こないだ「世界で一番長い英単語」という記事を書きました。
世界一長い英単語認定はこれ。
Lopadotemachoselachogaleokranioleipsanodrimhypotrimmatosilphioparaomelitokatakechymenokichlepikossyphophattoperisteralektryonoptekephalliokigklopeleiolagoiosiraiobaphetraganopterygon
これで一単語。
日本語意訳だと「ありとあらゆる種類の食材を使った料理」という意味の単語で、もうこうなると読み方さえわからない。
ところで、これはアリストパネス「女の議会」に出て来る単語だそうです。ギリシア古典文学。これを知った時、だからといって「女の議会」は読む気にならないよなあ……と思いました。読める人は読めるんでしょうが。わたしはちょっと無理だなー。
じゃあ「読む気になるギリシャ古典文学」は?
本は「面白そうだな」と思って読むのが王道。そういう本を読むべき。でもねー、面白そうだと思う本って実はなかなかないんですよねー。ありますか?面白そうだなと思う本。
「面白そう」と思える本がない場合は「教養のために」読みましょう!
そうすると教養とは何か、という話になってそこを深掘りすると大変哲学的なめんどくさい話になってくるようなのですが、わたしは教養の定義を次の一行に集約したいと思います。
物事を繋げて楽しめる知識。
Aという作品の中でBという単語がちらっと出て来た時、そのBを知っているとAの作品世界がちょっとだけ広がってその分楽しめる。ちょっとお得。
そういう意味で、読んでおくとお得なギリシャ古典作品は3つあります!
「ギリシア神話」
「ギリシア神話」は本当に読んでおいて損はないです。日常生活でもかなりいろんなところに出て来ますから。
たとえば水金地火木土天海の太陽系の惑星。この英語名もギリシア神話(正確にはローマ神話)から来てるんですよねー。なので、ギリシア神話を読んでいると惑星の名前が覚えられます。そして衛星の名前は、その惑星の神様に関連する名前が付けられています。
例として、木星はジュピター(ローマ神話)、ゼウス(ギリシア神話)です。
そして衛星の名前であるイオ・エウロパ・ガニメデ・カリストはみんなゼウスの浮気相手から来ています。
ちなみにエウロパはヨーロッパの語源でもあります。「EU」と聞くたびに、ゼウスが化けた白い牡牛が頭に浮かびます。ゼウスは美しい白い牡牛に化けてエウロパを油断させてから連れ去ったのです。
さらにこの牡牛は生まれ星座の「牡牛座」の由来でもあります。というように、ツルツルツルツルと色々な事柄が繋がっていくんですね。
わたしが今日たまたま読んだパトリック・クウェンティンの「俳優パズル」というミステリで、
21世紀のカストルとポルックス
という言い回しがありました(この言い回しは正直ダサいと思うが……)。これもギリシア神話ですね。ふたご座の話。星座の話はだいたいギリシア神話なので、ギリシア神話を知っていれば
だいたいカバー出来ます。
外国物を読んでいると、言い回しにギリシア神話が出て来るものが多い。けっこう見かけます。読むとお得という所以。
「イーリアス」
トロイア戦争の終盤を描く作品。
たとえば「アキレス腱」という言葉があります。これは「イーリアス」に出て来る英雄、アキレウスからきています。
ほぼ不死身だったアキレウスの唯一の弱点だったのが、かかと。
アキレウスの母親であるテティス女神がアキレウスを不死の体にするためにその全身を冥府の川ステュクスに浸した時に、かかとをつかんでいたのでその部分だけ川の水に浸からずに、不死にはならなかった。のちにアキレウスはかかとを敵に射抜かれて死んでしまうことになります。
その他に、
「パリスの審判」
(いずれ劣らぬ3女神の中から誰が一番美人かを選ばなくてはならなくなったパリス。選択が難しい立場に立たされる場合の比喩に使われる)
「黄金のりんご」
(パリスが一番美しい女神に判定した印にわたした黄金のりんごから。不和の種の意)などもイーリアスから。
「オデュッセイア」
「イーリアス」の後日譚。
トロイア戦争の英雄、オデュッセウスが故郷のイタケ島に帰るまで&帰ってからのゴタゴタを描いたものです。この間10年間!一つ目巨人に捕まったり、魔女に魅入られて彼女の元に居続けしたり、……楽しそうだな、オイ。と突っ込みたくなる冒険の連続です。
たとえばオデュッセイア由来のマメ知識だと、
英語圏の名前ペネロペ(女優のペネロペ・クルスなど)はオデュッセウスの美女で貞淑で賢い妻の名前。
「風の谷のナウシカ」のナウシカは、「オデュッセイア」にちょい役で出てくる賢明な王女の名前。
まあこういうのは知っていたから何?という知識ではありますが、そもそも教養というのは損得ではありません!
……タイトルは「読んでお得なギリシア古典文学」ですよね。だがその「お得」というのはあくまでも実利という意味ではなくてですね……知的好奇心的にお得、という意味だとお考え下さい。
以上3作品が読んでお得なギリシア古典文学です。
どれを読む?
ところで、そうなるとじゃあどれを読むか、というお話ですよね。いろいろな本がありますから。
「ギリシア神話」だとこれですかねー。
わたしもたしかブルフィンチで読んだ気がします。ただし野上弥生子訳。
「イーリアス」は……とりあえずこれしかないんじゃないかなー。
これは推薦するのが難しい。これだと韻文らしいんですよね。韻文を気軽に読めるかどうか……
もうちょっと気軽に読める、そして信頼できる本があるといいんですけどね。
わたしが読んだのは子供向けの世界文学全集でした。あれが良かったんだけどなー。名作だったと思うんだけどなー。子供向けといってもまあ中学生くらいが読んでちょうどいいくらいで、「イーリアス」と「オデュッセイア」と「プルタルコス英雄伝」が1冊になっており、電話帳並みの大きさでした。長くて詳しい。
あれがいまだに生き残ってくれていたら喜んで推薦するのに!
「オデュッセイア」も消去法でこれ。
「イーリアス」より「オデュッセイア」の方が面白いです。
これ岩波少年文庫のようですが、どうでしょう?でも272ページだとだいぶ省略版かなあ。しかし、韻文で読んで続かずに諦めるよりは、こういう本で通読した方がいいですね。
すごく変化球ですが、阿刀田高のこの辺は本編を読むための導入編としてありかも。
阿刀田高はこういうシリーズの本をたくさん書いてます。「ギリシア神話を知っていますか」は多分読んでないですが、「アラビアンナイトを楽しむために」は読んだことがあります。
のちに東洋文庫で前島信次訳13巻(全18巻)の「アラビアン・ナイト」を読みましたが、正直読むのは大変でした。読後、「アラビアンナイトを楽しむために」もなかなかいい本だったんだなと思いました。
「コーランを知っていますか」はちょっと気になる。コーラン自体はきっと読まないだろうから。
ギリシア関係はいろいろありますが。
ソクラテスやプラトン、アリストテレスの哲学関係、アイスキュロス、ソフォクレス、エウリピデスなどの悲劇詩人関係、おそらく人によっておすすめのギリシア古典文学はいろいろあると思いますが、まずこれを読んどけ!なのはまちがいなく
「ギリシア神話」
「イーリアス」
「オデュッセイア」
です。ギリシア神話は西洋古典画を見る時にも役に立ちますよ。モチーフとして沢山出て来るので。
「イーリアス」はちょっとのり始めるまで時間がかかりますが、「ギリシア神話」と「オデュッセイア」は読んで面白いです。でも「イーリアス」と「オデュッセイア」は連続したお話なので、出来れば順番に読んだ方がいいんじゃないかなー。
関連記事