フリック・コレクションがニューヨークの邸宅美術館の華なら、
日本の邸宅美術館の華は東京都庭園美術館です!
しかし主催団体、このネーミングはピンとこないぞ。
庭園美術館という名が体を表してない。ここはたしかにいい庭園もあるんだろうけど、
ここで本当に見せたいものは庭ではないはずだ!
ここの唯一無二の価値は邸です。建物そのものが美術品。
いや、もっと正確にいえば内装が価値です。
さあ、東京都庭園美術館に室内装飾を見に行きましょう!
元は皇族である朝香宮家のお邸でした。
朝香宮家は今はもうないけれども、明治39年から昭和22年まで一代だけ存在した宮家です。
朝香宮は30代半ばに、おそらく軍人としてフランスに留学しました。
その際大正14年(1925年)に行なわれたアール・デコ博覧会を見て大変気に入り、
帰国後、純度100%のアール・デコ様式の自邸を建てた。
東京都庭園美術館の場所はこのあたり。
JR目黒駅から徒歩7分だそうです。
建築自体を推したが、実は外観は今一つなんですよね……。わたしの好みからすると。
Wiiii - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, リンクによる
これ外観もアール・デコなんですかね?
味もそっけもない。装飾といえば3階部分(塔屋と呼ばれている)のハシゴみたいな飾りしか。
2階の出窓の曲面は一応装飾だけれども。
しかし内部には外見のアイソのなさからは考えられないような、豊穣な世界が広がります!
アール・デコのインテリアの宝庫。
ここで本来ドーンと出したいのは、玄関にあるルネ・ラリックによる4体の女神像の
ガラスレリーフなのですが、その写真が見つからなかったので、
写真が大きめの記事をリンクします。
これが美しい。わたしは以前、写真家の増田彰久さんが撮った写真を見て惚れました。
正直なところ、現実に見るより光を選んで撮影した写真の方が美しいかも。
世にラリックの作品は数多しといえども(そしてわたしは当然全部を見てないけれども)、
ラリックの最高傑作なのではないかと思っています。勝手に。
ラリック作品のレリーフが載せられないのが残念なので、この屋敷における
もう一つのシンボルである「香水塔」を。
RSSFSO - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 4.0, リンクによる
この香水塔、一体何かとお思いでしょうが、単に装飾物。置物。らしい。
たしか身長以上の高さがあったような……。
セーブル磁器製で、上のくるくるっとしたところに香水をふりかけて、中からあっためて
香りを拡散するらしい。いわばアロマディフューザーの巨大版。
それをここまでのサイズにする必要があったかどうか……。疑問ですが、
フランス留学から日本へ帰国する際にプレゼントされたようです。
多分必要かどうかじゃないんですよね、ここまで来ると。美しいので許す。
玄関ホールに隣接する次室(つぎのま)と呼ばれるところにあります。
玄関ホールの主人公がラリックの女神像とすれば、次室の主役はこれ。
ルネ・ラリックといえば、この照明も彼の作品。
RSSFSO - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 4.0, リンクによる
これも好きだなー。
日本の西洋建築を見る場合、照明器具に注目すると面白いですよ。
デザイン性が高いから、かわいいなーと思って見るだけで十分楽しい。
大どころでは大客間の6つある扉も面白い。
これもラリックだそうです。あまりラリックっぽい感じはしないかなー。
いつの時代のものかわからないくらい未来的なデザイン。
パターン化された図柄とその組合せでリズムを出している。
鏡が活用されているそうで、なかなかのアイディア。ちょっと不思議な扉です。
それから、地味ですがラジエーターカバーは見どころです。
図柄がすごく凝ってる!こんなに凝っているものはそうそうないのではないか。
青海波や源氏香などの和柄モチーフもあれば純粋な西洋デザインもあり、
いかにもアール・デコらしい幾何学模様もあり。
お見逃しなく。
特別展もやっています。
建物が見どころなんだから、特別展はやらずにずっと建物を見せることに特化すればいいのに、
と思わないこともない。
以前に行った時はたしか「メディチ家の至宝」の時で、けっこう混んでおり
建物を見ようとしてもあまり見られなかった。展示物で遮られていたりして。
それでも特別展のラインナップは地味ながらもセンスを感じます。
まー、特別展くらいしないとあまり人が来ないだろうからしょうがないですかねー。
特別展にはアール・デコ関連の企画も多いし、1年に2、3ヶ月は旧朝香宮邸そのものを
フィーチャーした特別展も組まれます。
建築を詳しく見たい、という方はそういう時を狙って行くといいかも。
なお2020年2月1日から4月7日までは「北澤美術館所蔵 ルネ・ラリック展」を
やるそうなので、ラリックに興味がある方はこれ、ねらい目です。
開館日時と観覧料。休館日がちょっと変則なので注意。
休館日:第2・第4水曜日(10/23、11/13、11/27、12/11、12/25、1/8)、
年末年始(12/28~1/4)
開館時間:10:00~18:00(入館は17:30まで)
*ただし、11月22日(金)、23日(土・祝)、29日(金)、30日(土)、
12月6日(金)、7日(土)は夜間開館のため夜20:00まで開館(入館は19:30まで)
美術館は月曜定休だろう、と頭から思い込むと痛い目に合うのです。
思い込みで数々痛い目に遭って来たわたしが言うのだから間違いない……
なお、観覧料は特別展によって値段設定が違うようです。その都度ご確認ください。
前売り・団体だと2割引きの様子。ファミマの機械で買えるらしい。
外の庭園部分のみの入場料の設定もあり、大人200円。――ただ初めて行くのなら、
建物内部を見ないでどうする!というところなので、ぜひ中にお入りください。
世界で最も純度の高いアール・デコ建築の一つ。
ここまで凝縮されたアール・デコ建築は本場フランスにもほとんど残っていないそうです。
残っているのはインドのあるマハラジャの邸宅と、この東京都庭園美術館だけだとか。
こう言ったのは当時のパリ装飾美術館の館長だというから、多分信憑性のある話。
そしてわたしがそれを聞いたわけでは当然なくて、聞いたのは藤森照信さん、
この本の著者です。
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早い話、わたしの旧朝香宮邸についての知識はこれがアルファでありオメガである。
全てをこの本に拠っている。
藤森照信さんは建築史家です。アール・デコの専門家というわけではありませんが、
興味のある方は読んで損はしない本です。
藤森さんの文章部分は文庫本で100ページ足らずですが、内容が豊富でしかもまとまっている。
わたしはこれでアール・デコの魅力を知りました。名著。
全体の3分の2は写真家の増田彰久さんが撮った写真で、内部の様子がよくわかります。
この本を読んでから東京都庭園美術館へ行くと楽しいんじゃないかな。
日本の邸宅美術館の粋を味わってください。きっとアール・デコが好きになると思います。
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