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◎マネは印象派の先駆者と言われますが。――美術を楽しく見るためには、好きなジャンルと出会うのが大切。西洋美術・印象派。

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むかしむかし、祖母の家には小さめの近代美術全集がありました。有名画家が時代ごとに並んでいる形式で、1冊に2、3名がまとまっていたと思う。その最初の1冊が「マネ/モネ」でした。

小さい頃はこの名前が不思議で。幼稚園とか小学生の頃ですから、画家の名前だということは知りません。そもそも幼稚園の頃はマネ、モネが人の名前だとは思わないですねー。「十五少年漂流記」とかジャックの豆の木とかメリーさんの羊で、いくつかの外国の名前はわかっていたけど、ジャックやメリーとは全然印象が違うじゃないですか。マネは真似かな?と思っていた。そしたらモネってなんだろう。

もうちょっと大きくなってからは、マネとモネは兄弟なのではないかと想像していました。だから名前が似ているのだと。もっと大きくなって、Manetという苗字とMonetという苗字なんだと知りました。どちらも苗字だから、特に血縁関係はなかった。ちゃんちゃん。

 

フランス人でもマネとモネを間違えた話。

が、ここはフランス人でも間違えるところらしいです。スペルが1文字しか違わないですしね。

とあるコンクールでの話。若い頃のマネとモネが応募したそうです。が、お互いの名前を取り違えられ、表示がマネの作品(実際はモネが描いたもの)だけが入選しました。マネはみんなにおめでとうと言われるもんだから、すっかり入選したものだと思って(それは思いますよね)絵のところに行くと、その絵は別人の絵。マネが描いた絵は落選。大変がっかりしたそうです。

あるんですねえ、そういうことが。若い頃ですから2人とも知名度がない。ManetもMonetも現在のところフランス語のwikiに10人前後項目があるので、決して希少な苗字というわけではないようですが、そんなに多数派でもないみたい。

 

マネとモネの関係は?

では、マネとモネにはどんな関係があるのでしょう。

簡単にいうと、マネはモネのある意味で先輩という立場の画家。歳は8歳ほど上です。ただし画風が直接つながっているわけではありません。

マネは印象派で括られることもあるのですが、わたしは印象派とは違うと思っています。印象派の画家の面々とは親しい交友関係にあり、後輩たちは先輩であるマネに数々影響を受けていると思うけれども、マネ自身は印象派とはいえないのではないでしょうか。

そういうことであれば、先に印象派とはどんなもんか、ということを先に決めないといけませんね。

 

印象派とは?

印象派とは何か。古今東西何万冊もの本が出て、いろんなことが書かれています。一番簡単にいうとどういう説明になるでしょう。

印象派は、光と空気を描こうとした画家たち。

抽象的ですが。
対象をそのまま描こうとしたわけではなく、画家と対象の間にある光、空気を絵の中にとどめようと努力した人々。そのため対象をリアルに描こうという方向ではなく、時間や湿度なども感じ取れるような絵が多い。

もっと具体的な特徴としては、

屋外制作の絵が多い。
筆跡を残す。

ということでしょうか。ただ具体的な部分は画家のそれぞれのスタイルなので、屋外での制作しかしなかったわけではありません。

 

マネと印象派の関係。

マネとモネが似ているという意見には賛同できない。苗字は似ているけれども。絵自体はそんなに似てませんよね?

マネが印象派の先駆けと言われるのは、絵の描き方、画法ではなく、画家としての活動自体かもしれません。マネは伝統的な官展(サロン)で入賞して広く認められることを望んでいましたが、入選したり落選したりで評価は高くありませんでした。

サロンの価値観は伝統的な絵画・画法を良しとするもので、革新的なマネの絵は受け入れがたかったのです。しかしその新しさに惹きつけられる人も出てきます。たとえば、当時一流の文化人だった詩人で評論家のゴーティエ。彼の賞賛もあり、何度目かで賞を取ります。

その新しさにマネよりも若い画家も注目し、彼の周りには画家が集まるようになります。この頃はまだ印象派というムーブメントが生まれる前で、マネのそばにいたのも、印象派とはあまり関係ない画家たちでした。

1860年代の後半から、のちに印象派と呼ばれる画家たちとの親交が始まります。

絵のイメージから、わたしはあまりマネが面倒見のいい兄貴だったような気はしないのですが(←偏見)、人が周りに集まってくるってことはやはり面倒見は良かったんだろうか。面倒見という部分以外の本人の魅力なんだろうか。その頃のマネのアトリエの様子を、仲間うちの一人が作品に残しています。

アンリ・ファンタン=ラトゥール「バティニョールのアトリエ」

Henri Fantin-Latour - A Studio at Les Batignolles - Google Art Project.jpg

絵筆を持っているのがマネ。

みんなヒゲ。この中にはモネとかルノアールとかがいるそうなのですが、みんなヒゲでわかりにくい。一応、中央のはっきりしない顔の人がルノワール、右端のもっとはっきりしない顔の人がモネらしいです。モネなんか特にぼやけていて、これは何か意味があるんじゃないかなあと思うくらい。

ルネサンスの頃の群像絵では、端っこに画家の自画像を紛れ込ませることが流行りましたね。あまりはっきり描かかれておらず、しかし人物の中で目線を一人だけ鑑賞者に向けている人物が画家本人のことが多かったのでした。それに習えば、この絵のモネは描いた画家本人位置なんですけどねー。

印象派の画家たちは、マネから絵画的な影響を受けたというよりは新しいことを追求する姿勢、世間と対決する態度を学んだのではないかと思います。それを「印象派の先駆」というのはあまりピンと来ませんね。画家としての先輩という位置づけの方が合っている気がします。先駆といえば、ターナーの方がふさわしいかも。

 

マネってどんな作家?

マネは人物画。だと思っています。

モデルに肉薄するような。冷静で理知的な。全体的に温かみは感じさせず、肖像画を除いては常に対象を突き放すような視線で描いていると思う。幸せな人物が描かれていることは大変少ない。例外は若干あるにせよ。

マネの代表作という観点からいえば、いかにもマネらしく感じるのは以下の4点でしょうか。

マネ「草上の昼食」

Edouard Manet - Le Dejeuner sur l'herbe.jpg

マネの画業の初期に描かれ、最初にスキャンダルを巻き起こした作品。これの何がいけなかったのかというと「その辺の森で女が裸になっているなんて、なんとハレンチな!」ということらしいです。

神様にしないとヌードは描けなかった時代。普通の女性の裸を描いてはいけませんでした。まあねえ。たしかに着衣の男性と裸の女性がピクニック、という図はなんだか妙に生々しく、そういう生々しさを感じさせる絵は見る人に羞恥心を起こさせ、けしからん!という流れはわかる気はする。

が、わたしはハレンチという意味では同時代のカバネル「ヴィーナスの誕生」の方がはるかにその度合いが高いと思うんですよねー。わたしは裸像に特にアレルギーはないのですが、どうもこの絵だけは気恥ずかしい。これが高評価され、マネの「草上の昼食」がそこまで非難されるのは解せぬ。

マネ「オランピア」

Edouard Manet - Olympia - Google Art Project 3.jpg

その次にスキャンダルを引き起こした絵がこの絵。性懲りもなくまた物議をかもす絵を描いてしまうんですねえ。

この絵も、何が問題だったかというとヌードを描きながら神さまの名前をつけなかったからです。ましてモデルは娼婦であるということを、黒猫やアクセサリーやオランピアという名前で暗示(というより明示)しています。前回よりもさらに炎上ポイントが増えたというか、当時の道徳観を逆なでにしたというか。

この絵には元ネタになった作品があります。

ティツィアーノ「ウルビーノのヴィーナス」

Tiziano - Venere di Urbino - Google Art Project.jpg

ルネサンス期のティツィアーノ。似たポーズで、構図も若干取り入れている。こちらはちゃんと神さまの名前がついています。時代がだいぶ違いますから、むしろそれ以外をつけようがなかった。

「ヴィーナス」の方は鑑賞者を誘惑する表情をしています。しかし「オランピア」は鑑賞者を挑発している。そこに傲岸な雰囲気も漂う。オランピアは高級遊女の典型的な名前です。これは鑑賞者の心をざわつかせる絵だったでしょう。この絵をもう見慣れてしまったわたしたち以上に挑発的な絵に映ったに違いありません。

マネ「笛を吹く少年」

Manet, Edouard - Young Flautist, or The Fifer, 1866 (2).jpg

この衣装はフランス近衛軍鼓笛隊のマスコット(幸運のお守り)。顔はマネ自身の息子だと目される少年だとされています。

マネの絵は全体的にのっぺりとしていて、あまり遠近感を感じさせません。これは日本の浮世絵の影響もあると言われています。この頃のパリでは日本美術が流行っていました。

特にのっぺりしているのがこの「笛を吹く少年」です。まるで絵というよりも切って貼りつけたような人物像。強いマットな服の黒と赤が特徴的。背景の微妙なグレイでモデルの浮遊感が増します。存在が強いですね、マネの人物は。

マネ「フォリー・ベルジェールのバー」

Edouard Manet 004.jpg

最晩年の有名作。わたしはこの絵が「ザ・マネ」だと思います。

フォリー・ベルジェールというのはパリにあるミュージックホール。ミュージックホールがどういうものなのか正確なところは知らないのですが、おそらくステージで歌や踊りやコントなど何でも見せる、ちょっと気取った、でもお色気もないわけではない。お酒と食事が楽しめる演芸場といったものだと思います。チャップリンも出演したことがあるようです。

そこのバーメイドを描いた絵。微妙な表情をしてますね。そこにあるのは倦怠感なのか、鈍い好奇心なのか、疲れなのか。目から光は完全には失われてはいない。でも幸せそうには見えない。もう少しで向こう側に落ちそうに見える。

わたしは長らく知らなかったのですが、右側に見える背中は、このバーメイドの後ろ姿だそうです。鏡に映っているにしても、角度的にあり得ないと思うけれども。多分時間と空間をいじっているんですよね。ちなみに背後にびっしりといる人々は店内にひしめいている客ですが、彼らも鏡に映っています。

遠目で見るとバーメイドのレース飾りも客たちもちゃんと描いてあるように見えるんだけど、細かく見るとものすごく粗いですね!どうして全体を見るとちゃんと見えるのか不思議なくらい。この辺はベラスケスの絵を思い出す。

 

マネは印象派の先駆と言われますが。

マネの代表作を4点、見てみました。このチョイスはガチですねー。多分誰が選んでも同じ選択になるのではないでしょうか。好き嫌いは別にして。

マネはすごく好きってわけではないのです、わたしは。中の中くらい。でもちょっと面白さは感じています。やっぱりその平面的な表現かなあ。平面であればいいということでもないけど、西洋美術が長く追求してきた写実と平面の、微妙なバランスが面白いかなあと思います。

もう少しマネの話におつきあいください。

 

 

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