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◎日本画の朦朧。「日本画」の定義を決めて欲しい!

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好きな絵はなんですか?と質問された時に挙がる名前は、ほとんどはモネの「睡蓮」やダ・ヴィンチの「モナリザ」など、西洋絵画じゃないでしょうか。日本では日本の絵よりも西洋の絵の方が優勢。

しかし近年は少しずつ日本画も認識されるようになってきました。ふた昔前はほとんど聞いたことがなかった若冲や琳派も、たまに聞くようになりましたね。

伊藤若冲「群鶏図」

Museum of the Imperial Collections 001.jpg

尾形光琳「八橋図」

Yatsuhashi-zu By?bu by K?rin Ogata (171-14).jpg

普通に考えれば、押しも押されもせぬ日本画の代表的な絵であるこの2枚、しかしある意味で「日本画ではない」ことはご存じですか。それはどういうことでしょう。

 

とにかく「日本画」の定義がややこしい。

この「日本画」という言葉、実はなかなかつかみにくいものではあるのです。考え方的にはなんと3種類くらいあります。

1.日本で伝統的に使われてきた、岩絵の具、墨、絵絹、和紙などの画材を使った絵画。
2.明治期に入ってきた西洋画(≒洋画)の対立概念としての日本画。
3.日本人が書いた絵画。

多分細かく分ければもっとあるのだと思いますが、とりあえずこの3方向。

1.画材という観点。

岩絵の具、墨、絵絹、和紙などを使った絵――一番わかりやすいように思えます。昔から日本ではこれらの画材を使って絵を描いてきたわけですからね。

が、最近はこれらに限定せず、いろいろな画材を使って描く日本画家もいるようです。わたしは詳らかにしないんですけど。加山又造は高級車に(展示のために)ペイントをしていたしね。村上隆はアクリルかなんかで「雪月花」という作品を描いていますが、そのテーマと画家の経歴から考えると、日本画とまったく切れたところでの作品ともいえないしね。

逆にテーマや技法は全く伝統的な日本画を感じさせないけど、画材が岩絵の具という作品も近年は多い。

日本画=画材ともきっぱり切り分けられない感じ。特に続いていくであろう日本画のこれからを考えると。今後、画材はますます多様化すると思うんですよね。

2.言葉としての「日本画」。

2は言葉そのものから日本画を定義しようという考え方。

実は「日本画」というのは歴史が浅い言葉です。初出がはっきりわかっており、東洋美術史家のアーネスト・フェノロサが1882年に行なった講演の中で使われた「Japanese painting」という言葉の訳語として生まれたそうです。これ以降のものを日本画とする。

そりゃ外国人が日本で、日本美術について何か喋ろうというのであれば、西洋と東洋の比較になりますわー。そこでJapanese paintingという言葉が使われるのも自然。それを「日本の絵」という一般名詞ではなくて「日本画」という固有名詞にしてしまったのが、……悪いとも間違いとも言い切れないけど、その後の曖昧な日本画の私を生んでいる。

もっとも、「彼方の」と「此方の」を常に意識する考え方は、島国日本では絶対的に根付いていたので、歴史的にも中国から来た「漢画」「唐画」に対して「和画」という言葉があったし、「唐絵」に対する「やまと絵」もありました。「洋画」と「日本画」という言葉が生まれるのは自然な流れ。

が、そうすると「日本画」という言葉が登場する前の絵を日本画と呼んでいいのか?という問題が生まれます。ここが難しいところ。

ちょっと前の、たしかマクドナルドのCMだったと思うのですが、「ガチで」という言葉を使った旧友に(20代半ばの男性2人で、多分関係性は高校の同級生)、「あの頃の俺らは“マジで”だったろ」という作品がありましたが、言葉って時代によって変わり、その内包する意味も微妙に変わる。

やまと絵と和画と日本画、わたしはその違いはわからないですが、似て非なるもの。非なりて似たもの。それを一緒くたにしていいものかどうか……。

3.もう大雑把に全部。

1にしても2にしても疑問符が付くのなら、もう日本人が描いた絵は全て日本画でいいじゃないか!日本画でいこう!という大変おおらかな、あるいは大雑把な考え方もあるようです。

もうわたしもこうしたい。とにかくこの国で描かれた絵を総称する言葉が欲しいよね。

他の国はどんな名称で呼んでいるんだろう。西洋各国は西洋画という総称で違和感はないだろうし……。フェノロサがJapanese paintingと言ったということは、American painting、French paintingというんだろうなあ。

でも西洋画と日本画では画材も技法も全然違いますからね。西洋各国以外の国は?自国内での呼び方はどうなっているんでしょう。中国画、韓国画、インド画とか呼んでるんだろうか。他所の国のことは、大雑把にひとまとめにしてもあまり気にならないが、自国のことだと時代ごとの変遷が気になります。

日本人の描いた絵を全て日本画と呼ぶことにすると、やはり……明治以降、西洋絵画の影響を受けて描かれた絵が気になります。これは通常、洋画と呼ばれます。

黒田清輝「湖畔」

Kuroda-seiki-kohan00-6-1b.jpeg

岸田劉生「麗子立像」

Kishida Ryusei Young Girl Standing.jpg

これをも「日本画」と呼んだらやはり言語の崩壊が起きるんじゃないですか。全部まとめて日本画と呼ぶというのは無理があると言わざるを得ない。

というわけで、「日本画」という言葉は大変に始末が悪い。

 

言葉の定義を、誰か決めて欲しい。

決定権があるとしたら……あるとしたら……。いや、ないんですよね、きっと誰にも。わたしはよく知らないけど、美術団体なんて山ほどあって、それに関わる日本画関係の団体も相当な数があり、最大派閥はあるんだろうけど、その衆目の一致するところで結論を出すなんて……はっきり言って、本人たちの利益には一文にもならないくたびれ仕事です。

でも、存在を認識するためには言葉が、ひいては定義が必要じゃないかなあ。言葉が出来たって流通しなければ仕方がないことはそうなんだけど、言葉が出来たことでコミュニケーション上の連絡が取りやすくなり、もっと取り上げやすくなるという側面はあると思う。

そういうのは学会の役割では?と思うが、日本画も西洋画も含めた美術学会となるとそれもまた難しい。日本画に詳しいと言える人がどのくらいいるのかという話になるし。用語の統一は、大勢が歴然としないと決しにくいものなんですよね。

呼び名を決めよう。

日本絵画。

日本において、古来より現在まで描かれて来た絵画を、日本画とは呼ばず、日本絵画と呼ぶと決めるのはどうでしょう。その場合、明治期以降の洋画(日本人が西洋絵画技法で描いた絵)も含める。いわゆる「全部」ですね。

なので、高松塚古墳の壁画から(女子群像部分)、

Takamatsuzuka mural 2006-03-31.jpg

仏画から(東京国立博物館所蔵、普賢菩薩像)、

Fugenbosatsu.jpg

浮世絵(写楽「三代目大谷鬼次の奴江戸兵衛」)から、

Toshusai Sharaku- Otani Oniji, 1794.jpg

これみんな「日本絵画」。壁画を日本画ともいえないし、浮世絵を日本画ともいいにくいじゃないですか。

日本画。

そして、岩絵の具、墨、絹、和紙などを使った伝統的な画法の絵を日本画と呼ぶことにしたい。

伝阿佐太子の「聖徳太子二王子像」も、

Prince Shotoku.jpg

雪舟の「破墨山水図」も、

Sesshu - Haboku-Sansui.jpg

狩野永徳の「洛中洛外図」も。

洛中洛外図

これらを全部「日本画」と呼ぶことにする。明治期以降に出来た言葉「日本画」をそれ以前の絵画に適用するのは、たしかに厳密には正しくないけれども、……それはもう仕方がないじゃないですか。言葉の派生以前の絵を除外すると、尾形光琳の作品を日本画に含めることも出来ないんですよ。それは日本の美術史を歪める。厳密さだけを追求すると失うものが多い。

「日本画」という言葉を大雑把に捉えて、流通させた方がいいと思います。テレビで日本画の特番をがんがん作って欲しい。特番にされ尽くしたダ・ヴィンチよりも、ブームを作る気概をもって日本画の特番を作ってくれないものだろうか、テレビ局は。

現代画。

しかし画材も画題も伝統的な日本画と違う場合もある近年の絵はどうしましょう。

これはもう「現代画」というくくりで、いいんじゃないでしょうか。

わたしは現代アートの世界をまったく知りませんが、おそらく今時の画家は洋画、日本画を問わず、いろいろな画材・画題で描くと思うんですよ。コラージュ的な手法なども使うと思うし。

そういう絵を、あえて日本画、洋画、という風に細かく分類しなくてもいいのではないかと思う。時代性を重視して現代画という呼び方をした方がまとめやすい気がします。日本画系統の現代画、洋画系統の現代画という言い方の方がしっくりくる。

もちろん伝統的な日本画を現代でも描いている方もいらっしゃるでしょう。そういう場合は日本画と呼ぶのが自然でしょう。が、いつまでも洋画、日本画という区別は残さなくてもいいように思います。だいぶ乱暴な意見ですが。

一般に流通する言葉としては「現代画」というジャンルの方が、好みの判別に貢献するのではないでしょうか。一般人に訴求するのは、ジャンルを表せる区別だと思うのです。

「日本画」という言葉の意味の固定化を待ち望む。

現状だと「日本画」とは、とても曖昧模糊とした概念。この辺がこなれた言葉になっていくのは――

やっぱり人気ですね!人口に膾炙するようになれば、意味の固定化も進む!(かもしれない。むしろさらに分裂するかもしれない。何とも言い切れない、実は。)

わたしは日本画の存在に気づいたのはだいぶ遅かったので、せっかくだったら早めにめぐりあって、趣味の範囲を広げておけば良かったと思いました。若い頃は西洋絵画>>>>日本画でした。日本画には目もくれない、という感じ。日本画にもいろいろあるから、2、3枚見ただけで決めちゃいけないんですよね。水墨画は好きになれないけど、若冲は好き、とか普通にあるもの。

ちなみに、日本画の入門編の本ではこれが面白いです。


赤瀬川原平の日本美術観察隊 其の1

赤瀬川さんが初心者の立場で書いてくれているのでとても読みやすいです。解説というより感想の本。図版もきれい。ただし絵だけではなく工芸も

解説をしてくれる本ならば山下裕二の本がいいかな。日本画の普及宣伝に努めている、目下のところ、宣伝部長的な人。わたしが読んだのはこれです。


【中古】 日本美術応援団 ちくま文庫/赤瀬川原平(著者),山下裕二(著者) 【中古】afb

赤瀬川さんとの対談なので、気軽に読めます。おすすめ。

 

 

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