プロバスケットボールリーグ、BリーグはB1とB2に分かれています。2020-2021シーズン、B2は一足早くレギュラーシーズンを終え、5月7日からプレイオフに突入しました。
仙台89ERSは東地区4位からプレイオフ初戦に臨みます。相手は西地区首位の西宮ストークス。地区の違う両チームは今シーズンの対戦は2回のみ、西宮の2勝でした。
現時点での89ERSの状況。
プレイオフにあたって、89ERSの最大の困難はチームの得点源であるルブライアン・ナッシュ選手の戦線離脱でした。4月21日の試合で右アキレス腱断裂。
チームの切り込み隊長であったナッシュ選手の離脱は痛いなんてものではない。片翼がもがれたようなものです。89ERSには外国籍選手は3人所属しているのですが、ナッシュ選手の怪我によって可動は2人になってしまった。B2では外国籍選手はコートに2人までいられます。だいたいフルに外国籍選手が2人出るのが通常の戦略で、3人いれば交代しながら1人を休ませることが出来ますが、2人では難しい。
どのタイミングで誰をどのように休ませるか。外国籍選手がコートに1人しかいない時をどう戦うか。ファウル数がかさんで来たらどうするのか。3人体勢とは全く違う戦略を練り直さなければなりません。しかもプレイオフまで約2週間しかないのに。
もう一つの困難は、シーズンを通して活躍してきた平均11得点の笹倉怜寿選手がやはり怪我により万全とはいえないこと。直前3試合を欠場していました。怪我は治ったはずですが、ボールの感触、試合勘が取り戻せるかどうか。
この2点をどう乗り越えるのか、桶谷大HCは。
5月7日、GAME1。
試合はアウェイ、西宮での試合でした。
第1クォーター。
仙台は序盤、うまくボールを回します。ゲーム初得点はエリック・ジェイコブセン選手。ナッシュ選手が途中加入するまでは1試合平均20得点、B2の得点王を争っていた選手です。ナッシュ選手が加入してから攻撃のメインをナッシュ選手に譲り、他のプレイをしてくれているので得点はやや減りましたが、それでもチーム1、2を争う得点源だし、リバウンド、パス回し、ディフェンスとなんでも出来るオールラウンダー。
双方あまりジャンプ精度が良くはなく、開始5分時点で6-5。しかし89ERSにとっては幸先のいいスタートです。西宮ストークスはシーズンで高得点を誇ってきたチーム。それに対して89ERSは堅いディフェンスを武器にしてここまで来ました。89ERSとしては相手、特に外国籍選手の高い得点を抑えなければ勝利は見えません。
中盤から西宮は交代のために3人の選手を待機させます。しかしタイミングがなかなか来ず、交代出来たのは残り2分10の時点でした。ごく微妙な部分ですがバスケットは流れのスポーツ。この間にリードが14-9とほんの少し、開きます。
その後仙台が4点を追加し、18-9で第1クォーター終了。予想よりもいい立ち上がり。
第2クォーター。
仙台は序盤、ターンオーバーが続きます。その間に4点を入れられますが、澤邉圭太選手の3ポイントなどで6~8点のリードを保ちます。鎌田裕也選手の3ポイント、ベテランの金城茂之選手の、腕を残したしぶといシュートもありました。
後半に入って、キャプテン月野雅人選手の3ポイント。しかしじりじりと点差を詰められています。このあたりはお互いにフリースローが多い。残り2分でエリック選手の見事なアシストからの臼井弘樹選手の2ポイント。37-29の8点差にして、ほんの半歩、前へ出ます。その後は綱の引っ張り合い。39-34で前半終了。
ゲームの入りが弱いことが多い89ERSですが、前半リードして終われたのは幸いです。贅沢を言えば5点差では全然足りないのですが……。
第3クォーター。
前半は若干仙台ペース。6-0のラン。残り7分15の時に西宮のジョーンズ選手がアンスポーツマンライク・ファウルを取られます。通常のファウルとは違い、危険行為とされ、2回取られると退場。仙台の渡辺翔太選手を激しく押したとされたようです。映像を見ている限りでは故意・悪質なものではなく激しいプレイの延長線上のものに見えました。
残り4分20の時点で89ERS、この試合最大となる14点のリード。渡辺選手のフローターシュートが目立ちました。西宮の3人目外国籍、ムボジ選手が4つ目のファウルを取られます。5つになるとその後試合に出られなくなるので、思い切ったプレイがやりにくくなる。このことによりムボジ選手は一旦ベンチへ下がります。
このあたりの時間帯はダンクを含むエリック選手の連続得点。何でも出来る大黒柱です。なお、仙台のダニエル・ミラー選手も残り2分でファウル4つめ。同じくベンチに下がります。2人しかいない外国籍選手、ミラー選手がもしファウルアウトしてしまったら……!
その後は1分近く双方とも得点成らず、第3クォーター終了。
そして運命の第4クォーター。
泣いても笑っても残り10分の攻防。58-48、仙台の10点リードで始まります。バスケにおいては10点のリードなどセイフティには程遠い。特に相手がオフェンスを得意とするチームならなおさら。
入りは西宮に勢いがありました。89ERSは連続得点を決められ、2分を過ぎた段階であっという間に5点差。オフェンスのチームである西宮の面目躍如。苦しい。激しいボールの取り合いが続きます。渡辺選手からのいいアシストで鎌田選手のゴール下でのシュート!62-55。
ここで、西宮のジョーンズ選手が審判への抗議でテクニカルファウルを取られ、先のアンスポーツマン・ファウルと合わせて2回目のため、退場処分になります。相手の得点源が残り6分33で退場は大きい。しかしその直後のプレイで2点差まで迫られます。最大14点差あったのに、たった2点差。
さらに89ERSの方も外国籍選手の大事な交代要員であるビッグマン、鎌田選手が5ファウルでファウルアウト。ここで89ERSは4ファウルのミラー選手をコートに戻すしかなくなります。残り5分28。ファウル数を考えて、ミラー選手をもう少し温存しておきたいところでしたが……。
そして心配した通り、ミラー選手が5ファウルでファウルアウトをしてしまいます。でも3分08で西宮のムボジ選手もファウルアウト。相手も外国籍選手1人、こちらも1人という双方非常事態になりました。
ここでミラー選手の交代で入った臼井選手の3ポイント!かろうじて4点差に離す。2点~4点リードの局面がしばらく続きます。リバウンドが激しい。お互い相手に食らいつく。渡辺選手が体格の差をものともせず相手外国籍とボールを奪い合い、ジャンプボールシチュエーションに持ち込みます。
しかし残り55秒。とうとう72-72。この段階で追いつかれるのは仙台としては痛い。勢いづく西宮。
奇跡の3.2秒。
残り35秒。仙台・渡辺選手の2ポイント成功。74-72。バスカンをもらうも……しかしフリースローの時に野球でいうボークみたいなあり得ないミスをし、ボールは相手チームへ。
残り19秒。西宮、2ポイント。74-74。仙台、最後のタイムアウト。
残り6秒。89ERS・渡辺選手がインサイドへ切り込んでシュートするも入らず。リバウンド西宮で西宮ボール。
自ゴールへ走る西宮選手にぶつかり、仙台・笹倉選手がファウルを取られます。西宮にフリースロー2本が与えられる。これは痛い。西宮はフリースロー1本を決め、74-75。飛び上がって喜ぶ西宮の選手たち。仙台はタイムアウトを使い切っており、陣形を整えることさえできません。
そして残り3.2秒からの。
エンドラインから臼井選手の正確なロングパス。
センターライン付近でエリック選手がボールを受け取り、まるでバレーボールのトスのような一瞬のタッチパス。
3ポイントラインはるか手前で受け取った渡辺選手、左足を一歩だけゴールへ踏み出し、その遠いところから体勢が崩れたままシュート。試合終了のブザーが鳴る。同時にボールはボードに当たり、約束されたようにリングへ落ちる――
全てのプレイが珠玉。
一体何が起こったのか、理解するまで時間がかかりました。
いや、普通は思いませんよ、3.2秒でエンドラインからボールを入れて点が取れるなんて。何も邪魔がなくても難しいだろうに、相手も必死にディフェンスをしているなかで。フリースローで1点リードした時、相手は勝ちを確信したでしょう。今だからいいますが、わたしは負けを確信しました。
この奇跡の試合の録画を見て、つくづく思うのは、この試合、全てのプレイが、なくてはならないものだったということです。
臼井選手や鎌田選手の。いうては悪いが珍しい3ポイント成功も。
数は少なくてもベテラン組の2本のシュートも。
大事に抱え込む一本一本のリバウンドも。
特に最後の大逆転のブザービートは、シュートを決めたのは渡辺選手だけれども、その前のエリック選手のパスもちょっとでもボールを持ち直したら時間がなくなっているし、その前の臼井選手のロングパスも、相手のディフェンスにちょっとでもかかったらアウトでした。最上のプレイの連発。
シュート1本、リバウンド1本、カット1本、全て「このプレイがあったから勝てた」というものばかり。その一つ一つを繋ぎ合わせて、仙台はほんの数センチ、数ミリの差で勝利を捉えました。勝ち負けのぎりぎりの瞬間を見た。
めったに見られない、大舞台での見事なブザービーターでした。
5月8日、GAME2。
先勝し、王手をかけての一戦。しかし有利になったという気は全くしません。負けたチームは勝ったチームを研究し、対応してきます。勝ったチームはその相手がどう対応するかを予測して、さらに対応をしなければなりません。2連勝することの難しさはここにある。
なお、前日に退場となった西宮のエース、ジョーンズ選手はこの日の試合には出られません。お互いに2人の外国籍選手だけで戦わなければならない。休ませながらどう使うか。ファウルトラブルにならないようにするなかでどれだけ激しく攻撃と守りが出来るのか。微妙なバランスの上に立つ両チーム。
前半。
試合の流れは前日をなぞるように展開します。仙台がわずかながらもリードをキープする。が、今日は仙台のターンオーバーが鬼多い。ちょっと信じられないほどでした。それもあって、前半終了時は31-32と逆転されてしまいます。
前日の試合はなんとか粘り、追いつかれたのは第4クォーターの残り55秒でした。今日は半分の段階で追いつかれている。ここから相手にいつものオフェンス力を出されたら、あとは離されて行くだけではないのか……。気弱な予想が頭をよぎります。
後半。
後半スタート。89ERSが苦手な第3クォーターです。が、ここで渡辺選手、寒竹隼人選手の3ポイントが決まり、逆転し少しずつリードを広げます。最大10点差。しかし双方シュートをしながら、ファウルをしながら、ターンオーバーをしながら、一進一退。仙台では澤邉圭太選手、鎌田選手の3ポイントが光ります。
第3クォーターは苦しみながらも仙台優勢。53-45。
第4クォーターは若干押され気味。西宮にダンクをされ、ターンオーバーでボールを失い、残り5分45で同点に並ばれる。残り5分45は長い。まだひとやまもふたやまも来るはず。我慢できるのはどちらか。我慢できた方が、集中力を切らさずにいられた方が勝つ。
その後はほんとに1歩1歩でした。片方が入れればもう片方がすぐに追いつく。追い抜いてすぐ追いつかれる。ボールを追って、何度も何度も選手たちが床にダイブする。
残り1分57。西宮のシュートが決まり、62-66。4点リードされる。もっとも疲れる時間帯。死力を尽くしてのこの時間帯での4点差は重い。慌てたらここで終わり。
――その後の月野雅人選手の3ポイント不成功、そのすぐ後の3ポイント成功が素晴らしかったです。成功しなかった3ポイントのあと、すぐに3ポイントにチャレンジしたのがすごいし、4点リードされることになった西宮のフリースローは月野選手が不本意ながらとられてしまったファウルによるものでした。もやもやしたものを残していてもおかしくない。ちゃんと切り替える、気持ちが強い。この人が89ERSのキャプテンです。
残り1分11、65-66。ラストに向かって仙台、西宮とも1回ずつ攻撃を行なうが不成功。残り15秒。1点差を追って仙台、タイムアウト。
最終盤。
仙台ボール。サイドラインから月野選手がスローイン。
ボールを受け取った笹倉怜寿選手、ドリブルをしながらパスの出しどころを探る――かと思いきや、トップの高い位置からジグザグにゆっくりゴールに近づき、いつの間にかミドルの位置まで来る。ボールを構える。
西宮の選手が笹倉選手のシュートを阻止するために横から跳ぶ。
その跳びをフェイクを入れて冷静にかわし、笹倉選手は落ち着いてジャンプシュート。――決まった!67-66。残り5.9秒を残して1点リード。
しかし5.9秒というのは何でも出来る時間です。現に前日、仙台は3.2秒から何とかしているんですから。しかもボールは西宮のゴール近くでのスローイン。まだ全くわからない。
でもここで、相手にとって痛恨のミスが起きました。スローインのボールを取りこぼし、ボールはサイドラインを割ってしまいます。ボールは仙台へ。残り5.9秒。
ボールが入り、西宮はファウルゲームへ。残り2.4秒。
再度仙台ボール、西宮ファウル。これでファウル5つになり、仙台、笹倉選手のフリースロー。2本入る。69-66。
前日の試合をまさに裏返したような試合でした。残り2.2秒。エンドラインから西宮のスローイン。センターラインへのロングパス。タッチパスでボールはシューターに。しかし最後のシュートはゴールに届きませんでした。
69-66。仙台89ERS、勝利。
激闘でした。
これはもう、史上に残る大激戦といっていいのではないでしょうか。ブースターの欲目でいえばベストゲームといってしまいたいくらい。
わたしがいうのもなんですが、個人的な意見では、今回地区一位の西宮とワイルドカードで出て来た89ERSの意識の違いがあったかなと思います。地区一位のプライドにかけて負けられない西宮。それに対して89ERSは守るものがなかった。思い切ってぶつかっていけた。対して西宮はどうしても硬くなってしまうところがあったのではないでしょうか。
さらに、ゴール下を守るビッグマンも89ERSの方が若干高さがありました。ここは有利に感じた。そして、今回西宮は、ホームの恩恵がなかったということが不運だったと思います。本当は大勢のブースターに囲まれて臨めた一戦のはずでした。ここは大いに違ったはず。
89ERSは伝統的に短期決戦にヨワイというところがありまして……。プレイオフには出られたり出られなかったりしているのですが、プレイオフでいい思いをした記憶なんて……えー、えー、この話はここまでに致しましょう。とにかくこの2試合は幸せでした。
仙台89ERSは、あと2試合勝てば、B1へ進出が決まります。プレイオフ・セミファイナルは、89ERSの日程では、5月15日14時から始まります。対茨城ロボッツ。東地区2位、レギュラーシーズンでの勝敗はロボッツ4勝、89ERSの2勝です。
去年、手を伸ばしかけて消えてしまったあの場所を目指して。
なお、Bリーグの試合はバスケットライブの配信サービスに登録することでB1、B2の試合が全て見られます。
ソフトバンク系列なので、スマホがソフトバンク、ワイモバイルの方は追加料金なしで視聴出来ます。それ以外の方は月額508円で視聴可能です。
アーカイブはおそらく次の試合の前日までの1週間ほどしか残らないはずなので、上記の「史上に残る大激戦」を見てみたいと思った方はお急ぎください。
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