苦難その1。
フルボカー城を出て17時。さっきのバス停に戻る。
降りた時は誰もいなくて心細かったけど、今度はこっち側に小学生の集団が、
向こう側のバス停にはおばあちゃん2人がバス待ちをしている。
小学生に訊いたところによると、わたしは向こう側のバス停で待っていればいいらしい。
念のためにおばあちゃんの方へも訊いたが、やはりこちら側でいいとのこと。
バスの時刻表がわかりにくくて時間がはっきりしないけれど、
多分次のバスは17:40だろう。
……だがしかし、いくら待ってもバスは来ない。
陽が落ちると辺りはとても寒くなって、座っているベンチから冷気が伝わってくる。
18時。一体バスはいつ来るのだ?
――言葉が通じないおばあさんが腕時計の文字盤を使って教えてくれた。
バスが来るのは18時半らしい……。
おばあさんたちはついに“散歩”を始めた。バス停から100メートルの間を行ったり来たり。
どうやら体を温めるためらしい。どうもわたしも一緒に、と誘ってくれているようなんだけど、
仲間入りする勇気はなかった。
すみません、わたしは貼るカイロで対応します……。
貼るカイロ、昨日もバス待ちの時に使ったが、
まさか9月の旅行でこんなに活躍するとは思わなかった。
バスはたしかに18時半に来た。はー、やれやれ。寒かったぜ。
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苦難その2。
バスは30分ほど走って先ほどのバスターミナルの前に着く。
さて、これからホテルへ行って、少し町を歩いてみようか。
まずは預けたスーツケースを回収しなければ。
ショッピングモールの3階まで再び上がり、案内所の前に来たところで。
えええええええっ!?
絶叫。棒立ち。呆然自失。
案内所、閉まってますがな!なぜ!どうして!――どうすんねん!!
いやいや、落ち着け。冷静に状況を把握しろ。今まで何かハプニングがあった時でも、
それなりに対応してきたじゃないか。
しかし把握も何も、案内所が閉まっていて、わたしの預けたスーツケースが回収出来ない。
事実は単にそれだけ。あまりにもシンプルな凡ミスのせいか、むしろ事実が受け入れがたい。
ガラスの1メートル向こうに自分のスーツケースがあるのに、取り戻せない悲哀……。
そうです。荷物を預けた後、すぐバスに飛び乗ってしまった。これが敗因。
案内所の営業時間なんて、全く考えなかった。
一応バスが最終21時近くまで発着しているのは目の端で確認したのだが、
むしろそれがいけなかったらしい。21時までバスが来ているのなら、案内所もその頃まで
開いているものだと、無意識のうちに考えてしまっていたようだ。
でも、交通機関が動いていても窓口がとっとと閉まってしまうのは、
地元の地下鉄やバスの案内所のことを考えてみても、普通にあることではないですか。
その後、けっこうあがきました。
バス待ちのお客さんに相談する。英語が話せる20才くらいの女の子がいて、
「1階にもたしか案内所があるよ」と教えてくれる。
これで問題解決か!と喜んだのもつかの間、1階に行ってみるとそこも閉まっている。
ショッピングモール自体の案内所を探しても見つからなかったので、
警備のおにーさんたちに訊いたり(ここの警備員は軒並みガタイが良くて、顔もまあまあ。
黒いスーツがかっこいい。「メン・イン・ブラック」みたい。……が、英語が話せない(T_T))、
やる気のなさそーな化粧品売り場のおにーちゃん(これもわりとイケメン。
……イケメンを狙って訊いているわけではありません。)に訊いたり、
ぐるぐる回ったんだけれども、最終的に。
……わかりました。あきらめます。
まあ、実際はそれほど致命的ではないのだ。
非常に幸いなことに、今夜は元々この町で泊まり。
泊まるのに必要なクーポンなどは持ち歩いているカバンに入っているし。
明日の移動はすぐそばのチェスキー・クルムロフなので、時間的にはある程度融通がきく。
これが飛行機に乗る直前とか、そうでなくても別な街に泊まる予定の日だったりしたら
がっかりするだけじゃ済まないぞ。
……とはいえ、相当がっかりはしましたけど。凹む。
悲しき身軽な姿でバスターミナルを後にし、ホテルへ向かう。
Bus Terminal Information.
I put my luggage here,and it was closed when I returned.
I couldn't get back my luggage this day.......
件の案内所。
この時にこの写真を撮る根性があれば、自分で自分を褒めたいところだが、
さすがにそんな精神的な余裕はなかった。これは別な日に撮った写真。
ちなみに、案内所は18時に締まるのでした。
しかし、バス待ちの乗客で、相談に乗ってくれた英語を話す女の子。
あの人がいたことで、どれだけ心慰められたかわからない。
真剣に話を聞き、真剣に手助けをしてくれようとしていた。
もう届かないけれども、心からの感謝を送ります。
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苦難その3。
スーツケース事件で動揺していたのか、……ホテルへの道で迷う。
未だに不思議だ。迷いようがない道だとは言わんが、1キロくらいのシンプルな道順。
なんでここで迷うかね?
タヌキにでも化かされたんじゃないか、という気が今でもしている。
ほんとに小さな町なのに。完全に自分がどこにいるのかわからなくなってしまった。
ここまでになるのは我ながら珍しい気がする。
しかも時刻は20時過ぎ、光が落ちて暗闇になって来る頃。
建物は続いているのに、人っ子一人歩いていない。いくら小さな町だといったって、
この時間、なぜ誰も通らない?
だんだん怖くなる。キリコの絵みたいな不気味さだ。
数少ない通行人を捕まえ捕まえ、それぞれに道を訊く。
1人目は言葉では説明出来ず――わたしはだいぶ目的地から離れた所にいたらしい――
方向だけを教えてくれる。
2人目はちゃんと説明してくれたのだが、その通りに行っても辿りつかない。
だが別なホテルの前には出たので、もしかしてホテルの名前が通じていなかったのかもしれない。
3人目でようやく英語を話すお姉さんに出会う。しかもラッキーなことに、
「私もそっちへ行くから、連れて行ってあげる」と言われる。
――地獄で天使に会ったようでした。きれいなお姉さん、ありがとう。
20:15、ホテル・マリー・ピヴォヴァル到着。ああ、何と苦労したことよ。
救いはホテルがいいホテルだったことかな。
ここは今回の旅行で一番高い、8500円くらいのホテル。
いや、いいホテルだったからこそ、ゆったりした気分で泊まりたかったものだが。
Hotel Maly Pivovar.
部屋がとても広い。20畳ではきかないか?
ソファとテーブルがある狭い部屋がついている。
色々あったけど。まあでも。何とかなるでしょ。さ、ゴハン食べに行こ、ゴハン。