amairoの旅日記 西四国・南九州の巻/2019

22.湯布院・コミコアートミュージアム。空間を味わう。

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ペンションに着いたら、まだスーツケースは届いてませんでした。部屋で少し休んで15:40に間に合うようにペンションを出ようとしたら、そのタイミングで届いた。スーツケースを部屋に運んだりで出がけにバタバタした。

でもまあ無事に15:30にコミコアートミュージアム。

これは翌日、晴れてから撮影した全景。他は入場したこの時に撮ったものです。

 

 

 

建築設計は隈研吾。

隈研吾は昨今、やり直しの国立競技場で有名ですね。彼の建築は、テレビで「梼原(ゆすはら)雲の上のギャラリー」(多分美の巨人たち)、「サニーヒルズ南青山店」(多分ぶらぶら美術・博物館だったか……)を見たことがあります。今回の旅行前に高知で梼原に行けないか、ちらっとチェックしたけど今回の日程では行くのは難しく諦めました。

――ところで今、「梼原雲の上のホテル」のサイトを見たんだけどね。(雲の上のギャラリーは雲の上のホテルの付属施設)
雲の上のギャラリーを紹介するのに、その最大のデザイン的特徴である一本足とトキョウという構造の集合体の写真を載せなければ意味がないではないか!こら、何やってんねん!

上記の2つはわりあい奇抜な、人目を驚かす建築です。でも隈研吾はそこまでとんがってる建築家というイメージはないです。今回のコミコアートミュージアムもあまりてらいのない落ち着いた建物。その仕掛けは内部にこっそりとあります。

ここは展示物としては村上隆の作品6点と杉本博司の作品5点です。展示室1が村上隆の部屋、2が杉本博司の部屋。

 

空間として味わう。

 

こちらは展示室1から2を見たところ。こちら側の反射が映っているのはゆるして。建物自体もシンプルな長方形の間取りで、1Fの間取りは受付とこの2室でほぼ収まるはずです。そして展示室2つの間には浅い水場がある。ここが建築的には肝かと思われる。

この水場は外と繋がっていて(展示室とはガラスで遮断)、風が通るようになっています。この日は雨で風もあったので水面が波立っています。逆にまったく風がない時は鏡のようになり、展示室1にある村上隆「雪月花」の月が水面に映るそうです。そうなるように作品を配置したのだとか。天気と時間で変わる空間。

部屋がキューブのようで、反対側の部屋には誰もいない。展示作品を内包した硬質なガラスの器。空間として楽しめる。建築を見に行っても空間を楽しむところまではなかなかたどりつかないものですが、ここは完全ツアー制によって、建築者の意図も作品を配置した学芸員の意図も、見どころを説明してくれるのでありがたい。ここは解説つきで正解。むしろ必須。

この時のツアーは13人。思ったよりも集まってました。どっちかというと年齢層は若めで、多分ここを主要な目的地にして来たんだろうなあという顔付の人が多かった気がする。

わたしは展示物よりは、主に建築、空間を楽しみました。説明をしてくれるガイドさんもひとしきり説明してくれた後は、ちゃんと鑑賞する時間もまとめて取ってくれるのでいいと思った。普通のガイドツアーだと絵の前に移動して、説明して、「じゃ次へ行きましょう」ですよ。鑑賞する時間がどこにもないっちゅうねん。

片方の部屋に人がいる時は、もう片方の部屋は無人というのがありがたいですね。それでこそこの空間が楽しめるというものです。

 

村上隆作品。

村上隆は。
実はそんなに好きではないアーティストです。ほとんど知らないという理由もある。というか、わたしは現代アートが全般的に嫌いだ……。まあ食わず嫌いな感じだと思ってください。なのでDOBという代表キャラクターの名前も知らなかったし。どうも現代美術だと思うと目をそらす気持ちがある。

「雪月花」は3枚セットの絵でそれぞれ雪・月・花をモチーフにしたもの。……ええ。きれいに描いてあってカワイイけれども、言えることはそれしかない。「花」でDOBが落ちてるのは花びらが散っていくことと同期していると思うし、「月」は波の上を迷走し、月の真下で不安げに月を見上げていることからなんらかのドラマ性は感じるが、それ以上は特に……

3枚組、雪月花というのは伝統的な日本画のテーマだから、本来は3枚並べて飾るべきでしょうね。それも3枚の描かれている内容のバランスを考えると、「雪」「月」「花」で並べるべき。しかしここでは雪と花を2枚並べ、そこから90度の壁に月を1枚だけで飾っている。それは壁面の大きさの制約も若干はあるにせよ、水面に月を映そうと試みた学芸員によって決められた配置らしい。

これは……どうなのだろうと思った。ガイドさんに訊いてみると、村上作品の配置はミュージアム側が決め、杉本博司の方は展示の位置関係も本人の指定ありだったと。

うん。作品が生まれてから、作者がその全てを行く末ずっと追いかけていくことは不可能だしね。自分の手から離れた時点で「それは他人様の物」という割り切りは必要だろう。「雪月花」の場合、せいぜい売る時までは最低限「3枚セットじゃないと売らない」という選択は出来るとしても、買った人が全員、並べて飾るスペースを持っているとは限らない。極端な話、飾らずにしまっておくというパターンも考えられるわけであって……。作者側がそこまで購入者に対して拘束は出来ない。

だが「雪月花」で、デザイン的にも意図が明白なのに、雪・花  月にすることについてはどうか。意図を汲んで順番に並べることが作者への誠実さではないのか。でもミュージアム側には「水面に月を映したい」という明確な意志もあって。それはそれでアート作品から派生するアート、空間デザインのアートだから、尊重されるべきだろう。

村上隆の作品については、上記のようなことも考えました。あまり考えたことのなかった部分なので、これはこれで自分としては面白かったです。

 

杉本博司作品。

杉本博司というのはつい最近まで全く知らなかった現代写真家。こういう経緯で知りました。この番組に出ている杉本博司は大変ゆかいなおじさんで好きだったです。お友達になりたいタイプ。でも現代美術家としてはコムズカシそう。

コミコアートミュージアムを訪れるにあたっては「このタイミングで杉本博司の作品に当たることも縁だから、これは呼ばれたということか」という思いもあった。

杉本博司の代表作「海景シリーズ」が5枚。

うん。やっぱりね。みんな同じように見えるよ。色の濃淡こそ違え、全く同じ構図、二分割の空と海でしょう。何をどう見ればいいのか。テレビで見た時は、実際に見ればまた違うのかなーと思ったが、実際に見てもよくわからない。

あえて言うなら至近距離から見ると波の大きさが見えました。基本的には全部凪の海、しかも人工物は何も入らないような全てを削ぎ落した構図で撮っているが、そんななかでもさすがに多少の波はあります。大判のカメラを使っているせいか、そういう部分もくっきり写っていた。しかし見どころはそこじゃないだろうな……。

差異を探すのは間違っているかもしれません。一枚は一枚で見るべきであって、いくら同じような作品が続こうとも「初めての一枚」として対峙すべきものなのかも。だがわたしはモネの「睡蓮」は描きすぎだろうと思うし、千住博の「ウォーターフォール」も描きすぎだと思ってます。

「ウォーターフォール」は最初の一枚に出会った時は、おおう。と衝撃があったんだけどなー。何十枚も増えて行くに従って有難味がなくなったというか。モネの「睡蓮」はそれでもだいぶ変化はあって、いい睡蓮も悪い睡蓮もそれなりにあるが、「ウォーターフォール」の方はやっぱりみんな同じように見える。

作品の配置を指定するのは、いかにも杉本博司らしい。相当こだわりが強い人のようだから。

 

研修棟、庭。

本館の他、敷地内には別棟で研修棟もあります。たしか3棟ほど。本館と研修棟はデザインの外観は共通しており、黒い壁は焼杉使用。

 

展示室でもこの庭でもガイドさんからたくさん説明はあって、いろいろ興味深かったのですが、……人間は忘れる動物です。あんまり覚えてないんです。メモを取ってくるべきだったか。

 

光零れる。

 

2階も良い空間。

その後、本館2階へ。ラウンジがあります。はりつめていた雰囲気がふと和む。

これはけっこういい写真。これは退出の時撮った写真ですが、入って来た時は13人分のパンフレットとお茶が極めて整然と並んでいて、そんなところもこのミュージアムのこだわりを感じさせた。入場料はキャンペーン料金で1200円(通常は1500円)。少し高いですが、ここできれいな写真の載った立派なパンフレットを貰えます。説明を聞きながらお茶を飲む。

 

晴れていれば由布岳がきれいに見えるところらしい。テラスにも出られて、てすりの向こうは枯山水の庭。建物全体のコンセプトとして、湯布院の美しい自然と融合することを目指しているそう。由布岳について語る時のガイドさんの言葉は、地元民にとって由布岳は誇りである、というのがよくわかる憧憬の口吻。

 

 

建物真横からの眺め。けっこう枯山水庭園のスペースが広いことがわかります。写真は翌日、晴れた時に撮ったもの。手前のゲートボールがほのぼの。

ツアー約1時間。満足。来て、良かった。

 

現実に戻って。

湯の坪街道のコンビニで水を買い、湯布院名物金賞コロッケを買い。宿へ戻ります。

ここで道に迷いました。宿と金賞コロッケの店はせいぜい5分程度の距離なのですが「あれ?こっちの道でも行けるかな?」と思って、来る時とは別な道を選んだのが運の尽き。袋小路に入り込みました。前にその辺をぐるぐる歩き回っていたことが災いして、どの道もみんな見たことがあり、やばい、わからなくなった。最終的にはGoogleマップのお世話になりました。

実はこの日のペンションは貸し切りです。

もちろんわたしが自分で貸し切りにしたわけではなく。結果的に貸し切りになっただけですが、実はこちらは5つ6つの部屋がある宿泊棟とオーナーの住む母屋が分かれている……。え?ここにわたしだけ?

有体に言えばちょっとコワかったですー。森の中といった趣のあるペンション。部屋はツインで広々していて内装もなかなか可愛らしく……いいんですが、こういう雰囲気の建物は、なんだか連続殺人事件の舞台っぽい。一部屋ずつ殺されて行って「そして誰もいなくなった」……。いや、最初からわたし1人しかいないから、連続殺人になりようもないな。

お風呂も別棟なんです。夜になったらコワくて絶対入れない、と思ったのでまだ日があるうちに入ります。お風呂も貸し切り。当然。せっかくだからのびのび入ろうと心がけて、やっぱりどこかうすら寒く、早々に出る小心者。

……でももしこれが知らない人と2人だったら、きっともっとコワいですよー。1人で良かったというべきにやあらむ。

ところでさっきから「殺人事件の凶器」とか「連続殺人事件の舞台」とか言っているのは、単にわたしが推理小説好きだからであって、普段から殺人を計画しているわけではありません。

夜ご飯はさっき買って来た金賞コロッケと金鱗湖のそばで買った枇杷3個で。枇杷、美味しかったー。重さにめげずに買って良かった。

 

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