本を読むこと

◎光のどけき春の日に。百人一首を読んでみませんか?

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ひさかたの 光のどけき 春の日に 静心(しづごころ)なく 花の散るらむ

しまった、桜の季節を外した……。和歌は季節感が大事なのに!俳句の30%、和歌の10%は季節感だけで出来ているというのに!(←主観。)と、後悔しております。でも百人一首のなかには、春もあれば秋もあるし、数は少ないけど夏の歌も冬の歌もあるしね!

百人一首。
日本全国、授業で一度はやるだろうし、みんな知ってますよね。小さい頃坊主めくりをした人もいるかな?最近は「ちはやふる」のアニメが面白かったですね。和歌に触ってみる場合、百人一首が一番とっつきやすいんじゃないかと思います。

 

百人一首は800年前に一人のオタクが選んだ「和歌ベスト100」です。

しかし百人一種のそもそもの成立は、初心者向けにわかりやすく、とかそういう狙いは……まっっっったく無く!!

簡単にいうと、「百人一首」は藤原定家という文学オタクが心血をそそいで作り上げた、自分の文学趣味を満足させるアンソロジーです。

ということはつまり、選択されている歌はかなり文学オタク的に高度。

もう少し一般受けする歌とかわかりやすい歌とかあるだろうと思うんだけれども、なにしろオタクなものですから、本人のものすごく強固な独自のこだわりによって選択したと思われる。

たとえていえばアニメオタクに「日本アニメベスト100」を考えさせるようなもん。

アニメオタクに「自分の好きなアニメベスト100とは?」と訊いたとしたら、「ワンピース」「名探偵コナン」「ポケモン」とかメジャーなものも入ってくるかもしれませんが、みんながあんまり知らないアニメの名前が挙がる可能性もあるわけです。

百人一首もそういう側面があります。

なので、良さが誰にでもわかるような簡単な歌だけが揃っているというわけではない。

それに加えて古典文法の壁もありますから、「百首を一首一首丹念に読んで意味を覚えよう」なんて考えるとめんどくさいんじゃないでしょうか。

百首のなかで1つ、2つお気に入りの歌が見つかればそれで充分。

 

ひとまず、百首をざっと読む。

紙の本でもネットでもいいですが、まずまったく解説文がない、歌だけが並んでいるものを眺めてみましょう。

京都のせんべい・おかき専門店「長岡京 小倉山荘」のサイトが見やすかったです。

一目でスルッと意味がわかる歌を探しましょう。そういう歌が好きになりやすいはずです。歌は見た目でまず入る。←面食い。

文法がわかりにくいところもありますし、ひらがなが多いとどこで区切っていいかわからなかったりしますよね。そこで解説や口語訳を読む。意味がわかって好きになれる歌もあったりします。←結局は人柄も大事。

 

順番に読もうとすると、最初の方で挫折する。

昔から思っているのですが、どうも百人一首の最初の方は面白くない歌が多い……。

たとえば一首目は、

秋の田の 仮庵(かりほ)の庵(いほ)の 苫(とま)をあらみ
わが衣手(ころもで)は 露にぬれつつ
                             天智天皇

<秋の田んぼのそばにある仮の農作業小屋に自分は泊まっているが、
屋根の葺き具合が粗いので、衣が夜露で濡れてしまうよ>

二首目は、

春すぎて 夏来(き)にけらし 白妙の 衣ほすてふ 天の香具山
                             持統天皇

<春が過ぎて夏が来たんだなあ。その証拠に天香具山に衣が干してあるよ>

とかなんとかそういう意味の歌なのですが、そんなことを言われても、正直「……だから?」としか思えない。定家よ、(一首目なんて特に)なんでこんな地味な歌から始めたのか。そういう歌は後に回しましょう。

 

もっと感情をうたった歌の方が面白いですね。人それぞれの好みですが。

たとえば九首目、

花の色は うつりにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに
                               小野小町

<桜の花はもう盛りを過ぎてしまった。私がうかうかと世を過ごしている間に>

この歌は実は「ダブル・ミーニング」になっていまして、
後半部分には2つの意味があります。

〇世に長雨(=ながめ)が降っている間に
〇歳を経ながら世の中を眺めている間に

「ふる」が「雨が降る」でもあり「歳月を経る(ふる)」でもあるのですね。現代では「へる」と読む場合の方が多いですけれど。

わたしがカラオケで歌う歌に、中島みゆきの「ヘッドライト・テールライト」がありますが、その歌詞の中に、

足跡は降る雨と降る時の中へ消えて

というところがあります。これは多分、中島みゆきが上記の小野小町の歌を踏まえて書いた歌詞だと思うんですよねー。

そうすると、漢字は「経る」じゃなきゃダメなんじゃないかと、カラオケの画面を見るたび思います……。多分カラオケの段階で気づかずに入れてしまった気がする。せめてひらがなにしてくれー。

 

作者の小野小町は世界三大美女と言われていますが、日本国内だけの話ですね。外国の人がクレオパトラや楊貴妃はともかく、小野小町を知っているとは思えない。

「三大〇〇」というのは日本では何についても出てきますが、あまり外国では言わないようです。シンガポールの人に「マーライオンは世界三大がっかり名所だね!」と言っても通じないと思う。(がっかり名所というのも失礼だが。)

 

それからまたずーっと眺めて行くと、二十三首目、

月みれば ちぢにものこそ 悲しけれ わが身一つの 秋にはあらねど 

                                  大江千里

なんかはわかりやすいですね。「ちぢにものこそ」と平仮名で書いてあるからどこで切ったらいいか少し悩むが、漢字で書けば「千々に物こそ」なので、

<月を見るといろいろな物思いが浮かんで悲しい。
さびしい秋は私だけが味わっているわけでもないのだが>

こんな感じ。

 

知れば好きになる。かもしれない。

桜を見たり、月を見たりする時にふとこれらの歌が思い浮かべば世界が広がります。1000年前の人と同じまなざしで桜や月を見ることが出来る。時間と空間の共有。

……ちなみに和歌にはパーッと明るい!ものはほとんどなくてかなりセンティメンタルなものが多いのですが、やっぱりこれは温帯湿潤気候の日本の特徴だろうか。センティメンタルな気分の時にお読みください。

 

百人一首についてのエッセイはたくさん出ています。

山ほどあるなかから……と探してみると、


田辺聖子の小倉百人一首 (角川文庫)

やっぱり田辺さんですねー。
わたしは自分でこれを読んだかどうか忘れてしまったのですが、田辺さんはわたしを古典好きにした張本人なので、彼女が書いているとしたらそれを挙げずにはいられない。

田辺さんには古典に対する絶対的な愛があります。そしてそれはわたしの人生にも大きな影響を与えている……

 

他には白洲正子。


私の百人一首 (新潮文庫)

能や骨董についてのエッセイならば専門分野といってもいい白洲正子ですが、古典分野となると一歩を譲るところがあるかもしれない。でもわたし、白洲正子が好きなんです。

◎武相荘。白洲正子と白洲次郎が住んだ場所。

 

田辺聖子さんにしても白洲正子にしても専門家ではなく文筆家なので、もし専門家の本だったらこれでしょうか。


百人一首 (講談社学術文庫)


わたしは講談社学術文庫がけっこう好き。

 

暗唱出来るようになると楽しいです。

俳句や詩、短歌などの韻文は、何が書いてあるかよりもどう書いてあるかが大切。なのでもし気に入った短歌が見つかったらそのまま暗記しちゃってください。暗記したからといって何に役に立つってわけでもないですが、単純に楽しい。それはたとえば、マンガの名セリフを暗記することと同じです。

あきらめたらそこで試合終了ですよ
「SLAM DUNK」

打ち切ってこそ……エース!!
「ハイキュー!!」

おまえはもう死んでいる
「北斗の拳」

……なんか違う?まあちょっと違うかもしれないけど似たようなもんです。

 

わたしのベスト3。

ちなみにわたしが好きな百人一首のうちの歌はねー。

 

天津風(あまつかぜ)雲の通ひ路(かよひじ)吹き閉ぢよ をとめの姿 しばしとどめむ
                          僧正遍照

しのぶれど 色に出でにけり わが恋は ものや思ふと 人の問ふまで
                          平兼盛

もろともに あはれと思へ 山桜 花より外(ほか)に 知る人もなし
                          前僧正行尊

 

「大好き」っていうと、この3つかなー。

「天津風」は解説を読まないとちょっと情景が目に浮かんでこない歌ですね。「をとめ=乙女」は宮中のお祭りで舞を舞う五節の舞姫たちのこと。この舞姫たちがあまりにも美しかったので、それを天女に見立て、

<天へと帰ってしまうこの乙女たちの帰り道を、
天の風よ、少しの間ふさいで引き留めておくれ>

という意味です。
昔の宮中のお祭りですから、雅で華やかできらきらしい……。現代の天皇家の行事というと厳粛さの印象の方が強いと思いますが、昔は誰に遠慮することもなくお金をかけて、優雅さ、美しさを競ったと思います。

こういうところで衣装や小道具でセンスを見せることが権力者の証でもありましたから(センスが政治闘争の手段の一つであった時代もあったんですよ!今と違って。)それはそれは目に美しいものだったに違いありません。

 

「しのぶれど」の歌はストレートな歌で、

<忍ぶ片思いをしていたが顔色に出てしまったのだろうか。
「何か物思いをなさっておられるのか」と人に問われるまでに>

すごく可愛い歌ですね。こういう歌を昔は男性が読んだというのも面白い。わかりやすさも魅力。

 

「もろともに」は、細かく考えると「あはれ」の部分が、かーなーり面倒。というのも「あはれ」という言葉の意味が現代でははっきりしていないからです。現代語の「憐れ」=かわいそうという意味ではないので注意。「あはれ」の意味は専門の学者が1冊本を書ける内容。

が、われわれ素人には読みたいように読むという自由が許されています。

わたしは「あはれ」は、

切ない憧れ
かなしいほどの愛しさ
心を深く動かす情趣の深さ

というような意味を想像します。なのでそれを踏まえて、

<一緒にこの心をわかちあってくれ、山桜よ。
おまえ以外にわたしの心を知るものはいないのだから>

というように読みます。解説によれば、山桜ですからおそらく他の人がいない、山道で突然出会ったものだろうと言われます。山の中で、知己に会った心地がしたのでしょうね。

 

詩を心に一つ飼う。

全部わかる必要はない。全部好きになる必要はない。でも百首のなかの一首でもお気に入りを見つけてみませんか。

百人一首に限りませんが、覚えている文章があると心が少し広がります。少し。ほんの少し。

他にも和歌・短歌といえば、万葉集や古今集や新古今集や、現代短歌などもいろいろありますが、まずはよく知られた「百人一首」からスタートしてみませんか。

 

 

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