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塩野七生の「よりみち歴史コース」。こっちもまずは「チェーザレ・ボルジア あるいは優雅なる冷酷」から。

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塩野七生の小説を読んでみようかなと思った時に、どれから読んだらいいか
迷う人は多いと思います。たくさん、しかも長いのがありますからね。

 

まずは「チェーザレ・ボルジア あるいは優雅なる冷酷」から。

どのコースをたどるにしろ、塩野さんの最初の1冊は
「チェーザレ・ボルジア あるいは優雅なる冷酷」からで間違いないです。


チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷 (新潮文庫)

この作品には塩野さんの要素がたっぷり詰まっている。

いい男好きとか、
主人公をヒロイックに書くとか、
台詞を用いないとか、
冷静な語り口とか。

「チェーザレ」を気に入った人はおそらく他の作品を気に入る確率が高いでしょう。
まずは「チェーザレ」を読んでみてください。
普通の1冊の長さなのでとっつきやすいと思います。

さて、その次に何を読むかです。

もちろん興味を惹かれる方向に、足のむくまま気の向くままでいいのですが、
大雑把に言って2つの方向があります。

「王道歴史コース」

「よりみち歴史コース」

「王道歴史コース」について書いた記事がこちら。

塩野七生を読むのなら「チェーザレ・ボルジア あるいは優雅なる冷酷」からがおすすめ。塩野七生の「王道歴史コース」。

「王道歴史コース」は力が入っているし、読みごたえがあることは
間違いないですが、もう少し気軽なものを読みたい向きにおすすめしたいのが、

「よりみち歴史コース」です。

 

よりみち歴史コース1冊目。「サロメの乳母の話」

これは今となっては、塩野さんの著作の中で異色作。
歴史書と勘違いされるほど冷静な筆致で書かれた塩野作品の中で、
ほぼ唯一といっていいくらい、「普通の小説」っぽいです。
「普通の小説」が異色なんだから変わった作家ですね。


サロメの乳母の話 (新潮文庫)

これは短編集です。

めずらしく台詞があるし、そもそも一人称で書かれています。
語り手は歴史上(物語上)の人物のそばにいた人々。

たとえば、

「貞女の言い分」(オデュッセウスの妻・ペネロペ)
「サロメの乳母の話」(サロメの乳母)
「ダンテの妻の嘆き」(「神曲」のダンテの妻)
「聖フランチェスコの母」(アッシジの聖人、聖フランチェスコの母)
「ユダの母親」(裏切り者ユダの母)

などなど。12編で、最後の2つは地獄で楽しく暮らす歴史上有名な女たちの座談会。
クレオパトラとかマリー・アントワネットとかが参加している。
全体的に諧謔味の強い、気軽に読める本になっています。

面白くてわたしは好きですけれど、それでも塩野七生がずっとこの路線を
選ばなくてほんとに良かったと思う……

 

よりみち歴史シリーズ2冊目。「ルネサンスの女たち」

これは塩野さんらしい内容ですが、王道歴史と比べて話が小さめではあるので
こちらに含めました。こういう言い方もちょっとヤダけど、
やはり女性を描くと歴史の大きな本流にはなりにくいですか。

300ページちょっとの本で、4人の女性について書いています。


ルネサンスの女たち (新潮文庫)

イザベッラ・デステ
ルクレティア・ボルジア
カテリーナ・スフォルツァ
カテリーナ・コルネール

このうち前の3人は塩野さんの著作以外でも名前を見かける、政治的にも重要な人物。

カテリーナ・コルネールはヴェネツィアの貴族で、
キプロス王妃になったそうだから重要な人なんだろうけれども、
あまり他では名前を見かけない気がする。

まあヴェネツィアは男性でも「ヴェネツィアといえばこの人!」というような人を
持たなかったお国柄だから、女性であればなおさらかもしれません。

 

よりみち歴史シリーズ3~5冊目。「緋色のヴェネツィア」「銀色のフィレンツェ」「黄金のローマ」

これはちょっと変わった成立をした本で。
あとで「三つの都の物語」として1冊合本にもされましたけど、
そもそもは3本の小説として書かれたものでした。三部作。

そしてたしか最初は副題がタイトルだった気がする。
「聖マルコ殺人事件」
「メディチ家殺人事件」
「法王庁殺人事件」

こう並んでいたらどう見てもミステリですね。
ミステリ層を取り込もうとしてこうなったのかもしれませんが、
のちに改題されました。

1話独立の話ですが、やはり順番に緋色→銀→金と読んでいくのが順当。

「緋色のヴェネツィア 聖マルコ殺人事件」


【中古】 緋色のヴェネツィア 聖マルコ殺人事件 朝日文芸文庫/塩野七生【著】 【中古】afb

この三部作は珍しく、主人公2人が架空の人物です。
ヴェネツィア貴族のマルコ・ダンドロと、ローマ出身の高級遊女オリンピア。
マルコに感情移入して読めるから、小説として読みやすいと思います。

塩野さんにしては恋愛に比重を置いたストーリーながら、
しかし周りの人々や出来事は史実に沿っています。
史実に溶け込ませたフィクション2人がうまい。

ダンドロ家は本当にあったヴェネツィアの名家なので、
今でもヴェネツィアに行くと「ダンドロ館」が残ってますよ。
聖地巡礼が出来そう。

実はこの「緋色のヴェネツィア」のヒーローともいうべきアルヴィーゼは、
「オスマン帝国外伝 ~愛と欲望のハレム~」にもちらっと顔を出します。

「オスマン帝国外伝 ~愛と欲望のハレム~」日本で見られるトルコ発の歴史ドラマ。オスマン帝国の風俗がぎっしり!

ドラマを見ていて「おおっ!アルヴィーゼじゃん!」と驚きました。
そして「緋色のヴェネツィア」の方にも、スレイマン大帝とロクサーナのことが
ちょこっと出て来る。ああ、このエピソード、ドラマでも見た……と思う。

歴史物を見ていると、顔なじみが時々顔を出す。そこが面白いですね。

ちなみに表紙の人物はティツィアーノ作「灰色の目の男」。
別名「若いイギリス人の肖像」モデル不明。
アルヴィーゼの肖像でも、もちろん架空の人物であるマルコの肖像でもありません。

「銀色のフィレンツェ メディチ家殺人事件」

マルコとオリンピアの2人がフィレンツェに移動して、また起こる事件。
ここではメディチ家をメインに据えたフィレンツェの状況が描かれます。


【中古】 銀色のフィレンツェ メディチ家殺人事件 朝日文芸文庫/塩野七生【著】 【中古】afb

この本で描かれるのは、
ロレンツォ豪華王からすると孫世代にあたるコジモ1世のこと。
歴史の横移動――何と何が同時代だったか――というのは、
なかなか覚えるのが難しいものなので、主人公が移動して繋げてくれるのはありがたい。

「黄金のローマ 法王庁殺人事件」

舞台はローマへ移ります。
ローマでは一つの歴史上の事件というよりは、「ローマとは何か」、
それに対比して「ヴェネツィアとは何か」「フィレンツェとは何か」が語られる。


黄金のローマ―法王庁殺人事件 (朝日文芸文庫)

マルコとオリンピアという架空部分も他の2作よりもページが多いと思う。
塩野さんのなかで「サロメの乳母の話」は別として、
最大限にフィクションなのがこの話じゃないかな。

この3部作は他の作品と毛色が違っています。小説っぽいので気軽に手に取れる作品。

 

よりみち歴史コース、6冊目「男の肖像」。

今までは歴史小説でしたが、6冊目はエッセイです。
これは塩野さんが自分の気になる男たちについて書いたもの。


男の肖像 (文春文庫)

文庫で約200ページ、そこで14人分。取り上げた男たちは、

ペリクレス、アレクサンダー大王、大カトー、ユリウス・カエサル、
北条時宗、織田信長、千利休、西郷隆盛、ナポレオン、フランツ・ヨゼフ1世、
毛沢東、コシモ・デ・メディチ、マーカス・アグリッパ、チャーチル。

こういうのを書くからビジネス書の延長として読まれちゃったりするんだよなあ……と思いつつ、内容はなかなか面白いです。
しかしエッセイは――一概にはいえないけれども――小説よりも早く色あせる。
今読むと若干古さを感じるかも。

 

以上、塩野七生「よりみち歴史コース」の6冊でした。

「王道歴史コース」に比べて「よりみち歴史コース」は手軽なので、
読みやすいと思います。
「海の都の物語」1100ページを再読するのはそれなりの覚悟がいるが、
「サロメの乳母の話」240ページならそれほどではない。

「王道歴史コース」
「よりみち歴史コース」
どちらも面白いと思いますが、
よりどっぷりイタリアの歴史に浸りたい方は前者を、
気軽に読みたい派は後者を読んでみてください。

きっと楽しめると思います!

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