先日ヴェネツィア本をおすすめしたので、ついでですからヴェネツィアを舞台にした映画もご紹介しましょう!本を読んで映像を見ればヴェネツィア感2倍!(謎)
ヴェネツィア映画4選。
「ツーリスト」
アメリカ人の平凡な数学教師フランク。彼は休暇をヴェネツィアで過ごそうと列車に乗っていた。そこへ目の覚めるようなゴージャスな美女、エリーズが現れる。声をかけてきた彼女に、フランクは疑問を感じつつも惹かれていく。しかしエリーズもまた必死で「あるもの」を探していた……
ジョニー・デップとアンジェリーナ・ジョリーが主役。10年くらい前の映画。
これは普通に面白い、癖のない映画でした。ストーリーにはツッコミを入れたい部分は多々あるけど、サスペンス要素もあり笑いもありで気軽に見られます。
最初はパリの風景が映り、その後ヴェネツィアへ移ります。風景が目に楽しいですねえ。アンジェリーナ・ジョリーの美女ぶりが、その豪華なお衣装とともに話に活きてます。
ヴェネツィア映画としての圧巻は屋根を伝ってのチェイスでしょうか。建物が密集しているヴェネツィアなら、本当にこんなチェイスも出来そう。日本では建蔽率などの関係であんなにくっつけて建てられないけど、海外は石造りだから火災に対する基準が違うんでしょうね。
運河でボートでのカーチェイス――ボートチェイスもあります。せっかくヴェネツィアにロケに来たんだから存分にヴェネツィアの風景を映して元をとろう!としたスタッフの意気込みが伝わります。違うか。
映画にはいくつも楽しむポイントがありますが、話の面白さ以外に、ロケ地やセットの美しさ、目に楽しいということも大きいな。わたしはイギリスの風景が映る映画だとついつい評価が甘くなってしまいます。
「ヴェニスの商人」
言わずと知れたシェイクスピアの「ヴェニスの商人」。……が、わたしは1回くらいしか読んだことがない。1回読んだだけでは内容が頭に残らない。なので「言わずと知れた」なんて言っておきながら、あらすじはほとんどまったく覚えていません。映画で見て、ようやくなんとなく話がわかったくらい。
バッサーニオという色男がいて、
その友人にアントーニオという商人がいる。
2人は親友で関係性も深い。
バッサーニオは富豪の娘・ポーシャと求婚するために、
その軍資金を貸してくれるようアントーニオに頼む。
ベニスの商人であるアントーニオはその時点ではお金がなかった。
そのため自分の商売ものを載せた船が届くまでの繋ぎに、
ユダヤ人高利貸しのシャイロックから借金をする。
しかしシャイロックは前々からアントーニオを憎んでいた。
もし返さなければ身体の肉1ポンドと引き換えにするという前提で金を貸す。
傲然とその申出を受け入れたアントーニオだが、貿易船が沈み金を返せない。
シャイロックは肉1ポンドを要求し、
アントーニオは裁判所に助けを求める。
その裁判官は実はバッサーニオの恋人、ポーシャがなりすましたものだった。
ポーシャは判決を下す。
「肉1ポンドは定めに従い、シャイロックが自由に切り取るがよい」
どよめく法廷。絶望するアントーニオ。しかしポーシャは続けて、
「しかし血は1滴も流してはならぬ。血は借金のかたに含まれていない」
血を流さずに肉を切り取ることなど不可能だと、
シャイロックが諦めて借金の返還を求めると、
肉を選んだのだから今さら変更は認めらないと言われる。
シャイロックは無慈悲の罪により財産没収、キリスト教への改宗を命ぜられる。
……他にシャイロックの娘についての脇すじも、
裁判の後、ポーシャとバッサーニオが結婚するまでの話もあるんだけど、
あらっぽくまとめればこんな話。
アントーニオ:ジェレミー・アイアンズ、
バッサーニオ:レイフ・ファインズ、
シャイロック:アル・パチーノ
彼らの競演が見どころ。
古典文学作品の映画として大変見やすい、とっつきやすく作られている映画。
前二者のイギリス男っぽい佇まい(役柄はイタリア男ですが)がいい。単にわたしの好みですが。また昔は有名な美男俳優だったらしいアル・パチーノを見られたので良かった。
ただ原作では単に憎まれ役だったシャイロック、この映画ではすごくかわいそうで……。かわいそうだけども思い切り憎々しくて。現代的な視点からとらえ直している。いいですね、この複雑な、人間なるもの。
歴史的な話でもロケに違和感がないのがヴェネツィア。日本にはそういうところがほとんどないからうらやましい。わたしが知ってるなかでは唯一妻籠・馬籠くらいか……。でも妻籠は坂道すぎて、旅のシーンしか撮れんやろなあ……。
「旅情」
わたしは映画鑑賞をクラシック映画から始めました。その頃は過去の映画を主に上映する名画座というものがありましてですね……。安い料金で見られました。最近は東京にこそそこそこありますが、その他には日本全国でも3、40軒ですか?いやー、昭和は遠くなりにけり。
クラシック映画という言葉は厳密なものではないですが、わたしがクラシック映画といってまず思い浮かべるのはオードリー・ヘップバーン作品。1950年代、1960年代に作られたものですね。彼女の作品はよく見ました。日本でも知っている人の多い、人気のある女優さんですね。
が、ヘップバーンはヘップバーンでも、キャサリン・ヘップバーンという女優さんがいるのをご存じでしょうか。可愛いオードリーに対して、大人の女性なキャサリン。「旅情」はキャサリンの代表作。わたしはこれしか見たことがないのですが。
アメリカ女性が休暇をヴェネツィアで過ごすためにやってくる。そのひと夏の恋。という内容。
これもヴェネツィアの風景がたくさん出て来て……。そもそも主人公がヴェネツィアへ来た観光客なので、観光客がやること、やりたいことをなぞるわけですよ。もうたっぷり!見せてくれる。
キャサリンが運河に落ちるシーンまであって。余談ですがそこから彼女は目の感染症にかかり、一生完治しなかったとか。ヴェネツィアに行っても運河に落ちてはいけませんよ。
この映画でわたしが印象的だったのは、男と女が出会う場面。男が、カフェで休んでいるキャサリンの足首のきれいさに心惹かれてアプローチするんですよね。男は足首まで見るのか、と感じ入りました。
でもわたしは、この相手役の人(ロッサノ・ブラッツィ)があんまり好きじゃなかったんですよね……。たしかストーリーの中で既婚者だったような。つまり不倫じゃん。もっと素敵な人なら良かったのにと思った。「ローマの休日」のグレゴリー・ペックのような。
「ベニスに死す」
これは細かい内容は全く覚えていない。途中で寝たような記憶さえある。が、ヴェネツィアについての映画といってこれを挙げないのも義理が悪いじゃありませんか。タイトルについてるのに。
夏の休暇でヴェネツィアを訪れた作曲家アッシェンバッハは、絶世の美少年タジオを見て一目で恋に落ちる。タジオの姿を追い、彼はヴェネツィアの街と浜辺をさまよう。しかしその頃、ヴェネツィアにはコレラが流行り始めていた。多くの人が逃げ出す中、アッシェンバッハはタジオがいるためにヴェネツィアを離れられない。彼はコレラにかかり、浜辺のビーチシートで息絶える。タジオの面影をまぶたに映しながら。
……文芸的な映画で、わたしは苦手でした。しかしヴェネツィアの迷宮性が活かされている話のように感じた。ヴェネツィアの小道、裏道。運河の向こうにちらりと現れるタジオの姿を、追わずにはいられないアッシェンバッハが。
正直言ってストーカーの話です。おすすめとは言えないけれど、映画史に残る名作とされているし、ヴェネツィアを眺めるのにはいい映画なので、根性と時間がある人は見てもいいかもしれません。むしろ根性を入れて見ない方がいいかも。
映画はマーラーの曲が多用されているそうで、好きな人にはうれしい映画でしょう。
原作はトーマス・マンの「ヴェニスに死す」。
トーマス・マンは1作も読んでないかもしれませんねー。今後もきっと読まない……。どうもわたしはあんまりドイツに縁と興味が薄いらしく、ドイツには一度も行ったことがありません。ベルリンの美術館島やフランクフルト、ロマンチック街道やノイシュバンシュタイン城など、行くべきところ、行きたいところは山ほどあるのですが。
ヴェニス?ヴェネツィア?いまさらですが、表記の揺れのあれこれ。
地名の表記には常にややこしさがつきまといます。ヴェネツィアも揺れが激しくて面倒なところですよねー。
日本で流通している言い方は主に2系統です。
ベニスとヴェネツィア。
ベニスという言い方は英語のVeniceのカタカナ化。ヴェニスもあり。
ヴェネツィアはVeneziaで、これはイタリア語。
ちなみにローマは、英語ではRomeとなります。でも日本人でロームと呼ぶ人はほぼいない。ローマはローマ。ヴェネツィアはヴェニスと呼ばれるのにね。ヴェネツィアはやっぱりややこしいからな。ツィの発音なんて本来日本にはないし。
もっとややこしいのは、veの表記が「ベ」「ヴェ」、ziaが「チア」「ツィア」どちらも流通していること。だから「ヴェネツィア」「ベネツィア」「ベネチア」「ヴェネチア」すべてあり得ます。なので、全部で6通り表記があるわけですね。
有名どころでこれほど表記が安定していない地名も珍しい。どれかが絶対的に正しいということもありません。どれでもお好みの表記でどうぞ。
……といったそばからいうのもなんだが、ベネツィアという表記はすごく嫌い。なんでかとっても嫌い。「ベネツィア」だけは(個人的に)非推奨。
人々が憧れるヴェネツィア。
こうやって4作品を並べて思いますが、みんな「(観光客として)訪れたヴェネツィア」の話ですね。あ、「ヴェニスの商人」は違いますが、そもそもシェイクスピアはイタリアを訪れたわけでもなく、貿易都市として有名なヴェニスが商人の話には相応しいだろうというだけで舞台に選んだと思われるので、そこまで必然性があったわけでもない。(深い理由があったらすみません)
やはりヴェネツィアは天下の奇観、人々を惹きつけるのだと思います。見て楽しむヴェネツィア、映画のご紹介でした。
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