13時に福島駅の飯坂線出発ホームに着くと、ちょうど13:05出発の電車がある。ぴったりじゃん。窓口でイベント切符を買う。1500円でこれ買うと、「美をつくし」特別展と福島交通飯坂線乗り放題だって。特別展の入場料が1300円だもの、お得ですねー。
飯坂線の電車には福島市の観光キャラクター、うさぎのももりんが車内をのぞきこむように描いてあったり、運転席のところにちっちゃな「ゆ(←湯)」ののれんがかかっていたりして、温泉街の観光電車の面目躍如。がんばってるなあ。
誤算のはじまり。
30分弱で終点の飯坂温泉駅着。さっき買ったばかりのイベント切符でさっそうと改札を抜け……ようとすると、「あっ、ちょっとお待ちください!」と改札の人に止められる。いったいなんね、と思ったら、――わたしは間違ってました。
さっき買ったイベント切符、飯坂線乗り放題じゃなかった!
「飯坂線の福島駅-美術館図書館前駅」の間だけが乗り放題になる切符でした。この間が2駅、運賃が片道150円なので、普通に一往復して100円安くなる計算。……そうか。そうだったか。太っ腹だと思ったのよ。でもそこまでしても飯坂温泉に人を呼びたいんだろうなあと納得していた。
乗り越し料金は340円。なんだかなあ。そういうことなら今回飯坂温泉までは来なかった。来たって2時間しかいられないんだし。福島市内とか、阿武隈急行沿線とか、もっと行きたいところがあったよ。
たった2駅の乗り放題ってさあ~!ともいいたい。利便性がありますか?意味なくない?乗り放題にするメリットが全くないから、逆に全線乗り放題だと勘違いしちゃうわけで。
一瞬頭の中で不満が渦巻き。このまま帰っちゃおうかなと思ったが駅員さんの前で改札を通ってしまっている状態で「じゃあいいです」というわけにも行かず。なんか軽くがっかりして数分ベンチに座って作戦を練る。
……まあせっかく来たんだし。当初の予定通り大鳥城跡に行ってみますか。時間があったら南下して医王寺に。医王寺ははるか昔に行ったことがあるから、まあとにかく大鳥城へ行ければ。
大鳥城へ。
飯坂の町は800年の昔、奥州藤原氏の一族、湯の庄司と呼ばれた佐藤基治(もとはる)が治めていたところ。彼には幾人かの息子があり、そのうちの2人が継信・忠信。彼らは平泉で育った源義経が頼朝の挙兵を聞いてその元へ飛び出す時、藤原秀衡がつけてやった家臣だと言われている。
兄弟は数少ない義経の子飼いの部下として平家を滅ぼすまでの義経に従った。兄の継信は途中の合戦で命を落としたが、弟忠信はその後不遇になった義経を支え、しかし落ち延びる義経と途中で別れ、京の都で敵に襲撃されて討ち死にをしたと。
わたしは平泉が好きなので、佐藤兄弟にもなつかしさを感じる。医王寺は佐藤一族ゆかりの寺、そこには彼らの墓がある。
笈も太刀も五月に飾れ紙幟 (おいもたちもさつきにかざれかみのぼり) 松尾芭蕉
芭蕉は義経が好きで、その忠臣であった佐藤兄弟のことも心に留めている。みちのくを訪れた際には医王寺に立ち寄り、上記の句を詠んだ。……この句は、わたしは一見で意味がわからない句だったけれども、確認してみたところ、
弁慶が背負っていた笈も、義経が持っていた太刀も。
もののふの縁、武運を願う端午の節句に相応しい。
鯉のぼりと共に飾れ。
というような意らしい。笈と太刀がこの寺に納められており、それは弁慶、義経のものだったと伝えられている。
笈(おい)ってそうそう読めないし、なんなのかピンと来ないと思いますが(わたしも来ない)しかし昨今、笈を目にしたことがある方は多いはず。「鬼滅の刃」で炭治郎が背負った禰豆子が入っている木箱。あれです。いわば昔のスーツケース。
医王寺は昔行ったけれども大鳥城には初めてです。飯坂温泉からおよそ1.5キロ。現在では舘ノ山公園という名前になっている。のんびりと歩き始めます。道はわかりやすいし、観光案内所でもらった地図も持っている。ゆるゆると行きましょう。
……が、歩き始めて間もなくけっこうな坂にさしかかる。まあ仕方ない。なにしろ飯「坂」だから。坂の途中には古館公園という公園があって、佐藤一族の旧跡かと期待したが、案内板によるともっと時代が下り、伊達政宗の時代の館跡らしい。政宗の側室に「飯坂の局」と呼ばれた人がいましたからね。その人が住んでいた頃の館跡。
先ほどの坂をすぎても道はゆるゆると上り。足が進まない。あ、右手の道の奥に良さそうな神社がある。少し進路から離れるが寄ってみましょう。
ここは八幡神社。飯坂の総鎮守で、源義家が勧請したと伝えられているらしい。源義家の時代だとしたら義経からは100年以上さかのぼるから、この地の庄司だった佐藤氏一族もここには頻繁に詣でたことだろう。
銀杏の大木の。若芽が青空に映えて。きれい。
本殿の背後にはかわいらしい三角形の山がある。これがあるからここに神社があるんだろう。趣きのあるいい神社。「けんか祭り」で有名らしい。けんかと聞くとちょっとこわいけど。
……あれ?もしかして……遠い?
そこから道を少し戻ってまた大鳥城への道。上り坂がまた少しずつきつくなり、野球場を過ぎて観光施設「花ももの里」入口まで来る。ここが舘ノ山の入口。ここからが山。
そしてふと気づくと時間は14時すぎ。……え?あれ?ここで14時過ぎだともしかして15時に美術館に入るのは無理なのでは?ここまで来るのに30分かかってる。14時半に飯坂温泉駅を出ないと15時に美術館に着けないよね?
うわわ。これはのんびりしている場合ではない。
気合を入れて歩き出す。坂道を急ぐのはハードルが高すぎるので、可能な範囲で。
――だがここがですね……。思ったよりもはるかに規模がでかい山城。気が急いているせいかもしれないが、行けども行けども頂上にたどり着かない。
道は細い。車は通れない道。だんだん林道のようになり、まあ昼間の明るい時期だけれどもちょっと心細くなってくる。暑いし疲れたし、時間もないし、なんだかもう不安だよ。
そこでわたしを救ったのがこれです。
さっき買ってあった非常食。これを食べて心を落ち着けよう。
ようやくたどり着いた三の丸への入口で立ったまま食べる。誰かに見られたら相当に気恥ずかしい図だが、幸いにしてここを通る人はいない。
しかしここで三の丸ですか……。けっこう上りましたよ。本丸まではまだまだ遠い気がする。小さな山城をひょこひょこ登ってさっさと帰って来るつもりだったのに。気分としては仙台市立博物館から青葉城天守台へ登るくらいの距離ではないのか。急がなきゃ。美術館に行く時間がなくなってしまう!
二の丸を過ぎて本丸手前の車道を横切り、ようやく本丸跡にたどり着く。山上にほろんと開けた明るい芝生の広場。
ここで彼らが生きていたのだろうか。思ったよりもずっと広い。
佐藤一族を祀る碑がいくつか立っている。
当時の姿が全く想像出来ない。そもそもこの頃にこんなに規模の大きな、立派な山城があったとは。青葉城並みとまでは言わないが、想像の5倍くらい大きかった。とはいえ今確認したところ、登って来たのはおよそ15分くらいだったから、実際のところはそこまで高い山ではないようです。
……が、この場所を堪能する暇はもはやない。滞在時間およそ5分。早く下って美術館に行かなきゃ!
ちなみに絵地図としてはこんな感じ。
下りは上りよりも相当早く、10分もかからずに降りて来たかと思います。が、熊笹が生い茂る山道、滑らないように出来るだけ急いで降りるのは神経を使いました。この日は晴れていてかなり暑い。顔を真っ赤にして麓まで戻って来たところ、――そこにいた交通整理員の方に「おつかれさまです」と言われました。たしかに疲れていました。
急げ!美術館へ!
そこから体力が続く限りの速度で(といっても大した速さではない)飯坂温泉駅まで戻りました。すぐに発車する電車があったのはラッキー。美術館の最寄り駅まではおよそ20分。
美術館には15:30に着きました。予定よりも30分遅かったが、気づいた時に14:00だったのだから、あれからよくがんばった。ここから17時の閉館時間まで、およそ1時間半で美術館。まあなんとかなるでしょう。
タイムキープは慎重に。
日帰りということで油断があったとはいえ、ここまでで二度も誤算が……
一つはイベント切符が福島交通飯坂線が乗り放題だと思っていたこと、もう一つは舘ノ山公園があんなに大きかったこと。
まあその前に、飯坂温泉に13:30に着いている時点で若干オカシイ。この時点で飯坂温泉で2時間使えるつもりでいるんだから。電車に乗っている時間を忘れているんですね。
今回は時間がなくなっても致命的な旅ではなかったから大ごとにはならなかったが、タイトなスケジュールでは30分の勘違いは大きな間違い。今後はもっとしっかりタイムキープをしたいと思います。
そして舘ノ山公園に行く際には、飯坂温泉駅からタクシーを使えば良かったと後悔。行きが登りで大変な分、帰りはそんなにきつくないので、行きにタクシーを使って置けばそんなに焦る必要もなかった。本丸で心穏やかに古に思いを馳せることも出来たのにねえ。
ちなみに飯坂温泉駅にはレンタル自転車があるそうです。普通の自転車は無料、電動自転車は300円(4時間まで)。
なにしろ坂なので自転車で楽になるかは一概には言えないが、本来の飯坂温泉はそれこそ温泉や温泉街の散歩を楽しむ場所なので、自転車で回るのもありだったかもしれません。
でも大鳥城址に行けて良かった!最後は美術館です。
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