この日は4日目。
誰も行かないというのは大袈裟でしょうが、伊勢に行って斎宮まで足を伸ばす人はほとんどいないに違いない。わたしは行きます。物好きにも。
伊勢市と松阪市の中間くらいですね。宿から近鉄宇治山田駅が近いので、近鉄の斎宮駅は行きやすい。
……が、宇治山田駅の写真など撮っていたところ、狙っていた電車に多分わずかなところで乗り遅れた。次の電車は30分後。30分のロスですね。とはいえ、早めに動き出したので、9:00頃に斎宮駅着。
ところで、斎宮とは何か。
「斎宮」とは駅名でもあり、地名でもあります。
でもそもそもは「伊勢神宮に神事で奉仕した皇族女性」と「その女性が住んでいた宮」のこと。古代から室町時代直前まで数百年続きました。成立が確実視されるのは7世紀後半頃らしい。
多分一般的に聞いたことがあるのは「源氏物語」に出て来る元斎宮――秋好中宮(六条御息所の娘)や、「伊勢物語」の在原業平と契りを結ぶ斎宮のことかと思います。他のことで斎宮に触れる機会はあんまりないんじゃないかなあ。あ、内田康夫の「斎王の葬列」にも出てきますか。わたしは読んだことないけれども。
で、具体的にどういう存在だったのかというと――これがよくわからない。あんまり史料が残ってないようです。皇室に対する宮内庁のように、斎宮の役所としての斎宮司というものはあり、そこの人事や収入支出の史料などはちょっとありそうなんですが、実際に「斎宮とはこれこれこういう存在である」「斎宮の日常」などを同時代に書いてくれた人がいない。
まあねえ。自分の上司をジャーナリスティックに書き残そうとか、現代人でも思いませんものねえ。身分として神聖視されていたという理由が一点、それに加えて彼ら彼女らにとっては日常ですから、わざわざ書いて残すというきっかけがない。
数年前に、斎宮跡の遺跡整備が進んでいることを多分テレビ番組で知った。それ以来行ってみたいと思っていました。
が、その後ちーっとも情報収集をしなかったので、わたしの斎宮についての知識はちーっとも増えていません。歴史的場所を味わうためには知識大事。旅行に行く前に斎宮についての知識を仕入れます。付け焼刃ではありますが、……あんまり前に読んでも内容を全部忘れるねん!
だいたい、本を読んだら翌日には9割忘れるのが現在のデフォルトですからね。1割覚えていたらラッキーと思って、その辺は自分を責めない。
斎宮についてのおすすめ本。
5冊くらい読んだ中で、おすすめなのは以下の3冊です。
伊勢神宮に仕える皇女・斎宮跡 (シリーズ「遺跡を学ぶ」) [ 駒田利治 ]
斎宮 伊勢斎王たちの生きた古代史 中公新書 / 榎村寛之 【新書】
いや、もう1冊。
【中古】 伊勢神宮と古代王権 神宮・斎宮・天皇がおりなした六百年 筑摩選書/榎村寛之【著】
最初の3冊はわりと軽めです。どれか1冊ならば3冊目が一番読みやすいかなあ。エッセイ的。
最後の1冊はまあまあボリュームもあり、内容も若干専門的です。わたしはこれを最初に読んで、へー、ほー、と驚いた。
斎宮は絶対的なトップではなかった?
何に驚いたかというと、斎宮はたしかに伊勢神宮に仕える皇族女性ではあったけれども、伊勢神宮祭祀のトップではなかったことです!
わたしは斎宮が神宮の祭祀のトップで、その下に祭主がいて、斎宮が歴史的に消滅してから祭主がトップになったんだとなんとなく思っていました。
……が、そもそも斎宮と祭主は別系統の組織で、斎宮は斎宮司という役所を下部組織とし、祭主は神官・禰宜などを配下とし、別々に存在していたんだって。
なので、斎宮が参加しない伊勢神宮の神事があったりする。車輪の両輪――というよりもむしろ対立構図なんじゃないか。勢力争いがあった時期もあったらしい。
斎宮はその時の天皇個人の考え方や勢力によって、権力を持っていたり存在感がなかったりと一代ごとに相当ころころ変わったようです。もっと安定的な地位だと思っていたのに違った。
そういう立場を反映して、斎宮は伊勢内宮・外宮のすぐそばにはいなかったということですね。もしもっと力を持っていたら、近くに宮を構えていただろうと思うもの。現行では内宮より十数キロ西北。近鉄ではすぐですが、人力で移動しなければならない古代では、斎宮が神宮で神事を行うためには、前乗りで一泊しなければならない距離だったようです。移動は輿だったのか牛車だったのか。
斎宮の日常についてはなかなか史料が見つからないらしい。何人かはわずかに個人的な事績が伝えられる人もいたらしいけど……そこらへんは3冊目の本で多少読めます。
ちなみに現在の祭主が黒田清子さんということで、斎宮のイメージがスライドしてしまうんですが、これはまた別物。
女性皇族が祭主を務めるのは戦後始まったこと。それ以前は明治8年から男性皇族が務めていた。さらにそれ以前は1000年以上も大中臣氏が代々務めて来たお役目。むしろ皇族がその座につくようになったのはここ1世紀半の話だそうです。
研究者の数が多くないため、関連本も少なければその中で図書館にある本も少ない。本来であればいろいろな人が書いた本を読みたかったのですが、結局、榎村寛之が書いた3冊がメインとなりました。なので、わたしが上記で書いたことは、あくまで彼の著書による考え方で、おそらく定説とまではいえないのではないかと思います。
……ちょっと長くなりましたね。次から実際に歩き始めます。