旅。
そう呟くだけで心に風が吹きます。思い浮かんでくるのはプラハのカレル橋から川面を眺めつつ感じた風。沖縄の重たいほどの日光の中を吹く熱い風。湖水地方の丘のてっぺんから見下ろした時に吹いた冷たい風。
わたしにとっては、旅は風を感じるためにあるのかもしれません。もしかしたら、自分が風になるために旅に出るのかも。地球を回ってこんなに遠くまで来た。そう感じることが旅なのかもしれません。
……だいぶpoeticに始まりましたが、まあちょっと「旅」に思い入れが強すぎるんですよね。自覚はあります。
旅は一人旅が楽しい!
友達や家族と旅行したことも多少はあるのですが、わたしの旅はだいたいが一人旅です。一人で行くと「旅」だけれども、みんなで行くと「旅行」な気がする。そして旅と旅行の違いはなにかというと、風を感じられるかどうかだと思います。
風を感じる。これは言葉を変えて言うと、より深く、その場所を味わうということ。
同行者とお喋りをしながら歩いていくのも楽しいのですが、そういうのは何度か行ったことのあるところで楽しみたい。京都や鎌倉、札幌など何度か行ったところは、むしろ同行者がいた方が新鮮な経験が出来そうな気がします。自分に興味がない部分に気づくことが出来ますしね。
好きなように予定が立てられる。
でも行くのが初めてな場所は、まず自分の思う通りに回ってみたい。一人旅だと、思う存分回れます。どんな選択も自由です。何しろ自分しかいないのですから。誰に気兼ねもいりません。
ニューヨークに行って自由の女神を見なくても、パリに行ってエッフェル塔へ行かなくても、ロンドンで衛兵交代を見なくても全然OK。その分の時間を興味のあるものに使えます。
それより大事なことは、そもそも予定を変更する自由があるということです。
誰か一緒に行く人がいたら、「明日どこへ行くか、何をするか」決めるのはおそらく必須事項ですよね。ここの店に行きたい、何を食べたい。一般的には、だいぶ前から予定を立てるのではないでしょうか。
でも、一人旅だと当日自由に予定を変更していいんです。
わたし自身は事前準備派です。せっかく行ったのに「あっ!ここ見逃した!」となったら残念なので、旅の前にけっこう下調べもするし、行きたいところをリストアップして効率的に周りたいタイプ。予定を立てるのも旅の楽しみだと思う。
しかしいくら予定を立てても、その当日になった時に「美術館が続いたからちょっと飽きたな」「天気がいいから、外で過ごしたいな」「今日はそんなにがっつりしたものを食べたくないな」と思うことはあります。誰かと一緒だと、その時の気分で予定を変えるということがなかなか出来ないんですよね。
特によくあるのは食べ物かなあ。お腹の空き具合というのもその時のものだし、もう疲れたので簡単なものを買って帰ってホテルの部屋でのんびりしたい、ということもありますよね。
疲れた時には午前中ホテルでゴロゴロするとか、夕方早めに帰ってゴロゴロするとか、……なんだかゴロゴロするのが相当好きなようですが、わたしはそんなに体力がない方なので、今日は早めに切り上げて明日に備えるという選択をすることが多いです。
でも一緒に行った人がいると、そう簡単に予定を切り上げて「もう帰らない?」とは言いにくいですよねー。わざわざ飛行機に乗って来たりすると。行きたいところはみんな見て帰りたい。そうやって人に合わせることもちょっと疲れる原因。
疲れた時は自由に休める。というのも相当贅沢な旅ですよ。ふっふっふっふ。
記憶に鮮明に残る、より深く味わえる。
みんなで旅行に行って、のちのち「あそこ、楽しかったねー」と思い出話をすることはすごく楽しい。でも細部に気づくという意味では一人旅の方がいいかなー。
お喋りをしている間に通り過ぎてしまうものってかなり多い気がします。一人でこそ向かい合えた、光を透かしたステンドグラスの美しさ。一枚の絵。仏像。空に向かって咲いている花。誰かが一緒だと、没頭して見られるかどうか。美しいものとの対峙は一対一の真剣勝負なので、そこに他の人の存在があると最初から対峙にならない。
そして、最初に書いた「風を感じる」ことは、誰かと一緒にいるとなかなか難しいのではないかと思います。街を歩いて、ぼーっとしている時に感じるものなので。人といると、そんなにぼーっとすることもないでしょう。
誰でもない自分になることが出来る。
自分と、友達がいる。あるいは自分と、家族がいる。この旅行は日常をそのまま持って運んでいる状態です。誰かの夫であり妻であり、誰かの親であり子どもであり、その会社の社員であり、誰かの友達。自分が日常の自分のまま旅行をする。
でも一人旅だと、誰でもない自分としてニュートラルになることが出来る。
これがとても楽に感じることがあります。有名人でもないわたしの場合は別に背負っているものも全然ないのですが、それでも「(この辺りでは)誰も知らないわたし」ということに安らぎを感じる。何十年も「自分」をやってきて、飽きているのかもしれません。時々は「自分」を脱いでみたくなるんでしょうね。
現地の人ともうちとけやすい。
知らない場所で一人だと、とにかくわからないことがあったら他人に訊かなければ解決しませんから、地元の人と話す機会が増えます。こちらが一人だと、そのままちょっとしたお喋りになることも多い。そのちょっとしたお喋りが楽しい。旅に彩りを添えます。
アムステルダムのバスで隣り合った人と話したこと。出雲でかき氷をごちそうになったこと。オランダのナールデンで、自転車の女の子の後ろに乗せてもらったこと。地元の子供たちに、お城が見えるベストショットを教えて貰ったこと。
一人旅の旅人に、ほとんどの人は親切です。もちろん二人旅でもお喋りは発生するし、親切なのですが、その親切をダイレクトに感じやすいのが一人旅。やはり根本的には心細いからでしょうね。人の温かさが身に沁みます。
一人旅のデメリット。
わたしが思う一人旅のデメリット、ほぼ唯一無二といっていいデメリットは……
長距離移動時のトイレです。
何が問題って、スーツケースをどうするかということですね。たいていスーツケースを持っていくでしょう?そうすると、空港以外の場所では、なかなかトイレの中まで持っていけないし……
空港では、なるべく早く荷物を預けて身軽になる。ターンテーブルで荷物を受け取る前にトイレに行っておく。
ホテルに荷物を預けて観光をすることが多いが、最後に荷物を引き取りに行く時にトイレも借りる。ホテルによってはフロントそばにないこともあるので、その場合にはその前に行っておく。
列車の中では、デッキにスーツケース置き場がある場合には、盗られないかどうかを一応チェックしながら、列車のトイレを利用する。
スーツケースにおける失敗談としては、イギリスの湖水地方に行った時、最後チェックアウトしてB&Bのご主人に車で駅まで送って貰ったあと、ホテルのキーをポケットに入れたままにしてしまったことに気づいたことがありました。
徒歩10分、走って5分くらいの道のりをホテルへ戻る際、駅に座っていたおばあさんに「これこれこういうわけなので、わたしのスーツケースを見ていてもらえませんか!?」と、頼みました。
他人に見ていてもらうというのは、いつでもどこでも使える手段ではありません。その時は、田舎であったし、電車の時間までまだ余裕があり、わたしも彼女も同じ電車に乗ること前提で、そしてわたしが無害な人間に見えた、という好条件があったからでしょう。テロが横行する昨今では無理かもしれない。
お店はランチを狙おう。
あとは食事かな。わたしは一人ご飯をほとんど気にしない方ですが、やはり大勢で食べた方は楽しい。でも食事だけを気にして一人旅を諦めるなんてもったいない!
その土地の食べたい名物、行きたいお店というのがあると思います。そういうのはランチを狙うといいですよ。夜だと単価的にちょっと気がねな「おひとり様」も、昼間は全然平気。値段も夜より安いしね。
あるいは、夜なら夜で開店時間を狙うくらいに行けば、店はガラガラで(超人気店以外)落ち着いて食事が出来ます。カウンターに座って親方とお喋りすると、ちょっとしたおまけを出してくれることもあるかも、です。
わたしの場合、レストランに行くのは2,3日に1日くらいで、夜はテイクアウトを利用することが多いです。毎晩レストランというのもお金もかかるし、量を食べなきゃいけないので胃も疲れるし、まあやっぱり気も使う。
海外では、ラーメンとかうどんのような「手軽に食べられて体があったまる」という軽食がそんなにないので、テイクアウトがその代わりとなります。
ケバブとか、中華の焼きそばとか、フィッシュ&チップス、ピザなどが多いですね。近所の人も買いに来るような安直な店がおすすめです。なんてことはない食べ物でも、そういうところで買うと、ちょっと地元民になったような気分になります。
日本だとコンビニおにぎりやスーパーのお寿司が活躍しますねー。名物とテイクアウトが合体した「柿の葉寿司(奈良)」などは、これは買って帰るしかない!という美味しさ。中食も旅の楽しみです。……とかなんとか書いてると気分が上がって来た。ふふふふ。
デメリットの話が食べ物の話になってしまいましたが、デメリットというデメリットは……うーん、他に考えつきませんねー。
はじめての一人旅、はじめの一歩。
ああ、語っているうちに、なんだかものすごく旅に出たくなってしまいました。その結果が直前の見出しなのだが。
一人旅。いいですよーいいですよー。この楽しみを味わわないなんてもったいない。
まずは1泊か2泊の国内旅行をしてみてはいかがですか。今時の日本では、よほど求めて深山に分け入らない限りちゃんとグーグルマップが道を教えてくれるし(とはいえ、わたしは求めて深山?に分け入って「うわ、これはちょっと迷子……」と焦ったことは何度かあります。←良い子は真似してはいけない部分)、日本語が通じるところで、根本的に困った!という事態になることもほとんどないかと思います。
それで慣れたら海外もいいですよ!周遊する旅行は多少ハードルが高いですが、たとえばロンドンやローマなど一都市に滞在する旅行の場合、気を遣うところは空港とホテル、ホテルと空港の間の移動くらいじゃないでしょうか。それをクリアしてしまえば、あとはあまり国内旅行と変わりありません。
一人旅の解放感は一度味わったら病みつきです。旅立ってみませんか?
人生の楽しみのオプションが増えます。
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