宮部みゆきは人気作家のうちの一人ですね!彼女はジャンルの幅広さがすごいと思う。
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このあたり全部書いてるんでしょ?
5度目の正直。
書いてるんでしょ?と訊くということは――実はわたしは宮部みゆきのことをよく知らないんです。
よく知らないのになぜ書こうとしているか。そこで、わたしと宮部みゆきの出会いの話を聞いてください!まあ大した話ではないけれども。
わたしはふだん、あまり人気作家の作品を読む方ではありません。むしろ避けて通る気味がある。常に平積みされている宮部みゆきや東野圭吾などの作家は他の人にお任せしようと思っている。
とはいうても天下の宮部みゆきです。何かは読んでもいいかもなあと思い、
たしか最初にサスペンス「R.P.G.」を読みました。……特に面白くなかった。期待値が高すぎたのかもしれないが。あれ?と思って次に時代小説でミステリの「震える岩」を読みました。まあ時代小説は多少は読むし、それでミステリだったらテッパンのはず。……が、悪くはないけどそこまでではない。普通。ごく普通。
3度目の正直!絶対面白い筈の「蒲生邸事件」。当時でいえば、宮部みゆきのベスト5に入ってたんじゃないでしょうか。この後、また面白いものをいっぱい書いたので相対的に話題にはのぼらなくなったけど。……が、これもいまいちピンと来ず。
え~~~~、3冊読んでピンと来なければ合わないんじゃないの?もう読まなくていいよ。
……と思いつつ、ミステリ「心とろかすような マサの事件簿」を読んだんです。これも普通。ごく普通。ここまで読んで特にピンとこないんだから、もう宮部みゆきには縁がないんだろう。そう思いました。
そこからかなり時間が経って、ふと時代小説が読みたくなった時、たまたま目に入ったのが「ぼんくら」でした。これを全然期待しないで読んだ。
そしたら、これが面白かった!ものすごく面白かった!
当たりましたよ、5度目の正直で!執念深く5作目まで読んでようやくぶちあたりました。それまで読んだ宮部みゆきとは別種で段違いでした。10年に1作の傑作だと思った。本を手放すことが出来ないほど。一気読み。
「ぼんくら」の作りはちょっと変わっている。
ぼんくらは300ページちょっとの文庫本で上下巻。多少変わった作りになっています。
普通の長編小説であれば、まず最初から最後まで1つの話、
そうでなくても最初と最後に序章と終章をつけて1つの話、
ということが多い。
しかし「ぼんくら」は上巻の半分までが連作短編(5編)、そこから本編というべき「長い影」が始まります。これが下巻の残り30ページくらいまで。最後の30ページはまた最後におまけのように――おまけというには重要すぎるが――短編が1つついて終わります。
最初、わたしは普通の連作短編だと思ったんですよ。出て来る登場人物は共通だし、起こった事件は別物のようだし。そうやって長く続いていくシリーズもの。鬼平犯科帳のような感じですね。主役は煮売り屋のお徳さんと八丁堀の旦那・井筒平四郎、毎回、二人が協力して長屋に起こる事件を解決していくんだろうと思った。
連作短編というスタイル、1編ずつ気軽に読めるしわたしは好きですが、でも気軽なだけにドカン!という面白さは期待できないものなんですよね。それは当たり前。それはしょうがない。
なのでそのつもりで気軽に読み進めていきましたが――
短編5つ目の「拝む男」に来て、あれ?と思います。事件が解決してない。むしろ短編1つを使って、まるまる問題提起をしている。放り出された謎。
湊屋っていったいなんなの?長屋のオーナーってだけじゃなかったの?
これは――なんだ?
そのあとに始まる「長い影」からが本題なんです。
これはねー、ちょうどドラクエ4の作りによく似ている。ドラクエ4って1章のライアンから4章のミネア・マーニャの話まで、短い話が続くでしょう?それが第5章でまとまって、それからストーリーの本流へと流れていく。形としてはかなり近いです。
「ぼんくら」の読み方。
「ぼんくら」の上巻は謎をこれでもか、という風に並べ立て終わります。いや、下巻も謎の提示がずっと続く。
これが快感なんです!
なんだろう?なんだろう?……なんだろう?
読みながら、ほんの少しずつ、ぞくっぞくっとしてきます。鳥が撒き餌につい惹かれて罠への道をたどってしまうように、途中で止まることができません。一気読みです。
この「謎の提示」が魅力的であるだけではなく、出て来る登場人物も魅力的なんですよね。
5つの短編の間でも魅力的な人物が数々出てきますが、「長い影」で初めて出て来る弓之助が魅力的。
弓之助は八丁堀の旦那・井筒平四郎の奥さんの甥です。子どものない夫婦の、もしかしたら養子になるかもしれない子。当年とって12歳ですが「とんでもない美形」で、なおかつ独創的な考え方をする利発な子です。
平四郎はだんだん弓之助のことが気に入り、連れて歩いて一緒に謎の解明に近づきます。こののんびりした(一面ぐうたらした)平四郎と、てきぱきぱっきり、相当に大人っぽいけれども12歳なりの子どもである弓之助のコンビが秀逸。
他のみなさんも出て来る人出て来る人、まあ味のある方ばっかりで……面白いよ。ほんと面白い。
ただ「時代ミステリ」と言われているが、それは違うと思う。謎を追っていく話なのですが「解明」の部分にはあまり重きを置いてない。ミステリを読むつもりで読むと肩透かしでしょう。これは登場人物の魅力と、そのやりとり、心情を味わう小説です。
「ぼんくら」シリーズは現在3作。
ぼんくら 文庫本上下
日暮らし 文庫本上中下
おまえさん 文庫本上下
「日暮らし」が一番長いんだろうと思うとこれがどっこい、
「日暮らし」は各巻300ページで3巻ですが(=900ページ)、
「おまえさん」は600ページの上下巻(=1200ページ)で一番長い。
これだけあればたっぷり楽しめますよ!
これを書くにあたって「ぼんくら」の冒頭部分をさらっと読もうとしたら、ついうっかり最後まで読むはめになったのでホント危険です。
一つだけ注意点があります。
「ぼんくら」の冒頭、物語が始まった直後に説明的な部分があり、ここでは下の3つが語られます。
○物語の舞台となる鉄瓶長屋の位置や配置の説明と、
○長屋の持ち主が大店の主の「湊屋総右衛門」であること、
○この話のポイントである、江戸時代のシステム「差配人」とは何なのか。
13ページから20ページくらいまで。
ここ、ちょっとだけ読みにくい。
ここさえ乗り越えてしまえばあとはするするっとトコロテンみたいに読み進められる小説なので、流し読みでもいいので目を通しておいてください。流し読みしておいて、しばらく読んでから戻ってもいいですよ。
「差配人」というのは時代物を読んでいてもそんなに出て来ない単語。わたしは多少の時代物は読んでいましたが、差配人という言い方はこの「ぼんくら」で初めてくらいでした。でもこの細かい意味を知らないと話がつかめないかも。
するってえと、落語で「大家さん」とか呼ばれている人の多くは「差配人」ってことですかい?と、江戸っ子なまりで言ってみる。
「ぼんくら」「日暮らし」「おまえさん」おすすめです!
わたしが読んだ時は「ぼんくら」「日暮らし」は続けて読めたけれども、第3作目の「おまえさん」が出たのはだいぶ経ってからでした。
あの「ぼんくら」シリーズの3作目が出ていると知った時にはひさしぶりに血が騒ぎました!あの続編が読める!とわくわくする作品に出会えるのは本読みの幸福です。第4作目は出ないんでしょうか。いつかは出してくれるのではないかと楽しみに待っているんですけど。
そういえばNHKでドラマ化もされています。
悪くはなかったのですが原作の醍醐味が「謎の提示」にあるので、それをドラマにするのは難しかったかなー。弓之助とおでこに人を得たら映画にして欲しい。井筒平四郎は岸谷五朗でぴったりだったと思います。
あ!宮部みゆきは「火車」も面白いですよ!
こっちは現代物。一応社会派ミステリーと呼ばれるのか?現代物がそんなに好きではないわたしでも楽しめました。初期作品なので1992年出版。すでに現代物とは呼べなくなっているかもしれませんが。
わたしは今後、宮部みゆきは「小暮写真館」と、読んでみてコワくなければ「三島屋変調百物語」を読もうかと思っています。
まずは「ぼんくら」、ぜひ読んでみてください!
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