ネットで検索をしていたら、突然「賢治とモリスの館」という文字が目に入りました。なんでしょう、これ。なんか面白そう……!
賢治は宮沢賢治?モリスはもしかしてウィリアム・モリス?その二人の名前をくっつけたのはうっすらわかるにしても、「館」ってどういうことかな。想像できない。
さっそく調べて、勢いのままに訪問してきました!
そもそも「賢治とモリスの館」とは。
公式サイトを見ても今一つ正体がつかめません。「最新情報」には4月にカタクリが咲き始めた記事、「館の理念」は賢治とモリスについての簡単な説明および引用。「ご案内」を見てようやく、ランチやお茶が飲めたりするようだ、ということがわかります。
結論からいいます。こちらはレストラン&ティールーム。そして同時にウィリアム・モリス、宮沢賢治の資料や作品、及び西洋アンティークなどを展示する場所。
こういうややこしいことになっているのには成立の経緯のせいであるようです。
そもそもは大内さん(後述)が個人の別荘として建てた。
→大内さんが趣味で収集した物を見学したいという人が出て来た。見学に来た人に「お茶が飲めるようにして欲しい」と言われたのでティール-ムを始めた。
→お食事が出来ればいいね、という要望が増えた。お食事を出し始めた。最初はカレーなどを出していたが、変遷を経て今は洋風のコース料理。
最初は別荘で、今はレストラン。ほぉぉぉ。段階を踏んだとはいえ、全然そんなつもりもなかった別荘がレストランに変わっていくとは、不思議な気がします。建物を建てたのは15年ほど前だそうです。
大内秀明さん。東北大学名誉教授。
建物のオーナーは大内秀明さんと仰る方だそうです。経済学者で東北大学名誉教授。マルクス経済がご専門。館の本棚に著作物が何冊かあったので、帰宅してからAmazonで検索してみたところ、多数の本があって驚きました。
この館と一番関わる著作はおそらくこれ。
賢治とモリスの環境芸術 芸術をもてあの灰色の労働を燃せ [ 大内秀明 ]
宮沢賢治は日本で農民の生活環境を模索した人、ウィリアム・モリスはイギリスで労働者の文化生活向上に努力した人。洋の東西に離れてはいるけれども、考え方の方向が繋がる二人ですね。わたしは宮沢賢治は文字と音楽でそれを行ない、モリスは室内装飾分野で行なったと思います。
ちなみにわたしがずーっと前に買った「ウィリアム・モリス」関連の本はこれ。
【中古】 ウィリアム・モリスへの旅 /藤田治彦(その他) 【中古】
詳細は忘れたが、移動が多かったモリスの足跡を負った紀行です。内容はちょっと硬めです。
「賢治とモリスの館」へ行く時には予約が必要です。
見学も、お茶も、ランチも全て要予約だそうです。最初、記載されたe-mailアドレスにメニューについて質問メールを送ったのですが、返事が来て、「所在地」の下の方に記載のある電話番号へお問合せ下さいとのことでした。
おそらく恒常的にお店にいらっしゃるわけではないと思うので、電話は繋がらないことがあります。日付に余裕を持って連絡をしましょう。
メニューを伺ったところ、電話の段階では「コースで、メインの肉料理か魚料理を選んで貰います」と言われました。2800円~3200円とのこと。電話ではあまり詳しくは伺えませんでしたが、実際に行くとこのようなメニューになります。
オードブル・グリーンサラダ・魚または肉のメイン料理・デザート・飲み物。
これにスープをつけるかどうかとメインをどちらにするかを選びます。
ちなみにわたしが行った時は、
魚:スズキのハマグリ添え(2800円)
肉:ローストビーフ(3200円)
スープ:かぼちゃのポタージュ(+500円)
わたしはスープなしでローストビーフにしました。その場合3200円+税=3456円でした。これがたとえば魚を選んでスープもつけると、2800円+500円+税=3564円になるわけですね。あ、予約時点ではメインの注文は必要なく、現地で料理の内容を見て選べます。
なお、飲物はコーヒーか紅茶。お訊きしませんでしたが、アイスも出来るのかもしれない。しかしここはホットの紅茶でしょう。なんせイギリス風ですよ!
場所はここです。
地図
岩松旅館や一の坊を過ぎてから右折の道に看板があります。スマホのGoogleマップで行きましたが、たどり着けるところでした。が、右折し損なってしまった場合、かなり先まで行かないと戻って来られない気がする……。曲がり損ねないように注意しましょう。
「賢治とモリスの館」行ってみました!
森の中の道を車でゆっくり進んで行くと辿りつきます。看板が出ているので落ち着いて行けば迷わないと思います。
ああ、こういう家はイギリスにありそう。煙突がちゃんとついている。
アプローチもいい雰囲気だったのですが、写真撮ってくるのを忘れました……。
中へ入ります。
メインルーム。ここはロンドンにあるヴィクトリア&アルバート博物館のティールームを模したお部屋だそうです。そのティールームは元々モリスとその他数人によってデザインされた部屋で、昔はグリーン・ダイニング・ルーム、今はモリス・ルームと呼ばれているところ。
食事が出来るテーブルはこの部屋には、手前と奥の2つあります。
窓際のテーブルでお茶を飲むのも良さそうです。
家具も素敵でした。サイドボードにはモリスに関する本が何冊も載っています。
タペストリーも良かった。タイルもモリスデザインですね。
そしてこの部屋の肝は壁の羽目板のデザインかと思われる。
これは本家グリーン・ダイニング・ルームのオマージュ。ヴィクトリア&アルバート博物館の写真と比べて見てください。同じような部分があるでしょ。しかしこちらでは、椅子に座った時の目線の高さにちゃんと壁紙を持ってきているので圧迫感がありません。その部分、本家より優れているかも。
ランチをいただきます。
オードブルとグリーンサラダとローストビーフとデザートと紅茶です。
だいぶサイズは小さくて一口サイズ。一口でパクっと食べて、全体の味のハーモニーを愉しむ。無難な味だろうという先入観に反して、それぞれアクセントのある味。美味しい。
レモンの酸っぱさのインパクト。
オリーブのパイ包みは熱い。あったかいじゃなくて熱い。
トマトとクリームチーズはパンがほのかに甘くて予想を裏切られる。
ルッコラの味が超濃い。
エビのパイ包みは一口で食べなくてもいい大きさです。実はバジルソースが隠れている。
山盛りグリーンサラダ。
食べても食べてもなくならないくらい山盛りです。ドレッシングがおいしく、量もぴったり。一般的にドレッシングって足りなくなりがちじゃありませんか?足りなくなると切ないのですが、こちらではちゃんとこの量を食べられるドレッシングがあってうれしい。
お箸がついているところがありがたかったなあ。この量のサラダをフォークで食べるのは、きっと面倒くさかったに違いない。
わたしはスープは頼まず、メイン料理のローストビーフ、マッシュポテト添え。ローストビーフは料理がまずいと言われるイギリスで、唯一イギリス料理として認められている(?)料理です。
といってわたしはイギリスでは食べたことがありません。高級料理だからね。わたしにとってのイギリスご当地料理はフィッシュ&チップスです。あと、あまり日本では食べられるところはありませんが、「マッシュポテトのグレイビーソースがけ」や「ジャケットポテト」なんかもなつかしいイギリスの食べ物。イギリス料理はポテトである。
ローストビーフの定番の薬味はわさび。さっきの味の濃いルッコラも添えられています。
ごはんと和風付け合わせ。すっかりイギリスにいるつもりになって、白米が出て来た時は「あ、ここは日本だった」と目が覚めるように思ったほど。たくあん・きゅうりの佃煮・ししとうみその小皿が添えられているのは料理人の方の好みだと思います。手作り。
デザートの焼りんごのアイスクリームのせ。写真を何枚も撮っていたら溶けてきてしまいました……。紅茶を選んだ場合は、ポットで出て来ます。コーヒーを選んだ場合もお代わりを頂けました。
もう一つの部屋はシノワズリー。
お部屋はもう一部屋あって、こちらは若干シノワズリー(中国趣味)です。個々の品を見るとマイセンの人形があったり、ウェッジウッドの額があったりでそこまで全部ではないのですが、椅子がシノワズリーだったのでそう見えるのかな?
こちらには宮沢賢治の「星めぐりの歌」の歌詞の額などもあります。芹澤銈介の字体かと見えましたが。
一番目を惹くのはステンドグラスの衝立(ついたて)です。
これもモリスだろうか。時代は合いそうです。天気がいい日だったので、きれいに色が映えている。
100年くらい前の照明器具って味のあるデザインのものが多いです。これも面白いですね。アールヌーボーっぽい。いいなあ。こういう吹き抜けの雰囲気。ちょっとわかりにくいですが、このてすりの両側にある四角い部分もステンドグラスのようでした。光源側からではステンドグラスが味わえないので残念。
玄関にあったランプもきれい。
一つ一つ見てたら日も暮れそうなほど、いろいろな工芸品に溢れていました。
実は、さすがに日は暮れなかったけれども相当長居をしてしまいました……。
最後にお庭を見ます。
お庭もねー。なかなか凝っていらっしゃる。
ガーデンシェッド(ガーデニング物置)までアンティーク風に作ってしまう……!この凝りようといったら。ガラスはおそらく手作りですよ、これ……。もう一つのガーデンシェッドの裏側には、小さなステンドグラスまではめ込まれていました!裏側ですよ!見えないのに。ううっ、お手上げです。
お庭側から見ると、小さなマナーハウスのように見えますね。
素敵な隠れ家。日本にいることを、つい忘れる。
わたしが行ったこの日は夏の盛りで、お庭の花はだいぶ少ない時期とのことでした。春先はカタクリが名物だそうです。冬は休業。晩秋には実際に暖炉に火が入ったりはしないのだろうか。訊いてくるのを忘れました。暖炉が焚かれたお部屋でまた今回のようなお食事が出来たら最高ですね。憧れます。
個人的な経験では、面白そう!と思って食いついてその期待通りの面白さがある場所はめったにないのですが、「賢治とモリスの館」は、わたしの多大な期待に十分応えてくれる、素敵な場所でした。モリスデザインを味わいたい方、アンティークに興味がある方、イギリスに行ったつもりになりたい方。そんな方におすすめです。わたしも季節を変えて、またぜひ行きたいと思います。
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