印象派の先駆者といわれるマネ。しかし個人的にはそんなに印象派じゃないよね?と思っていました。印象派というには表現がだいぶ平面的。ぺったりと色を塗った印象です。
マネも印象派っぽい絵を描いた時期がありました。
が、よく見てみると、マネの画業の中で印象派にだいぶ寄った時期があったんですね。ここまで印象派っぽい絵も描いていたとは。こっちを最初に見ると、たしかにマネとモネ、名前だけではなく絵も似ていると感じるかも。
試しに並べてみましょう。
……並べて思ったのですが、そこまでは似てないですね。やっぱりマネはマネに見えてモネはモネに見えます。マネはやっぱり人物を描いてますしね。多分もうちょっと見分けがつきにくい絵もあると思うのですが。
答え合わせ。
マネ「アトリエ舟で描くクロード・モネ」
これはタイトルからしてマネの作品ということが明らか。
この4枚、アルジャントゥイユという土地で描かれています。アルジャントゥイユはモネがある時期に住んでいた場所。マネのお父さんが持っていた地所の近くで、モネが住むにあたってはマネが口利きをしたそうです。2人はやっぱり仲が良かったんですね。
アトリエ舟ということは、おそらくモネが絵を描くためのボートを持っていたのでしょう。舟でどこへでも行けるのならば、好きなアングルで描けて便利。印象派はざくざく描くから揺れる舟の上でも大丈夫。屋外制作が大好きな印象派ならでは。というより、そこまでするモネがやはり特異。この頃はまだ「睡蓮」は描き始めてませんが、もともと水面が好きな画家なんですね。
この絵を描いたあたりのマネは筆致を印象派に寄せています。一緒にキャンバスを並べて描いて、印象派的な描き方を試してみたのでしょう。水面などは意識して筆触分割の技法で描いていますね。舟の屋形部分(?)はベタ塗りで、影を描きこんではいません。モネならば屋形部分も影を意識して塗ると思います。
マネ「ボート遊び」
おそらくこれもアルジャントゥイユで描かれたものと思われます。マネらしいところがメインになりつつ、女性の青いドレスに筆触分割の技法が見られます。
水面の青、ドレスの青の違いが面白いですね。男性のカンカン帽のバンドの青、ヨットの帆の灰青色も微妙に色調を変えており、青の調和が美しい。
改めて見てみると水面がとても美しく描かれていると思う。手前の大きな水の揺らぎと奥の静かな水面。うまく印象派の技法を取り入れています。わたしは今まであまり注目したことはなかったけれど、もしかしてこれは名作ではないでしょうか。
人物を描きたい人なんだなあということがよくわかる。
ちなみに「アルジャントゥイユ」という地名は「川のきらめき」という意味なんだそうです。なんて詩的な地名。
モネ「アルジャントゥイユの橋」
間違っているかもしれないけれど、アルジャントゥイユで描いたモネの絵には色彩に共通項があるように思う。水の青。木々の緑。その明るさ。そこに赤がちらっとアクセントをつける。この絵では橋のたもとの赤い家の壁ですね。ちょっとシブい赤。
他の絵ではよくバラが描かれています。この頃のモネはすごく幸せな時期なんじゃないかと思う。景色のきれいなところに身を落ち着けて、前途に希望が見え始めた時期。周りの仲間と印象派の活動を始めて。
モネのなかで、赤が印象的な「ひなげし」も同じころ描かれた絵です。このあたりの絵が好きだなあ。
モネ「アルジャントゥイユの画家の家」
水はないけど、アルジャントゥイユ時代っぽい色使いに感じます。衣装の青と花の赤がそう思わせるのかな。絵の多くは日陰の部分ですが、そう感じさせない軽やかさ。中央の木の深い緑が絵を引き締めます。
おまけでモネの「アトリエ舟」
モネが描くとこうなります。日没後、薄闇のなかのボートでしょうね。気軽にささっと描いた作品だと思う。ど真ん中に対象を据えて。こうやって見るとペット感がありませんか。犬があるじを健気に待っているような。
もっと印象派な絵もありました。
あ、ここへ来て、マネのもっと印象派な絵を見つけた。
これ、すごく印象派!
フランス語なのでちょっとタイトルの日本語訳が不明……。
「Une fille dans le jardin a Bellevue」べルヴュ庭園の女?
あ、日本語タイトルは「ベルヴュ庭園の隅」だそうです。これは見たことがなかったなー。知らずに見たら、これは完全にモネだと思いますね。
制作は1880年だそうで、そうなると画業の終盤ということになるのか……
うーん。マネは終盤にもう一度「印象派期」があったようで、風景や花を、印象派を思わせる色使いで描いています。
マネ「リラの花」
青いガラスの花瓶。美しいなあ。
こういう花の絵は多くの画家が描いているけど、目と心に優しいですね。家に飾るんだったらこういう絵がいいなあ。マネにもこういう作品があるのだと思うとなんとなくほっとします。マネの絵は人物画が多くて、それもこちらを睥睨するか、放心状態かで幸せそうじゃないんだもの。
マネ=人物画、だと思っていましたが。
ずっとマネ=ドキュメンタリーな人物画だと思っていました。その人物に肉薄することを願って描く。でも今回絵を眺めてみて、意外に印象派寄りの絵も描いていたことを知りました。思ったよりもずっと度合いは高かったですね。
特に「ベルヴュの庭の隅で」はほんとに印象派みたい。というよりモネみたい。そこから2人の画家の深い関係性が想像されます。画法的にはマネが印象派を「描いてみた」だと思いますが。
色がきれいな絵が好きなわたしは、マネはそこまで好きな画家ではなかったのですが、こうやってみるとマネも面白いです。知ることすなわち愛すること。
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