ロンドンのヴィクトリア&アルバート美術館(V&A)に行ったことはありますか?
ない?あ、大英博物館とロンドンナショナルギャラリーだけで十分ですか。うーん、そうですよねー、せっかくロンドンまで行ったら、アフタヌーンティーをしたり、ミュージカルを見に行ったり、バッキンガム宮殿の衛兵交代を見たりしたいですもんね。
V&Aを見る暇はないか……
By Diliff - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, Link
しかし待って下さい。V&Aもすごく素敵な美術館なんですよ。美術品の宝庫!文字通り宝の山。宝石類とか銀器とか「宝」といって想像するようなものがここには多い。きれいなものをきれいだなあ、と見ているだけで十分満足出来るラインナップ。
最寄は地下鉄サウスケンジントン駅です。ハロッズからも近い。ちょっと行ってみませんか?
サウスケンジントン駅からV&Aの通路には大抵ヴァイオリンのストリートミュージシャンがいたものだが、今もいるのだろうか……
工芸品の美術館。
V&Aの収蔵品は、1851年のロンドン万国博覧会に出品された展示品を始まりとしています。世界最初の国際万博。当時の万博は産業製品の見本市のでっかい版なんです。なので、参加各国が威信をかけてデザインや工芸品など自国の粒よりを揃える、そういう場所でした。
つまりもともと「うちにはこんなすごいものがある!」という各国の「お宝」自慢だったのです。
その後V&Aは美術館として美術品の収集も始めました。そのため展示品は中世から現代まで多岐にわたります。
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By Junho Jung from Seoul, South Korea - Flickr, CC BY-SA 3.0, Link
V&Aのおすすめは1階。
大部分の人はクロムウェルロード側のメイン入口から入ると思います。ここを基準にしましょう。ここで2ポンドの館内地図を買ってもいいですね。
回り方は簡単です。ほぼ南側が展示室なので、時計周りでも反時計周りでも好きな方向でぐるっと一筆書きで一周すればOK。散歩のつもりで展示品の中をゆっくりと歩き、興味を惹いたものだけ足を止めて見るというのが正解。
反時計周りで中国コーナーから行きましょうか。展示物はこんなラインナップ。
その隣が日本コーナーです。
うーん、さすが本職だけあって映像がきれいだなあ……。
外国での日本についての展示を見る際は、ここにある物を見た人が「日本とは」をどう想像するかを考えると楽しい。かたやサムライの甲冑。かたやキティちゃんの炊飯器。一体日本はどんな国としてイメージされるのでしょう。
日本コーナーから出た後はルーム50aから始まる中世からルネサンスのヨーロッパへ行きましょう。がらっと雰囲気が変わって面白い。部屋によってどんどん展示物が変わるのもV&Aの良さです。
その次のルームナンバー46近辺のキャストコート(CAST COURTS)。ここが概念的に面白い。
実はここにあるのは各国の名作の精巧なコピーなんです。フィレンツェにあるミケランジェロ「ダヴィデ像」、ギベルティの「天国への門」、スペインのサンチアゴ・デ・コンポステーラ大聖堂の正面入口飾り、ローマのトラヤヌス帝の戦勝記念柱、そこまで大きなものでなくても他にも山ほど。広い2部屋がぎっしり埋まるほどの数。
これは世界の宝を共有し、万人の教育に役立てようという高い目的を持って集められた品々だそうです。その後、戦争でオリジナルが失われてしまったものもあるとのこと。
わたしはここで見たデジデリオ・ダ・セッティニャーノの作品(のコピー)に個人的な思い入れがあるんですよねー。たしか聖母子像のレリーフだったと思う。
前世への冒険 ルネサンスの天才彫刻家を追って (知恵の森文庫)
かなり前に読んだ、この本がすごく面白くて。
著者の森下典子がノンフィクションライターの仕事の一環として「前世が見える人」に見てもらったところ、「あなたは前世はデジデリオというイタリアの彫刻家だったのよ」と言われる。それでデジデリオに興味を持った著者は、彼の人生を調べるためにイタリアへ旅に出る。
ノンフィクションでありながら幻想性も含んだ本でした。前世を信じるか信じないかは別として、日本ではほとんど知られていないデジデリオを調べていく旅がミステリアスだった。調べた結果にぞっと寒気が走るシーンが何度もあって。デジデリオは印象深い彫刻家になりました。
後にフィレンツェでデジデリオの作品をいくつか見ることになるのですが、わたしがV&Aに初めて行った時にはまだ見ていない。何の気なしにキャストコートを見ていて作者名にデジデリオ・ダ・セッティニャーノの名前を見た時には息を呑みました。これがデジデリオの作品か。
薄く盛り上げたレリーフ。特筆すべきはその線の繊細さ。かすかな微笑を含んで、聖母が幼子を見ている……
今さらですが、この美術館の名前「ヴィクトリア&アルバート」というのは63年間もイギリス女王の座にいたヴィクトリア女王とその夫のアルバート公から来ています。アルバート公は万国博覧会に大変に力を入れたそうです。この人、wikiなどを読んでも大変にがんばり屋さんで……がんばったわりにあまり評価が高くないみたい。なんかパッとしないんですよねー。わたしが言うのもなんだが。立場が微妙だったんだ。
妻を愛し子を愛し、国民を啓蒙しようとし、謹厳実直、実行力もある。それでも孤軍奮闘気味のところがあった人。女王の夫ではあるけれども外国人ということもあって苦労もしたようです。そういう人が国民の教育を目指して作った「名作の宝箱」。ここでアルバート公に思いを馳せる。
上記のyoutubeの途中にアルバート公の横向きの肖像画が出て来るので見てみてください。
でも妻であるヴィクトリア女王には熱愛されたそうだから、それはそれでいい人生なのかなあ。
疲れたらカフェへ。ギャンブルルーム、モリスルーム、ポインタールームとよりどりみどり。
さて。そろそろ疲れませんか?へとへとに疲れ切る前に休むのが旅のコツですよ。ルーム26、27の彫刻群を見ながらカフェに向かいましょう。
混んでいることが多いようなので時間をずらした方がいいかもしれません。ギャンブルルーム、モリスルーム、ポインタールームと部屋によって雰囲気が違い、それぞれとても装飾的。それぞれの部屋を味わうために3回お茶したくなってしまうかも。
写真はギャンブルルーム。ギャンブルをするための部屋ではなくて、ギャンブルさんが作ったところからの命名だそうです。
ちなみに天気が良ければ中庭もお薦めです。こちらにもカフェがあるようですね。
展示へ戻りましょう。
ヴィクトリア女王の時代はインドも大英帝国の一部でしたから、膨大な展示品があるでしょう。これはその中のごく一部。
「シャー・ジャハーン帝のための白いワインカップ」がきれいだー。。白いヤギの。ヒスイで出来ているそうですよ。
その隣のルーム42は中東のイスラム美術。イスラム美術もいいですよねー。いつかトルコのトプカプ宮殿を見たい。アヤ・ソフィアも。イスラム圏には行ったことないんです。憧れます。
最後にルーム48bの「ラファエッロの間」に行って、でっかいタペストリーの下絵を。
読んでませんが(汗)、写真多数の記事があったので貼っておきます。
イタリアのルネサンス期の、ある意味最高峰のラファエッロ。その下絵がどういう経緯でこのV&Aにあるのか。しょうがないので上記の記事を苦労して拾い読みしたが、実は日本語wikiに項目がありました。先にwikiを探しておけば良かった。
チャールズ1世(時代的には西暦1600年に生まれた王様)が取得したもので、今でも王室コレクションなんだって。王室がV&Aに貸し出しているそうです。そしてこのV&Aへの貸与はアルバート公の死後、関係者が「あんなにV&Aへ尽力したアルバート公のために」と考えて実現させたそう。そんなことも考えるとやはりアルバート公の面影が濃く漂う。
美術館に名を残すアルバート公。その人に思いを馳せる。
ミュージアム・ショップでシメ。
昨今は日本の美術館でもかなりグッズに力を入れるようになり、カワイイものやら感心するものがいっぱいありますね。
V&Aのミュージアムショップもレベルが高いです。何しろ根っこは装飾美術の美術館ですから、美しいグッズを作るのはお手の物です。グッズがちょっと地味な大英博物館には断然勝る。ナショナルギャラリーもグッズがいいところですが、その多様性という意味ではV&Aに一歩を譲る。
ちょっとお値段は高めなのでバラマキ土産の候補は少ないと思いますが、自分に何か記念になるような美しいものを買って帰りたい、親しい人にちゃんと残るものをお土産にしたい、と考えている方にはぴったりのところだと思います。
ただご注意ですが、紙物は慎重に購入した方がいいですよ~~~。
わたしは自分が好きなもんだから紙物をついつい買ってしまうんですけれどね。これが5つ、6つと集まってしまうとスーツケースの重量が地味に増えていくんです。最終日に荷造りをした時、ぎりぎり持ち上がるかどうかまで重量が増えたことがあって、飛行機に乗る際の重量制限の心配をしました。19キロのスーツケースはいくらキャスターがついていても大変です……
余力があれば……
V&Aは1階部分でいいと言いました。
で、でも余力があれば、出来ればルーム91~93(日本式の3階)のJEWELLERYと、
ルーム84のステンドグラス、ルーム72、73のモザイクあたりも見て欲しいな~。
これは好みですが。宝石きれいですよ。
あとはドレスや舞台衣装(ライオンキングの衣装なんかも)もあると聞いた。家具、陶器なんかも見てて楽しいんですよね。……しかしそうなるとやっぱり全部見なければいけなくなるので、涙を呑んで1階部分をお薦めしておきます。
初めてのV&Aは1階を回って、そしてゴージャスなカフェを味わいましょう。とりあえずそのルートで。2回目は範囲を広げればいいですよ。
以上、ヴィクトリア&アルバート美術館のお話でした。楽しんでくださいね。
※館内図についても長々と書いたのですが、読みにくくなったのに気づきました。でも消すのももったいので最後に置いておきます。多分このリンクとか、少しは役に立つと思うの。
館内図。ちょっと面倒なその見方。
たしかに広すぎる。体感としては大英博物館やナショナルギャラリーよりも広いのではないかと思います。床面積はそうでもないけど、地下1階から地上5階。7階にもちょこっとある。展示距離がとにかく長い。すべてを1日で見終わろうと思ったら死にます。
では広大な館内の、どの範囲を見ればいいか。
これはその人その人の興味の方向にも寄りますが、ひとまずは地上1階のフロアをひと廻りすればV&Aのいいところは見られるのではないでしょうか。
館内地図を3種類あげます。どれも重いので、Wi-Fi環境推奨。
〇スタンダード館内図。
上の方の文章部分は無視してスクロールし、図面部分まで行ってください。
図面部分の1枚目、左上に「-1」とありますよね?これは地下1階という意味ですが、この階は無視して結構。次の、左上に「0」と書いてあるところだけを見てください。全部を把握しようとすると混乱するので、まずこの0だけを。
ここがV&Aの正面玄関、1階部分です。とりあえずこの1階部分だけの館内図をつかめば大丈夫。部屋番号もごちゃごちゃ書いてあるのでとっつきにくいと思いますが、一番下の真ん中が玄関、その上にメインショップ、メインショップの右隣が中国、その隣が日本――ここまで追えばなんとなく目が落ち着いてくるのではないでしょうか。
〇インタラクティブ・マップ。
インタラクティブってなんだよと思って検索してみると「双方向性」「対話型」「相互的」という意味だと出ました。今回の地図の場合は「あなたの行きたいジャンルがあれば、そこの地図を見せますよ」ということです。右側のエリアをクリックすると対応する展示室が反応します。
トップページが最初から1階が表示されるのが良心的。
……って、ちょっと待って。この2つのマップ、階数が混乱してるよ。
実はイギリスと日本では階数の数え方が違うのです。どっちもV&Aの公式サイトに載っているマップなのにどうしてこういうことが起こるのか不思議ですが、スタンダード館内図はイギリス式に階数を数え、インタラクティブ・マップの方は日本と(=アメリカと)同じ階数の数え方になっています。なんだこれは。人生不可解。
日本式1階=イギリス式G階。(=ground floor)
日本式2階=イギリス式1階。スタンダード館内図では、
-1=地下1階
0=日本式1階
という表記で、これが普通のイギリス式表記です。だがインタラクティブ・マップの方は、
0=地下1階
1=日本式1階になっています。日本では地下1階のことを0階とはほぼ言わないけど、他は日本と同じです。ややこしー。ただでさえややこしいのに、混乱させるなっちゅうねん!
インタラクティブ・マップの方の利点は、画面の下の方に小さいながらも展示品の写真がいくつかあるところですね。だいたいどんな展示品があるのか傾向がつかめます。
〇もう1つ、これはV&Aおすすめの名品20点を示した地図。
地図としては6フロア全部の分が一目で見られるようになっているので全体を把握しやすい。この地図を見てようやくわかりますが、1階と2階を除いてその他の階は直線の回廊が展示スペースなので、上下階の移動もわりとあるし平面上の移動距離が長いんですよね。
この20点を見て回るのも1つの方法です。ただ、ご覧の通り全てのジャンルからバランス良く選んでいるので、これを全部見るとなるとほぼV&Aを踏破するということ。移動距離がとても長大になります。ウォーキングの覚悟が必要。
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