香港からロンドンへの12時間のフライトは、前の席の赤ちゃん2人と、隣に座ったおっさんに戦々恐々とし、
……しかし結果として特に問題はなかった。よく眠れた方。
朝6:20、ロンドン・ガトウィック空港着。

やれやれ。長い旅路の末、やっとここまで来たよ。家を出てから数えると、……あんまり考えたくないけど、実に40時間。
何しろ早朝だから、空港でゆっくりして、程よい時間にパット(以下P)の家に着くよう案配するつもりでいた。
ここでもトラヴェラーズチェックを替えるミッションがある。
しかしその前に、まずはイミグレ。
ロンドンの空港といったらヒースロー空港に着くのが一般的。
が、わたしは今回ガトウィック空港利用。日本における羽田みたいなもので、規模は少々小さめな筈。
こっちの方がPの家に近いし、最寄駅まで電車があるので自力で行ける。
実際に降りてみると、まあ小さいってほどでもないよね。入国審査の列はけっこう長くて。
どのくらい並んだったかなあ。30分強かかった気がするが。
わたしは一番最後くらいに飛行機を降りたんだけど、
……スーツケース、大丈夫だよね?
だんだん心配になってくる。このくらい時間がかかっていれば、荷物はもうターンテーブルを回り始めていると思われる。
わたしのスーツケースはどうなってしまうんだろう。ターンテーブルにポツンと乗っているだけならいいが、
盗まれないまでも、放置されている荷物だと認識されて、担当者にどこぞへ持っていかれたらどうしよう。
空港内でスーツケースを探して当てのない旅に出る羽目になるのは避けたい……
そんなことを考えながら、ようやく窓口まで来て。
ヤレヤレ、やっとか、と思ったのだが――実はここが一番面倒だったのであった。
ガトウィックの入国審査は厳しい、特に有色人種には、という個人ブログの記事を読んでいた。
そもそも一般的にイギリスの入国審査は厳しい筈だしね。10年前どんなんだったかは忘れてるけどね。
でもわたし程度の怪しさに目くじら立てていたら、入国審査なんて何時間経っても終わらなかろう……
しかし長かった。10分くらいはかかったと思う。
「目的は?」
「一人で?」
「目的地は?」
「アルフリストン?どんな理由でそこへ行くの?」
「直接このホテルに行くの?」
「バウチャーはある?」
「アルフリストンの前は?後は?」
「友達の住所は?」
色々訊かれましたよ。
アルフリストンというのは、おそらくイギリスの中でもマイナーな観光地なので、
(なんとなくだが、羽田空港についたイギリス人が「銀山温泉に行く」というような?)
人情としても「なんでまた」と訊きたくなる気持ちはわからんでもないが。
アルフリストンのホテルのバウチャーは手荷物に入れていたけど、
その次に泊まるアランデルのホテルのバウチャーはスーツケースの中。
Pの住所も、たまたま旅行メモに書いておいたからいいけど、うっかりしてたら書き忘れてたかもしれない。
まさかそんなに念を入れて訊かれるとはね。
一応覚悟はしていたとはいえ。別室に連れていかれなかっただけいいのか。
しかし審査官も、質問と質問の間に無意味に時間をかけるんだよなー。
こっちとしては訊くことはさっさと訊いて、早いところ何とかして欲しいわけだが、
(何とかといっても入国拒否・強制送還とかは嫌だけど)
パスポートを何度もめくったり、ホテルのバウチャーを何度も眺めたり。
いや、何度見ても同じですから。
なんか根拠があって疑ってるというよりは、機械的に時間をかけている印象。
時間かければボロが出るってもんじゃないんだよ。実はボロが出るのか?後ろめたい人はソワソワしだすとか?
間違いなく自分の旅行史上一番長いイミグレでした。
まったくもう、と思いながら入国する。やっとイミグレを出て7:45。
わたしの真っ赤なスーツケースは、ターンテーブルの脇にポツンと置いてありました。
放浪する羽目にならなくてよかった……。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
無事に?入国したのだが。
一難去ってまた一難。
何とこのタイミングで携帯電池切れ!
いや、キミにはこれから一番活躍してもらわないと困るんだよ?
今から電車に乗って、最寄り駅に着く時間をPにメールしなきゃならないんだから。
日常生活において、わたしの携帯の使用頻度は極端に少ないので、普段の生活であれば充電は下手したら1週間に1度くらい。
今回は旅行前に当然充電し、これで2、3日は余裕で使えるはずなのに……
海外で携帯を使うといつもより電池を食うのだろうか。その可能性は大いに考えられるとはいえ、
……そういうことは先に言ってくれないと!
でもまあ空港だからね。当然充電スペースなんかもあるわけで。
そういうところを探して、スーツケースから充電のコードとコンセントアダプタをごそごそ取り出す。
イギリスはコンセント形状が日本と違ってミツマタなので、日本のコンセントはそのまま差せないんですよ。
10分ほど充電する。メールのやりとり1往復分だから、ちょっとで大丈夫。な筈。
やや気持ちが急いているのは意外にこの時点で時間が経っているため。
6:20に着陸したのに、そろそろ8時近い。イミグレで溜まっていた時間が長かったし、
その間携帯の充電も出来なかったわけで、Pも気を揉んでいるだろう。
おっと。その前にトラヴェラーズチェックを換えなければ。
――しかし結果的に、ガトウィック空港にある両替所は2ヶ所とも、トラヴェラーズチェックの交換を断られてしまったの。
片方なんて看板にはトラヴェラーズチェックのマークを使っているのに「もう扱ってない」と言われたんだよ!
「でもそこにマークがあるよね?」「あれは前のが残っているだけだ」
ええ~。なにそれ~。
しょうがないのでお金問題はそのまま。まあ電車の切符はクレジットカードで買えるし、特に問題はなし。
空港からロンドン方面へは鉄道路線が接続していて交通機関はとても便利。
細かい時間は忘れたけど、8:20くらいの電車に乗ったんだったかな。
駅員さんにPの最寄り駅までの時間を聞くと「20分くらい」というので、「あと20分くらいで着くよ」とメールをし。
……送信したら、途端にまた電池が赤くなった!メール1通で電池切れなんて、お前はどれだけ根性がないのだ!
この辺はドキドキでした。
だって返信が来る筈だから、電源は切れないでしょう?
駅の待ち合わせ場所は日本を発つ前にすでに打合せ済みだったとはいえ、その場所が実際に行ってわかるかどうかは、
行ってみないとわからない。
そして、実は電車は30分以上経って最寄り駅に着いたのでした。
駅員さんが言っていた「20分」は、一番早い電車に乗った時の時間で、わたしが乗った電車は36分かかるようだ。
20分で着くとメールしたわたしが30分経ってもまだ着かない……
パットが心配しているだろうと思うと気が気ではない。
駅で降りて、教えられた待合せ場所に向かう。心配しているPの姿があるだろうと予想していたのだが、
――Pがいない。
さあ、異国の駅で立ち尽くすわたしの運命はいかに!?
待て、次回!