本を読むこと

◎梅原猛「隠された十字架」。ミステリよりも面白い!

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梅原猛さんがご逝去されました。テレビのニュースで知った時、わたしは定食屋で会計を済ませるところだったのですが、テレビの前で仁王立ちになりました。

そうか。梅原猛。亡くなったか。93歳か。

寿ぐべきご長命だったとはいえ、やはり軽い衝撃がありました。いや、個人的には全然知らないんですよ、もちろん。でも著作を通じて親しみを持っていた人だけに。お悔やみを申し上げたいです。

相当昔に読んだ「隠された十字架 法隆寺論」がすごく面白かったんです。

 


隠された十字架―法隆寺論 (新潮文庫)

 

端的にいえば、これは「トンデモ本」の範疇だと思う。実際、1972年発行のこの本の内容について、梅原自身も後年は否定的でした。通常の歴史常識からすれば「は?」と思うことが多く書いてあり、読んだ当時のわたしでさえ、理性的にはこれはトンデモだとわかっていた。

でも情緒的には、下手なミステリよりもずっと面白かったんです。本をおく能わず。

一言で言ってしまえば「法隆寺は聖徳太子の怨霊鎮魂の寺として建てられた」ということを熱く述べている本なのだが、その熱さが。パッションが。夢中になって自説を語るその姿勢が。ぐいぐい引き込まれていく。頭ではトンデモトンデモ、と思おうとしていても、引きずられていく心は止められない。

公平に言えば法隆寺関係者の方、専門の歴史学者の方からするとこの本は大変困った本であったと思われます。内容がセンセーショナルで売れたしね。そちらの立場の、憤慨したい人の気持ちもわかる。検証が甘いところなんて山ほどあるもの。

その後の4、5年でだいぶ梅原猛著作を読みました。

ご本人はそもそも歴史学者じゃなくて哲学者なんだけれども、わたしはだいだい歴史関係の本だけでした。それでも蔵書のうち、梅原猛著作が20冊近いんだから割合が高いですよ。「水底の歌」「神々の流竄」「塔」「聖徳太子」なんかが面白かったな。

でもやっぱりこれ一冊、というのであれば「隠された十字架」。

 

「ヤマトタケル」スーパー歌舞伎の原作も。

その後、ミュージカル好きのわたしは三代目猿之助のスーパー歌舞伎をたまたま(テレビで)見て、

「なにこれ、歌舞伎って日本のミュージカルじゃん!」と発見し(笑)感激します。

そしたら、あの梅原猛が猿之助のスーパー歌舞伎のために「ヤマトタケル」なる芝居を書いているらしい。さてこそ。トンデモナイ(ここはぜひ褒め言葉として受け取って頂きたいが)おっさん二人がここで繋がっているのねー。楽しくなりました。

三代目猿之助と梅原猛はケレンという点で繋がっている。

 


歌舞伎名作撰 ヤマトタケル [DVD]

 

他にも「小栗判官」「オオクニヌシ」もあるらしい。「小栗判官」は前にテレビで見たかな。

 

個性的な国際日本文化研究センター。

梅原猛らしいなあ、と思ったのは国際日本文化研究センターの初代所長を務めたこと。

というか、多分逆ですね。多分この人が所長だったからこそ、研究者の中でも若干毛色の変わった人が集まった。(と、わたしは思う。)

目下、国際日本文化研究センターの中でイチオシなのは磯田道史。って何のイチオシだ。

ずいぶんテレビに出ているので、知っている人も多いと思います。NHK「英雄たちの選択」では司会を務めてますね。

 


武士の家計簿 ―「加賀藩御算用者」の幕末維新 (新潮新書)

 

同名の映画の元ネタとなった本です。正直言って映画の10倍面白い。

 


無私の日本人 (文春文庫)

 


殿、利息でござる! [DVD]

こっちはもっとはっきり原作。これは本も映画もどっちも面白いです。阿部サダヲのこんな写真を使っておきながら、映画は実はコメディじゃないんですよ!どう考えたってコメディだと思うじゃないですか!本の方は、学者が書いた本というよりはむしろ小説寄り。

磯田さんの何が好きかっていうと、歴史が好きで好きでしょうがないところ。専門は江戸時代だと思いますが、「英雄たちの選択」で古墳などへロケに行くと、嬉しくてヨダレがたれそうな顔をしている。自分の専門を愛している人はいいですね。

 

それから、もう一人贔屓が。だいぶ前に退いていらっしゃいますけれども。

井波律子さん。

井波さんは中国文学の研究者で、著作はマジメなものが多いですが、1冊に2、3か所、漂うユーモアがたまらない。はるか昔NHK教育で「人間大学」という番組をやっていたことがあって、その時にお姿を拝見したことがあります。小学校の優等生がそのまま大人になったような外見で、大部分は淡々とマジメに講義が進めていくのですが、時々こぼれる心の声が好きでした。

1冊これ!というのを選ぶのは難しいけれども。読みやすさと面白さのバランスでこれ。

 


中国文章家列伝 (岩波新書)

 

ご冥福をお祈りいたします。

だいぶ話が逸れてしまいました。

梅原さんは近年まで主に京都でご活躍されていました。新聞などでエッセイや対談を読むと、わたしはいつも懐かしい気持ちになっていました。あの頃、だいぶ無茶なことを情熱をこめて語っていらっしゃったけれども、御大、だいぶ穏やかになりましたね。

文章としてちょっとまとまりませんが、つまりは。

梅原猛さん、面白い著作を読ませて下さってありがとうございました。安らかに。

 

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