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◎藤森照信著「フジモリ式建築入門」。攻めてます。

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建築が好きです。いや、建築というと大げさか。建物が好きです。そんなに専門的なものではなく、きれいな洋館、きれいな和風建築、擬洋風建築、ヨーロッパの街並み、お城や館が好き。

そもそもわたしを建物好きにしたのは藤森照信さんだったのでした。そんな藤森さんの著書「フジモリ式建築入門」。

 


フジモリ式建築入門 (ちくまプリマー新書) [ 藤森照信 ]

これ、「建築の流れをおおざっぱにつかみたいな」という人におすすめの本です。

 

藤森さんが面白い。

前に「アール・デコの館」という本のことを書きました。

◎藤森照信著「アール・デコの館 旧朝香宮邸」。名著。

多分わたしが藤森さん自体を知ったのは路上観察学会の本の方が先だと思います。

 


【バーゲンブック】 路上観察學入門

 

路上観察学会とはですね。……説明が難しいのですが、普通の人が絶対に気づかない日常すぎる美――というより面白みを、路上を徘徊しながら探索・鑑賞する行動を行なう集団です。

なんということはない風景も、見立てによって世界が変わる。たとえば……コンクリートの隙間に長年の間に土が溜まり、そのわずかな土に名も知れない雑草がちょろっと一本映えているのを写真に撮り、「坪庭」と名づける。それをみんなでスライドで鑑賞し、撮影者の世界の見方を共有する。あるいは反発する。それもみんなユルく、力を抜いて。

ある意味、写真による俳句です。俳句というより川柳か。基本的には「面白がる」のがメイン。見ているこちらとしてはわかるものもあり、わからないものもあり。正解がないので、個人の感覚で面白さが楽しめる。これは全国でいくつか派生集団も生みました。

路上観察学会が何しろ面白かったから、藤森さんにも「面白い人」というイメージを持っていた。一応大学教授だというのは知ってはいたのですが(当時はまだ助教授くらい?)、路上観察学会では発想がダイナミックで、言動はなかなかに野性的。「(いい意味で)野蛮人」というのが学会内でのあだ名でした。

そういう人が書いた「アール・デコの館」。手に取ったのは路上観察学会のあの楽しさを期待したからでしたが、意外なほどにマジメな内容でした。こんなに真面目なことを書くんだーと驚いたが、短いページ数で日本のアール・デコと旧朝霞宮邸(現庭園美術館)についてまとめてくれており、これを読むと日本のアール・デコについてのことが頭に入ります。

そんな藤森さんがちくまプリマー新書で出したのが上記の本。

 

ちくまプリマー新書とは。

世に新書は数多いなかで、ちくまプリマー新書の特徴といえば、基本的に「若年層向け」というコンセプトがあることです。目安としては高校生くらいでしょうか。なので、わかりやすい内容を心がけた新書というジャンルの中でも、さらに基本的なところを押さえている。

ただ藤森さんは基本的な部分「だけ」を書いているわけではありません。学者の著作で、しかも概説となれば基本的な部分だけを書くイメージがありますが、藤森さんはこの本に自分の考えも豊富に盛り込んでいる。その部分が読んでいて楽しいので、教科書みたいな書きぶりではなく、大人でもちゃんと読み応えがあります。

 

原始時代への力の入り具合が攻めている。

この本は5章から成っています。

第一章 建築とは何か (9ページ~)
第二章 人類最初の建築 (27ページ~
第三章 ヨーロッパ建築のはじまり (71ページ~)
第四章 ヨーロッパ建築の成熟と死 (107ページ~)
第五章 日本の住宅 (173ページ~)

「建築史」といった場合、一般的には西洋建築史のことになります。ちょこっと石器時代の洞窟とかに触れて、メソポタミアの建築にふわっと触れて。その後エジプトの建築、特にピラミッドと神殿についてやや詳しく述べ、ギリシャ建築を建築の祖とし、それに連なるローマ、ロマネスク、ゴシックについて詳しく述べていく。それが王道。

でも藤森さんは先史時代についての分量が多い。全部で224ページの本文の中で、60ページあまりをエジプト、ギリシャ以前の時代割くのは珍しいかと思います。この時代のことは当然よくわからないことが多く、学者はよくわからないことを書くのを避けるものです。でも縄文時代が大好きで、自分でも竪穴式住居を作ってみてしまう藤森さんはここらへんのところも語ります。自由な発想で、日本の、世界の、例を引き出しつつ語る。面白い。

……面白いんだけども、定説ではないからそこは一応区別してお考えください。広く認められた定説と、藤森さんの個人的な意見。

 

面白いと思ったところ。

建築の5つの力。

建築とその集合としての街並みは、古くからあり、デカくて、長持ちし、そして美しい。この四つの力が力を合わせ、日ごろそれに接する人の記憶に残り、アイデンティティを保証してくれる。“懐かしさ”の力。

建築とは何かを考えた時、藤森さんは、古さ、デカさ、長持ち、美しさの4つの力を上げる。それはまあ普通。それに加えて「懐かしさ」の力を付け加える。

人間のアイデンティティ――自分が自分であると認識すること――は記憶の連続を基礎としている。その記憶は通常、目で見たもので構成されている。恒久的に存在しているのは山河。それに準じて街並み、建築など。建築などが取り壊されて淋しさを感じるのは、このアイデンティティの確認を阻害されるから。

ちょっと硬い言い方になりましたが(藤森さんはもっと柔らかい言い方をしている)、これは面白いと思った。たしかに変わること、無くなることに対しての寂しさはどうしてなんだろうと思っていた。懐かしさの力は思いつかなかった。懐かしいという感情はわたしにはとても親しいものですが、それを力ととらえるとは。

現代日本の家族は「ステンレスの流し台」が作った。

日本の戦前までの住宅では台所が冷遇され、流しは人造研ぎ出し石、家の中でも暗くて狭くて汚い場所だった。それに対して戦後は炊事場が家庭の中心に躍り出て、今や家族の中心と言えば台所を含むLDK。これはひとえに人造研ぎ出し石からステンレスの流し台に変わったことが大きいのではないかと。そして家は、父の家から母の家へ変わったと。

この辺は多分定説。初めて読んだ時は膝を打った。そんな具体的な、個別的な、単なる「もの」が現在の家族状況を決めているのか!と。もしステンレス流し台が開発されず、人造研ぎ出し石の流しのままだったら、現在の共働き社会はなかったかもしれないですよね。

コンドル先生のせいだったのか……。

ジョサイア・コンドルは近代日本建築史の最初期に位置するお雇い外国人ですが、当時の教え子であり、その後の日本建築界を率いていく辰野金吾らにこう教えたそうです。

建築の本質は実用ではなく美である。

これ、誰の引用とすればいいのか不明。藤森さんとするべきか、コンドルの引用なのか、辰野金吾たちの誰かが残した記録なのか。

……しかしこれを読んで、元凶はアンタか、コンドル先生。とがっかりした。
わたしは建築は美よりも何よりもまず実用であることを忘れるな!という立場で。使い勝手を考えずに建てられた建築は大嫌い。

コンドルは、建築は実用一辺倒だと考えられていた時代の中で美を求めたのかもしれないけれど、この言葉の影響下に育った建築家たちは、実用を軽視して、その上「美」ではなく「理念と個性」に走ってしまった。

他人の金ででっかい箱モノを建てるのなら理論とかは新奇性は後でもいいから、実用性と経済性をまず成立させんかい!……と、特に公的建築物について思います。実用性・経済性・安全性をクリアした上理念を追求するとか、個性に走るのは十分アリだと思いますが、後者を優先させるのはナシ。

だが、テレビ番組に出て来そうな「面白い」建築はやっぱり人目を引きますし、注目されれば目立って建築賞とかも取りやすくなり、結果として目に触れる建築はその目新しさと理念だけで構成されることになる。

わたしは実際に使っている人の使い勝手をもっと判断基準にするべきだと思いますね。使いづらい建築は、膨大なお金を(あるいは税金を)つぎ込んで作った巨大なゴミでしかないんですから。しかも大きければ大きいだけ、被害は広範囲にわたる。

が、難しいことは、出来上がって実際に使ってからじゃないと使い勝手の良さ・悪さというのはわからないということです。何百万と作られていて、例としては豊富な個人住宅さえもよく正解を外す。もっと複雑な要件が絡み合う公共建築物においておや。

たしか昔、舞台美術家の妹尾河童も、新しく出来る舞台ホールについてエッセイに書いていたはず。いくつも新築のホールを使う経験があるけれども、軒並み使いづらいと。

舞台を使う側の聞き取りなら、それほどハードルは高くないと思うのに、それでも実際に使用する側の意見は建築に反映されない。建築家は発注主の意見は若干は聞くのだろうけれども。使用者の意見を深く掬い取らなければいい建築になりようがないだろうになあと思います。

 

気に入ったらもう一冊。

と、このような調子で1冊丸々見ていくと、とめどなく長くなりそうなので第一章の「建築とは何か」16ページ分だけで止めます。読んだ本が面白いと、面白い部分を一つ一つ取り上げて、なるほどなるほど、とか意義あり!とかいろいろ言いたいのですが、それをやっていると永遠に終わらない……

面白く思うポイントがたくさんある本です。

なお、藤森さんは同じちくまプリマー新書で「人類と建築の歴史」という本も書いています。

 


人類と建築の歴史 (ちくまプリマー新書) [ 藤森照信 ]

 

2005年出版なので、この本の方が先。先ほどの本を読んで面白かったら、こちらも読んでみてください。藤森さんの本はエッセイとしてもおすすめ。

 

 

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