そしてね。これからどこへ行くかというとね。
タクシーに乗って……
From a taxy.
山の方を走り……
I was going to the hill.
馬。
A HORSE! Horse riding.
乗馬をしたんです!
さっきツーリスト・インフォメーションで予約したのだ。
1回1時間(たしか)1500円。何をすることになるのかは知らないが、安いじゃないですか!
……で?何をするんです?
と考える暇もないほどあっという間に、わたしは乗馬帽を被せられ、馬上の人になっていた。
日本だともう少し能書きがある気がするのだが、手綱を持たせられ、馬の名前を教えてもらっただけ。
しかも日本では、鞍につかまるところがあったが、この鞍には何もなし。
あれー?と思っている間に……外へ向かって出発。ひええ。
わたしは宝くじにあたったら乗馬を始めようと思っている程度には乗馬に興味があるので、
今まで多少の体験はある。
とは言ってもほんとに多少で、数回の引き馬(馬場1周500円とかのヤツ)と、
乗馬教室の体験教室(2時間くらい?)と、那須の乗馬クラブで外乗り30分くらい。
那須の時には係の人が、手綱を持ってくれたような気がするしなあ。
今回は厩舎の人が別な馬に乗って先導してくれる。20歳くらいの女の子。
精悍で、ちょっと無愛想なタイプ。
舗装道路では「右側に寄ってー」とか、吠えている犬がいるところではちゃんと
こっちにも目を配ってくれたりはするんだけど、あまり至れり尽くせりという感じではない。
まあね。こっちが慣れてなくても、馬が慣れてるからね。
その証拠に特にわたしが何もしなくても、ちゃんと前の馬についていってるし。
特別なことがなければ大丈夫だろう……とは思うが、大丈夫かな?
と思っていると、舗装道路から細い坂道に入り、森に突入。
うわー、「ロードオブザリング」のファンゴルンの森ー。
……心の半分ではこんなことを思ってワクワクはしているんだけど、もう半分では
「え、ここを登るの?」とか思ってびびっている。
いや、上るのはいいんです。上り坂は馬でも怖くない。
が、上るということはいずれ下りてくるということで……
馬で坂道を下るのはコワイよ。それは以前の乗馬で経験済み。
馬って、下る時は頭を下げる。そうすると乗り手の体は前のめりになりがちだし、
目の前には馬の首もないわけだから、ちょっとでもつまづいたらつかまるものも何もなく、
すぐ前方に投げだされてしまいそう。
さらに、上るのは怖くないと言ったが、森の中では木の根が多い。
木の根は馬の蹄がすべりやすい。つまづきやすい。
そこを馬が「よっこいしょ、よっこいしょ」という感じで上って行くと、けっこうあぶなっかしい。
思わず「重くてすまんねえ……」と話しかける。
とはいえ。森の中を馬で行くのは、やはり心の半分ではワクワク。
そのワクワクとビビリが内心を50パーセントずつ分け合って、実に微妙。
砂糖と塩を一緒に食べている気分。そこに“せっかくお金を払っているんだから楽しまなきゃ”
という功利性もプラスされ、もう気分的には何がなんだかわかりません。
ここで万が一落馬して脚でも折ったら、どうするんだろうなあ。
大使館?大使館がそういうちっちゃな面倒を見てくれるんだろうか。
でも他にどこに頼りようもないよなー。
とりあえずリザ(←馬の名前)、大使館のお世話にならなくても済むよう安全運転でお願いします。
森を抜けると、そこは草原だ。
「うわあ……」と思わず呟く。
丘陵地帯の起伏のある場所なので、大草原というわけではないんだけれど、
イメージは「大草原の小さな家」。「赤毛のアン」か。いや、アンはあまり馬に乗らない。
写真を撮りたい!……だがカメラを持ってきてない。荷物を預ける時に、
カメラを持って行っていいか訊いたら、係の女の子が、
「うーん……。上手い人なら大丈夫だけど……」と言っていたのでソッコー諦めました。
馬の上は相当揺れるので、わたしのカメラだとドカンドカン体に当たって痛いだろう。
ポケットに収まるような、小さめのデジカメなら大丈夫かも。
う。今から思えば携帯の写メという手もあったか?(遅い。遅すぎる。)
山の斜面を利用した牧草地。濃い緑の森がところどころに残る。
牧草地と森の境界に沿って馬は歩く。いつも同じコースなのだろう、
数十センチほども伸びた草の中に、ほんのわずかな幅で草の生えていない獣道がある。
丘と草原。森。風。一歩一歩進んで行く馬。
コースは、丘の頂上に近い小さな教会の建物を1周して折り返す。
ここから見たチェスキー・クルムロフの町は絶景。……だったのだが、何しろ馬が歩く幅が、
気分的には2メートルもないようなところ。
「落ちないだろうけど、本当に落ちないか?」とハラハラしていた部分もあるので、
景色を見るの半分、馬の歩みを心配するの半分で、見晴らしを堪能出来たとは言い難い。
そして、やはり下り坂はナンでした。
最初に心配したような、怖いほどの角度で下って行くわけではなかったけど、
微妙な下り坂だと馬の歩幅がむしろ大きくなり、揺れが激しくなる。
オシリが鞍にぶつかってイタイ。この後ずっと下り坂だろうから……多分明日は筋肉痛だろうなー。
前を行く馬は、乗り手の女の子が何も指示をしていないように見えるのに、
後に続くわたしの馬が多少遅れると、しばらく止まって待っていてくれる。
近づくと歩きだす。頭がいい。やっぱりやるぞ、乗馬。宝くじが当たったら。
やがて、舗装道路に帰ってくる。
行きの時もいた犬がまた吠えて、前の馬はちょっと暴れている。
リザは泰然としている。良かった、リザがおっとりお嬢さんで。
ほぼ40分強のコースを終えて帰着。
終わったことでほっとして、ようやく馬に乗った実感が出てくる。
やー、乗った!って感じだねえ。あんな場所を馬で通れるなんて思わなかったよー。
軽くハイテンションになってリザの顔を撫でまくる。
撫でまくられても彼女は嫌な顔ひとつせずおっとりしたまま。
「リザはお母さんになるんだよ」と、女の子が教えてくれる。
あれ、大丈夫だったかな?お腹けっこう蹴っ飛ばしたけど。
その後、呼んでもらったタクシーが来るまで厩舎付近の写真を撮る。
乗り手の女の子と厩舎のおじさんに、写真を撮っていい?と訊いたら、
おじさんの方は「俺はいいよ」とぼそぼそ呟きながら横を向いたのに対して、
女の子の方が、「まあまあ、いいからいいから」というように声をかけ、
腕を組んでにこやかに写真に写ってくれた。
ずっと、外国で乗馬してみたいと思ってたんだよねー。
味をしめてしまったかもしれない。すごく楽しかった。