ルネサンスが理想と調和を追い求めたとするなら、バロックは華麗&劇的&明暗。
が、この時代になるとそれぞれの画家の画風も多岐にわかれ、時代性のある画家は少なくなっています。みんなが理想を目指して描いた時代は終わってしまったんですねー……。
わたしが思う、いかにもバロックという絵を描いた画家は、
カラヴァッジョ(イタリア)
ルーベンス(フランドル=今のベルギー、オランダ、フランスのそれぞれ一部)
この2人です。彼らは鉄板。カラヴァッジョは明暗、ルーベンスは華麗と、作風はかなり違うのですが、それぞれを見れば「ああ、バロックだなあ」と思います。
そして、わたしはあんまりそんな気がしないけど、バロックと言われている画家。
ベラスケス(スペイン)
レンブラント(オランダ)
なんというか、わたしはバロックは華やかなところがないとそれっぽくないなーと思っています。
そういう意味でいうとこの2人はちょっと違うかも。ベラスケスも宮廷画家で王侯貴族の肖像をたくさん描いているし、レンブラントも光と影を使った画家ではあるのですが、「華麗」という感じではない。バロックという形式よりも画家の個性を感じる。
でもこの4人は「バロック」というくくりでもいいかもしれない。
カラヴァッジョ・ルーベンス・ベラスケス・レンブラントにします!
カラヴァッジョ。
カラヴァッジョは相当素行が悪かったそうです。ケンカすること数十回、あげくの果てに殺人を犯してしまいます。懸賞金をかけられ逃亡し、しかし逃亡先でも絵の注文は途切れなかったという人気画家でした。
徒党を組んでのし歩いていたとか聞くと、ちょっとやだなあと思います。
性格と作品は別と思う人。やっぱり言動のおかしな人が描いた絵は嫌だと思う人。どちらも間違っているわけではない。わたしは絵ではそこまで拘りがないですが、作家は素行も気になりますねー。過去の悪行を面白おかしく書く人も嫌だし、狙ったのか?と思う内容でSNSを炎上させて、ニュースにまでなるようなややこしい人だと作品も読む気がしなくなる。
もしわたしがカラヴァッジョと同時代に生きていて、彼の絵をどう見たかと考えると、どうなったでしょうね。「これはあの評判の悪い奴の絵か……」と横目で通り過ぎる可能性が高かったかな。
カラヴァッジョ「聖マタイの召命」
<a href="https://en.wikipedia.org/wiki/ja:%E3%83%9F%E3%82%B1%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%AD%E3%83%BB%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%B8%E3%83%BB%E3%83%80%E3%83%BB%E3%82%AB%E3%83%A9%E3%83%B4%E3%82%A1%E3%83%83%E3%82%B8%E3%82%AA" class="extiw" title="w:ja:ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジオ">ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジオ</a> - <span class="int-own-work" lang="ja">投稿者自身による作品</span>, パブリック・ドメイン, リンクによる
カラヴァッジョといえばこれなんですよねえ。
光と影の明暗表現でドラマチックな絵を描いたのがカラヴァッジョでした。もうこの絵なんか舞台の一場面を見ているようですよね!真横からの強い光。照明で作ったもののよう。
この絵は聖書の一場面です。マタイという収税人の元に突然キリストが訪れ「我に従え」と声をかける。その瞬間、マタイは天啓に打たれ、何の驚きも反論もなく、キリストに従って去っていく。
ここではまさに「我に従え」とキリストが声を発した瞬間を切り取っています。キリストは一番右端の人。……光が当たってないからあんまりわからないんですよねー。頭上にうっすらと光輪が描かれているせいで、なんだか帽子をかぶっているように見える。もうちょっとわかるように描いてくれないと。
もっと困るのは誰が聖マタイかはっきりしないことです。長らく中央の年配の男性がマタイだとされてきました。が、近年ではその中央の年配男性は自分を指さしているのではなく、その左側の、うつむいてる若者を指しているのではないかという意見が出て来ています。
……この若者が暗い!見えない!全然光が当たってない!完全に背景。「聖マタイの召命」というタイトルで、本人をこんな見えないように描かれても困るのだが……。ここまで本命を隠すかねえ。わたしは年配男性で何の疑問も抱かなかったので、今さらそんなことを言われても……と思います。
実際はどっちなのか、最終的な正解は現在のところ未定。今後研究が進むでしょう。
ルーベンスは太った女性がお好き。
ルーベンスはねえ……。有名ですね。何で有名かというと、日本人にとっては「フランダースの犬」ですね!
「フランダースの犬」といって反応出来る年齢の下限は何歳くらいなんでしょう?アニメ特番の名場面特集で何度も放映されましたから、それで知っている人もいるかもしれません。
主人公のネロは貧しい少年で、つらい生活をしています。唯一の楽しみは絵を描くこと。絵の才能があり、アントワープ(ベルギーのアントウェルペン)大聖堂にあるルーベンスの「キリスト降架」の絵に憧れています。当時はお金を払わないと絵が見られず、貧しいネロは見たことがなかったのです。
飢えて大聖堂にたどりつき、念願だった絵をようやく見られ、その絵を見上げながらネロは天国へと向かいます。パトラッシュと共に。
……という、ルーベンスの絵がこちら。
ルーベンス「キリスト降架」
<a href="https://en.wikipedia.org/wiki/ja:%E3%83%94%E3%83%BC%E3%83%86%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%91%E3%82%A6%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%99%E3%83%B3%E3%82%B9" class="extiw" title="w:ja:ピーテル・パウル・ルーベンス">ピーテル・パウル・ルーベンス</a> - 1. <a href="https://en.wikipedia.org/wiki/en:Web_Gallery_of_Art" class="extiw" title="w:en:Web Gallery of Art">Web Gallery of Art</a>: <a href="http://www.wga.hu/art/r/rubens/11religi/07desce.jpg" rel="nofollow"></a> <a rel="nofollow" class="external text" href="http://www.wga.hu/art/r/rubens/11religi/07desce.jpg"></a><a href="https://en.wikipedia.org/wiki/ja:%E7%94%BB%E5%83%8F" class="extiw" title="w:ja:画像">静止画</a> <a href="http://www.wga.hu/html/r/rubens/11religi/07desce.html" rel="nofollow"></a> <a rel="nofollow" class="external text" href="http://www.wga.hu/html/r/rubens/11religi/07desce.html">Info about artwork</a>
2. <a rel="nofollow" class="external text" href="http://www.lukasweb.be/en/photo/descent-from-the-cross-0">Lukas VZW Art in Flanders Imagebank</a>, パブリック・ドメイン, リンクによる
わたしがこの絵を知ったのはけっこう大人になってからでしたが、「これって、ネロのような少年が見たがる絵?」と、ピンと来なかった記憶があります。ネロは画家の目として見たのだからこれでいいのでしょうが、話としては「聖母被昇天」の絵の方がふさわしいですよね。
ルーベンス「聖母被昇天」
<a href="https://en.wikipedia.org/wiki/ja:%E3%83%94%E3%83%BC%E3%83%86%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%91%E3%82%A6%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%99%E3%83%B3%E3%82%B9" class="extiw" title="w:ja:ピーテル・パウル・ルーベンス">ピーテル・パウル・ルーベンス</a> - <a href="https://en.wikipedia.org/wiki/en:Web_Gallery_of_Art" class="extiw" title="w:en:Web Gallery of Art">Web Gallery of Art</a>: <a href="http://www.wga.hu/art/r/rubens/11religi/08assum.jpg" rel="nofollow"></a> <a rel="nofollow" class="external text" href="http://www.wga.hu/art/r/rubens/11religi/08assum.jpg"></a><a href="https://en.wikipedia.org/wiki/ja:%E7%94%BB%E5%83%8F" class="extiw" title="w:ja:画像">静止画</a> <a href="http://www.wga.hu/html/r/rubens/11religi/08assum.html" rel="nofollow"></a> <a rel="nofollow" class="external text" href="http://www.wga.hu/html/r/rubens/11religi/08assum.html">Info about artwork</a>, パブリック・ドメイン, リンクによる
ネロがその前で死ぬのなら、聖母マリアの優しさが欲しかった。
でもルーベンスは当時のヨーロッパでとにかく人気、工房も巨大でしたから、作品がものすごくたくさんあります。しかもけっこうな大物ばっかり。ヨーロッパのちょっと大きいミュージアムなら常にあるイメージ。そのくらいポピュラーな画家なので……この一枚、というのがない。
昔から不思議なのですが、ルーベンスはなんでこんなに太った女性ばっかり描くのだろうかと……。三段腹!背中肉のたるみ!
まあ個人的には、大変親しみが持てるというべきなのかもしれない。でも「三美神」というテーマでさえ肉がたるんでいる……。これでいいのか。ヨーロッパ的美意識はこれなのか。ルーベンスが太った女性が好きだったのか。
アントウェルペンには行ったことがありません。今から思えば、ゲントとアントウェルペンには行っておけば良かったなあ。
大雑把な筆が細密に見える魔法。ベラスケス。
ベラスケスはスペインの人です。わたしはしばらく前まで、ベラスケスとレンブラントをよく混同していました。区別がついた今では全然似てないのですが。
長くスペイン宮廷に仕えた人。当時の王フェリペ4世には大変気に入られ、側近として高い地位も与えられたそうです。ベラスケスが描いたフェリペ4世の肖像画はたくさんあるはずだが、何枚くらい描いたんだろう。みんな同じ顔をしているので正直一枚一枚の区別がつかない。
ベラスケス「フェリペ4世」
<a href="https://en.wikipedia.org/wiki/ja:%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%A8%E3%82%B4%E3%83%BB%E3%83%99%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%82%B1%E3%82%B9" class="extiw" title="w:ja:ディエゴ・ベラスケス">ディエゴ・ベラスケス</a> - <a rel="nofollow" class="external free" href="http://collections.frick.org/view/objects/asitem/items%240040:271">http://collections.frick.org/view/objects/asitem/items$0040:271</a>, パブリック・ドメイン, リンクによる
服の細部がすごい。
ベラスケスの絵は実際には全然細かく描いてないのに、細かく描いているように見えるというところがすごい。近くからじっくり見ると筆致としてはかなり荒っぽいのですが、一体どうやったらこの筆であんなに細かく見える絵を描くことが出来るのだろう……。魔法のようです。
このフェリペ4世の肖像画はいい男に描いている方なのですが、絵によってはけっこうへちゃむくれに描かれていることがあります。これでよく王様が許したなと思うくらい。ハプスブルグ家の特徴はしゃくれた顎、厚い下唇と言われています。これは修正をかけた絵。
ベラスケス「ラス・メニーナス(女官たち)」
<a href="https://en.wikipedia.org/wiki/ja:%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%A8%E3%82%B4%E3%83%BB%E3%83%99%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%82%B1%E3%82%B9" class="extiw" title="w:ja:ディエゴ・ベラスケス">ディエゴ・ベラスケス</a> - The Prado in Google Earth: <a rel="nofollow" class="external text" href="https://web.archive.org/web/20150525230020/http://www.google.com/intl/en/landing/prado/">Home</a> - 7th level of zoom, JPEG compression quality: Photoshop 8., パブリック・ドメイン, リンクによる
ベラスケスといったらこの一枚、という絵。
タイトルは「ラス・メニーナス(女官たち)」。ただ目が行くのは女官たちというよりは、中央で幼いながら凛として立つ王女マルゲリータ・テレーサです。
が、この絵には他にもいくつか仕掛けが。
一番左側に立つ男性はベラスケス自身です。その前にあるのは絵のキャンバス。すごく大きいので、一体何を描いているのか気になります。背丈の2倍近い高さがありますよね。
絵の中央、四角い部分は鏡です。ここに映っているぼんやりとした人影は国王夫妻だと言われています。この位置関係からベラスケスは国王夫妻を描いている最中で、この絵は国王から見たアトリエの風景を描いているのだ、という見方があります。
絵の奥から振り向いてこちらを見ているのは王の侍従。この侍従はベラスケスという名前で、画家ベラスケスと親戚だった可能性もあると言われています。わたしはこの人が必要以上に目立っているのが気になる……。真っ白の背景の中の黒い人影ですから、鏡の中の国王夫妻よりも目立ちますよね。何か意味があるのではないかと想像してしまう。
この絵は最初「家族」というタイトルをつけられていたそうです。でも国王夫妻がこんなに小さく(鏡の中に)描かれていて、娘と国王の家族の絵とわかるのは難しい。
わたしは基本的に素直にきれいな絵が好きですが、こういう風に視線が立ち止まるような絵も面白いですよね。あまりにあからさまな謎かけよりも、このくらいの方が。
ベラスケス「キリストの磔刑」
<a href="https://en.wikipedia.org/wiki/ja:%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%A8%E3%82%B4%E3%83%BB%E3%83%99%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%82%B1%E3%82%B9" class="extiw" title="w:ja:ディエゴ・ベラスケス">ディエゴ・ベラスケス</a> - <a rel="nofollow" class="external autonumber" href="https://www.museodelprado.es/coleccion/obra-de-arte/cristo-crucificado/72cbb57e-f622-4531-9b25-27ff0a9559d7">[1]</a>, パブリック・ドメイン, リンクによる
華やかな宮廷で王の肖像画を描いていたベラスケスですが、まったく違った雰囲気の絵も描いています。
こういうのを見るとスペイン!という気がする。スペインはカトリック信仰が強い国です。こういうど真ん中の宗教画は、他の地方ではなかなか成立しにくかったのではないかと思う。根拠はないですが。
背景の漆黒が効いています。はっとさせられる絵。
光を自在に使う、レンブラント。
こちらはオランダの画家、レンブラント。個人的には「南のベラスケス、北のレンブラント」と言いたい気がする。わたしの中ではこの2人はなんとなくペア。生きた時代もほとんど重なります。
レンブラントの絵は一部を除いて、あんまりバロックっぽくはないよなーと思っています。特に画業後半の絵や自画像は。バロックは光と影をドラマティックに扱ったというイメージがあるのですが、レンブラントはドラマティックというよりは「光をうまく回す」というイメージ。
光を回すというのは写真撮影の時に時々使う言葉です。「柔らかな光を被写体全体に当てる」ということかと思います。たとえばこんな絵。
レンブラント「ユダヤの花嫁」
<a href="https://en.wikipedia.org/wiki/ja:%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%83%96%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%AC%E3%82%A4%E3%83%B3" class="extiw" title="w:ja:レンブラント・ファン・レイン">レンブラント・ファン・レイン</a> - www.rijksmuseum.nl : <a rel="nofollow" class="external text" href="http://www.rijksmuseum.nl">Home</a> : <a rel="nofollow" class="external text" href="http://hdl.handle.net/10934/RM0001.COLLECT.5223">Info</a>, パブリック・ドメイン, リンクによる
これは晩年の作。人生後半は挫折が多かったレンブラントの、最終盤を飾る華ともいうべき作品かもしれません。
イサクとリベカというのは旧約聖書中の人物。レンブラントの時代の衣装を着ています。同時代の人の肖像画を描いたのか、イサクとリベカを描こうとしてモデルを使ったのか、どちらか不明。
でもすごく信頼し合っている夫婦に見えますよねー。イサクとリベカというのは、……えー、わたしもよく知らないけれども、そんなに(絵画のテーマとしては)出て来ません。まあお似合いの相手というか、信頼のカップルというか、そんな感じの2人。金色の霞がかかっているような気がする。
しかしこれは晩年の作風です。レンブラントのバロックらしい絵はこちら。
レンブラント「夜警」
<a href="https://en.wikipedia.org/wiki/ja:%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%83%96%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%AC%E3%82%A4%E3%83%B3" class="extiw" title="w:ja:レンブラント・ファン・レイン">レンブラント・ファン・レイン</a> - <a rel="nofollow" class="external free" href="http://hdl.handle.net/10934/RM0001.COLLECT.5216">http://hdl.handle.net/10934/RM0001.COLLECT.5216</a>, パブリック・ドメイン, リンクによる
ネット上で見るとそこまで光と影という風には見えないかもしれないですが、実際に見ると光!影!というドラマティックな絵。
が、その光と影の当たり方が問題で……。この絵は本当は、この頃オランダで流行っていた、集団肖像画として依頼されたそうなんです。
「集団肖像画」とはなんでしょう?
他の国に比べて早くから一般民衆が経済力を持ったオランダでは、貴族ではない、普通のお金持ちも家に絵を飾るようになりました。それとともに自分たちをモデルにした絵が欲しい、という要望も出てきました。
とはいえ、一人だけの肖像画を注文するのはやっぱり高額。この時代によく行なわれたのが、仕事関係のグループが自分たちの肖像画を描いてもらう、ということです。
そんな集団肖像画の典型的な例がこちら。
レンブラント「テュルプ博士の解剖学講義」
<a href="https://en.wikipedia.org/wiki/ja:%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%83%96%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%AC%E3%82%A4%E3%83%B3" class="extiw" title="w:ja:レンブラント・ファン・レイン">レンブラント・ファン・レイン</a> - <a rel="nofollow" class="external text" href="http://www.mauritshuis.nl/nl-nl/ontdek/mauritshuis/hoogtepunten-mauritshuis/de-anatomische-les-van-dr-nicolaes-tulp-146/#">Info</a> : <a rel="nofollow" class="external text" href="http://www.mauritshuis.nl/-/media/4c6ca74c139f4a28b00270f281fb6cc2.ashx?mw=3000&mh=3000&dl=1">Image</a>, パブリック・ドメイン, リンクによる
当時、一種のイベントだった死体解剖を絵にしています。外科医師会は5年から10年に1度の割合で、このような肖像画を描くためのお金を支出していました。この絵の場合、描かれた人それぞれも個人的な支払い分があったでしょうし、中央のテュルプ博士も他の人よりは高額な代金を負担していたと思われます。
人物の顔が大きく、はっきり描かれているので、知り合いであれば誰がこの絵のモデルになっているかわかったことでしょう。描かれている人は鼻高々。集団肖像画はそういう存在ですから、顔がはっきり描かれてないとお金を出した甲斐がないというもの。
しかし「夜警」ではどうでしょうか。
中央の2人だけが目立って、他の人はけっこう脇役。それでも表情がわかるように描かれた人はまだいいけど、かなりの人数が半分闇に沈んでいる。この時は各人が頭割りで出資したそうで「同じ金を出したのにこれでは割に合わん!」という声もあったことでしょう。
でもこんな風にドラマティックに仕上げた画家のセンスがあったからこそ、この絵は長くオランダの至宝となりました。それを知ったら半分陰に隠れた人も満足するに違いない。
……が、本来この絵には左側にもう2人、描かれていた人がいたそうなんですね。絵が別な建物に移された時に、飾る壁のサイズに合わせて切り取られてしまったとか。それは気の毒としかいえない。時期的には本人たちは亡くなっているだろうタイミングですが、子や孫はショックだったでしょうね。
おまけに、スルバラン。
今までに挙げた画家に比べたら地味なので、ついついその存在を忘れそうになりますが、スルバランもすばらしい画家です。何がすばらしいといって、その静けさが。
光と影の使い方がドラマティック……というのがバロックで、スルバランの絵はそういう意味ではバロックですが、わたしがバロックに求める華麗さはどこにもない。地味に実直に描きました。しかしその中で何枚か、どこか目を引く絵がある。
スルバラン「静物(ボデゴン)」
<a href="https://en.wikipedia.org/wiki/ja:%E3%83%95%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%82%B9%E3%82%B3%E3%83%BB%E3%83%87%E3%83%BB%E3%82%B9%E3%83%AB%E3%83%90%E3%83%A9%E3%83%B3" class="extiw" title="w:ja:フランシスコ・デ・スルバラン">フランシスコ・デ・スルバラン</a> - <a rel="nofollow" class="external free" href="http://www.museodelprado.es/en/the-collection/online-gallery/on-line-gallery/obra/still-life/">http://www.museodelprado.es/en/the-collection/online-gallery/on-line-gallery/obra/still-life/</a>, パブリック・ドメイン, リンクによる
静物画のなかの一ジャンルに「ボデゴン」というものがあります。食材や食器をメインに描いた静物画のこと。日常の中のザ・日常というテーマですが、こんな風に描かれるととても崇高なものに見える。この黒の中に輝く真っ白な陶器の肌が美しい。
スルバラン「磔刑図」
<a href="https://en.wikipedia.org/wiki/ja:%E3%83%95%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%82%B9%E3%82%B3%E3%83%BB%E3%83%87%E3%83%BB%E3%82%B9%E3%83%AB%E3%83%90%E3%83%A9%E3%83%B3" class="extiw" title="w:ja:フランシスコ・デ・スルバラン">フランシスコ・デ・スルバラン</a> - The Yorck Project (<span style="white-space:nowrap">2002年</span>) 10.000 Meisterwerke der Malerei (DVD-ROM), distributed by <a href="//commons.wikimedia.org/wiki/Commons:10,000_paintings_from_Directmedia" title="Commons:10,000 paintings from Directmedia">DIRECTMEDIA</a> Publishing GmbH. <a href="https://ja.wikipedia.org/wiki/ISBN" class="extiw" title="ja:ISBN">ISBN</a>: <a href="//commons.wikimedia.org/wiki/Special:BookSources/3936122202" title="Special:BookSources/3936122202">3936122202</a>., パブリック・ドメイン, リンクによる
あれ?よく似た絵をさっき見ましたね?
ベラスケスの「キリストの磔刑」とそっくり。光の劇的な使い方という意味ではこちらの絵の方が好きだなあ。神様というより単に苦しむ人という感じで、こちらの方が傷ましいんだけれど。筋肉もスルバランの方ががつがつ描いてますね。
ちなみに絵が描かれた時期はスルバランの方が数年先。ベラスケスがスルバランを参考にしたという可能性も多いにありそうです。
スルバラン「聖ウーゴと食卓の奇跡」
<a href="https://en.wikipedia.org/wiki/ja:%E3%83%95%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%82%B9%E3%82%B3%E3%83%BB%E3%83%87%E3%83%BB%E3%82%B9%E3%83%AB%E3%83%90%E3%83%A9%E3%83%B3" class="extiw" title="w:ja:フランシスコ・デ・スルバラン">フランシスコ・デ・スルバラン</a> - <a rel="nofollow" class="external text" href="http://www.juntadeandalucia.es/culturaydeporte/museos/MBASE/index.jsp?redirect=S2_3_1_1.jsp&idpieza=48&pagina=3">Museo de Bellas Artes de Sevilla</a>, パブリック・ドメイン, リンクによる
バロックという気が欠片もしない、とても平面的な画面構成。
これは45日間眠っていた修道士たちがたった今目覚めた、という瞬間のシーンらしいです。この動かない感じがミソ。
集団肖像画の趣があるように感じます。そこは想像ですが。信仰の道に生きる人が自ら望んで肖像画を残すというのは、本来は疑問な行為な気がするし。
歴代法王や枢機卿は、ラファエロやティツィアーノなどに山ほど肖像画を描かせたわけですが、偉くなると、信仰に必要な謙譲の美徳はどうしても薄れてしまうということなんでしょうね。
スルバランは宮殿や修道院に絵を描いた、羽振りのいい時期もあったそうです。ベラスケスとも交流があったとか。絵からは控えめな人柄を想像するのですが、どんな人だったんでしょうね。
いろいろなバロック。
カラヴァッジョ
ルーベンス
ベラスケス
レンブラント
おまけでスルバラン
をバロックの画家として見ました。
劇的な光と影のカラヴァッジョ。
華麗なルーベンス。
結局、美術を時代で区切ることには限界があるんだろうと思います。歴史の流れとして見られるのはルネサンスまでで、理想が完成したあとは、いろいろな道をそれぞれが探していくしかない。バベルの塔は途中でくずれてしまいましたが、たとえ完成していたとしても――完成した後は、人はやはり散っていくしかなかったはずだと思います。
ちなみにバロック期の画家といわれるけど、(わたしが)納得できない画家たち。
フェルメール(オランダ)
アンソニー・ヴァン・ダイク(フランドル)
ジョルジュ・ド・ラ・トゥール(フランス)
クロード・ロラン(フランス)
プッサン(フランス)
ティエポロ(イタリア)
わたしが思うバロックは華麗&劇的&明暗。そうするとフェルメールとラ・トゥールは劇的でもなく華麗でもない。ヴァン・ダイクも王侯貴族の肖像画を多く描いたけれど、華やかさよりは内省的な部分の方をより強く感じる。
ロランは風景で、劇的というよりは(いい意味で)舞台の書き割り的。ストーリー性は感じるけれども。光と影というよりは夕暮れの光を使った画家。
プッサンは華やかな絵も描いたけど静謐な絵もまた多し。ティエポロはバロックというよりむしろその後を感じさせる画家。
ルーベンスの華麗さは、もう少し時代が下がると可愛らしい華やかさになって、ロココとして花開くのでしょう。それまでにはもう少し時間がかかります。
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