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◎美術を楽しく見るためには、好きなジャンルと出会うのが大切。西洋美術・イギリスの絵画・ターナー(とウィリアム・ブレイク)。

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ターナーはイギリス最大の「風景」画家と言われます。しかしその場合、「最大の画家」は誰なんでしょう?疑問。わたしはイギリス最大の画家はターナーではないかと思っているのですが、最大の画家なら「最大の風景画家」という言い方はされませんよね?

そんなことを考えて、じゃあ日本は、と考えてみると、……「日本最大の画家」という設問に答えるのは難しい。世界で一番有名な日本人画家は葛飾北斎で文句はないと思うけど、日本の最大の「画家」かというと。浮世絵師を画家というのが微妙に違和感。

そもそも「日本画」は、正確には明治期以降に洋画という存在が出来たあとの対立概念だそうですからね。なので、日本画を描く日本画家は明治以降にしか存在しない。しかしそう考えるとあまりにカナシすぎるので、日本で描かれた絵という意味で日本画を考えます。

そう考えても、これという画家が思いつかなくて……。

狩野派?でも狩野派は永徳と探幽、その他と大勢いるだけに、そのうちの一人を「最大の」と呼ぶことがためらわれる。でも狩野派以外だと?

――きっと最大の日本人画家は今後出て来るんでしょう。きっとそう。そういうことにして、話をターナーに戻しましょう。

 

「イギリス最大の風景画家」、ターナー。

ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナーは1775年にロンドンのコベントガーデン付近で生まれました。町っ子。いや、当時はちょっと街はずれかな?

26歳の時にはアカデミーの会員になっているので、若い頃から画家として認められていたようです。若い頃の画風は写実的。年を経るに従ってだんだんもやもやっとした画風になっていきます。いわば朦朧体。このもやもやっとした感じが後の印象派に多分繋がるんだろうなと思います。

ターナー「海の漁師たち」

Joseph Mallord William Turner - Fishermen at Sea - Google Art Project.jpg

わたしは初期のこの絵が好きです。月光と船を翻弄する波の輝き。葛飾北斎「冨嶽三十六景」との関連を考えたいところですが、ターナーの絵の方が時代は先。

自然界のダイナミズムを表現することに興味があった画家と言われています。この絵はまさにそうですね。こういう絵を描く時には、少なくとも実際に夜の海でスケッチなりなんなりしたのではないかと思いますが、どうなんでしょう。

でもこういうタッチの絵だとあまりターナーという気はしませんね。

ターナー「カルタゴ建設をするディドー」

Turner Dido Building Carthage.jpg

ターナーはこんな絵も描いてます。これはクロード・ロランの影響を濃厚に受けていますね。ターナーも他の画家と違わずイタリアに行って絵画の勉強をしたそうです。フランスの画家もイギリスの画家も、時代的には相当長い間イタリアに学ぶ時期が続きました。その傾向は多分印象派から変わります。

クロード・ロラン「シバの女王の上陸」

Claude Lorrain 008.jpg

ちなみに比較のためにロランの絵。もっと似ている絵があるかもしれません。似たような絵を描く人が複数いるから、見ているこっちは絵が覚えられないのだ!

ターナー「解体されるために最後の停泊地に曳かれてゆく戦艦テメレール号」

Turner, J. M. W. - The Fighting Temeraire tugged to her last Berth to be broken.jpg

わたしがターナーで一番好きな絵はこれですかねえ。物語性のあるタイトルと相まって。2005年に行なわれた「もっとも偉大なイギリス絵画」の人気投票で1位だったとか。

テレメール号は、ナポレオン率いるフランス軍とイギリス軍が戦ったトラファルガー海戦で、重要な役割を果たした戦艦。それの解体曳航となれば当時のイギリス人にはやはり感慨深いものだったのでしょう。日本人に戦艦大和の名前が、ある種の情動を起こすのと同様に。

ある時期からのターナーは自分で詩を作り、それを絵に添えることも多かったそうです。まさにロマン主義。

ターナー「雨、蒸気、速度――グレート・ウェスタン鉄道」

Turner - Rain, Steam and Speed - National Gallery file.jpg

おそらくターナーのもっとも有名な絵。蒸気機関車の力強さとスピードを描いていると言われます。なお、展示会での搬入時、ターナーがその場で蒸気機関車の前を横切る野うさぎを描き入れたというエピソードがあるそう。

……この野うさぎが、いくら探してもわたしにはどうしても見えないんですけれども、どこに野うさぎがいるんでしょう。左側の小舟にも言われて気づきましたが。

イギリスの鉄道はこの絵が描かれるおよそ50年前からスタートしました。産業革命をリードしたイギリスは、鉄道というものに現代とは違う感慨を持っていたかもしれません。たとえば日本人がShinkansen bullet trainに対して無意識に持つような誇りを。新技術に対する高揚感。あるいは、怖れ。

この絵に近代工業文明に対する反感があるとは、わたしはあまり思いませんが、そういう意見もあるようです。

この絵があることで、わたしはターナーを印象派の前駆だと思うんですよね。光ではないけれども、空気感を表そうとした絵。印象派の絵が描かれるより30年ほど前の絵です。

 

独自路線、ウィリアム・ブレイク。

ブレイクはターナーとはまったく関係ない人です。というか、他の誰とも関係ないんじゃないかといいたいくらい独自路線をいった人。イギリス絵画史上一番の異才です。1757年生まれ、ゲインズバラより30年ほど後、ターナーより20年ほど先に生まれた人です。

あまり独自過ぎる画家だったため、生前は評価を受けることがほとんどありませんでした……。が、画家でもあり詩人でもあり、死後は絵も詩も認められ、詩の作品の一つ「エルサレム」は、現在イングランド(「イギリス」ではなく「イングランド」)の国歌のごとき扱いをされているほど。ロンドンオリンピックの開会式でも歌われたとか。

絵としてはよくダンテの「神曲」につけた挿絵が有名だと思うのですが……。絵の図柄がまったく浮かんでこない。自分の大いなる幻想を宗教的・神話的な主題にのせて絵にしたらしく、聖書からテーマをとった絵を描いても、ブレイク独自の解釈がなされており、当時見る人は意味がわからなかったと思われます。わたしもさっぱりわからない。

ブレイク「オベロン、タイターニア、パックと妖精の踊り」

Oberon, Titania and Puck with Fairies Dancing. William Blake. c.1786.jpg

シェイクスピア「真夏の夜の夢」の挿絵。これくらいなら普通の挿絵といえないことはない。これはわかる。

ブレイク「日の老いたる者」

Europe a Prophecy, copy D, object 1 (Bentley 1, Erdman i, Keynes i) British Museum.jpg

しかしこうなるとさっぱりわからない。ブレイクの幻視による「コンパスを持って宇宙を創造する者」らしいのですが……。

彼が本当にやりたかったのは自分で本文も挿絵も描き、立派に装丁した本を作ることらしいです。何冊かは現存するようなのですが、なにしろ手で彩色することを前提としており、実際に作るとしたら多大な労力が必要だったと思われます。

画家としてではなく総合的な芸術家として生きたかった人なのかな。芸術家としてというよりも、自分の中にあるものを全部出し切りたかった人なんだろうな。

同時代の人の日記によると「ブレイク氏は才能と想像力に関しては成功する可能性が十分な人だが、世知と優雅なマナーに欠けていている」という内容の文章があり、人間としては癖の強い、付き合いにくい人だったみたい。

 

全然関係のないターナーとブレイクを並べることになりました。

今回ブレイクをどうしようかと。どこにくっつけるわけにもいかなかったんですよねー。独自性が高すぎて。

結局、ターナー一人も独立して取り上げるほど語るべきこともないので、ブレイクはターナーとのカップリングになりました。そのせいで時代順がバラバラになったのは申し訳ない。まあ時代順はコンスタブルの段階で崩れてたんですけどね。

ちなみにブレイクの前にもちょっと気になる画家がいました。

とにかく馬を描いた、スタッブス。どうも馬が好きで好きでたまらなかった人だと思われます。好きなだけに馬の筋肉のつき方なども正確に描いています。

悪魔・妖精・怪物などを描いたフューズリ。「夢魔」という作品が有名です。ブレイクが独自性が高すぎるといいましたが、フューズリはブレイクと近い場所にいるかもしれません。2人は友人同士だったそうです。

このあたりの人々もイギリス絵画史をもっと深く掘って行けば出て来ることでしょう。

ターナーは古典的絵画と近代的絵画の中間に立つ重要な画家です。これは西洋美術全体を見た時もそうで、結節点の一人ではないでしょうか。

さて、イギリス美術、次はいよいよラファエル前派です。

 

 

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