今回の移転問題を受けて(?)宮城県美術館を見て来ました!
普段行くのはおおよそ特別展の時だけなので、こんな広い範囲を歩いたのは久々。今回は特別展がない時期でしたが駐車場は6割くらいの入り。予想よりも多かったです。駐車場は約100台分。無料です。
前川國男設計。落ち着いた外観です。
こちらが玄関側。右側の彫刻はヘンリー・ムーア「スピンドル・ピース」。
建物は水平性のかなり強いものです。
並んでいる白い柱は建築当初はなかったもので、あとから付け加えられた現代彫刻(ダニ・カラヴァン「マアヤン」)。これがなかった頃はさらに水平なイメージが強かったことでしょう。派手なところのない寡黙な建物ですね。
中庭とホールが特徴的。
玄関への長いアプローチ。正面が建物入口、左へ行く道は地下の県民ギャラリーへ通じる通路、
右側はこの建物の特徴の一つである中庭になります。
中庭では現代美術の展示が行なわれたり特別展関連イベントが催されたりします。イメージは西洋の修道院などの列柱が並んだ中庭。古典的なイメージを映しつつ、柱自体は現代的なデザインでバランスをとっている。
中庭に面した建物の一部に「カフェ・モーツァルト・フィガロ」が入っています。外にテラス席がある。もう寒い季節なので誰もいなかったですが。
テラス席から見た中庭。
建物内部に一歩入ったところはホール。かなり広い空間です。特別展の時は右側の階段をのぼって展示会場に行きますが、特別展のないこの日は2階には行けないようになっていました。前方奥の並んだ椅子は、この日夕方にミニコンサートが開かれるためです。
わたしはここは、もう少し光があった方が好みだといつも思う。
写真よりは若干暗めですねー。この美術館で不満なのはこの部分だけ。上から自然光が入るので、その採光窓をもう少し広げてくれてれば……と。でも美術鑑賞のための心を調えるという意味ではこれもありなのかな。
ホールの右側に入って行くとさっきのカフェ。内部はこんな感じです。
お客さんのいないところだけ撮りました。写っていない部分にはけっこう人が埋まっている。
カフェ・モーツァルトは何ヶ所か系列店がありますが、テーブル・椅子がバラエティに富んでいるのが特徴。くつろげます。カフェ利用だけでも可能。
ケーキ美味しいです。食事もあります。特別展とコラボしたスペシャルメニューも出しているようです。
「創作室」があるんだって。創作室ってなに?
今まで何十回と宮城県美術館には来ていますが、カフェから奥には初めて入りました!
中庭を囲む回廊部分がオープンアトリエ「創作室」になっています。こんなところがあったなんて知らなかった。
こちらでは創作室1と創作室2の2部屋をアトリエとして開放しており、誰でも無料で利用できるようです。
創作室1は音やホコリが出る作業の部屋(木工とか彫塑、陶芸など)
創作室2は音やホコリがあっては困る作業の部屋(版画や絵画など)
と分けてあるそう。
興味津々でお話を伺いました。
〇何か創作をしたい時に利用出来るアトリエ。事前申込不要。無料。
〇材料もある程度は揃っている。無料。太っ腹!
〇だが材料によっては貸出というものもある。
聞いた限りでは、たとえば粘土。粘土自体は貸し出していてその場での造型は可能だが、帰る時は返却要なので作品として持ち帰ることは出来ないそう。作品を作る場合は材料は持ち込み。この点はものによるので各自ご確認を。
〇様々なワークショップを開催している。年間スケジュールはこちら。
〇創作・美術に関する広い範囲の相談も受け付けている。
一対一の指導という形ではないが、全くの初心者でもまず何から始めたらいいか相談にのるので、声をかけて欲しいとのこと。創作についてだけではなく、展示物についての質問も可能。
こちらは創作室2。コンテストの前や長期休みの終わり頃など、時期によって利用者が増える時期もあるそう。
貸出道具棚。細かくは見ていませんが(見てもわからん)なんかいろいろありますね!
わたしは絵心がまったくなく、中学校以来美術の実作をしたことがないのだけれども、前々から一度油絵の具を使ってみたいと思っていたんですよねー。高校では音楽選択だったので油絵を描いたことがないんです。
人生で一度くらいは油絵を描いてみてもいいのではないか。
それをいえば、実は日本画も描いてみたい。岩絵の具を触ってみたい。岩絵の具の透明感に憧れます。シルクスクリーンも。エアブラシも使ってみたい。
ちょっと考えるとけっこういろいろなことをやってみたいかも。
創作室という名前から、バリバリ実作をする人だけが利用するものだと思って視野に入っていなかったけれど、お話を聞く限りにおいては初心者にも相当ハードルは低く設定してくれているようです。ちょっとでも興味があったら行ってみて損はないところだと思いました。
まずは相談。
佐藤忠良記念館は別棟です。
ホールへ入って左側は常設展。今回は見ませんでした。
特別展に来た時は常設展に入ったり入らなかったり。疲れ具合によります。特別展-常設展という流れで見るための動線は、広い宮城県美術館の中心部分の1階と2階の上下移動だけなので特に負担なく見られる。
まあ特別展を見るだけで2時間くらいかかることもあり、そういう時は疲れているので常設展省略ですが。常設展も前は現代美術ばかりでしたが、日本画もぼちぼち飾るようになりました。
わたしはきれいな絵が好きなのできれいな絵を見たい。
さて、常設展の他に見られるのは佐藤忠良記念館。
ここは本館からだいぶ遅れて、1990年に作られた建物です。設計は大宇根弘司という建築家。初めて知りましたが前川國男の弟子らしい。
別棟なのでだいぶ長い廊下を歩きます。
北側廊下。
正面にはもう一つの小さなカフェ「カフェ・モーツァルト・パパゲーノ」があります。ここはたしかカウンターだけ?の小さなスペース。コーヒーが美味しいらしい。途中には他の美術館の特別展のポスターや、佐藤忠良が描いた絵本「おおきなかぶ」の展示などがあります。
初めて入った時は本館とのあまりに印象の違いに「え~~?」と思ったものだが。しかし竣工から30年経ったらしいのにこのピカピカぶりを見ると評価が上がりますね。本館とは全くイメージが違うけれど、ここはここで気持ちのいい空間。
佐藤忠良記念館は小さめの部屋5室。いい規模だと思います。疲れなくて。明るいです。おそらく飾ってあるものが彫刻なので、常設展や特別展の会場ほど光量に気を使わなくて済んだのかなと思う。中の彫刻作品を見て、そのままの目で外に設置されてる佐藤忠良作品に目をやれるところが価値。内と外の連続性も狙っていると思います。
なんか気に入った階段ホール。下は地下1Fにあたります。でもイメージとしては佐藤忠良記念館は2階にあるイメージなんだよね。本館1階から水平に移動してきたにも関わらず。窓の下に見える「アリスの庭」が地下1階だからでしょう。
北側の出入口から外に出てみました。
正面の彫刻は舟越保武「原の城」。
こういう空間があるところが環境の良さ。静かだし。赤い実がきれいですね。
佐藤忠良「夏」。夏ならば背景の緑に映えるでしょう。
北庭には大きな彫刻作品が飾られています。
フェルナンド・ボテロ「馬に乗る男」
あっ。作品名忘れた。まるで重機のようですが現代芸術作品です。
モビールのように風によって動く。動きは面白いけどカラーリングがなー。なんらかの中間色だったら雰囲気に合うと思うんだけど。
北庭は一応日本庭園もありますが、それほど作りこまれた空間ではなく、わりとだらっとしている。そのだらっと具合が好き。ほっとします。
「アリスの庭」は秘密の庭。
多分宮城県美術館の最大の美点はこの「アリスの庭」があることです。
ここはおそらく本館と佐藤忠良記念館を建てるにあたって、どうしても出来てしまう空間をどうするかと考えた時の苦肉の策だったと思う。
しかし作ってみたらこれがなかなかいい空間なんです!
最初見た時は中途半端でしっくりこなかった記憶がある。
片側がタイルで端正な佇まい、反対側が鏡面ガラスでそのコントラストはやはり無理があるように見えた。広さも。置いてある彫刻もかわいいんだかかわいくないんだかとても微妙だったもの。
でもなんだか訪れるうちにだんだん好きになって行きます。
鏡面ガラス。あまり好きではない外装。普通写りこみがかなりうるさくなる。しかしここの場合、視線が上へ抜けるように作ってあるので、視野は鏡面ガラスの上部に向けられ、そこに映るタイル部分の静かさがメインになる。
あと鏡面ガラス側の出窓がアクセントとしていい仕事。あるのとないのじゃ見える風景が全然違う。
真ん中にある階段は、単に登って下りるだけの純粋階段ですが、これがあることでこの空間を視点を変えて眺めることが出来る。面白さが生まれる。
トム・オタネス「蛙とロボット」
バリー・フラガナン「野兎と鉄兜」。
ちょっと外れてくっついている円形構造物も面白いんですよね。
これも最初は一体何かと思ったが……ちょっと狭すぎる気もしたし。でも今は慣れて、好きな空間です。
舟越保武「りんご持つ少年」。
地下には県民ギャラリー。
アリスの庭の後は県民ギャラリーを覗きました。ここはめったに来ない場所。知り合いがなにかやってるという時じゃないと。今回は仙台市内の中学校の美術部と教員の作品展でした。そのせいか制服を着て先生に引率された中学生4、5人のグループをちらほら見かけました。
ここは大きめの部屋2部屋という編成。このサイズはちょっと狭いのか。丁度いいのか。
無料でもこれだけ楽しめる。
わたしは今回、全く内部展示を見ずに建物周りをぶらぶら散歩しただけでしたが、とても満足感がありました。彫刻も他にもいっぱいあるしね。その3倍はありますね。
〇アリスの庭や北庭を散歩して屋外彫刻を鑑賞する――有り。無料。
〇カフェにお茶だけしに行く――有り。無料。飲食代別。
〇創作室を利用する――有り。無料。
これらの使い方も全然有り。特に創作室の存在なんて今まで意識してなかっただけに、今後面白い使い方が出来そうです。
〇常設展・佐藤忠良記念館を見に行く――300円。
これもいいと思いますねー。
常設展はともかくとして(←わたしは現代アート嫌い。でも最近日本画も増えた)、写実彫刻が好きな方なら、佐藤忠良は見て損はないと思います。気持ちのいい空間です。
特別展-常設展-佐藤忠良ーアリスの庭と北庭の散歩
これが宮城県美術館のフルコースということになりますが、わたしの経験からいうとさすがに全部やると疲れるので、このうち2つくらいにしておいた方がいいかと。
やはり宮城県屈指の名建築だと思う。
今回歩いてみて、改めて回遊性の高い建物だなと思いました。地上2階、地下1階の建築ですが建物の繋がり方が複雑で面白い。直方体の建物は全体像がわかりやすく合理的ですが、美術館のようなゆとりのための空間は遊びの部分も大事ではないでしょうか。遊び心を満たしてくれる空間です。
こんな建築を引退させてしまうようでは、宮城県の文化と観光にマイナスでしかないと思うのですが……。
もちろん改修は必須です。タイルの割れや壁面の汚れも目につく。そのためには長期休業も必要になります。収蔵品も増えたでしょう。そういうの全部ひっくるめてとことん話し合ってから決めて欲しい。今のように急に移転を決めるんじゃなくて。
みなさんも宮城県美術館を歩いてみませんか。
宮城県美術館の移転についてアンケートを実施しているグループがあります。
自己判断によりご参加ください。2019年12月23日までです。
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