句いろはかるた」

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白状すると、知育玩具が好きです。遊びながら頭が良くなればお得だと思ってしまう。が、大人が子どもに買い与える知育玩具は大人の自己満足であるケースも多いので、遊ばないからといって怒る、せっかく買ったのにと愚痴る、無理に遊ばせようとする、などということはしない方がいい。気に入って遊んだら儲けもの。自分が好きなおもちゃで好きなように遊ぶのは子どもの権利ですから。

が、自分が子どもだった頃のことを顧みて、これは良かった……!としみじみ思っているものがあるので、それについて語りたい。

「俳句いろはかるた」。

これは実にいいものだったと思います。

 

「かるた」の長所。

なんといっても「かるた」自体が単純に楽しい。

読み札を読んで対応する取り札を取り、その数を競うというシンプルな遊びながら、年齢層・参加人数もフレキシブルだし、子どもから大人まで同時に楽しめる。お正月関係なく、年中やっていました。慣れている子どもと初めての大人では、本気でやったとしても子どもの圧勝。小さい子どもと大きい子どもがいても、大きな子どもが手加減をして遊ばせてやるのも容易。

基本的には字が読めるようになってからの玩具ですが、子どもは回数を重ねれば、音と絵を組み合わせる記憶力があるので、厳密にいえば字を読めるようになる前の子どもでも使用可能です。

 

「俳句いろはかるた」の長所。

ゲームとして素晴らしい「かるた」の中でも特に「俳句いろはかるた」が優れていると思う。「犬も歩けば棒に当たる」などのことわざが覚えられる江戸かるた(京かるた・大阪かるた)などもいいと思いますが。

読み上げやすいこと。

これは直接的には読み上げ役である大人にとって楽。日本語のDNAに連綿と受け継がれてきた七五調のリズムなので、読み上げるのに最適なんですよね。

俳句という内容があること。

大人は一般的に子どものお付き合いでかるたをやることが多い。その際、内容があるものとないものでは、「つきあってあげている」感がだいぶ違うんですよね。

完全に低年齢層向けの、キャラクター物や動物ものなど、存在意義が別にあるものももちろんありますが、そういうかるたの文章はやはり子供向き。大人として付き合わされる身であれば、鑑賞の余地がある俳句は読み物としてなかなか良い。大人の好知心を刺激する題材だと思う。

大人も楽しめる内容だとリピートする回数が増えます。飽きない。かるたはやはり最低3人は欲しい遊びであり、今時の家族の人数からして子供だけで3人というのはなかなか可能性が低い。読み人としての大人が参加しやすいのは利点です。

四十八の俳句を自然に覚える。

わたしは俳句自体には詳しくはなりませんでしたが「俳句いろはかるた」を何度もやって、それだけで「いろは四十七文字+京」で四十八の俳句を覚えました。これは大きい。

年を重ねて、かるた遊びをやらなくなってからもこの覚えた四十八句はいい暇つぶしになってくれました。退屈な授業の時に書きだしたり。テストの空き時間に答案の裏に書いて時間をつぶしたり。今回、何年振りかで思い出してみたのですが、多分四十八句、全部思い出せました。助詞を間違えたりといった細かい記憶違いはあるでしょうが。

すらりと思い出せなかったのは「ね」「む」「め」で、「よ」は一度目にはすぐ思い出せたのに、二回目は行方不明になりました。「ね」は10分くらい考えてから、「む」は一時間くらいかかり、「む」のあとすぐ「め」を思い出す。一つ思い出すとつるつる思い出すことがあるのが記憶の面白さ。

「よ」を二度目に思い出せたのは翌日でした。ふとした拍子に思い出す。「あ!」と思い出せた時の快感。アハ体験に準じるものがあります。

 

水原秋櫻子監修「俳句いろはかるた」の長所。

現在販売している「俳句いろはかるた」はいくつかありますが、わたしが使っていた水原秋櫻子監修の「俳句いろはかるた」はありません。絶版。すごく残念。あれが好きだったのに。オークションではちらほら見かけるけど。

絵がきれい。

何が良かったって、絵がきれいだったんですよね。花や風景など、さらさらと素直に描いた日本画的な絵。梅や桜。日常生活では見る機会のない梨の花を覚えたのもこの絵ででした。雪が降り積もる石灯篭。夕暮れの薄の原とその向こうの富士山。

好きな絵と嫌いな絵があって、好きな札は「絶対取りたい!」とむきになりました。取れないと拗ねるのですが、2歳上の兄はわたしの好きな札と嫌いな札を交換してくれました。好きな札ばかり並べて悦に入っていた記憶。

かるたについて、わたしは詳しくはありませんが、平安時代にはすでにあった「貝合わせ」を起源の一つとするようです。「貝合わせ」は大はまぐりの内側に美しい絵を描いて、一対になるものを探すという遊び。まさにトランプの神経衰弱と同じ遊び方。

一つ一つの貝に精緻な絵を描く工芸品なので、平安時代は貴族、時代が下がっても大名の姫君の嫁入り道具とか、豪商のお嬢さんとか、持つ人を選ぶお金がかかる高級品でした。

そういうものの後継として、かるたに美しさの要素を加えてみるのはいかがでしょうか、おもちゃ会社の方々。子ども向けにはマンガ絵、と決めてしまうのではなくて。

比較的有名な俳句が選ばれていること。

水原秋櫻子という有名な俳人の監修と麗々しく謳っているだけあって、セレクトにセンスがある……かどうかよく知らないが、なるべく有名でわかりやすいものを選ぼうと心がけている気がします。

多分俳人も重ならないように気を使っているのではないでしょうか。わたしは句の作者までは覚えられなかったので、一人から複数の句が採られているかどうか定かではないのですが、多分基本的に一人一句(あとで確認したところ、複数句が採られている俳人もいました)。

有名句=佳句とも言い切れないですが、教養として身につけるなら、マイナーよりもメジャー、という考え方もありだと思う。教養とは自分一人で愉しむものであると同時に、多くの人と共有できる話題を持つという側面もありますから。

 

現在手に入る「かるた」いろいろ。

わたしが使っていた「俳句いろはかるた」が絶版な以上、それに代わるものはないかと探してみました。でも上記の良さをすべて満たすものは、私見によれば、ないように思う。そもそも美しい絵柄のかるたがネット上では見当たらないのです。

現時点で、かろうじて利点が多いものはこれだろうか。

「五色名句百選かるた」


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これは知育玩具、教材として特化したかるた。通常、いろはかるたは48組ですが、これは100組あり、より一層大人数の使用に対応すると思われる。10人くらいでも出来そうですね。

だが家庭での少人数での使用についても考えられており、5色に色分けすることで20枚1セットのかるたとしても使うことが出来るようになっている。3、4人で行なう時にはこのくらいの枚数で競った方が面白いかもしれない。枚数を少なくすることで時短も図られており、100枚だと1枚30秒として50分、15秒としても25分は最低かかるところ、20枚でも出来るので5分程度で出来るようになっている。

色分けは「季」ごとで、春・夏・秋・冬・新年。わたしは内容詳細を見るまで「100枚は多すぎるのではないか」「季ごとに色分けは不要ではないか」と思っていたが、上記の時短の部分はよく考えられていると思った。2色で40枚、3色で60枚なので、人数と時間を調節して遊ぶことが可能。色分けするのが面倒ではないか、という難癖をつけることは可能だが、遊ぶ時はそのくらいの面倒は乗り越えてこそ。

他に、このかるたの特異点としては「い」「ろ」「は」で絵札を取るのではなく、たとえば「梅一輪 一輪ほどの 暖かさ」の句だったとしたら、絵札の方には梅の絵と「あたたかさ」の文字が書いてある。そうでもしないと100組は準備できません。最大48文字ですからね、いろはだと。

だがこの方式を取ることによって、ゲームとしてのハードルはだいぶ上がる気がする。ひらがな一文字であれば、初見の子や文字を覚え始めの幼稚園児くらいから楽しめるだろうけれど、この方式だと小学校低学年くらいにならないととっつきにくいかなあ。

絵は、Amazonで見つかる限りにおいてはマンガ絵でもないという意味で良い方ではありますが……もう少しガンバレ。といいたい。もう少しきれいな絵で出してくれたら文句はなかった。

でも簡単に入手できる「俳句いろはかるた」としたら、これが現状ではベストかと思います。

 

柳沢京子きりえ「一茶かるた」

絵の美しさに特化するならこれ。


きりえ一茶かるた

 

これは唯一美しいといえる、芸術的なかるただと思う。ある一定の水準を超えている。

ただその美しさが子ども受けするかというと微妙ですか。黄色みの強いベージュと黒で構成する画面は大人にはノスタルジアを感じさせるけど、子どもにはどうだろう。こういうテイストの絵を嫌う子もいそう。ちょっと怖く感じるかもしれません。

それに加えて、かるたの素材が全部小林一茶の句というのもどうかなー。一茶の句自体は比較的ふんわりしているものも多いイメージだし、動物も出て来がちなので子どもに馴染みやすいものではありそうですが……。が、一茶の句を48句深掘りするなら、もっと人口に膾炙する俳句を知っておいてもいいように思う。バラエティというか。

 

「俳諧かるた」

最初これを見た時、構造がよくわからなかった。


奥野かるた店 俳諧かるた 100枚 札サイズ縦8.9×横6.7cm

 

俳句ってそういえば、連歌という遊びから来ているんですよね。俳句は五七五で一句で独立したものとされていますが、元々は連歌――五七五・七七・五七五・七七とルールにしたがって延々と続けていくもの。複数人で行なう座興でした。

それに詩情を与え、芸術にまで高めたといわれるのが芭蕉。芭蕉以後、俳句は一句として徐々に独立していきました。

このかるたは、その元々の連歌での形で作られています。与謝蕪村の有名句「菜の花や 月は東に日は西に」の後には元々は三浦樗良の「山もと遠く 鷺かすみ行」という句が続いていたんですね。なので取り札の方が(あまり有名ではない)七七の句になっている。

こういうので楽しめるのは大人ではないだろうか。しかし大人はかるたで遊ぶ機会がない。愛蔵品とするには作りが少々あっさりしている。うーん、子どもにはちょっと難しすぎるんじゃないかなあ……

 

復刻して欲しい、「俳句いろはかるた」。

今の子どもたちはかるたなんかであまり遊ばないんでしょうかねえ。大勢の子どもが集まる機会もあまりないのかもしれない。現在のコロナ禍の状況ではなおさら。

でも子どもたちには一度や二度はかるたを楽しんで欲しいし、それが俳句だったらより一層良し。きれいな絵のかるたで遊ばせてあげたいなあ。復刻、あるいは再生してくれませんでしょうか、奥野かるた店様。

 

俳句かるたとは全く関係ないが、「有隣堂しか知らない世界」の知育玩具の回。

有隣堂、好きだ。いつかは伺いたい。

 

 

 

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