さて、ヴェネツィアの最後を飾るのは――サンタ・マリア・グロリオーサ・デイ・フラーリ教会。
ここも長い間の宿題だった。ティツィアーノの名作「聖母被昇天」がある場所。
ホテルを15:30頃出て、ヴァポレットに乗って行く。
中心部からは少し離れたところ。本当はこういう奥の方をもっともっと歩きまわって
みるつもりだったのに、全然だったなあ。
まあ腰を痛めたのが大きい。でもそうでなくとも無理だったかな。
来る前は「迷いこむのを楽しむ」気満々だったんだけど、正味3日間ではなかなか出来ないもんです。
1ヶ月くらい滞在して初めて、そういう贅沢な時間の使い方をする気になるのかもしれない。
フラーリ教会より先にスクオーラ・グランデ・ディ・サンロッコ(サンロッコ大同信会)へ。
今となってはむしろこっちの方が印象深い。

Scuola Grande di San Rocco.Inside was gorgeous.
写真撮影禁止。内部をお見せ出来ないのが本当に残念。
スクオーラ・ダルマータでもその内部装飾に「がんばってはるなあ」という感想を持ったが、
あっちはまだまだ小さいというか、上には上がいるというか……
ここはすごいよ。
体育館ですか?といいたいような広さと高さのホール、そしてそこの壁をぐるりと取り囲む
ティントレットの大画面の連作。ほわー、とよくわからない感嘆詞を発声しながらあたりを見回す。
ようやるねえ。ここまでよく金かけるねえ。
……と思ったら、2階はもっともっとすごかった。
階段を上って上に上がった途端、唸る。下がほわーなら、上はふひゃーですよ。
(その基準がよくわからないが。)
床も壁も天井も。これでもか、という装飾の嵐。余白を美とする国から来た人にとっては、
眩暈がするほど濃密な装飾の世界。
天井は金と絵画。これも画家はティントレットらしい。
壁も大絵画と木製装飾。この木製装飾の一部に贋物の本棚が彫ってあるのが気に入った。
床はカラフルな色遣いの大理石モザイク。色彩の洪水。
わたしが行った夕方は、もう内部は夜でね。
おそらく完全に明るい処で見たら、煩いと感じるであろう隙間のない装飾も、
暗めのスタンドの光で見ると印象が柔らかく、豪華さのいい部分だけが感じられる。
これはねー、ほんとにご覧に入れたいです。
ヨーロッパと日本の、美意識の在り処のあまりの違いに……なんというか、呆れる。
どの道を通って、我々はお互いにこれほど遠い処へ辿りついたのか。
豪華さのわりに居心地のいい気がするのは、やはりスクオーラであるせいな気がする。
スクオーラは、やっぱりきっと人間が集うための場所なんだよ。
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そしてすぐそばにあるフラーリ教会。

Santa Maria Groriosa di Frari.
ここも写真がない。……うーん、内部は忘れてしまった。
でもメインであるティツィアーノの「聖母被昇天」はきれいでした。
……きれいだったが、わたしはあまり群像画には感動しない傾向があるので……
期待していたわりにはそれほど印象に残っていない。
ただ、前述したカノーヴァの自作記念碑?は良かったです。
静謐で。哀しげで。
その後、こんなところへ。

The exhibition of Leonard da Vinci.
サンロッコ大同信会のすぐ前の小さい建物で、レオナルド・ダ・ヴィンチの
小さいエキシビをやっていた。気になっていたのでフラーリの後に、来た道を戻って行ってみる。
もちろんダ・ヴィンチの肉筆画とかのエキシビならそもそも小さくやれるはずもないのだが、
これは彼のアイディアを基に模型を実際に作ってみて、それを展示しているというエキシビ。
時々あります、この類のものは。
わたしははるか昔に、フランスのクロ・リュセ(←ダ・ヴィンチが晩年を過ごした館)で
この類を見たことがあり、その時はえらく面白かった。
模型の出来も良かったんだろうな。
「ダ・ヴィンチは歯車を完全に理解し、それを活用したのだ!」と
見切ったような気持ちになって高揚した。
今回のコレは、その時ほどは面白くはなかったが、まあまあ。
しかし何しろ人がいない!!あと1時間もしないで閉館ということもあるせいか、
私の他には1人しか見学者がおらず、しーんとしたなかで見て回るのは、
……肝試しですか?的なコワさ。だって展示品はこんなんですから。

A diving suit.


The costumes for prince's wedding.
上が潜水服で、下が王子様(厳密には王子じゃないが)の婚礼衣装。
まあ別にいいんだけど、出来ればもう少し人の気配があるところで見たい。

Bycycle.

Flying machine.

Model of the ideal city.
その他にも戦車やら六角形の鏡の小部屋やら簡易橋やら……。
中には、なんでこんなものを?と首を傾げるアイディアも混ざっているのだが、
もうほんと、ヤツは何でもやる奴でしたよ。
惜しむらくは根気がなかったこと。アイディアは天才の名にふさわしく湯水のごとくに
湧き出ていたが、そのアイディアのうち最後まで全う出来たのはあまりにも少ない。
「モナリザ」さえ未完成作だという意見もあるしねえ。
「最後の晩餐」だってテンペラ画の技法で挑んだはいいけど、あれほどあっという間に劣化しては。
ま、完璧な天才などいないってことでしょうな。というより、アイディアに特化したからこそ
今に至るまで天才と呼ばれているのかもしれない。
18:00、閉館時間まではあと30分くらいあるが、どう見ても客はわたし一人で
スタッフの人もみな帰り支度なので慌てて帰る。一通り見終わったからね。
外は夜。昨日のオペラのチケット売りが、暗い中に立ってまだ営業中。
男の人だったけど、やっぱりコスプレをしているのでとても寒そう。
帰り途、ジェラート屋があり「マロングラッセ味」というのにとても惹かれたのだが、
いかんせん寒い。食べずに帰る。

Rental costume shop?
寒い夜の中の明るい光は、それだけで一つの幸いですよね。
マッチ売りの少女の気持ちがよくわかる……。