本を読むこと

◎梨木香歩。繊細な視点でつむぐファンタジーとエッセイ。

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梨木香歩は繊細に真摯に物語を語っていく作家です。誠実な人柄と少しの不器用さを感じさせる。エンターテイメントとして作品を作っていくというよりは、自分の中にある思想をフィクションとして生み出していくタイプの作家。

 

梨木香歩とは。

「西の魔女が死んだ」が一番有名な作品だと思います。これが彼女のデビュー作。わたしはこれを読んだ時に号泣しました。おばあちゃんっ子だった人の心には特に刺さる内容だと思われる……。


西の魔女が死んだ (新潮文庫 新潮文庫) [ 梨木 香歩 ]

主人公のまいは中学生。学校にはもう行かないと決心し、母の実家でおばあちゃんと同居することになります。まいはイギリス人であるおばあちゃんと、今までとは違う生活を始めます。

おばあちゃんがイギリス人であることは、梨木香歩がイギリスに留学した経験から来ているのでしょう。彼女はイギリスでベティ・モーガン・ボウエンという児童文学者に師事したという経歴もあります。

児童文学者に師事するというのはどういう状態なのだろう?といつも疑問。ボウエンの日本語翻訳作品はないようです。日本のAmazonだとこういう本が買えるようですね。

 


Do You Believe in Fairies?

シンプルなタイトルなので他の作家の作品も出て来る。

 

梨木香歩のおすすめ。時代物和風ファンタジー作品。

わたしは梨木香歩の中では、少し肩の力が抜けたユーモラスな話の方が好きだなーと思っているので、その方向の作品をおすすめさせていただきますね!

梨木香歩のファンタジー世界は日常から滑り込む異世界、あるいは日常にふと現れる異形のもの、というパターンが多いです。「不思議の国のアリス」型。「指輪物語」のように最初から最後まで別世界の話、というのは少ない……皆無かもしれません。

やはりデビュー作の「西の魔女が死んだ」をまず読んで欲しい気がしますねー。ちなみにこの作品は映画にもなっています。


西の魔女が死んだ [DVD]

この原作をどんな映画に作るのか、と不安に思って見ましたが、雰囲気がとてもいい映画でした。おばあちゃんの家の佇まい、小物使いなどに見どころあり。

「おばあちゃん」を演じたサチ・パーカーはシャーリー・マクレーンの実の娘で、幼少期を日本で過ごした女優。映画の中では「おばあちゃん」だったのに、舞台挨拶の写真ですごく若々しかったので驚いた記憶があります。考えてみればこの映画の時、サチ・パーカーの実年齢はまだ50歳そこそこでした。歩き方や動き方がおばあちゃんだったのでまったく違和感はありませんでした。

ただ、中学生の主人公から見た心情的な話なので、主役を演技がたしかほぼ初めての13歳か14歳の人が演じるのは荷が重かったかなと思います。がんばっていたけれども。

原作には登場しない、馴染みの郵便屋さんを高橋克実が演じていて、要所を締めていました。さすが役者。また、登場時間はあまり多くないけれども、まいのお母さん役のりょうが雰囲気に合っていたと思います。

「家守綺譚」

わたしが梨木香歩の作品で(「西の魔女が死んだ」を別とすれば)一番好きなのは
この作品。


家守綺譚 (新潮文庫)

明治青年シリーズ。という名前はついていないけれども、いくつかある明治期の青年を描いた作品の中の一つです。

主人公はものを書いてふらふら暮らす青年。この作品には漱石の遠い残響がある気がします。「吾輩は猫である」は苦沙弥先生の話だったけれど、あの苦沙弥先生の孫の一人にこんな浮世離れした青年がいてもおかしくない気がする。

この作品は短編で、ストーリーがどうこうというよりは点景スケッチごときもの。梨木香歩は植物が好きなので、各話のタイトルがみんな植物の名前になっています。サルスベリ、都わすれ、ヒツジグサ、ダァリヤ、ドクダミ、カラスウリ……

季語のような和風の植物名が並んでいて、それを眺めているだけでも愉しい。

とはいっても悟りすました私的散文というわけではなく、詩情漂う文章でユーモラスな、河童が流れて来た話やサルスベリに惚れられた話を書く。大真面目にきれいにホラを吹いて澄ましている。こういう作品を読むと梨木香歩、好きだなあと思います。

「冬虫夏草」

「家守綺譚」の続編。


冬虫夏草 (新潮文庫)

わたしは、現実と不思議の世界とのはざまに建っているような「家守綺譚」のあの家が大好きなのですけれども、征四郎(主人公は征四郎という名前なのです)は今回、行方知れずになった犬のゴローを探して旅に出ます。

これがまた妖怪・動物オンパレードのふしぎ世界。今回はふしぎ短編ではなく長編、旅をする話です。梨木香歩は河童がよほど好きらしく、今回の話では主に河童が大活躍。一応舞台は鈴鹿近辺の設定なのですが……

ちなみに「家守綺譚」と「冬虫夏草」の文庫版表紙は神坂雪佳という近代の日本画家の作品です。スズメがカワイイ。

「村田エフェンディ滞土録」

これも明治青年の話。


村田エフェンディ滞土録 (角川文庫)

タイトルだけ見ると何の話かわかりにくいですが、村田という日本人の青年がトルコへ留学し、日常を過ごす。そのつれづれなる(とはとても言えないけれども)日常を描いた話。滞土の土は、土耳古(=トルコ)のトです。エフェンディはトルコ語で「旦那」とか「先生」という意味の敬称。

おそらくこの話には作者のイギリス留学経験が活きているのだと思います。トルコに行ったことがないのでトルコっぽい雰囲気の話になっているかどうかは定かではないけれども、後半突然に梨木香歩らしい和風ファンタジーになってびっくりする。

なお、この話の主人公、村田青年は「家守綺譚」の征四郎とは友人同士で、「家守綺譚」に村田青年の話がちょっと出てきます。その部分を楽しみたいなら「村田エフェンディ滞土録」を先に読むのもありかも。

 

梨木香歩の現代ファンタジーもの。

現代ファンタジーものとしては「からくりからくさ」「りかさん」などもありますが、わたしが好きなのは「裏庭」「沼地のある森を抜けて」です。

「裏庭」


裏庭 (新潮文庫)

近所の古い洋館に残された大きな鏡。そこを抜けて照美は不思議な裏庭の世界へとたどり着く……。

こんな風な始まり方だと「ナルニア国物語」のようですが、「裏庭」は単に異世界の冒険の話ではありません。裏庭に行く前に照美も照美のお母さんのことも、お母さんの小さい頃のこともかなりのページ数を割いてじっくりと語られます。

単に冒険に憧れて異世界に旅立つのではなく。悩みや辛さのある少女は、ここではない何処かへ、何かを探しに見知らぬ世界へ恐怖を感じながらも足を踏み入れるのです。

個人的にはこの作品には要素が多すぎ、書き込み過ぎがあるかなあと思っています。作者の思いがこもりすぎていて、話としてはだいぶ茂りすぎ。もう少し刈り込んだ方がいいかなと感じました。

が、「西の魔女が死んだ」からおよそ2年半後に出たこの話で、この作家は本当に書きたいことを書けたのではないかと思います。

「沼地のある森を抜けて」

作者、渾身の一作。(だと思う。)


沼地のある森を抜けて (新潮文庫)

ぬか床の話。

……これは実は作品としては納まりが悪いというか、ファンタジー?SF?何?というとまどいを感じる本。一から十まできちんと並んでいるようなお行儀が良いお話ではないです。

想像力の奔馬を心のままに暴れさせたような……。なので訳わからん、と感じる部分はあるのです。かなり。そういう意味では好き嫌いが分かれる本。

しかし細部まで理解しようと思わず、ざくざくと読み進んでいくと、想像力の熱さが感じられるのではないでしょうか。特に最後の方はちょこちょこ少しずつ読むのではなくて一気読みをした方が面白いと思います。

正直なところ、これはちょっと梨木香歩の最初の一冊目としてはおすすめ出来ない作品です……。何冊目かとして読んでください。

「海うそ」

これはファンタジーというわけではありませんが、面白かったです。2014年出版の作品。寡作な作家なので、近作といっていい本。


海うそ (岩波現代文庫)

南九州の島、遅島へフィールドワークに訪れた若い研究者は、島をくまなく歩きまわり遺跡を調査し、人々の話を聞きとって回る。その過程を丁寧に書いた小説。そして現在の遅島は……

「今はもうないもの」に対する思いを描いた作品です。これは小説ではなくてエッセイで書いてもはまった内容かもしれません。どストレートな民俗学的。

 

吟味した文章によるエッセイ。

わたしは読んで面白おかしいエッセイが好きですが、梨木香歩のエッセイを読む度に「推敲しているなあ」と感心します。作品としてのエッセイ。詩情漂う、低く呟くような書きぶりが魅力的です。

「春になったら苺を摘みに」

イギリスの留学体験を基に描いたエッセイ。


春になったら莓を摘みに (新潮文庫)

わたし、このタイトルがなぜかとても好きなんですよねー。春になったら苺を摘みに。苺好き。

下宿先の女主人、共に下宿する人々。単にその頃の思い出だけをつづるのではなく、そこから発生する思考を書いています。真剣に物事を考えている人だ、ということが良く伝わります。

「エストニア紀行: 森の苔・庭の木漏れ日・海の葦 」

エストニアという比較的珍しい国への旅を書いたエッセイ。


エストニア紀行: 森の苔・庭の木漏れ日・海の葦 (新潮文庫)

梨木香歩は、植物と鳥と、旅を愛する作家です。作品の傾向からすると全くアウトドアなイメージはないのですが、カヤックに乗って湿原を旅する、ということもする。とりわけ鳥は相当に好きらしく、単なる観光の旅をするわたしからすると、一体なんでこんな辺境に?と首をかしげる場所が鳥目当ての目的地だったりします。

エストニアでもコウノトリに会いたかったらしい。これが主目的ではなかったようですが。

「渡りの足跡」

鳥の渡りの場所を追って、カムチャツカ、知床へ行った時のエッセイ。


渡りの足跡 (新潮文庫)

カムチャツカに行ってみたいと思ったことはないなあ……。正直、鳥にはあまり興味がないので、テーマ自体にそこまでの共感は抱きませんが、そんなamairoが読んでも愉しめます。

 

梨木香歩。静かで、真摯な作品を書く作家。

わたしはおおむね軽めの作品が好きなので、そこからすると梨木香歩の作品は真面目過ぎると感じるものもあります。しかしこの人の誠実さに対する信頼度はとても高く、たとえあまり気に入らない作品を読んでもそれは揺るぎません。

今後も読んでいきたい作家です。

 

ちなみに(小説の)最近刊は「椿宿の辺りに」。5年ぶりに出した小説だったそうです。


椿宿の辺りに

これもいずれ読もう。

 

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