時々宮城県の美術館を検索するのですが、さすがにそう劇的に増えるものではないですね。が、知らないうちにちょこっちょこっと見知らぬ名前があって、チェックをするとたまに思わぬ発見があったりします。
仙台から気軽に行ける距離にどんなミュージアムがあるか、見てみましょう。
まずは定番の3ヶ所。
仙台近辺で三大ミュージアムといえば宮城県美術館・仙台市博物館・東北歴史博物館の3つ。
宮城県美術館
青葉山の麓、東北大と敷地を接する文教地区にあります。公共交通機関も利用しやすい立地。バスでも地下鉄でも観光循環バス「るーぷる仙台」でも行けますが、おすすめは地下鉄。一番わかりやすく移動時間も短いです。地下鉄駅から5分ほど歩きますが、昔のお城の敷地内なので、過去に思いを馳せながら歩いて吉なところ。
なお駐車場もある程度広く停めやすいです。でも人気のある特別展の時は車が並んで渋滞します。
常設展はそれほど規模が大きくはないですね。大雑把にいえば近代洋画、100年くらい前のヨーロッパのリトグラフ、東北縁の画家の作品などが柱。近年は日本画もちょこちょこ入って来てます。あまり大作はないですが。
個別でいえば、
美術館としての代表作といっていいカンディンスキーの「商人たちの到着」
クレーのリトグラフ35点
エゴン・シーレの何点か
ミュシャのポスター何点か、
松本竣介の「画家の像」
川端龍子「和暖」など。
カンディンスキーの「商人たちの到着」は一般的なカンディンスキーのイメージと違う具象画。これと松本竣介作品、クレーの何点かは展示してあることが多いです。これは行けばほぼ見られる作品。その他のものはあまり展示していないんですよね。展示に当たれば運がいい。
なお実は常設展よりおすすめなのが、別館である「佐藤忠良記念館」です。具象彫刻がお好きな方は見て楽しいのではないでしょうか。別館としては規模は若干大きめの方。
佐藤忠良は地元出身ということで市内にもあちこちに作品があります。もっとも、生まれたのが仙台市近郊の黒川郡ということだけで、6歳の時に北海道に引っ越しているし、本人的には仙台に地元意識があるかどうか疑問。まあわたしは佐藤忠良の彫刻が好きなので、こういう展示があってくれてうれしいですが。
常設展の方のラインナップに興味が持てない方も、佐藤忠良を見るつもりでご来館いただけますと幸いです。
さらに佐藤忠良記念館と並んでおすすめなのがアリスの庭。
本館と佐藤忠良記念館に挟まれた小さな空間ですが、何度か通うとだんだん好きになれるところです。本館の出入りの動線からは外れているので、アリスの庭に行かずに帰る人も多く、いつ行ってもだいたい静か。いい雰囲気です。
アリスの庭を通って裏庭に行くとさらに現代彫刻がいくつか置いてあるし、隠れ家感が楽しめます。正直、裏庭のクオリティは庭としては今一つと感じるが……。今後の改修でこのあたりも改善されることでしょう。
あ、そうでした。宮城県美術館はいずれ長期休業に入ります。開館40年を経た現建築の大規模改修のため。
前に休業期間の設定をどこかで見かけた気がするのですが、今探しても見当りませんでした。年単位の工事になるので、今年か来年には休業に入ると思います。リニューアルオープンは2025年度内を目指すという地元紙の記事がありました。
少なくとも3月27日までは「絵本原画の世界 2022」の特別展が決まっているので、休業するのはそれ以降。なお、それとは別に2022年2月2日まで、メンテナンスのために短期休業になっています。
訪問する際は確認をお忘れなく。
仙台市博物館
青葉城天守台の麓に位置する仙台市博物館。木々に遮られ、博物館からは城跡や石垣などは見えません。
ところで仙台市民は仙台城とはいわず「青葉城」一択。そして城跡の展望台を天守台と呼びならわしてはいるが、仙台城は元々天守がないことで有名なお城。それなのになぜ天守台と呼ぶのか、わたしの長年の謎。
仙台市博物館は伊達家関連資料をメインにした歴史博物館です。規模は小さめ。伊達家と仙台市のサイズを考えればもう少し大きくてもいいと思うんですけどね。博物館としての開館は1961年、現在の建物は1986年に建て替えられています。
仙台市博物館へのアクセスも地下鉄東西線「国際センター駅」が便利。徒歩8分と多少歩きますが、石垣を見ながら歩ける平らな道で、天気がいい日なら気になりません。博物館の手前の五色沼は日本のフィギュアスケート発祥の地らしいですよ。特に水がきれいだということはないですが。
常設展は当然のことながら伊達政宗が中心。……といいたいところですが、伊達政宗を期待して来る人にとっては多少物足りない展示かも。主な展示は仙台の歴史ですので。
もちろん戦国時代の東北を解説した展示では伊達政宗を力を入れて紹介しておりますよ。なんといっても政宗は東北地方の華です!歴史バラエティ特番で、戦国大名人気ランキングなんて番組があるとつい期待して見てしまいますが、常時5位以内には入っている印象です。精悍なイメージですよね。眼帯がすっかり定着して認識しやすいし。
仙台博物館の目玉は伊達政宗の鎧。黒一色、それに程度を越した長さの三日月型の前立てがすごい。横に肩幅以上に長いので、もし負け戦で藪などに逃げ込まなければならなくなった場合、前立てがひっかかって逃げられないんじゃないかと思います。逃げるための算段をしておくのが(大きな声では言えないにしても)大事だったんじゃないかと思うのですが、ほんとに着用したんでしょうか。
まあ大将が藪に逃げ込まなければならない戦は負け戦。不退転の覚悟を示す意匠かもしれません。
もう一つの柱は支倉常長関連資料です。全国的には知らない人も多いかと思いますが、伊達政宗の命を受け、メキシコを経てスペイン、イタリアまで旅をした人。目的は通商の約束を取り付けることだったと言われています。幕府の目を盗んで、仙台藩が単独で貿易を出来るようにしようとしたんですね。
常長の存在は当時のヨーロッパに相当なインパクトを与えたらしく、下級武士に過ぎない常長が、スペイン国王を代父にして洗礼を受け、ローマ市民に全市を挙げての歓迎されたとか。のちにローマ市民権と貴族の位も与えられています。
が、その華やかさとは裏腹に貿易交渉は上手く行かず、しかし常長は何とか使命を果たそうとスペインの地で粘ります。王から相手にされなくなっても旅費が尽きても、修道院の片隅にひっそりと居候し、嘆願書を幾度も出して努力したらしい。
しかし相手にとってのメリットのない、つまりは交渉の武器のない常長がこの任務を成功させるチャンスはとても低かったはずです。先の見えないこの年月を常長は修道院の石造りの部屋で何を思いながら過ごしたのでしょうか。
仙台市博物館には、常長がスペイン、イタリアでやりとりしたローマ市民証明書、その地で描かれた常長の肖像画、見ごたえのある物が多数収蔵されています。これらはユネスコの記憶遺産。日本とヨーロッパの関りについての貴重な資料です。
これは見に行かなきゃいけませんね!
……だが、現在仙台市博物館は改修につき長期休業中です……。2024年4月開館予定。おいおい、それでは宮城県美術館と休業時期が被ってしまうんじゃないのか?おそらく被ります。(多分)県下1番目と2番目のミュージアムが同時に改修休業に入るなんて。県と市でそこらへんの調整はした方が良かったんじゃないかなあ。
なおこちらも通常ですと特別展が行なわれます。年に3~4回。駐車場は少し小さめで50台。人気のある特別展の場合の駐車場の混み具合がエグイです。
東北歴史博物館
こちらは多賀城市にある博物館。すぐそばに奈良時代から平安時代の遺構、多賀城跡があります。
そういう関係で展示は多賀城推し。奈良時代の政庁の室内の設えの復元が面白いです。規模は小さいですが。机と椅子の展示が面白い。
その次に平泉推し。中尊寺金色堂の内柱が復元されています。現地ではガラスの向こうですぐそばで見ることが出来ないから、ここで見られるのはお得感がありますよー。螺鈿や線彫り仏像彫刻の細かな細工が目を近づけてしっかり見られます。
アクセスは車、または東北本線、仙石線。仙台駅からだったら東北本線多賀城国府駅が最寄りです。駅のすぐそば。なお近くに見事なアヤメ園があるので、季節に一日周辺をウォーキングするつもりで訪れるのもありだと思います。東北歴史博物館、アヤメ園、多賀城址、多賀城碑、多賀城廃寺跡を廻る、車で半日、歩いて一日のコース。
特別展も行なわれますが、ここの特別展はハズレが時々あるので、ダメ元というか、あまり期待しないで行った方がいいかも……。そう思っているので、見るべきものを見逃している可能性もあるんですけどね。
定番以外の美術館。
島川美術館
宮城県美術館が近いうちに改修に入り、仙台市博物館は長期休業中で、東北歴史博物館はあるにせよ、仙台近辺のミュージアムは冬の時代。……そこで希望の光となり得るのが!
島川美術館です。
初めて行って、散々楽しんでいる記事を書いたのでよろしければお読みください。
ここは規模は小さいけれども、見て楽しめる絵が本当に多いです!きれいな絵が多い。日本画、洋画、現代画(のなかでも抽象に走りすぎていない具象絵画)、どちらかといえば和が多い陶器、アールヌーボーちょこっと。この規模の美術館にしては有名どころの絵が並んでいます。いろんなジャンル、いろんなタイプの画家がいて、ここならお気に入りの一枚を選べるんじゃないかなあ。
この美術館の推しは森本草介。写実の洋画、主に美人画できれいな絵です。わたしはこの人の花の絵が大変いいと思う。この規模でこのくらいの作品が集めてくれているのは有難い。すごくおすすめです。
……が、最後のよりどころとなりそうな島川美術館も季節休館がありそうなんですよね。残念なことに。
HPを見てもはっきりとは書いてないのが大変に難ですが、開館期間は春秋のみの限定と漠然と書いてあります。
島川美術館は以前蔵王の近くにあり近年仙台市内に引っ越して来たもので、そりゃ蔵王なら冬に休業しているのもしょうがないと思うのですが、仙台市どまんなかの本町に、しかもせっかく本社(ジャパンヘルスサミット)の隣に引っ越して来たのに休業期間があるなんて解せません。まあ我々はコレクションを見せていただく立場なので本人が休むといえば仕方ないですが。
しかし休業するならするで、せめてHPにはその旨書いておいて欲しいところです。HPを見て休業中と書いてなければ開いてると思いますよね?島川美術館に行く場合は、事前確認推奨。
地下鉄の広瀬通駅、勾当台公園駅、どちらでも徒歩5分圏内。なんだったら仙台駅から歩いてもさほどではありません。
カメイ美術館
こちらも街中にある美術館。最寄駅は地下鉄五橋駅。仙台駅からも徒歩10分ほどと遠くはありません。カメイ五橋ビルの6階と7階が美術館で、駐車場はありません。
ここのメイン展示は世界の蝶とこけしです。特に蝶は見事ですね。何百種類の蝶が視界いっぱいに広がります。この色彩の氾濫はなかなか見られない。
自然界のこれほど鮮やかな色を恒常的に眺められるというのは蝶の他にないのではないかと思いました。色彩でいえば植物が最初に浮かびますが、植物はいつでもどこでも現物を見られるものではない。季節がありますからね。それが蝶だと、その鮮やかな色彩が標本とはいえまるで生きているように輝きます。わたしは昆虫はあまり得意じゃないけれども、色彩を味わうためだけにでも行く価値のあるところ。
こけしは、……こけしですねえ。わたしはあまり興味がなくて。しかし世の中ではうっすらとこけしの人気が高まっていると聞いたことがあります。こけし女子=こけ女という言葉もあるようですよ。わたしが行った時はこちらの売店でこけし専門雑誌(不定期刊)を売っていました。
カメイ美術館
仙台万華鏡美術館
万華鏡って、日常生活で手に入るもの中で、一番魔法の世界に繋がっているような物体だと思いませんか。すごく好き。飾るスペースと買うお金があったらいくつか欲しい。
秋保温泉地区の入口辺りにある美術館です。建物としては小さいけど、展示数は多め。
メインが万華鏡で、サブとして辻輝子の陶器。万華鏡は大きいのから小さめのものまで、かなりの数が並んでいます。
万華鏡って、外側と内側で2度楽しめるんですよねー。外側もインテリアとして美しいし、それを覗けばさらに美しい世界が広がる。……が、気をつけて欲しいところは覗きこむのに夢中になっていると、ついうっかり頭が痛くなることです。そのことを予め頭において、視神経を休めながら鑑賞してください。
手作り体験も出来るようですよ。自分の手で生み出す世界でたった一つの「世界」。素敵ですね。
佐々木美術館&人形館
こないだ行って来たばかりの小さな美術館です。
正直、わたしは現代アートが苦手なので、収蔵作品が好きかと言われると微妙なのですが……。でも「そこにある空間」としてはとても面白かった。秋保の片隅にひっそりとある異空間。存在が面白いです。
行ったことないけど、行きたい気がする美術館。
比較的近場に、長年視野には入れてるんですけど行ったことがないミュージアムがあるんですよねー。いくつか。
「海とガラスと庭園のミュージアム」(藤田喬平ガラス美術館)
以前から存在は知っていたんですが、ホテル付属のコレクションだと思っていたので、あんまり見応えがないかなあと偏見を持っていた。久しぶりにHPを見たら、思ったよりも規模も大きく庭も素敵そうじゃないですか。これは行ってみたい。
特別展もやっていそうですね。多分現代作家の個展という感じだろうが、好きな絵ならば楽しそう。
ティールームがあるように書いてありますが、500円で場所を提供するドリンクバーといったところのようです。おそらくケーキセットとかご飯はないと思うので注意。
感覚ミュージアム
これはずーっと前から一度行ってみたいところなのですが、遠いのでなかなか腰があがらない……。けっこう栗原市や大崎市って、面白そうな小さい美術館が多いんですよね。遠いけど。
五感を使って味わうアートをメインにしたミュージアム。
たしかここは最初はトリックアートを売りにしたミュージアムだった気が。うろ覚えですが。「美術」は美、「アート」は美が絶対必要条件ではない面白さ、の追求という気がします。そういう意味では美術ではなくアートのミュージアム。
宣材写真は子どもが多用されているし、子供向けという口コミも見かけるのですが、大人は大人で楽しめるのではないかという期待もあります。HPを見ている分には面白さだけではなくて、美も若干含まれていそう。
「闇の森」は、わたしは長野の善光寺の戒壇巡りがとても楽しかったので、そういう面白さと同質の匂いを感じます。「1000の小箱」も楽しそう。
ザ・ミュージアムMATSUSHIMA
元の松島オルゴール博物館。オルゴールと北原照久収集のレトロ玩具が展示の柱です。
典型的な「観光地ミュージアム」(ネガティブな意味で)というオソレが拭えず、それにしては入場料1500円は高い気がするが……。こういうところは、置いてあるものが楽しめるかどうか見る人次第なので、見る方は心がけを良くして見れば入場料分の愉しみもあるのかな。行かないでグダグダ言っているわたしもわたしだが。
建物とカフェはおしゃれそうです。ランチもあるらしい。
菅野美術館
ちっちゃいちっちゃい、手のひらにのるような美術館。
展示品としてはロダンなどの彫刻8点。小品ばかりで、正直言ってその作品だけを見に行くのは物足りない気はします。が、ここの見どころは建築らしい。カテドラルを意識した白い空間で、斜めの直線が多用され面白そう。ここも行ってみないと。
美術館いろいろ。
その他、聞いたことがある限りにおいては、
中本誠司現代美術館
塩釜市杉村惇美術館
大衡村ふるさと美術館
などもちょこっと気になるのですが、展示物が好きかなあ……と考えると自信がない。しかし好きじゃないと思っていたものでも、実際に見て良い出会いになることもあるので、えり好みせず何でも見てみるべきではないか。ココロが狭いと、我ながら思います。前向きに検討しよう。
近場に、規模が大きい美術館がもう一つ二つあってくれると嬉しいのですが。わたしの好みでいえば、日本画の美術館が欲しいなー。
仙台は空襲で一度大規模に焼けているので、古くからの建築や庭が残っていないんですよね。常々残念に思っています。誰か風流心のあるオカネモチが庭と日本画を両立させるような美術館を作ってくれないものだろうか。足立美術館とまでは言わないけれども、コンセプトとしてああいうものを。……誰に何のおねだりかという話ですが、どなたかぜひお願いします。
仙台近辺のミュージアムのお話でした。
関連記事