函館の旅の話/1990

◎函館は風と坂道の町。函館の旅の話・その2。

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初めての一人旅で心細さを味わって2日目。朝になってしまえばこっちのもんな気がしてきました。元気いっぱいで観光を始めます。

ホテルがハリストス教会のすぐそばだから朝は教会の鐘ががんがん鳴ってその鐘で起きるのかなと思っていたけど、全然聞こえずに寝過ごす。

 

函館は小さな町。

小さな函館は京都ほど名所旧跡が山積みというわけではありません。その分細かなところもと思ってけっこう丹念に拾いました。

<午前の部>

函館護国神社(ホテルの目の前。徒歩1分)
元町カトリック教会
ハリストス正教会
旧イギリス領事館
元町公会堂
高龍寺
外人墓地

函館の歴史は浅い。こういう言い方をすると「我々の歴史だけが歴史なのではない」という気がしますが(コロンブスがアメリカ大陸を「発見」するよりも人はアメリカ大陸に住んでいた)、まあまあ、今回はとりあえずね。

北の交渉窓口だったことにより、函館は西洋建築が多くありました。わたしが行った時は大きい建築しか名所にはなっていなかったけれども、近年は擬洋風建築の民家にスポットが当たっているようですね。

函館の街並みの「華」 和洋折衷住宅の魅力

特に、1階が和風で2階が洋風という上下和洋折衷住宅がかなり残っており、こういうスタイルがたくさんあるのは函館独自じゃないかなあ。面白い。横に木の板を並べてはる「下見板張り」の外壁はアメリカの開拓時代に多くて、こんな風に何軒も並んでいるのを見ると、一瞬「西部の開拓者の町かな?」と思います。

<午後の部>

五稜郭タワー(混んでいたので見上げただけで入場せず)
トラピスチヌ修道院
啄木小公園
函館八幡宮
立待岬
ハリストス正教会

函館の西の外れの外人墓地から五稜郭タワーまで、バスで行こうとしたところ、市バスの運転手さんに「それなら市電に乗った方がいいよ」と言われました。

言われた通り市電に乗ると、これが実にレトロな乗り物。その頃の函館市電はなかなかにガタついており、動く時もギギーッ、ギギーッ、ガラガラガッシャンという感じでした。そのガッシャンに合わせて吊革が一斉にぴょこんぴょこんと動くのが……これが楽しそうで可愛くて、忘れられない。

まさか一日でこんなに回れるなんて思わなかったから、啄木小公園まで行ったら、行こうと思っていたところを全て消化してしまいました。まあ午前中行ったのもあまり時間をかけるようなところではなく、あっさり見る所ばかりでしたから。

地図を見ながら考えて、余った時間で最後に行ったのが立待岬。もうさんざん歩いてヘトヘトになっているところ、市電駅から20分程度とはいえ往復し、さらに欲張ってちょっと外れた函館八幡宮にも行っているんだからご苦労様な話です。岬は……岬でした。でもここから海を見られたのは良かったと思う。

 

ハリストス正教会。

午前中に来た時は外観だけだったので、ホテルに帰る前にもう一度ハリストス正教会へ行って、内部も見る。

ハリストス正教会の建物は優美。曲線が多用されていて、とても女性的な雰囲気です。白い壁と緑の屋根の色合いが上品ですね。おそらくわたしが初めて見た教会建築。
当時はこれが西洋建築か~と思っていたのですが、この教会はロシア建築の流れを組むので(ハリストスという名前の教会は全てロシア系のキリスト教)、西洋建築の中心をヨーロッパとするならばそこからは若干離れます。

でも設計したのは日本人なんだって。モイセイ河村伊蔵という人で、当初、建築には素人。現場で大工さんに教えられながら建てて、その後あちこちの正教会の設計を行なったそうです。すごいなー。素人離れした洗練されたデザイン。日本の風景に溶け込む。

横から見るとそれなりの大きさがあるように見えますが、真正面からのアングルだとほんとに小さい教会です。犬がお座りをしているような細長い二等辺三角形。可愛い。とても可愛い。ただこの細さがスタンダードな教会建築からはちょっと外れているかな。

内部は暗かったような気がします。小さな教会の小さな祭壇にお灯明を上げてきました。キリスト教徒ではないけれども、祈りを捧げるのに宗教の違いは特に気にする必要はないと思うんですよね。キリスト教も仏教も神道も何か大きなものに祈る、その時の気持ちはみな同じだと思うので。

函館山からの夜景。

一旦ホテルへ戻って2時間ほど休み、暗くなってから夜景を見ようと函館山に向かいました。ロープウェイの山麓駅はホテルのほぼ隣です。これを狙ったんですよ。ホテルを決める時に。

が、あまりにも近すぎて完全に暗くなる前に山頂の展望台に着いてしまいました。まだ辺りは薄闇。函館の夜景は左右が海で真っ暗、その間に函館市街地が光の帯のように広がっているのがきれいなんですよね。30分ほど経って完全に夜になってからの夜景を見て帰りました。

その時に背後の観光客の人が「わ~、きれいわぁ」といったのがなんだか妙に印象に残っている。関西弁は、きれい「や」わぁ、じゃないんだ。「や」の省略もあり得るんだ。このことの何がそんなに衝撃だったのか不明ですが、鮮明に覚えている。

ロープウェイを下って来て、まず近くの喫茶店に入りました。「元町壱番館」という名前の。

ここは近年まで営業を続けていたそうですが、現在は閉店しているようです。この店のババロアがガイドブックに載っていて、それが食べたかったのよ。

このババロア、何が売りかというと、……北海道の形なんです!頼んでみたところ、予想よりもはるかに再現度が高く、しっかり北海道型。しかも函館の位置には黄色いミモザがのっけてある。かわいいね。

今なら「映え」ってことでけっこう人気が出たんじゃないかと思いますが。でも渡島半島部分は型から抜くのに気を使いそう。食べたかったものを無事に食べられて満足でした。

 

函館名物、いかそーめん。

そうすると次は正真正銘の函館名物、いかそーめんでしょう!

が、いかそーめんはハードルが高かった。当時はまだお子様だったので、いかそーめんを食べるようなところに一人で入るのは勇気が必要でした。行ったのは「清寿司」。現在も函館にその店名のお寿司屋さんはあるようですが、五稜郭のそばらしい。ホテルからそんなに離れた店に行ったわけはないから、多分別なお店でしょう。

勇気を出して、入っていって、いかそーめんを頼む。

いかそーめん。果たしてイカがそうめんほどに細くなるのか。実際に見るまでそういう疑問を抱いていたのですが、……うん。まあそんなわけないよね。かなり細かったですけど、そうめんほど細くはなりませんでした。長くもない。せいぜい7、8センチくらいでしょうか。

いうたら細い刺身です。なるほど。と思いながら出されたたれにつけてすする。たれはそばつゆのごときもの。イカはすするというにはやはり短く、こんなもんかという納得と「そうめんじゃなかった……」という軽い失望で、何だか神妙になって味わう。

と、カウンターの向こうに座ったおじさんに話しかけられる。何事かと警戒したが、「いかそーめん、ショウガ醤油で食べた方が美味しいよ」というアドバイス。ほ?ショウガ醤油ですか?

うん。そうですね。ちょっとぼやけた味になるそばつゆよりはショウガ醤油の方が美味しいかも。――ま、ショウガも若干苦手なんですけどもね。せっかくのアドバイスなのでありがたく味わう。

そしたら大将が普通の厚みに切ったイカの刺身を4、5切れサービスしてくれました。結局普通のイカの刺身が一番美味いってね。うん。甘みと柔らかみは刺身の方がよくわかるかもしれないなあ。醤油の味>そばつゆの味という個人の好みもあるかもしれないけど、普通の刺身が美味しいかも。

でも名物を食べた達成感はありますよね!

 

大沼・小沼をサイクリング。

3日目はあっさりめな内容です。

翌日は函館からちょっと電車に乗って森駅というところまで行きました。電車で1時間半くらいですかね。だが名物いかめしは食べていない。何しに行ったんや。森駅からは駒ケ岳がきれいでした。この辺のJR線の景色はきれいですね。

ちょっと戻って大沼駅へ行きます。そこでさらに景色を堪能するためにレンタサイクルを借りました。これがだいたい13:30くらい。そこから大沼サイクリングコースを一周し、多分これが13キロ前後。ゆっくり進んだので1時間半くらい、わりと余裕なコースでした。

大沼公園広場に着いて15:15。ここでカレーとかき氷を食べて元気になったわたしはこの勢いで「小沼も回っちゃおうかな?」と思います。大沼と小沼だから大沼の方が当然大きいし、大沼がこの程度なら小沼は楽勝かも。

が、これが間違いの元。

なんだかけっこうだらだら続く坂道を登り続けた気がします。当時でも特に体力が有り余っていたわけではないわたしは、自転車で坂道はかなりつらい。降りて歩くほど急勾配ではなく、歩くほど坂が短いわけでもない。仕方がないので立ちこぎで延々と登り続けます。折しも季節は晩夏。いくら北の大地といっても夏の午後の自転車こぎっぱなしはキツイねん!

通っていたのは県道43号線か338号線でした。道路は観光の車で混んでおり、車のスピードはちょうど自転車をこぐくらい。まるでマラソン選手と伴走車のようになってしまいました。

わざわざ車の窓を下げて「がんばれ!」と言ってくれる(?)おじさんがいる。いや、恥ずかしくなんかない。……いや、やっぱりちょっと恥ずかしかったですかね。でもまあせっかく言ってくれるんですから「はい!」と元気よく返事したりして。

それに加えて、タイムリミットがあったんですよね。厳密にはタイムリミットではないけれども、大沼公園からJRで函館に戻らなければならないという制限が。JRの本数は、当然ですが首都圏から地方に行くに従って少なくなって行きます。大沼駅から函館に戻る電車は、当時は不明ですが現在では夕方17:05を逃すと次は18:45。

しかも今と違ってスマホや携帯で地図アプリを使える時代の話ではなく、自分の現在地がリアルタイムではわかりません。あとどのくらい走ればゴールなのか、終わりが見えない状態。つまり電車の時間まで大沼駅に着かないとその後1時間半、行き場もなく電車を待つしかなくなります。思ってたより小沼は大きく、あとどのくらいでゴールなのか……

出来る限りの速さでひたすらペダルをこぐ。終わりの見えないゴールに向かって。

――ゆったり走れば決してきついコースではなかったと思いますが、時間に追われながら出来る限りの速度で出発地点に戻る。という何かのレースかチャレンジかという状況に自分を追い込んだ結果、約50分を走り切った後は疲労困憊していたのでした。えらい目にあった。

でもその後の旅行でも自分をうっかり追い込んでしまうことは多々あるのですけどね……。学習してない。

大沼と小沼の風景は美しかったです。山と湖、湖面を渡るさざ波。ちっちゃな島がぽこぽこ浮かんでいたり、木の間から見える湖が光ったり。写真もたくさん撮りました。当然ながら大沼の写真は多く、小沼の写真は撮っている暇がなかったりするのですが。

小沼も結局、一周10キロくらいはあるんですかね。小沼という名前につられて走ってはみたが、時間がある時にゆっくりと走ることをおすすめします。

 

函館は風と坂道の町。

最終日は朝市で頼まれた海産物のお土産を買って発送し、8時に函館を出てまた各駅停車で仙台へ戻りました。青森、八戸、盛岡、一関で下車しながら。でもそれぞれの駅でそんなにまとまった時間は取れなかったから、その日の食事は全てお弁当でした。20時半仙台着。

自分が山側のホテルに泊まったせいもあると思いますが、函館で印象に残ったのは坂でした。函館は碁盤の目の町で、函館山のふもとでは海へ向かって坂道が並行して下って行きます。坂の上から坂下を見下ろすとまっすぐな道の向こうに港が見えてね。

曇りの日の色合いはきれいなブルーグレイで、そこに吹く風は透明度が高い気がしました。北の町の風。坂の上から海へと向かって吹く。坂道が印象的な町でした。

 

 

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