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◎スーラとシニャック。点描の2人。――美術を楽しく見るためには、好きなジャンルと出会うのが大切。西洋美術・新印象派。

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わたしね。スーラとシニャックの絵が――とりわけ好きだというほどでもないのですが、親しみを持っています。なぜなら、見分けやすいから。彼らの点描主義は独特で、見ればだいたい「スーラだ!(あるいはシニャックだ!)」とわかる。

特にシニャックは特別展などで時々出会う画家でした。頻繁に顔を合わせていると好意が高まるという人間心理があるそうですが、それは絵でも同じだと思います。何度も見ているうちに好きになっていく。シニャックを見た時に「あら。お久しぶり」と思うくらいに親しみを感じてきました。

 

新印象派とは、印象派の理論的枝の先。

写実主義から印象派、印象派からポスト印象派へと移るのが西洋美術史の主流ですが、印象派から派生した枝に、新印象派と呼ばれるジャンルがあります。印象派が使った筆触分割という手法を、さらに純粋に進めたもの。

印象派は絵の具をあらかじめ混ぜずに、キャンバスの上に色を別々に置くことによって、絵の具自体の透明感と明るさを確保するという技法を用いました。なので、モネやルノワールの絵はぺたぺたと塗った線で構成されています。

そのスジや点をもっと微細な点として扱い、理論を追求したのが新印象派≒点描主義。

このジャンルではスーラとシニャックが有名です。他にもこの技法を使った画家はいるようなのですが、他の画家はよく知らない……。この2人さえ覚えておけばいいのでラク。

あ、常には印象派として紹介されるピサロも点描主義にはまっていた時期がありました。画業の後半、10年ほど。30歳も年下のスーラに出会い、その点描主義に感じるところがあったというから、ピサロ自身、技法の模索を続けていたのでしょう。ずっと同じことは出来ない。とりわけピサロのように長生きをしてずっと描き続けた人ならば。

しかし点描技法は時間がかかること、絵画としてあまり人気がなかったこと、何よりも、ピサロが好きだった、対象を感じながら筆を走らせる自由さに欠けたため、ピサロは点描主義に限界を感じ印象派の技法に戻って行きました。

 

スーラは点が細かい。ひたすら細かい。

ピサロとは対照的にスーラは短命でした。32年の生涯で約70点の油絵を残した。点描主義の技法は理論的なだけに時間がかかり、スケッチは屋外でしても、仕上げは屋内のアトリエで丹念に行なうものでした。点描で全体を構成していく労力自体も大変。十年余りの画業で70点は寡作と言っていい量だと思います。

有名作はこの2つ。

スーラ「アニエールの水浴」

Georges Seurat 004.jpg

縦2メートル×横3メートルのかなり大型の絵。画家業界をよく知らんけど、画家の初めてに近い発表作品にこの大きさの絵を描くのは珍しいんじゃないかなあ。この頃スーラ25歳。

この時期はそこまで点描ではないですね。点描というより細かい線描きという感じ。点描は芝生に部分的に使われています。でもこのどよんとした倦怠感というか、不安になるような異世界感というのは、代表作である「グランド・ジャット島の日曜日の午後」も共通。独特の世界観。

中央の人物のヘルメットみたいな髪型。顔は影になって見えない。左下で寝転がっている人はまだしも人に見えますが、中央の人物は死神のようにしか見えない。

この絵は影のつけ方がおかしいですよね……。地面に映る影を見れば斜め右上から差していなければならないのに、顔だけは真上からしか光が来ていない。この辺も印象派と袂を分かつ部分。

スーラ「グランド・ジャット島の日曜日の午後」

Georges Seurat - Un dimanche apres-midi a l'Ile de la Grande Jatte.jpg

「アニエールの水浴」を踏襲する絵。色合いはパステル調からだいぶはっきりとした色に変わりました。今度は人物はだいたい左を向いています。水があって、それを見ながら物思いにふける人々。彼らは視線の先に何を見ているんだろう。人間は水面を見つめがちではありますが。

この絵もほぼ縦2メートル×横3メートルの大作。前作よりも点描は相当に細かくなり、押しも押されもせぬ代表作。しかしこの面積を点々で埋めていく労力といったら……。こんなことをしているから早世してしまったのではないか、スーラよ……

スーラ「サーカス」

Georges Seurat 019.jpg

あとは「サーカスシリーズ」。スーラはサーカスをテーマに何枚か描いています。わたしは動きのないスーラの画風はサーカスには合わない気がするのですが……。もっと幻想的な、空想的なものを描いたら良かったんじゃないかなー。サーカスにも幻想性はあるけれども。でもこの頃はまだ空想画は少ないのかな。

ルドンはスーラのほんの数年前。ビアズリーは対岸のイギリスでまだ活躍していない時期。そしてスーラは印象主義から影響を受けている。一足飛びに空想画に行けないか。

 

シニャックは点というよりレンガのような。

シニャックはスーラと並んで新印象派の代表画家。スーラと違って比較的長命で、多少の画風の変遷はありましたが、新印象派の存在を残しました。スーラだけだったら、もしかしたら彼らの点描主義は今より存在感はなかったかもしれませんね。

シニャックは、この一枚!というのがない気がする。数がけっこう多い画家だし、値段も手ごろ(?)なこともあって、けっこうあちこちの美術館で出会えます。

シニャック「アンティーブ」

painting

こういう絵がシニャックの典型的なもの。ヨットが趣味だったシニャックは、港の風景や水側から見た岸の風景などを数多く描きました。シンプルな絵柄が多いのは、一枚の作品として仕上げやすかったからなのではないか……とわたしは邪推をしている。

なお、色合いとしてはこの絵のようにパステル調のものと、濃い色調のものがあって、けっこう雰囲気が違う。わたしはパステル調の方が好き。

長方形の点。というよりは筆の面をぽこぽこと置いていくスタイル。レンガ積みをイメージします。さすがに微細な点をひたすら描いていく方法は大変だったのだと思われる。……他にも純粋な理由があったのかもしれませんが。

スーラ「朝食」

Signac2.jpg

初期の絵はスーラの影響が顕著ですね。筆致もちゃんと細かくて、点になっている。スーラを見た後だとこの絵の人物たちにも倦怠感を感じてしまいますが、一枚だけを素直に見た場合は倦怠感を見るべきではないかもしれません。

モデルは祖父と母と女中。富裕な生活ぶりが見てとれます。静かな朝。カップとティーポットの模様も丁寧に描きこまれている。

シニャック「Cassis, Cap Lombard」

Paul Signac - Cassis, Cap Lombard, Opus 196 - Google Art Project.jpg

シニャックは、なんということもないこういう風景画が好きです。小品を家に飾りたい気がする。

わたしの本当のお気に入りは、ポーラ美術館にある「フリシンゲン湾」です。絵が貼れないので、ポーラ美術館のサイトでご覧ください。

シニャック「フリシンゲン湾」

これはネットで見ると全然地味な小さな絵ですが、実物を見ると光り輝く絵ですよ!きらきらしていて、宝石が集まっているよう。薄い紫と、淡いピンクと、新緑のような黄緑と、緑と青の宝石。これが油絵であることの価値なのだと思う。きれいな色の油絵の具の艶が光で輝く。

実物の方が100倍いい絵です。シニャックは実物がいいかもなあ。やはり色の美しさをしっかり感じる。

 

点描派も面白い。

ユニークで、見分けやすくて、つまり親しみが持てる。わたしにとって点描主義のスーラとシニャックはそういう画家です。スーラは早世。シニャックは(それなりに)長生きして多くの絵を描きました。さらにシニャックは「ウジェーヌ・ドラクロワから新印象主義まで」という本を書き、新印象派の理論を構築しました。

わたしは、新印象派は印象派から突き出た枝で、後世に追随者を残さなかったのだろうと思っていたのですが、「色彩の魔術師」といわれるマティスが大変にシニャックを慕っていたらしい。マティスが影響を受けたと言われる画家はシニャックの他にもたくさんいるそうなのですが、シニャックの色の美しさも確実に取り込んでいると思う。

 

話は変わりますが、わたしは油絵を生涯一度も描いたことがなくて。高校時代は選択で、音楽か美術かどちらかだったんですよね。絵心が全くないわたしは美術を選ぶと地獄だろうと思い、音楽で無事卒業したのですが……

今となってみれば生涯に一度くらいは油絵に触れてみても良かったと思うし、出来れば日本画にも触れてみたい。そして油絵なら、……シニャック風の点描で、色だけ置いてみるくらいならなんとか出来そうな気がしている。絵は描けないから単純に色だけを楽しむ。それこそ「フリシンゲン湾」の色を追ってみるとか。いつかはやってみたいですね。

西洋美術も画家の個性の時代になってまいりました。その分、わたしの好き嫌いもだんだん爆発してくるのですが……
次はポスト印象派の時代です。

 

 

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