熊野/Kumano:2014

4.道成寺。

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結論から言うと、道成寺はなかなかいいところでした。

ささやかな門前町に、ささやかな軒数のお土産屋さんが並び。
タクシーで階段の下まで乗り付ける。ほら、このくらいの階段ならそんな大したことないでしょ?

ちなみにこの「大したことない階段」は実は大したことのある階段らしいのです。

道成寺七不思議

うん、たしかに上りやすい気はしたなあ。

建物が気持ちよくキマっている。歴史ある場所の気持ち良さ。

敷地は広くはないけど空間的にゆったりとしていて、からっとしていて明るい。
近所にあったらきっと嬉しいお寺。時々来て散策したい。
ただ、もうちょっと大規模なお寺を想像していたので少々肩すかし。
だいぶ縮小したそうですね。長い年月の間に。

でも道成寺の真骨頂は、建物自体というよりは、その宝物にある。

一番有名なのは安珍清姫の絵巻物ですね。能にもなっているし、道成寺といえば安珍清姫。
最後は安珍が大鐘の中で蒸し焼き殺されてしまうなど、リアルに想像するととてもコワイ話ですが、
とりあえずは伝説ですから。
わたしが行った時は団体さんが、目玉であるその絵巻物の絵解きを聞いている最中だったので、
それは後から聞くことにして、まず宝仏殿へ。

もう、ここは入口からオーラがある。ちらちら遠目に見える仏像がすでに良さそう。
ふふふふふ。いいブツがありますかね。うふふふふふ。

ここで一番はなんといっても、千手観音及び脇侍の日光月光菩薩。
まさに喋り出さんとするリアルな佇まいの仏。声が聞こえないのが不思議なくらい。
顔もイケメンというほどではないけど、「いるわ、こういう人」と言いたくなる現実味。
国宝はダテじゃない。(といっても、国宝ということが好悪に関係するわけではありませんが。)
平安時代の仏像は総じてバランスが良くて、やっぱり仏像彫刻のピークは平安時代なんだと思います。

四天王像。
わたしのメモではそのうち2体が奈良時代作、2体が平安前期なんだけどね。
道成寺のサイトでは少なくとも3体は平安時代前期と書いてある。
まあそもそも時代が違うということが疑問なほど似たような造型だったけど。
4体いずれも安定の出来。穏やか。

兜跋毘沙門天王像。
これはねー。みちのく仏の成島毘沙門堂の毘沙門天を思い出した。
細部はそれほど似ているというほどではない感じだけど、全体的な雰囲気が近い。
こちらの方がどちらかというと柔和。

こういうのを見ると、仏師の流れや古代の物流に思いを馳せる。
紀伊半島と奥州は遠く感じられるだろうが、実は船で行けば、陸路より人も荷物も運べた。
外海だし、海自体は手ごわかっただろうけどね。
熊野水軍は有名だし、なにより日本全国に熊野神社が偏在していることを考えれば、
古代の人の行き来は現代人の想像よりも繁かったと思われる。
成島毘沙門堂のそばに熊野神社もあるそうですしね。

和尚さんの趣味なのか、数ある仏像(大物の他に小物もたくさん)の中にガンダーラ仏が2体あった。
あまりのキレイさに、お土産物を掴まされてきてませんか?大丈夫?という不安はあれども、
そもそもガンダーラ仏は綺麗という意味ではおそらく世界最高峰なので、そういうの難しいよね。
東と西の見事な混淆。理想美を追求したギリシャの足跡が、より進化した形でガンダーラまで伸びている。
2体とも大変美男でした。美男じゃないガンダーラ仏は見たことないわ。

この宝仏殿も、まあ途中団体さんがしばらくいた以外はわたしの独り占め。
贅沢な時間でした。

ただし、その贅沢さはその後、安珍清姫の絵解きを聞いている時には両刃の剣となって返って来る。
絵解きというのは、寺に昔から伝わる絵巻物(の模写)を見ながら物語を語ってくれる道明寺の名物で、
だいたい紙芝居の雰囲気を想像してもらえばピタリ。
――これがマンツーマンだと、けっこう照れますよ。お互いやりにくいです。

しかも淡々とした絵解きならそこまでではないんだろうけど、
安珍清姫の絵巻物は、語る人がツッコミまくる絵解きで。
さらにわたしは、とあるマンガでこの絵解きの詳細を既に読んでいる。
ゆえにどこで笑いが入るのかをだいたい知っており。
「ああ、ここで普段ならドッと沸くところなんだろうなあ」と思いながら、
一人で笑う責任を負うのは、ある意味ツライことでありました。

人数が少なきゃ少ないほどいいかというと、常にそういう場合だけでもないという話。
いや、あの、語ったくれた方には大変感謝しております。ありがとうございました。

お寺の受付に頼むと、帰りのタクシーも呼んでくれました。
15:00、道成寺発。15:18の御坊駅発の電車に乗る。

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