わたしの人生で「沖縄」が盛り上がった時期は2回ありました。第一次と第二次。それ以来、少しずつ少しずつ沖縄関連の本を読みためてきました。
灰谷健次郎「太陽の子」
第一次は小学生の頃。灰谷健次郎の「太陽の子」を読んだ時でした。
たしか伯母が「読んでみなさい」と持って来た本だったと思います。読む本を与えられることに若干反発を感じたが(読む本は本人が選ばないと!)、しかしタイトルの「太陽の子」が気になった。「てだのふあ」と読む。そのことに惹かれて。
太陽をてだ、子をふあ。それは全く知らない遠い場所の言葉。太陽の子。どんな話だろう。
そうしたら、沖縄の戦争、その影響を色濃く受けた移住者たちの話でした。
わたしは当時この本を読んで泣き、感動し、授業参観の自由課題ではこの本の一部を朗読したような気がします。これは現代でも読まれ続けている作品で、のちには映画、ドラマにもなりました。今となってはあまりにきつすぎて、再読は出来ないだろうけども。
本の中にたびたび出て来た沖縄方言が面白かった。主人公のお母さんは小料理屋だったか居酒屋だったかを営んでおり、作品中、野菜の名前を沖縄方言で言うシーンがあります。他の野菜の名前は忘れてしまったけど「でーくん」が大根だったのは覚えている。デークン→デーコン→ダイコンという変換が納得出来たから。現在、沖縄野菜として周知のゴーヤが全国的にはまだ全然知られていなかった頃の話。子どもだったわたしにとって、沖縄は行くことも考えられない、とても遠いところでした。
ナイチャーズ編「沖縄いろいろ事典」
それからずいぶん時間が経って、わたしの中で二度目の沖縄熱が盛り上がりました。気づけば世の中に沖縄ファンは数多く、沖縄本も数々出ています。
事典とはついていますが、沖縄を愛する、主に沖縄県外の人たちが寄ってたかって作り上げてしまったファンブックのような内容です。もしかしたら沖縄に生まれた人は贔屓の引き倒しに感じる部分もあるかもしれません。しかし沖縄愛に満ちていることは間違いない。
主要著者の1人である池澤夏樹はのちに沖縄に十年以上住むことになります。
彼も旅が好きな作家で、沖縄の後にはフランスで暮らし、今は一族のルーツである北海道に住んでいるらしい。
外間守善「沖縄の歴史と文化」
一口に「沖縄」といっても様々な切り口がありますね。
リゾートとしての沖縄
歴史文化としての沖縄
戦争を経験した沖縄
米軍問題の沖縄
etc…
わたしが惹かれたのは歴史文化としての沖縄でした。
この本は沖縄の歴史・言語・宗教について教科書的に教えてくれる良書。著者が沖縄に生まれ育った人だというのも安心できる。この点について語りたいこともちょっとあるのですが、割愛。
ところでこれは新書ですが、この頃の新書は中身があって良かったなあ……。新書は専門家が一般読者のためにしっかり書いてくれる入門書という位置づけだったので、多少内容が密すぎることや、文章がいかにも学者が書いたものでカタイ、ということはあったにせよ、ちょうどいい本が多かった。
今の新書は数が増えすぎて内容が薄くなりましたね。本の今昔。
陳舜臣「琉球の風」
沖縄の歴史小説としては、陳舜臣のこれがかなり初期のものと思われます。
この小説は大河ドラマの原作にもなりました。琉球王国が、大国である中国と日本の間で知恵をしぼって生き抜こうとする時代を書いています。知識的の部分を説明してくれる本も好きですが、小説は歴史を身近に感じさせてくれますね。
当時、沖縄の歴史小説は数が少なかったのではないでしょうか。陳舜臣は中国ものを中心に、日本やインドの歴史についても書いた神戸生まれの作家です。大学でペルシャ語を専攻したことを活かして、オマール・ハイヤムの「ルバイヤート」を訳すなど幅広い題材に取り組んだ人。
澤地久枝「琉球布紀行」
沖縄にはいくつもの名産品があります。ぱっと思いつくところでいえば、琉球ガラス、やちむん(焼き物=陶器)、そして織物・染物。
著者の澤地久枝は1930年(昭和5年)生まれ。彼女の同時代といえる昭和の前半の事件を主に書いたノンフィクション作家です。彼女も沖縄ファンで、67歳から69歳まで沖縄に住み琉球大学で聴講しました。この本は、その期間のなかで取材した内容が基になっています。写真多数で様々な布が載っている。
取り上げた琉球の布は首里紅型、読谷山花織、宮古上布など11種。島しょ部が多いとはいえ、都道府県としては面積も人口も少ない沖縄にこれだけの布があったということに驚きます。
沖縄の紅型。あれはあの沖縄の強烈な光の下でこそ映える、まさに地域に生きた染物だと感じました。たとえば北の国の薄曇りの日に着るのと沖縄の光の下では生命力が違う。その鮮やかな色。
しかし紅型とは逆に、枯れたサトウキビの畑に紛れてしまいそうな、素朴な織物もありました。この本には出て来ませんが、たとえば芭蕉布とか。それもまた琉球の布。
日本各地、歴史にも文化にも独自のものがあり興味深いですが、沖縄の場合、一つの王国であったことがそれに深みを与えていると思います。……それは琉球と聞くと勝手にロマンを感じてしまう、こちら側の思い入れのせいなのか。
この思い入れを無条件で肯定していいものか、個人的にはそこが気になっているところです。外の人の、時として過剰になりがちな思入れが相手に負担になることはないのだろうか。
池上永一「テンペスト」
沖縄出身の小説家でわたしがデビュー作から順番に読んで行ったのが池上永一です。沖縄の人と知って読み始めたわけではなく、1冊読んでその不思議な作風に経歴を見てみたら沖縄の人でした。
沖縄ものとラノベみたいなSFものと、だいたい2系統を書いていると思う。SFもある程度面白く読めましたが、この人の真骨頂は沖縄の風俗や宗教を取り入れた不思議な作品世界だと思います。こういう小説手法のことをマジックリアリズムというらしい。本を読んでいるとたまに巡り合います。魔術的な世界。極彩色の、紅型のような世界。
いろいろあるうちで一番面白かったのは「テンペスト」。沖縄の王朝時代の、ちょっとドタバタを帯びた話です。
しかしこれはとてもボリュームのある小説なので(文庫で全4巻)、とりあえず1冊読んでみるならデビュー作の「バガージマヌパナス」をおすすめします。呪文のような言葉ですが、注意深く発音してみると「わが島のはなし」という意味の沖縄言葉であることがわかる。
バガージマヌパナス わが島のはなし (角川文庫) [ 池上 永一 ]
なかなかにわけのわからない話で面白い。
りんけんバンド「GOLDEN☆BEST」
なお、本ではありませんけれども第2次当時ハマって聴いていたのがりんけんバンド。
わたしはそんなに音楽に執着がなく、ハマったアーティストでもCD3枚以上買ったことは少ないのですが、珍しく3枚以上持っている何人かのなかの1人。というか1グループ。(とはいっても結局3枚。)
男性ボーカルのコミカルな歌詞の歌が多く、オキナワンソングはこういう笑いを交えた歌なのかと最初はちょっと戸惑った。その中に数曲混じる女性ボーカルの、声も歌詞も美しい、天地を歌う歌が好きだった。「ふなやれ」なんていいですよねー。正統派沖縄民謡の名手が歌う現代の民謡。くうう。「ちゅらぢゅら」「肝にかかてぃ」も同系統で美しい曲。
地元まで、りんけんバンドがライブに来たことがあります。そこではなんとカチャーシーの踊り方を教えてくれます!会場はサンプラザでした。何千人もの人が「立って!立ってください!ここに来たからにはカチャーシーを覚えて帰ってもらいますよ!」とか言われていっせいに踊る。
教え方が上手だったので基本原理はわかったのですが、わたしがやるとどうしても阿波踊りが入る気がする……。沖縄の人もリズム感がいい人ばかりじゃないと思うんですけど、みんながみんな踊れるもんなんですかね、カチャーシー?
読んできた沖縄本&おまけにオキナワンソング。
全部じゃないですけれども、これらがわたしが読んできた沖縄本です。ここに足りないものといえば宗教関係かな。
沖縄には独自の宗教があり、聞得大君、ノロやユタという独自の女性祭司が主要な役割を勤めていたそうです。時と共に後退傾向はあるだろうけれども、しかし現代でもおそらく他の地域より宗教的な習俗が残っているのではないでしょうか。聞得大君は元々王族の身分高い女性がその地位についた琉球最高位の巫女ですが、今年になってからも(非公式な立場で)21代聞得大君に就任した女性がいるんですって。
沖縄は宗教も文化も興味深い。ヘタレなわたしは近現代史は避けて通りますが、王朝時代の歴史も面白い。日本史というとやっぱり中央がメインで、地元以外の地方史まではなかなか目が届きませんが、地域ごとに興亡があり面白いんですよね。知れば知るほど興味は尽きない。
上記に挙げた本はおおむね古い本ですが、今でも手に入る=良書だと思いますので、興味を持った方は読んでみてください。
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