いろいろ徒然

◎五重塔の背比べ。

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塔、といって思いつくのは、むしろヨーロッパの塔かもしれません。ピサの斜塔があったり、百塔の町サンジミニャーノがあったり。ヨーロッパの町や村には中心に必ず教会があって、教会には多く鐘楼が付属します。これが塔ですね。規模に応じて高かったりささやかだったりしますけど、ヨーロッパには塔が多い。

日本にも塔は多いです。日本では「塔」と単独で呼ばれることは少ないのでピンと来ないかもしれません。五重塔、三重塔と言われる方が多いですよね。そういった歴史的建造物の他に、東京タワーやスカイツリー、通天閣なども塔の中に入ります。

こないだ、こんな本を読みました。


五重塔入門 (とんぼの本)

著者に藤森照信さんの名前があったので読んでみたのですが、文章全部を藤森さんが書いたようには感じなかった。これは「とんぼの本」のシリーズですが、こういう図説は複数著者ということも多く、誰がどこの文章を書いているかわからないことがある。出来ればそのあたりを注記しておいてほしいんですけどネ。

国宝の五重塔は11基。

現在でも塔はお寺などで新しく建てられることもあるので、日本全国に塔は大小含めて多数あります。そのうち五重塔で国宝になっているのは11基。意外にありますね。

山形県鶴岡市・羽黒山
京都市・教王護国寺(東寺)
京都市・醍醐寺
京都府木更津市・海住山寺
斑鳩町・法隆寺
奈良市・興福寺
奈良県宇陀市・室生寺
広島県福山市・明王院
山口市・瑠璃光寺
奈良市・元興寺
奈良市・海龍王寺

 

11基の高さ比べ。

この本で知った背比べが意外だったので並べてみます。大きさのイメージというのは周囲の環境もあるので、実際の高さとは一致しないものですが、けっこう違うんだなあ、と意外だったので。

第1位:教王護国寺五重塔。54.8m。

教王護国寺というと、ドコソレ?と思いますが、東寺のことです。正式名称が教王護国寺。京都駅のすぐ南。新幹線が京都駅に近づくと、目印のように見えてくるあれですね。

歴史ある木造建築としては日本一高い。これがけっこう意外でした。あまり高そうに見えなかったんですよね、わたしは。街中にあるせいでしょうか。しかしこれが近代に建てられたコンクリート造の五重塔を除いてはかなりの高さ。2位の興福寺五重塔と並んで、現存する国宝では頭一つ抜けています。

第2位:興福寺五重塔。50.8m。

前述の通り、興福寺が2位です。50メートルを越えている五重塔はこの2つ。

興福寺の五重塔は猿沢の池とセットになっているところが価値。池に映った五重塔の姿は、奈良市の風景ベストワンを争うのではないでしょうか。実際の位置関係ではけっこう離れているのですが(池と五重塔の間に五十二段の階段がある)、また見事に池に姿が映るんですよねえ。

この景観は建てた時の位置関係以上に、その周辺の建物を上手くデザインしているのが大きい。写真を撮った時にビルなどが写りこむと興ざめですから。

実際には猿沢の池のほとりには大きめの旅館があって、写真を撮れば写りこむ位置関係なのですが、デザインを主張しない和風建築にしているので、写真を撮ってもまったく邪魔にならないです。やはり古都に生きる人々はその辺のことがよくわかっていらっしゃる。まあ条例などもあるでしょうが。

第3位:醍醐寺五重塔。38.2m。

京都の街の右下の外れ、醍醐山の裾野から山頂に広がる大寺院、醍醐寺にある五重塔。街中から少し離れるので、一般的な京都観光では行かない場所かもしれません。豊臣秀吉が全盛期に「醍醐の花見」と言われる大宴会を開いたところで有名ですね。

何度も京都に行ったことはありつつも、わたしは数年前に醍醐寺に初めて行ったのですが、たしかに敷地は広大。ここをびっしりと人が埋めて大宴会を開いたのなら、それは壮観だったことでしょう。華やかな桃山時代、派手好きの秀吉が一世一代の晴れ舞台として開いた大茶会。緋毛氈、鮮やかな打掛、芸人たち。

現在の醍醐寺は境内が広くて塀で仕切られていて、それぞれの伽藍に若干孤立感があります。五重塔があるところも若干空き地のようなところ。わたしが行ったのは初秋――というか、連日30℃以上ある実質夏でしたから、その強い日差しに負けそうになりながら見た五重塔の記憶。上を見上げるのが辛かった。

醍醐寺は国宝・重文を7万5千点以上持っているそうですが、普段はほんの少ししか展示してないんですよね。出し惜しみしないで、普段からもっと見せて欲しいんだけどなー。たしかに管理は大変だろうが。

第4位:法隆寺五重塔。31.5m。

五重塔といえば、わたしにとってはこれですね。日本全国で一番じっと見た五重塔。

実際に聖徳太子が生きていた頃にあった塔は敷地内の別な場所(若草伽藍跡)にあったはず。今見る五重塔はそれでも世界最古のものだけれど、太子が目にしたそのままではない。

太子が見た時の塔の姿を想像して塔を見る。真っ青な空に映える濃い黒の木の色。ああ、創建時の五重塔は彩色されていたんでした。

屋根は灰色、軒の垂木や手すりは朱色の漆。それに壁の白を合わせて鮮やかな色合い。色合いの雰囲気は平安神宮に似ていたと思います。でも平安神宮は少し朱色が強すぎるかな?

色を塗る建築は、多分古代日本にはなかったと思うので、中国風のカラーリングの建物は人の目に相当斬新に映ったことでしょう。多分五重塔は古代のスカイツリーだったと思う。遠くから「ほら!見える!」と指さすような。

奈良の大仏殿はまだないし、出雲大社が伝説の通り96メートルあったとしてもはるか遠い地にあって見られないし、まさに五重塔はランドマーク。驚異の高層建築物だったと思います。

第5位:瑠璃光寺五重塔。31.2m。

ここは行ったことないところです。山口県は、47都道府県制覇したamairoが実はあまり踏破していない県で、防府(これを「ほうふ」と読むのをつい最近知りました……。「ぼうふ」じゃないんだ……)と赤間神宮しか行っていない。

瑠璃光寺は庭園が美しいお寺のようですね。かっちりと作りこまれた庭園の中に、その風景の中心になるように建てられた五重塔。室町時代の建立で、醍醐寺の塔と法隆寺の塔と共に、日本三名塔と呼ばれることもあるそうです。これは初耳。

中国の名家、大内氏、陶氏、毛利氏に縁の由緒あるお寺ですね。山口県に行くことがあるとしたら行ってみたいものです。

第6位:羽黒山五重塔。29.4m。

実はわたしは、この塔が意外に低かったことに驚いたのでした。もしかして一番高いんじゃないかというイメージがあったから。1位の東寺の塔と比べるとせいぜい半分強ですよね?

羽黒山の五重塔は杉の林――というか、森の中にあります。車では行けないところ。徒歩30分ほどかかり、雪のない季節ならそこまで厳しい道ではありませんが、まあ山道で、それなりにアップダウンがあります。

杉の木に囲まれて立つ五重塔は美しい。羽黒山は修験道の修行場、その参道の森の中で五重塔に出会うと、俗界から離れたその隠された佇まいに神秘的なものを感じます。森の中でずっと待っていてくれたような。こんにちは、と挨拶をしたくなるような。

羽黒山の五重塔は平将門創建と言い伝えられているそう。関東の将門が……こんな離れたところにわざわざ五重塔を建てるか?と若干疑問ですが。聖地としての羽黒山はそれなりに聞こえた存在だっただろうけど、そんな遠くから寄進しますかね?勢力範囲じゃなければ難しい気がするのですが。山形県までがっつり取り込んでいた気はしないなあ。現存の塔は、南北朝時代の再建だそうです。

第7位:明王院。29.14m。

南北朝時代に建立されたもの。彩色されており、おそらく法隆寺の五重塔の建立時のカラーリングがこんな感じだったと思います。隣にある本堂も堂々たる建築で、国宝ですって。本堂でかいなー。

第8位:海住山寺。17.7m。

お寺の読み方は「かいじゅうせんじ」。初めて知りました。

五重塔はここで急にサイズダウンして3分の2以下になります。このくらいの大きさだとだいぶ印象が違いますね。17メートルといったら5階建くらいの高さになるので、建築物としては小さいとはいえないですが、五重塔ならこのくらい、という感覚からすると多分だいぶ小さく感じると思います。

第9位:室生寺。16.1m。

室生寺は行きたくて、まだ行けてないところです。数年前に地元に室生寺展が来たことがありますが。十二神将像が素晴らしかった。境内が広く、撮影スポットがたくさんありそうなイメージなので、半日くらいはたっぷりいるつもりでじっくりと回りたい気がします。

五重塔は本堂から奥の院へ向かう石段の上。屋外にある木造五重塔としては日本最小で、古さも法隆寺五重塔に次いで2番目。西暦800年頃の建立だそうです。ただし台風被害の修理のため、2000年頃に修理を行なっており、色合いが鮮やかなのも修理が20年前だから。

ここも背後に山を従え、姿が映えるところですね。

第10位:元興寺。5.5m。

大きさもここまでくると、ぐっと小さい。5.5mというと二階建の住宅より低いくらいです。建築というよりむしろ工芸?と思うが、内部構造まできちんと作られているから(?)建造物に分類される……というと、第11位の海龍王寺は内部まで作られていないのに建造物らしいから、その基準がわからない。屋内にあるそうです。

元興寺には行ったことがあると思っていたのに、記憶が間違っており実は行っていませんでした。元興寺界隈は近年街歩きを楽しめる、賑やかなエリアになっているようですね。

第11位:海龍王寺。4m。

そして最後が、高さ4メートルの屋内五重塔、海龍王寺。これは建築物って感じがしないなあ。たまに模型で3メートルくらいのものもありますからね。あまりしみじみと見上げるって感じにはならないかも。

海龍王寺は奈良市街の左上にあるお寺。観光名所としては、メジャーとまでは言えないかなあ。奈良市内を3日くらいかけてじっくり回るタイプならなんとか行くかも?という位置のお寺です。隣の法華寺もおすすめ。

奈良市といえば、東大寺・興福寺・春日大社・奈良国立博物館・唐招提寺・薬師寺で2日、というのが相場でしょう。3日あったら奈良市内ではなく斑鳩に行きそうだし。

わたしの「奈良県心ゆくまで」をプランにすると、1日目2日目で上記の6か所を廻り、3日でその他の法華寺・海龍王寺をまわり、平城宮跡をさまよい、4日目で石上神宮・大宮神社を廻り、桜井・明日香・葛城を3日くらいかけて回り、吉野に1日、予備日に1日。……8日間は欲しいですね。あ、室生寺に行くならもう1日追加だ。

奈良県は全9日間で制覇したいと思います。前に4泊5日で奈良を廻った時、「そんなに長くいて、見るとこあるかの?」と地元のおじいさんに言われました。むしろそう言われたことにびっくりした。

 

国宝五重塔の旅。

けっこうな範囲にあるので、11基全部を一度に回るのはよほど趣味に走れる人じゃないと無理ですが、京都・奈良の8基ならがんばれば一度の旅行で行けそうですね。このうちちょっと行きにくいのは海住山寺と室生寺。

室生寺は、明日香に近い桜井からさらに東の長谷寺、それよりもっと奥の室生寺、という位置関係になります。三重と奈良の境近い山の中。

近鉄大和八木駅から近鉄大阪線に乗って、近鉄室生口大野駅で下車。そこからバスで15分ほど。バスは季節によって1時間に1本、あるいは2本。3、4キロだと思うので、健脚の人なら歩けないことはないと思うけど、おそらくそれなりに山を登る感じ。バス時間を調べて行った方がいいと思いますね。

海住山寺は、最寄のJR加茂駅まではJR奈良駅から乗り換えなしの19分で着くらしいのですが、そこからが若干難。加茂駅から海住山寺まで3キロちょっとのところ、バスに乗っても最寄バス停は1.7キロだそうなんです。微妙ですよね。

あ、コミュニティバスが1時間に1本あるそうだ!これならお寺の最寄の海住山寺口まで行けそう。

わたしは数年前に奈良に行って、長年行きたかった浄瑠璃寺を訪れました。……海住山寺とは方向的に同じだから、出来ればカップリングで行きたかったんですけど、浄瑠璃寺も海住山寺も微妙に行きにくく。どっちかを選ぶしかなかったんですよね。

浄瑠璃寺。岩船寺。海住山寺。恭仁京跡。このあたりをまとめて行きたいですねー。

それなら奈良市内でレンタカーを借りて回った方がベストな気がします。気の向くままに自由に時間を割り振り出来るし。わたしは運転が得意な方ではないですが、奈良市内の交通量ならなんとかなりそうな気がする。でも熊本駅周辺で(交通量の関係で)オソロシイ思いをしたから、奈良駅周辺にはあまり近づかないようにしよう。気になるのは海住山寺へ続く道がけっこう細い道らしいこと。細い道は九州でかなり懲りている……。

30.結局、高千穂・五ヶ瀬はひたすら道路に苦労したのである。の巻。

他にも魅力的な塔、たくさん。

国宝じゃなくても、他にも魅力的な塔があります。ぱっと思い浮かぶのは、備中国分寺の五重塔。あそこは周辺の風景も含めて国宝級ですねえ。古代めいた里の風景のなかに佇む、美しい塔。たしか電車から見えるんじゃなかったでしょうか。見たのははるか昔なので、記憶は定かではないけれども。吉備路もまた行きたいところの一つです。

あとは当麻寺。これは三重塔で、東塔、西塔が両方揃っているのは珍しいことだった気がします。薬師寺も東塔西塔ありますが、西塔は近年の復元です。当麻寺は奈良県葛城市の山すそにある大規模なお寺で、中将姫の伝説のある静かなところ。数多くの伽藍の屋根の連なりが美しい。帰り道に振り返ると、遠くに見える双塔がいつまでも見送ってくれる。

三重塔で好きなのは、斑鳩の里にある法起寺・法輪寺の三重塔。法隆寺の五重塔と合わせて斑鳩三塔と言われています。法起寺と法輪寺の塔は小さめ(24m)で、ほぼ同じような造型で、法隆寺の五重塔の双子の弟のよう。伝阿佐太子画の「聖徳太子と二皇子像」と似ています。

法起寺の塔は三重塔として国宝。なんと西暦706年に建てられたそうですから。文武天皇の時代。50年ほど前に大規模な改修は行われているそうなんだけれども。1300年、斑鳩の里を見守って来た塔。

 

五重塔の高さ比べ。

有名な五重塔の高さがそれぞれイメージと違ったので、高さ順に並べてみました。東寺が意外に最大。羽黒山がそこまでではない。4、5メートルの五重塔で国宝のものがあることも知らなかった。

知らなかったといえば、川崎大師にある五重塔。八角形なんですか!日本国内にこんな形の五重塔があるなんて知らなかったよ!いろいろあるなあ。変な形の塔、多分他にもあるんだろうなあ。

好きな歌人に、こんな一首があります。

ゆく秋の大和の国の薬師寺の塔の上なる一ひらの雲

佐々木信綱

塔は、久しぶりに会った友人のようになつかしい。

 

 

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