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◎美術を楽しく見るためには、好きなジャンルと出会うのが大切。西洋美術・マニエリスム編。

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美術を楽しむためには好きなジャンルを見つけるのが大切です。絵は千差万別で、好きになれる絵もあれば全然興味を惹かれない絵もありますから。興味を惹かれない絵をオベンキョウだと思って見ても愉しくない。愉しい絵を見つけましょう。(と、自戒をこめて。)

 

盛期ルネサンスのねじれた後継者、マニエリスム。

マニエリスムという言葉の元になったのは、イタリア語の「マヌエラ」=様式、手法という意味です。

以前はルネサンス三巨匠を模倣し、それを定型化していった形式といわれ、否定的な見方がなされていました。現在の「マンネリ」という言葉の語源となっています。しかし現代になってからはマニエリスム独自の美について論じられるようになってきています。

マニエリスムは一般に、ねじれた人体、強調された手足の長さ、不自然な頭身などが特徴と言われています。それまでの調和的な美ではなくてキッチュな美を追求しました。ねじれた人体は後期のミケランジェロにも共通する特徴です。一見して奇妙な雰囲気が漂います。「蛇のようにうねる肉体」と表現されることもあります。

好きかと言われると……わたしはそんなに好きなジャンルではないですが、その幻想性が見どころ。ある意味不気味な絵。そこに惹かれるということはある。

ミケランジェロの晩年はマニエリスムに入っていると言われます。それは方向性としてよくわかる。筋肉が大好きだったミケランジェロは、ひねった体を彫るのが好きだった。なぜならひねるとより一層筋肉が複雑な動きをするから。

そのひねった人体を他の画家が見て、その曲線的で複雑な構成に魅力を感じたんでしょう。絵に動きが出てきます。

パルミジャニーノ「長い首の聖母」

Parmigianino - Madonna dal collo lungo - Google Art Project.jpg
<a href="https://en.wikipedia.org/wiki/ja:%E3%83%91%E3%83%AB%E3%83%9F%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%8B%E3%83%BC%E3%83%8E" class="extiw" title="w:ja:パルミジャニーノ">パルミジャニーノ</a> - <a rel="nofollow" class="external text" href="//www.google.com/culturalinstitute/asset-viewer/gAEsEn4eJXVHyg">gAEsEn4eJXVHyg at Google Cultural Institute</a>, zoom level maximum, パブリック・ドメイン, リンクによる

モデルは美女で、衣のひだも優美に描かれており、素直に美しい絵と言っていいはずなのに、この絵で何が目につくと言って聖母の曲がった長い首です。一番特徴的なところがそこなので、タイトルも「長い首の聖母」。

ただテーマが聖母子にしてはいろいろ妙なんですよね……。

首のくねり具合もそうなんですが、キリストも赤ん坊にしては頭身がおかしい。膝の角度は子どもを抱いているにしては急すぎる。聖母の指も長すぎるし、こんな豪華な髪飾りを聖母がつけるか?という疑問と、右下の男は一体誰なんだ、という疑問。そして……全体的にセクシャルな部分が多すぎる。細かくはいいませんが、聖母のへそを描いちゃだめなんじゃないだろうか。もう完全に世俗の肖像画。

今まで気づいてなかったのですが、右側の背景は塗り残しがありますね。未完成。でもそれを意識させない。謎の多い絵です。

ブロンズィーノ「愛の勝利の寓意」

Angelo Bronzino - Venus, Cupid, Folly and Time - National Gallery, London.jpg
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マニエリスムの一方の雄のブロンズィーノも、こういうわけわからん絵を描きます……。

もうこの辺になるとコワくて。描いているものはけっこうものすごいですね……。裸像はわたしは平気だけれども、ここまで官能性をあからさまに描かれると微妙……

主役の2人は美の女神ヴィーナスとその息子キューピッド。その2人もなんだが、周りの人物にも「なんなんだ、アンタたちは」と言いたい。特に背後の着衣の少女なんか、表情もコワければプロポーションも変で、ほんと一体なんなのか。

この絵は1545年に描かれたそうですが、この頃ミケランジェロもまだバリバリ現役です。年齢は30歳くらいしか離れていないのですが、もう絵画の性質が全然違っている。もちろん画家個人の志向も大きかったとは思うのですが、盛期ルネサンスで官能性の強い作品を残したティツィアーノでも、ここまで描こうとは思わなかったでしょう。

ブロンズィーノ「エレオノーラ・ディ・トレドと息子ジョヴァンニ」

Bronzino - Eleonora di Toledo col figlio Giovanni - Google Art Project.jpg
<a href="https://en.wikipedia.org/wiki/ja:%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%83%8B%E3%83%A7%E3%83%AD%E3%83%BB%E3%83%96%E3%83%AD%E3%83%B3%E3%82%BA%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%83%8E" class="extiw" title="w:ja:アーニョロ・ブロンズィーノ">アーニョロ・ブロンズィーノ</a> - <a rel="nofollow" class="external text" href="//www.google.com/culturalinstitute/asset-viewer/QAEccCsLDtbB4A">QAEccCsLDtbB4A at Google Cultural Institute</a>, zoom level maximum, パブリック・ドメイン, リンクによる

ブロンズィーノはこんなまともな(?)絵も描いています。

陶器で出来たような硬質な美しさの肌。静止している。「愛の勝利の寓意」よりも普通の絵ですね。このくらいなら安心して見られます。

でもたとえばこの絵が(昔、肖像画はそういう役割も多かったのです)お見合い写真だとしたら、ちょっと冷たい女性に見えてやだなあ。肩に手をかけている子供に対してはそれなりの愛情があるようには見えるけど。笑顔が想像できない。もう少し人間味があるように描いて欲しくはなかっただろうか。

夫のトスカーナ大公・コジモ1世との間に子どもが11人いたそうですから、特に夫婦仲が悪いというわけではなさそう。

服の質感がすばらしいです。面白いことに、まったく同じ衣装・同じアクセサリー・同じアングルでエレオノーラ1人を描いた肖像画もあります。どうせ描くなら別な衣装で描いて欲しかったのではないしょうか。それともこのドレスが気に入っていたのかな。

エル・グレコ「受胎告知(大原美術館)」

El GRECO (Domenikos Theotokopoulos) - Annunciation - Google Art Project.jpg
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あっ!エル・グレコを忘れていた!

でもエル・グレコってあんまりマニエリスムの画家っていう気がしない。長く引き伸ばされた人体、ねじるような動きなどはマニエリスムっぽいですが、パルミジャニーノやブロンズィーノと違って、エル・グレコからは信仰心が消えてない気がするのです。

エル・グレコはクレタ島出身の人で、主にスペインで活躍しました。エル・グレコも「ギリシャ人」という意味のあだ名です。ギリシャはキリスト教の大きな一派であるギリシャ正教の地域ですから、初期の作品にはビザンティン美術の影響も見られるそうです。ビザンティン美術はギリシャ正教の美術スタイル。

いち早くルネサンスを開花させたイタリアよりも、ギリシャの方が信仰心は篤かったでしょう。それがエル・グレコに数多くの宗教画を描かせた理由かもしれません。

鮮やかな色と黒の対比が特徴です。独特の画風なのでわかりやすいです。この絵でも、……天使の翼がけっこう黒い。

ちなみに「受胎告知」は岡山・倉敷美術館の目玉の一つ。創立者である大原孫三郎と児島虎次郎にとって、エル・グレコの1枚を得たことは大変うれしかったことでしょう。大原美術館はその設立経緯も含めて、日本国内指折りの素晴らしい美術館です。

 

個性をつきつめる、マニエリスム。

パルミジャニーノ、ブロンズィーノ、エル・グレコはマニエリスムの道を進み、それぞれ独自の画風を築き上げた個性的な画家だと思います。個性的になりすぎて直接の追随者が出なかった点は独立峰のよう。美術はこういう個性が積み重なり、面白くなっているんですね。

わたしはマニエリスムはとりわけ奇妙な、謎めいた絵画が多いと感じています。挙げませんでしたが、ポントルモという画家もふわふわした、不吉な気配が漂う絵を描いているんですよね……。

これらは理想化の反動なのでしょうか。ラファエロが到達してしまった理想の境地からの差別化なのでしょうか。そう考えると面白いです。

 

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