伊勢最後の夜。順調に予定を消化し、美味しいバナナジュースを飲んで、満足して夜を過ごしていました。今日もたくさん歩いたから早く寝ましょう。早めにお風呂に入って。
そしてお風呂から上がって、スマホを見ながら翌日からの予定を考えます。明日は名古屋へ移動だから。そんなに早朝じゃなくても、通勤時間が終わった頃には電車に乗ろう。電車の時間や名古屋での地下鉄や――なんやかんやを調べながら、ふとかたわらを見ると。
うきゃ~~~~~~~っっ!!なにこれ?なにこれ!?
信じられないものを見る。テーブルの上に置いたメガネ。
――それがぐにゃりと大きく曲がっている。ブリッジっていうんですか?左右のレンズをつなぐ金具のところ。そこがぐにゃっと。よく見るとブリッジが根元からほとんど千切れそうになっている!
いやいやいやいや。反射的にひん曲がったところを直しました。メガネ自体の形は取り戻して顔にかけられるようになりましたが、問題はまったく解決してない。別に落としたり何かを置いたりしたわけではありません。何もしないのにへしゃげていたんだから、何もしないうちに千切れてしまうかもしれない!
ひとまずの状況を把握して、背筋がぞっとしました。頭は真っ白。
わたしは視力が極度に悪く、近視で乱視でしかも老眼です。メガネかコンタクトレンズなしで外を歩いたことは高校以来一度もありません。早い話、メガネがなければ人並みの生活を営めない。――家に無事に帰ることさえおぼつかない。ましてや旅行なんて。旅行はあと6日間もありますよ!
宿の人に頼る。
思いついたのは、とりあえず瞬間接着剤で補強する……?ということでした。金属の接合部分がの補修となるとこれしか。でももう21時半。スーパーも100円ショップも閉まってるだろうし。翌日メガネ屋さんに行く?調べて見ると、宇治山田駅極近のちょうどいいところにメガネ屋さんはある。しかし開店が翌10:00。
それまで伊勢にいると移動が遅くなるし、そもそもこの状態のメガネが(応急処置にしても)直せるかどうか……。メガネ屋さんに持ち込むにしても、名古屋に行ってからにするべきではないだろうか。
……と、多少頭が働いているように書いていますが、この時点では、まだまだ冷静ではありません。怖くて仕方がない。レンズが左右に分かれてパリンと落ちるイメージが脳内で繰り返される。
21時半。たしかに非常識な時間な時間だけれども、ギリギリ……と、藁にもすがる思いで宿の方に電話しました。何かわたしが思いつかないアイディアがないかと。あとで詳述しますが、こちらは担当の方が常駐していないタイプの宿でした。「何かあったら電話してください」と電話番号を渡されていた。鳴らしてもお出にならず、諦めて切った後、折り返しの電話がありました。
経緯を説明し、状況を呑み込んでもらうのに少しかかりましたが「どうしたらいいかと思って……」というと、「マスキングテープかセロテープで止める方法もありますね」と言われました。あ。そうか。テープか。そっちの方が正しいかもしれない。瞬間強力接着剤は近視には扱いづらいし、メガネ屋さんで応急処置を期待するにしても接着剤は後で困るだろう。
お持ちしますか?と訊かれて。え。いや。夜遅いから。明日の朝、下の受付に置いておいていただければ――でも、ああ。この動揺した気持ちのまま今晩寝られる気がしない。テープを貼って、少しは安心出来れば助かる。
散々迷った末、申し訳ないがお願いすることにしました。10分ほど後に、部屋までテープ3種類ほどと、お願いしたハサミも持ってきてくださって。「お手伝いしますか?」と言われましたが、謝絶いたしました。もう22時だもん。
持ってきていただいて本当に助かりました。メガネをかけない状態で細かいところにテープを貼れるかという不安はあったものの、――結局くっついてればいいのだ!と思い定めて透明のセロテープをガチガチに貼りました。たしかに視界にぼんやりした部分があるが、こうやって貼っていれば少なくとも千切れても空中分解はしない。まあ見た目はべたべたでスゴイけれども。
その後はひたすらメガネをそーっと扱う。まるでお姫様のように。
あとから考えれば、思い当たることがありました。ここ1週間くらい、メガネの焦点がずれがちだったんですよね。その時点でメガネがゆがんでいたのかもしれない。10年くらい使っているメガネですからね。そりゃ金属疲労もありますわ。
しかしわたしはその理由を別な理由だと思っていた。先週、メガネ屋さんで「先セル」(耳にかける部分のカバー)を修理してもらったんですよね。その時、鼻パッドを新品にしてもらった。――その交換が、焦点がずれている理由だと思っていた。旅行が終わったらまたメガネ屋さんに行って直してもらわなくてはと。
その宿は、和装庵さん。
動揺したわたしに救いの手を差し伸べてくれたこの日の宿は、和装庵さん。伊勢での三泊はこちらに泊まりました。
雰囲気は民泊に近い。(民泊したことないけれども)
小さい建物で、1階は受付、2階と3階が客室です。各階1室ずつ。1階に建物全体の玄関があり、2階、3階に部屋ごとの鍵、中に玄関があります。1階から2、3階までは内階段で、その階段の最下部でスリッパに履き替えます。正直、ここは靴で出入り出来た方が楽だったが。
部屋は客室というより、アパートの部屋のような間取り。
広いです。特に寝室が広い。ベッドが2つあっても広々。2階は1人~4人、3階は和室で1~5人の設定。春や秋で雑魚寝でもいいのであれば、5人以上でも泊まれそうです。
キッチンとリビング(?)がちょい狭い。一人暮らしのキッチン+ダイニングに1.5人用くらいのローソファを2つ向かい合わせに置いてリビングにしているので、若干動線が悪いんですよね。わたしは自分用に椅子やローテーブルを動かして、動きやすいようにアレンジしました。
あとはトイレが広い。お風呂も広め。なんと洗い桶までありました。シャンプー、リンスは3種類ずつ。アルコール消毒液もあります。3階はキッチン・ダイニング+和室で、そこでは洗濯機も使えるそうです。
一つ欠点をいえば、アンペア数が足りなくてエアコンが同時に一台しか使えないこと。寝室とリビングのエアコンを同時に使うことは出来ない。まあでもそんなに不便というほどではありませんでした。ちょっとめんどくさいなー程度。
3泊して、暮らすような気分で過ごせました。
ロケーションがいい。
こちらの宿に決めたのは、お値段の安さと場所の良さでした。正直ビジネスホテルの方が気軽かな、三河田原も民宿だしなーと思ったのですが、こちらに泊まると外宮まですぐなんですよね。伊勢市駅にも宇治山田駅にも近いし。
あとで知ったが、ここから伊勢ソウルフードの三店舗はほぼ激近でした。5分10分で全部に行けてコンビニにも寄れる。ここはソウルフードを制覇しようとしている人には至便ですね。
お値段もお安かった。3泊で13500円だったようです。平均4500円?ただし支払いは現地で現金のみでした。ちなみに現金で払うとちょっとしたおまけをいただけます。
コンビニは近くに3軒ほど。それぞれ徒歩5分。
ホスピタリティ溢れる。
初日、わたしは宿に19:00に着く予定でした。着いた時にはドアが閉まっており御用の方はこちらに電話してくださいと電話番号の書置きがある。そうか、と思ってわたしがもたもたとスマホを探している間――連絡する前に宿の方はわたしを見つけ、どこからともなく現れる。あ、建物の中からではなくて、別の場所から現れました。
そこから20分ほどお喋りしました。チェックインに20分というのはなかなかの長時間ですが、お話の受け答えがすごく楽しい方で、伊勢の観光や翌日の天気のことなど、喋っていると話題が途切れなかった。宿の方の一押しが「シェル・レーヌ」だと聞いたのもこの時。
受付には伊勢のガイドブックが何冊も揃っていましたし、いろいろお話も聞けました。お茶やアメニティは受付にまとめて置いてあります。必要なものを選択して自分で持っていくスタイル。
お部屋も可愛かったです。インテリアに凝っていて、置物や絵などいろいろありました。お客さんをもてなそうという気持ちがひしひしと伝わって来る。
一番役に立った&心が温まったのは、手作りの地図とオススメ飲食店情報とお土産選ですね。手書きの可愛い地図。たしかに手作り地図はよく見かけるものではありますが、地図とお店とお土産で1枚ずつですし、見やすく情報量も適度で(詳しすぎても見にくい)ちょうど良かったんですよね。熟読しました。
予断は許さないわけだが……
メガネについてはまったく安心できない状況ですが、とりあえず応急処置は出来たことにして、この日は寝ます。明日に備えて名古屋駅近辺のメガネ屋さんを検索する。さすが大都会、駅のそばにメガネ屋さんが複数ある。この中で行きやすいのはどこなのか。
先週「先セル」修理の時に地元のショッピングモールでメガネ屋さんを回った時に思い知ったことですが、メガネ屋さんとオシャレメガネ屋さんって似て非なるものなんですよね。
だがわたしは今回、スーツケース付きの移動だ……。土地鑑のない場所で店を探しながらスーツケースを転がすのはなかなかハードルが高い。何しろ名古屋駅は初めてなので、駅ビルがどうなっているのか不安でしかない。とにかくたどり着けそうなところに行くしかない。
どうか名古屋までメガネが保ちますように。おやすみなさい。